ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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東堂の恋わずらい編

第8話 食事会の会話

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 知らねえわーー。


 東堂は胃に何を入れているのかが、よくわからなくなってきた。ただ、こじゃれた前菜なんかいらねーっうの、と思いながらも、マグロのカルパッチョの美味しさに目を丸くする。新鮮かつ、ソースが美味い。

「トードォ、子牛のステーキだぞ」
「子牛は嫌だって言ったじゃないすかぁ!」
 泣きながらステーキを口に入れる。
「美味いなー、牛舎にいたパジェンか、ジェルブかーー」
「ーーアダンカラエストリーだ」
「あいつかー……」
 
 生命に感謝!と叫びながら東堂がステーキを食べるのを見て、アスラーンはごきげんだ。


「ーーそうだ、ラルジュナ君。前にラメルジャックのカジノを潰したみたいだね」
 息子と違って常に柔和な表情のリルハンが話しかける。
「つぶしてないよー。出禁になっただけだよー☆」

 誰から聞いたのー?、と言うラルジュナにリルハンからの答えはない。王者はにこにことワインを味わっている。

「出禁?何したの?」
 琉生斗は眉をしかめた。
「うんー?カジノを賭けて勝っただけー」
 笑顔が怖い。

「あっ、そうーー」
「ディーラーが弱すぎてねー」
「そのディーラー、首括ってないよな?」
「ピークにやらせたから大丈夫だよー♡」
「ーーピークって、ああー、あのガングロ王太子か」
「うん♡」

「兵馬のために潰したんすか?」
 内心、よっしゃー!と思った東堂が尋ねると、ラルジュナはにんまりと笑う。

「ふふっ、暇つぶしだよー」
「愛してるんすね」
 こっちもベタ惚れだよな。


「やだなー、トードォ君たらー」
 嬉しそうにラルジュナがはしゃいだ。箸使いも美しく、不思議と様になっている。


 ーーできないことないんかな、このひとーー。まあ、それでこそ兵馬の旦那だよな。


「そうだ。アレクセイ!ノンアルコールのワインもってきたから飲んでみなよー。前ブランデーでいけたから大丈夫でしょー?」
 気づかいが神っている。

「すまない」
「アレクセイ以外に需要があるのか?」

 アスラーンが問う。

「あるよー。ノンアルコールビールなんかこれから絶対に必要だねー」
「必要か?」
「いるよー。バッカイアの兵士も神官も昼間から飲んでるのばっかりなんだから、いざってときに役に立たない」
「神官が!?」

 自国と違い過ぎて琉生斗の目は飛び出しそうになっている。

「そうだよー。勤務時間内はノンアルコールで我慢させないとねー」
「そういう問題なのか?」
 硬い国の王子には信じられない案件だ。アレクセイが眉を顰めている。

「仕方ないよー。特に南のほうは暑いからねー。ビールでもないと訓練もやってられないー」
「いやー、でもみんな勤務終わりは飲み屋に駆け込みますもんね。夏場なんか特に」

 さすがに大隊長クラスになると優雅なものだが、自分達ぐらいは皆必死だ。
「需要があるなら一枚噛むぞ」
「じゃあ、ビール工場ひとつちょうだいー」

 琉生斗と東堂は目を剥く。
 皿の肉一枚ちょうだい、みたいな軽い言い方に、冷や汗がとまらない。


「いいぞ」
 いいんだーー。

 いや、先行投資は王者の証だよな、と琉生斗は頷く。
 ーーじいちゃんもこんなんだったわ。

「ビールからアルコールを抜くのか?」
「そう。まずは逆浸透を使用した方法でやってみようと思ってねー」


「ーーヒョウマか?」
 皮肉めいた笑みでアスラーンが友を見る。
「うん♡ワクチンやら、ロープウェイやら、忙しすぎて悲鳴をあげたいよー」
「ロープウェイつくるの!?」
「つくるよー。前の演習で使ったダッカマ領の山脈から、バッカイアに行けるようにしたいなぁってー。登山客も多いしねー。トンネルもいいけど、ちょっとまだ無理かなー」
「うわぁ」
「さすが、考えが先にいってんな」
 経済においては最強のカップルではないだろうか。
 
「ただ、どの部門においてもロードリンゲンはすんなり話が通らないー」
「そうか。ーー殺るか」
 たまに口を挟むアレクセイが物騒な発言をする。
「なんで最終手段をいきなり使うのー」
 手段のひとつではあるらしい。

「意味が変わってきててね、ファウラ君とミハナを早く結婚させたいみたい」
「なるほど、口を挟みたいのか」
 その為には美花に逃げられては困るのだろう。

「あの国もいま、アスラーンに心酔してるからねー、自国の防衛が第一王子だけってことに、ようやく危機感をもったんでしょー」
「そうだな。父は危機意識が薄い」
「王様っぽい王様だよねー。うちのパパといい勝負ー」

「ふふふっ、アダマスもラルジュナ君の噂を聞いてうちの学院に入学させたからね」
 リルハンの言葉に、アレクセイ、アスラーン、ラルジュナが互いの目を見て苦笑した。

「ああ。それでなんだー。ボクみたいなのでも通えるなら天然野生児でも大丈夫だと思ったんだねー」
「そうだな」
「なのに、聖女の護衛に指名されたら、すぐ帰れ、ってひどいよねー」
「振り回されておまえは大変だな」
 アスラーンの目に同情が浮かぶ。

「そうだな。……もう少しいたかったな」
「大学にも通えないし、キミって不自由だよねー」
「ーー王族とはそういうものだ。父にも自由はないと言われたし」
「まあ、正論だねー。抜けると楽だよー」
「抜けてはいないだろうーー」
「パパがダメだってー」
 だろうな、とアスラーンが頷く。
「おまえの場合は他が優れているからな。王子しかできない人間には、無理だろうよ」



 
 アレクが楽しそうだーー。

 夫の横顔を盗み見ながら琉生斗は笑う。
 表情は変わらないのに、ときおり懐かしい思い出に触れるような目になる。そのきらきらと揺れる目がきれいで、自然に顔が火照ってくる。 

「あれ?ルート、調子悪いー?」
「あっ、いや、大丈夫だよ」
 アレクセイが琉生斗の額に触れ、眉根を寄せた。
「熱はないがーー」
「控えの間にいるから、行ってきたらー?」
 兵馬が来ているようだ。
「ほんと!行こうかなーー」
 と、言った琉生斗だが、東堂の必死の形相に息がとまる。


 行くな、こんちきしょうーー!



 彼の目がそう訴えていた。


「ーーおや、ラルジュナ君。来ているのなら、なぜ、連れて来ないんだ?」
「あー、胃の調子が良くなくてねー」
「結腸の調子ではないのか?」
「バカ太子」
 ラルジュナがアスラーンを睨んだ。

「心配しなくても、事情は聞いているよ」
「え?」
 ラルジュナがアスラーンに視線を投げる。その目にはすでに殺意が混じっていた。だが、アスラーンのほうは少し首を振り、自分ではない、と訴える。

 まわりに給仕がいないのを確認してから、ラルジュナが密会用の結界を張った。行動の早さに、舌を巻く思いを皆が抱く。



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