ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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東堂の恋わずらい編

第7話 食事会なんてーー

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「ーーふふっ。アレクセイにしては気の利いた冗談だな」
 室内の空気が変わる。圧倒的なカリスマ力をもつ王太子アスラーンの降臨だ。深緑色の目に合わせた王族衣装が、彼の美しさを完璧に引き立てる。

「皆、楽にしてくれ」
 優雅な動きで席に座り、給仕を呼ぶ。



 できるかー、と東堂の内心は穏やかではない。何といってもやらしい事をしている仲だ。

 昨日もした、その前はなかった、だが、休みの日は一日中した。本当に自分はどこか病気なのではないだろうかーー。


『身体の相性はばかにできないよね』

 ああ、兵馬。おまえは正しいぜ、しょせんは身体目当てだ。そうなんだーー。
 しかし、なんだアス太子。

 今日は雰囲気違うなーー。オーラ、ってやつがすげー強いぜ。



「アレクセイとルートは魚のほうがいいだろう」
「ああ。すまない」
「ありがとうございます」
 本格的にヤバい空気だ、と琉生斗は感じる。見合い以外の何ものでもない。
 豪華な食事に釣られてくるんじゃなかった。これからどんな気まずい状況になるんだかーー。

「ははっ、そう固くならずにーー」
 リルハンが朗らかに笑う。
 


 琉生斗の横で東堂は苦悶の表情をしていた。

 ーーわかってたけど、ナイフとフォークだよな。

 頭が痛い。

 純セレブなルートや、常識人兵馬(というよりは自分以外は1等地に住んでた金持ちばかり)とは違い、普通のサラリーマン家庭の自分が、フルコースのマナーを知っているわけがない。

 普段の食事なんか適当にも適当。たまに、公爵家の三男坊のモロフが眉をしかめるぐらいだ。

 だが、父親ならともかく、たまに食事に誘ってくれるアス太子なら自分のマナーの悪さは知ってるはずなのにーー。

 目的がさっぱりわからないーー。本当によそのお父さんを囲んで晩ごはんを食べよう、なだけなのか?

 そろそろ、
『あなたがアスラーン様につきまとう雑草ね!』
 と、どこかの姫が乗り込んでくるとか、
『お兄様は騙されていますわ!』
 と、妹達が走ってくるとか、
『うちの息子をたぶらかした害虫はどこ?』
 と、母親がでてくるんじゃないのか?

 町子が大喜びする展開はいつはじまるんだ。
 
 フォークから肉が落ちたら給仕のひとが笑いだすとかなーー。



「ーー東堂……」
 琉生斗が小声で声をかけたが、彼からの反応がない。食事ははじまっているのに、東堂は手を付ける様子がない。

 おれはどういう立場なんだーー?
 琉生斗も混乱している。
 自分がでしゃばる場でもないし、体調面からすぐに席を立ってしまう事も考えられるため、突っ込んでいきたくはない。
 だが、アレクセイにこの場をなんとかしてもらうのも、100%無理だろう。  
 こんなとき、こんなときはーー。

 琉生斗と東堂の頭の中には、同じ人物が浮かんでいる。

 兵馬がいてくれたらーー!!!
 
  



「ヤッホー。遅れてゴメンねー」

 色々考え過ぎて固まったしまった脳みそを動かしたのは、このひとだ。

「忙しそうだね、ラルジュナ君」
「そうなんだよー、身一つじゃ足りない足りないー。あっ、給仕さん。トードォ君にお箸もってきてあげてよー、ボクの分もねー」
「かしこまりました」


 えぇぇーー!!!


 琉生斗と東堂は目を見張った。
「ラルさん、お箸使うの?」
「ボク、来来国の拉麺好きだよー。超激辛のヤツー」
 シンプルな臙脂えんじ色のジャケットを着て、楽そうなスラックス姿だ。ネクタイは締めているが、国王と食事をする格好にはとても見えない。

 だが、そこにいるだけで、とにかく存在が華々しく輝く。それが彼、ラルジュナだ。

 東堂が箸を受け取り、安心した表情になる。
「すいません」
 東堂が、さーせん、を卒業した。多少の間違いぐらいなんてことはないだろう。

「気にしない、気にしないー。お酒飲むのー?」
「あんまりっす。すぐ眠くなるんすよ」
「普段気を張ってるのかなー。大変だね、騎士さんはー」
「いや、毎日楽しいですよ」

 会話がスムーズにはずむ。リラックスした表情になる東堂を見て、琉生斗も気が落ち着いた。
 
 ーーうちの夫には到底できない芸当だな、と感心する。

「ラルジュナ君はトードォ君と仲がいいんだね」 
「それはそうでしょー。うちの愛妻の友達だよー」

 うわ、言うなぁーー。
 
 照れもせずにラルジュナが言う。

「籍を入れたのか?」
 アスラーンが眉を寄せる。聞いていない、と不服そうな顔だ。
「バッカイアにはまだだけど、蛇羊神様が保証神になってくれてさー」
 驚きに目を見開いた琉生斗達を気にせずに、会話は続けられる。
「邪神が保証神とはな」
「凶霊も似たようなものだよ」

 不敵に笑うラルジュナに、アスラーンが鼻を鳴らした。

「それはめでたい話だね、ラルジュナ君。お祝いは何がいいかな」
 リルハンがにこにこと首を傾げる。欲しいものを何でもくれそうな人間には、何と言えばいいのだろう。

「あっ、じゃあ真珠島ちょうだいー♡」
 琉生斗は吹いた。
「そうだね。ラルジュナ君のほうが上手くやるだろうね」
 肯定はするが返事はない。

「ヘヴンズウォールの近くにある、カエルム島でもいいよー」
「ああ。じゃあ、そうしようか。無人島だけどいいのかい?」
「うんー。別荘を建てたいんだー。大型遊具もたくさん作ってねー」
 どうやらこちらが本命だったのだろう。あっさりしたふたりのやり取りに恐怖を感じる。
 そして、話の内容に驚きもしないアレクセイにもだ。


 やっぱり王子なんだよな、うちの旦那様ーー。


 ラルジュナが、「金山ちょうだい」、と言えばあげるかもしれない。自分の祖父もヘリコプターやフェリーなら他人にあげていたが、やはり規模が違う。

 琉生斗は難しい顔でタコのマリネを口に運ぶ。
「あっ、美味しい」
「おまえと俺と前菜も違うんだな」
「そりゃ、そうだろ」
 肉と魚なんだから、違うのは当たり前じゃんーー。



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