ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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東堂の恋わずらい編

第6話 食事会のはじまり

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 今後、分身は使えないだろうーー。

 ラルジュナはがっかりしている自分を笑った。

 
 やはりユーリはアスラーンに預けるしかない、と、なるとーー。あちらの要望も聞かなければならない。



 
「はあー。お食事会かー。ボクが行ってもリルハンパパはなー」
 兵馬を寝かし、ユーリの様子を見に行く。泣き声は聞こえなかったのだが。


「……ユーリ、寝てる……?」
 こっそりとユーリの寝室を開ける(いちおうは分けているがいまのところ意味はない)。


「あっ……」
 ベビーベッドにユーリは寝かされている。
 だが、寝室の宙にはアスラーンからプレゼントされたおもちゃが浮いていた。開封されずに山積みになっていたものまで開けられ、ぷかぷか飛んでいる。

「あらー」
 息子に近寄ると、大きな瞳を輝かせて宙に浮くおもちゃを見ていた。
「きゃあ、きゃあ」
「ごきげんだねー、ユーリ」
 ラルジュナは指を振り、おもちゃを片付ける。

 ユーリを抱きあげ目をじっと見つめた。
『ちゃー、ダー?』
「ダメ、魔法を使っちゃダメ。おもちゃはガラガラを手で振るんだよー」
 黄色いガラガラを手に握らせると少しの間は振るが、すぐに消してしまう。

「ーー消さないの」
『ガー、ヤー』
「いらないからって、モノは大切にする」
 父親として厳しくするところはしなければ、とは思うものの2ヶ月でこれとはーー。普通の赤ちゃんはまだしつけなど無意味な頃なのに。

「魔法はダメ、ぶー、だよ」
 ユーリが、ぶー、と真似をした。
「カワイイけど、ぶー、なの」
「ぶー」
 胸にキュンと来る。


 ーーまあ、自分が気をつけよう。


 ラルジュナは諦めた。
 














 ーーある日、大大国アジャハンの国王リルハンの元に、ひとりの客があった。リルハン自身が王立学院に通っていた頃からよく知る知己だ。

 緑を基調とした豪奢な迎賓宮で世間話をする中に、昔の話も混じる。

「ーーそういえば……。リルハン、こんな話を覚えているかーー?」
 知己が語る話に、リルハンの目が大きく開かれーー。















「なんでおれもなの?」
 きっちりと白銀色の漢服アレンジの正装を着て、琉生斗は歩く。隣りには紺色の正装姿のアレクセイが妻をエスコートをする。

「ーー俺は行く気がなかったーー」
 貴族の令息が着るような服を着せられ、眉間にしわが寄りっぱなしの東堂が不満そうに口を開いた。

「ーー陛下が行けっていうから……」
「ーーすまない、父がーー」

 アレクセイとしても、『食事に招かれているのはおまえだが、トードォを連れていきなさい』、と言われては連れて行かないわけにはいかない。その辺りが、アスラーンのうまいところだろう。

「陛下、アスラーンさんに怯えてるよな」
 誰もが感じていることだ。



 豪奢な室内は、アジャハン国のシンボルカラーである緑色を品よく取り入れていた。
「やぁ、アレクセイ君。聖女様もよく来てくださった」
 アジャハン国王リルハンが、変わらない腰の低さで出迎えてくれる。

「お招きいただきありがとうございます」
「ふふっ。最近は昔のようにアスラーンの部屋によく来ているみたいだね。息子もとても喜んでいるよ」
「いえ。挨拶にも伺わず、申し訳ありません」

 普通に息子の友達に接するような、親しみのある国王だ。その姿からは大大国の王である事はイメージしにくい。

「トードォ君。アスラーンとは仲良くしているようだね」
「え、えと」
 ーーこれはあれか、婆ちゃんの実家のキョウト弁か!本音は、『おたくさんなんかと付き合って欲しくないのにね~』、と言ってんだな。


「ど、どうもっす!」
 
 琉生斗は頭を押さえた。
 いや、変に取り繕うより自然のほうがいいかもしれないがーー。
 

「さあ、かけてください。アスラーンももう来ますよ」
「何かありましたか?」
 父親にホストを任せるなど、珍しい事だ。

「はははっ。末の娘の癇癪がひどくてーー、いまアスラーンが落ち着かせてくれてるんです。うちは、皆あの子の言う事なら聞くので」
「へぇー」


 これはまさか!
 お兄ちゃんをとらないで!、がある!絶対にある!

 東堂は目を輝かせた。


「リルハン国王陛下」
「おやおや。ラルジュナ君のように、リルハンパパとでも呼んで欲しいなーー」

 さすがやな、あのひとーー。
 琉生斗は夫がキャラじゃない事をどう対処するのか気になった。

「ーーおじさん……、セージが迷惑をかけています」
「いやいやこちらがすまない。シャーランとレイラーンがセージ君じゃないと、死ぬとまで言いだしてね」
 わがままに育ってしまって申し訳ない。
 リルハンが深々と頭を下げる。

「姫をふたりもいただくとはーー」
「はははっ、アダマスも考えが変わったね。昔は自分のところの王族を他国にやるなど考えなかったはずだ」
「はい」
「ミント王女をバッカイアに行かせるとはーー。こちらも打診はしていたのだけどーー」
「そうですか」
 アレクセイのポンコツな相槌に琉生斗は頭を抱えた。
 うちの旦那様はほんとにもうーー。

「だが、ミント王女の一目惚れだそうだね。とても喜ばしい事だよ」
「はい。我が王族のお家芸でしてーー」

 琉生斗は吹きだすのをこらえる。真面目な顔をして何を言ってるんだこのひとはーー。


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