171 / 235
東堂の恋わずらい編
第6話 食事会のはじまり
しおりを挟む今後、分身は使えないだろうーー。
ラルジュナはがっかりしている自分を笑った。
やはりユーリはアスラーンに預けるしかない、と、なるとーー。あちらの要望も聞かなければならない。
「はあー。お食事会かー。ボクが行ってもリルハンパパはなー」
兵馬を寝かし、ユーリの様子を見に行く。泣き声は聞こえなかったのだが。
「……ユーリ、寝てる……?」
こっそりとユーリの寝室を開ける(いちおうは分けているがいまのところ意味はない)。
「あっ……」
ベビーベッドにユーリは寝かされている。
だが、寝室の宙にはアスラーンからプレゼントされたおもちゃが浮いていた。開封されずに山積みになっていたものまで開けられ、ぷかぷか飛んでいる。
「あらー」
息子に近寄ると、大きな瞳を輝かせて宙に浮くおもちゃを見ていた。
「きゃあ、きゃあ」
「ごきげんだねー、ユーリ」
ラルジュナは指を振り、おもちゃを片付ける。
ユーリを抱きあげ目をじっと見つめた。
『ちゃー、ダー?』
「ダメ、魔法を使っちゃダメ。おもちゃはガラガラを手で振るんだよー」
黄色いガラガラを手に握らせると少しの間は振るが、すぐに消してしまう。
「ーー消さないの」
『ガー、ヤー』
「いらないからって、モノは大切にする」
父親として厳しくするところはしなければ、とは思うものの2ヶ月でこれとはーー。普通の赤ちゃんはまだしつけなど無意味な頃なのに。
「魔法はダメ、ぶー、だよ」
ユーリが、ぶー、と真似をした。
「カワイイけど、ぶー、なの」
「ぶー」
胸にキュンと来る。
ーーまあ、自分が気をつけよう。
ラルジュナは諦めた。
ーーある日、大大国アジャハンの国王リルハンの元に、ひとりの客があった。リルハン自身が王立学院に通っていた頃からよく知る知己だ。
緑を基調とした豪奢な迎賓宮で世間話をする中に、昔の話も混じる。
「ーーそういえば……。リルハン、こんな話を覚えているかーー?」
知己が語る話に、リルハンの目が大きく開かれーー。
「なんでおれもなの?」
きっちりと白銀色の漢服アレンジの正装を着て、琉生斗は歩く。隣りには紺色の正装姿のアレクセイが妻をエスコートをする。
「ーー俺は行く気がなかったーー」
貴族の令息が着るような服を着せられ、眉間にしわが寄りっぱなしの東堂が不満そうに口を開いた。
「ーー陛下が行けっていうから……」
「ーーすまない、父がーー」
アレクセイとしても、『食事に招かれているのはおまえだが、トードォを連れていきなさい』、と言われては連れて行かないわけにはいかない。その辺りが、アスラーンのうまいところだろう。
「陛下、アスラーンさんに怯えてるよな」
誰もが感じていることだ。
豪奢な室内は、アジャハン国のシンボルカラーである緑色を品よく取り入れていた。
「やぁ、アレクセイ君。聖女様もよく来てくださった」
アジャハン国王リルハンが、変わらない腰の低さで出迎えてくれる。
「お招きいただきありがとうございます」
「ふふっ。最近は昔のようにアスラーンの部屋によく来ているみたいだね。息子もとても喜んでいるよ」
「いえ。挨拶にも伺わず、申し訳ありません」
普通に息子の友達に接するような、親しみのある国王だ。その姿からは大大国の王である事はイメージしにくい。
「トードォ君。アスラーンとは仲良くしているようだね」
「え、えと」
ーーこれはあれか、婆ちゃんの実家のキョウト弁か!本音は、『おたくさんなんかと付き合って欲しくないのにね~』、と言ってんだな。
「ど、どうもっす!」
琉生斗は頭を押さえた。
いや、変に取り繕うより自然のほうがいいかもしれないがーー。
「さあ、かけてください。アスラーンももう来ますよ」
「何かありましたか?」
父親にホストを任せるなど、珍しい事だ。
「はははっ。末の娘の癇癪がひどくてーー、いまアスラーンが落ち着かせてくれてるんです。うちは、皆あの子の言う事なら聞くので」
「へぇー」
これはまさか!
お兄ちゃんをとらないで!、がある!絶対にある!
東堂は目を輝かせた。
「リルハン国王陛下」
「おやおや。ラルジュナ君のように、リルハンパパとでも呼んで欲しいなーー」
さすがやな、あのひとーー。
琉生斗は夫がキャラじゃない事をどう対処するのか気になった。
「ーーおじさん……、セージが迷惑をかけています」
「いやいやこちらがすまない。シャーランとレイラーンがセージ君じゃないと、死ぬとまで言いだしてね」
わがままに育ってしまって申し訳ない。
リルハンが深々と頭を下げる。
「姫をふたりもいただくとはーー」
「はははっ、アダマスも考えが変わったね。昔は自分のところの王族を他国にやるなど考えなかったはずだ」
「はい」
「ミント王女をバッカイアに行かせるとはーー。こちらも打診はしていたのだけどーー」
「そうですか」
アレクセイのポンコツな相槌に琉生斗は頭を抱えた。
うちの旦那様はほんとにもうーー。
「だが、ミント王女の一目惚れだそうだね。とても喜ばしい事だよ」
「はい。我が王族のお家芸でしてーー」
琉生斗は吹きだすのをこらえる。真面目な顔をして何を言ってるんだこのひとはーー。
74
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
エルフの国の取り替えっ子は、運命に気づかない
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
エルフの国の王子として生まれたマグノリアンは人間の種族。そんな取り替えっ子の彼は、満月の夜に水の向こうに人間の青年と出会う。満月の夜に会う様になった彼と、何処か満たされないものを感じていたマグノリアンは距離が近づいていく。
エルフの夜歩き(恋の時間※)で一足飛びに大人になるマグノリアンは青年に心を引っ張られつつも、自分の中のエルフの部分に抗えない。そんな矢先に怪我で記憶を一部失ったマグノリアンは青年の事を忘れてしまい、一方で前世の記憶を得てしまった。
18歳になった人間のマグノリアンは、父王の計らいで人間の国へ。青年と再開するも記憶を失ったマグノリアンは彼に気づかない。
人間の国の皇太子だった青年とマグノリアン、そして第二王子や幼馴染のエルフなど、彼らの思惑が入り乱れてマグノリアンの初恋の行方は?
神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。
白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ!
主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。
※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる