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東堂の恋わずらい編
第6話 食事会のはじまり
しおりを挟む今後、分身は使えないだろうーー。
ラルジュナはがっかりしている自分を笑った。
やはりユーリはアスラーンに預けるしかない、と、なるとーー。あちらの要望も聞かなければならない。
「はあー。お食事会かー。ボクが行ってもリルハンパパはなー」
兵馬を寝かし、ユーリの様子を見に行く。泣き声は聞こえなかったのだが。
「……ユーリ、寝てる……?」
こっそりとユーリの寝室を開ける(いちおうは分けているがいまのところ意味はない)。
「あっ……」
ベビーベッドにユーリは寝かされている。
だが、寝室の宙にはアスラーンからプレゼントされたおもちゃが浮いていた。開封されずに山積みになっていたものまで開けられ、ぷかぷか飛んでいる。
「あらー」
息子に近寄ると、大きな瞳を輝かせて宙に浮くおもちゃを見ていた。
「きゃあ、きゃあ」
「ごきげんだねー、ユーリ」
ラルジュナは指を振り、おもちゃを片付ける。
ユーリを抱きあげ目をじっと見つめた。
『ちゃー、ダー?』
「ダメ、魔法を使っちゃダメ。おもちゃはガラガラを手で振るんだよー」
黄色いガラガラを手に握らせると少しの間は振るが、すぐに消してしまう。
「ーー消さないの」
『ガー、ヤー』
「いらないからって、モノは大切にする」
父親として厳しくするところはしなければ、とは思うものの2ヶ月でこれとはーー。普通の赤ちゃんはまだしつけなど無意味な頃なのに。
「魔法はダメ、ぶー、だよ」
ユーリが、ぶー、と真似をした。
「カワイイけど、ぶー、なの」
「ぶー」
胸にキュンと来る。
ーーまあ、自分が気をつけよう。
ラルジュナは諦めた。
ーーある日、大大国アジャハンの国王リルハンの元に、ひとりの客があった。リルハン自身が王立学院に通っていた頃からよく知る知己だ。
緑を基調とした豪奢な迎賓宮で世間話をする中に、昔の話も混じる。
「ーーそういえば……。リルハン、こんな話を覚えているかーー?」
知己が語る話に、リルハンの目が大きく開かれーー。
「なんでおれもなの?」
きっちりと白銀色の漢服アレンジの正装を着て、琉生斗は歩く。隣りには紺色の正装姿のアレクセイが妻をエスコートをする。
「ーー俺は行く気がなかったーー」
貴族の令息が着るような服を着せられ、眉間にしわが寄りっぱなしの東堂が不満そうに口を開いた。
「ーー陛下が行けっていうから……」
「ーーすまない、父がーー」
アレクセイとしても、『食事に招かれているのはおまえだが、トードォを連れていきなさい』、と言われては連れて行かないわけにはいかない。その辺りが、アスラーンのうまいところだろう。
「陛下、アスラーンさんに怯えてるよな」
誰もが感じていることだ。
豪奢な室内は、アジャハン国のシンボルカラーである緑色を品よく取り入れていた。
「やぁ、アレクセイ君。聖女様もよく来てくださった」
アジャハン国王リルハンが、変わらない腰の低さで出迎えてくれる。
「お招きいただきありがとうございます」
「ふふっ。最近は昔のようにアスラーンの部屋によく来ているみたいだね。息子もとても喜んでいるよ」
「いえ。挨拶にも伺わず、申し訳ありません」
普通に息子の友達に接するような、親しみのある国王だ。その姿からは大大国の王である事はイメージしにくい。
「トードォ君。アスラーンとは仲良くしているようだね」
「え、えと」
ーーこれはあれか、婆ちゃんの実家のキョウト弁か!本音は、『おたくさんなんかと付き合って欲しくないのにね~』、と言ってんだな。
「ど、どうもっす!」
琉生斗は頭を押さえた。
いや、変に取り繕うより自然のほうがいいかもしれないがーー。
「さあ、かけてください。アスラーンももう来ますよ」
「何かありましたか?」
父親にホストを任せるなど、珍しい事だ。
「はははっ。末の娘の癇癪がひどくてーー、いまアスラーンが落ち着かせてくれてるんです。うちは、皆あの子の言う事なら聞くので」
「へぇー」
これはまさか!
お兄ちゃんをとらないで!、がある!絶対にある!
東堂は目を輝かせた。
「リルハン国王陛下」
「おやおや。ラルジュナ君のように、リルハンパパとでも呼んで欲しいなーー」
さすがやな、あのひとーー。
琉生斗は夫がキャラじゃない事をどう対処するのか気になった。
「ーーおじさん……、セージが迷惑をかけています」
「いやいやこちらがすまない。シャーランとレイラーンがセージ君じゃないと、死ぬとまで言いだしてね」
わがままに育ってしまって申し訳ない。
リルハンが深々と頭を下げる。
「姫をふたりもいただくとはーー」
「はははっ、アダマスも考えが変わったね。昔は自分のところの王族を他国にやるなど考えなかったはずだ」
「はい」
「ミント王女をバッカイアに行かせるとはーー。こちらも打診はしていたのだけどーー」
「そうですか」
アレクセイのポンコツな相槌に琉生斗は頭を抱えた。
うちの旦那様はほんとにもうーー。
「だが、ミント王女の一目惚れだそうだね。とても喜ばしい事だよ」
「はい。我が王族のお家芸でしてーー」
琉生斗は吹きだすのをこらえる。真面目な顔をして何を言ってるんだこのひとはーー。
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