ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
171 / 236
東堂の恋わずらい編

第6話 食事会のはじまり

しおりを挟む
 
 今後、分身は使えないだろうーー。

 ラルジュナはがっかりしている自分を笑った。

 
 やはりユーリはアスラーンに預けるしかない、と、なるとーー。あちらの要望も聞かなければならない。



 
「はあー。お食事会かー。ボクが行ってもリルハンパパはなー」
 兵馬を寝かし、ユーリの様子を見に行く。泣き声は聞こえなかったのだが。


「……ユーリ、寝てる……?」
 こっそりとユーリの寝室を開ける(いちおうは分けているがいまのところ意味はない)。


「あっ……」
 ベビーベッドにユーリは寝かされている。
 だが、寝室の宙にはアスラーンからプレゼントされたおもちゃが浮いていた。開封されずに山積みになっていたものまで開けられ、ぷかぷか飛んでいる。

「あらー」
 息子に近寄ると、大きな瞳を輝かせて宙に浮くおもちゃを見ていた。
「きゃあ、きゃあ」
「ごきげんだねー、ユーリ」
 ラルジュナは指を振り、おもちゃを片付ける。

 ユーリを抱きあげ目をじっと見つめた。
『ちゃー、ダー?』
「ダメ、魔法を使っちゃダメ。おもちゃはガラガラを手で振るんだよー」
 黄色いガラガラを手に握らせると少しの間は振るが、すぐに消してしまう。

「ーー消さないの」
『ガー、ヤー』
「いらないからって、モノは大切にする」
 父親として厳しくするところはしなければ、とは思うものの2ヶ月でこれとはーー。普通の赤ちゃんはまだしつけなど無意味な頃なのに。

「魔法はダメ、ぶー、だよ」
 ユーリが、ぶー、と真似をした。
「カワイイけど、ぶー、なの」
「ぶー」
 胸にキュンと来る。


 ーーまあ、自分が気をつけよう。


 ラルジュナは諦めた。
 














 ーーある日、大大国アジャハンの国王リルハンの元に、ひとりの客があった。リルハン自身が王立学院に通っていた頃からよく知る知己だ。

 緑を基調とした豪奢な迎賓宮で世間話をする中に、昔の話も混じる。

「ーーそういえば……。リルハン、こんな話を覚えているかーー?」
 知己が語る話に、リルハンの目が大きく開かれーー。















「なんでおれもなの?」
 きっちりと白銀色の漢服アレンジの正装を着て、琉生斗は歩く。隣りには紺色の正装姿のアレクセイが妻をエスコートをする。

「ーー俺は行く気がなかったーー」
 貴族の令息が着るような服を着せられ、眉間にしわが寄りっぱなしの東堂が不満そうに口を開いた。

「ーー陛下が行けっていうから……」
「ーーすまない、父がーー」

 アレクセイとしても、『食事に招かれているのはおまえだが、トードォを連れていきなさい』、と言われては連れて行かないわけにはいかない。その辺りが、アスラーンのうまいところだろう。

「陛下、アスラーンさんに怯えてるよな」
 誰もが感じていることだ。



 豪奢な室内は、アジャハン国のシンボルカラーである緑色を品よく取り入れていた。
「やぁ、アレクセイ君。聖女様もよく来てくださった」
 アジャハン国王リルハンが、変わらない腰の低さで出迎えてくれる。

「お招きいただきありがとうございます」
「ふふっ。最近は昔のようにアスラーンの部屋によく来ているみたいだね。息子もとても喜んでいるよ」
「いえ。挨拶にも伺わず、申し訳ありません」

 普通に息子の友達に接するような、親しみのある国王だ。その姿からは大大国の王である事はイメージしにくい。

「トードォ君。アスラーンとは仲良くしているようだね」
「え、えと」
 ーーこれはあれか、婆ちゃんの実家のキョウト弁か!本音は、『おたくさんなんかと付き合って欲しくないのにね~』、と言ってんだな。


「ど、どうもっす!」
 
 琉生斗は頭を押さえた。
 いや、変に取り繕うより自然のほうがいいかもしれないがーー。
 

「さあ、かけてください。アスラーンももう来ますよ」
「何かありましたか?」
 父親にホストを任せるなど、珍しい事だ。

「はははっ。末の娘の癇癪がひどくてーー、いまアスラーンが落ち着かせてくれてるんです。うちは、皆あの子の言う事なら聞くので」
「へぇー」


 これはまさか!
 お兄ちゃんをとらないで!、がある!絶対にある!

 東堂は目を輝かせた。


「リルハン国王陛下」
「おやおや。ラルジュナ君のように、リルハンパパとでも呼んで欲しいなーー」

 さすがやな、あのひとーー。
 琉生斗は夫がキャラじゃない事をどう対処するのか気になった。

「ーーおじさん……、セージが迷惑をかけています」
「いやいやこちらがすまない。シャーランとレイラーンがセージ君じゃないと、死ぬとまで言いだしてね」
 わがままに育ってしまって申し訳ない。
 リルハンが深々と頭を下げる。

「姫をふたりもいただくとはーー」
「はははっ、アダマスも考えが変わったね。昔は自分のところの王族を他国にやるなど考えなかったはずだ」
「はい」
「ミント王女をバッカイアに行かせるとはーー。こちらも打診はしていたのだけどーー」
「そうですか」
 アレクセイのポンコツな相槌に琉生斗は頭を抱えた。
 うちの旦那様はほんとにもうーー。

「だが、ミント王女の一目惚れだそうだね。とても喜ばしい事だよ」
「はい。我が王族のお家芸でしてーー」

 琉生斗は吹きだすのをこらえる。真面目な顔をして何を言ってるんだこのひとはーー。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!

こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?

神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ! 主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

処理中です...