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東堂の恋わずらい編
第2話 ふたりのジュナって?
しおりを挟む「ーー近くにいたい、って思ったんだよね」
「…………」
「形はなんでもよかったんだけどーー。近くにいれたらいいなーー、ぐらいかなーー。隣りを歩きながら事業のことだったり歴史のことだったり、いろんな話しをしたりしてね……」
楽しそうに兵馬が目を細める。
「ーーなんせ、あんなに話が合うひとってはじめてでね」
「おまえの場合そうだろうな」
「どんな話でもちゃんと最後まで聞いてくれるんだ。……誠実な人柄なんだよね」
「…………」
ーーこいつ、ラルさんにベタ惚れしてんな。まあ、向こうもそうなんだろうがーー。
『ーー恋愛?それって何の役に立つの?どの教科に有利になるの?』
って昔言ってたよな。そんな考えをもってた奴がここまでなるって、恋の魔力とはよく言ったもんだがーー。
「きっかけなんか、そんなもんじゃない?」
明るい表情で話を締めくくる。友の幸せオーラの圧が東堂には目に毒だ。
だが、正論だ。
きっかけなんかたいした事じゃないーー。
せいぜい、容姿が好みとか趣味が合うとか会話がはずむからとか、さらにはーー。
「ーーけど、おまえなんか最強のカードを手に入れたよな」
「ん?ユーリのこと?」
「あんだけ自分に似てたら手放せないだろうよ」
男は常に疑う生き物だからーー。
兵馬がため息をついた。
「産むほうは誰の子かわかってるから、似る必要がないってこと?」
「…………わりい」
「いえいえ」
東堂は髪の毛をかいた。
「ーー今度よぉ、王様との食事に誘われたんだけどーー」
「行くの?」
「ーー別れろ、っていう話じゃねえか?」
視線があっちこっちに飛ぶ。
「うーん。リルハン陛下の性格上ーーーー、どうかな?僕じゃわからないな」
絶対にわかってそうな顔で兵馬が笑う。
「そうか……」
トントントンッ。
近衛兵ルッコラが控えめに顔をだした。
「トードォ。王太子妃殿下が呼んでおられるよ~」
聖女様の部屋だ。
可哀想なほどびくびくしている。
「うすっ!行きます!」
東堂は役目に戻っていく。
琉生斗とユーリが寝ているのを確認し、兵馬は書類を広げた。
「ーー彼も複雑だね」
不意に背後から抱きしめられるが、兵馬は慣れたもので驚かない。
「ジュナ。聞いてたの?」
どこからだろうかーー、兵馬は頬をかいた。
「食事会の話からだよー」
もちろん兵馬の告白からであるーー。
ラルジュナが妻の唇や首すじにキスをして、匂いを堪能してから息子を見た。我が子は聖女様と、これでもかというぐらいにくっついて寝ている。
「ーールート、寝相悪いねー」
ユーリつぶされちゃうよー、と動かそうとするのを兵馬はとめた。
「聖女様の隣りだと熟睡できるみたい」
「ふ~んー、気が安心するのかなー?」
別室で兵馬がコーヒーを淹れながら、ラルジュナに話しかけた。
「東堂がお食事会だって」
「ーーあいつにしてはご執着だねー」
「それってね、東堂が自分の思い通りにならないから、なのかな?」
ひどいことを平気な顔で言う。
「う~んー」
あの友人はわがまま放題に見えて、人情は厚いし、ひとのためにどれだけでもやる性格をしているのだがーー。
問題は、あっちだ。
相手をつぶすまでやってしまう質のため、耐えきれずに泣く泣く離れていった人間は多い。
しかし、他にもアスラーンに心酔している者は多いため、追うことはしない。
「あれさえなければねぇー」
「あれ、って?」
「ーーヒョウマ、3Pとか興味あるー?」
「ーーごめん。ボクが、悪かったから!」
口も聞かず無視を続ける兵馬に、ラルジュナは心から謝り倒した。
「ーージュナが好きなわけじゃないんだよね?」
「ボクはいたって普通ですよー」
「ふうん~」
ちっとも信じていない目で兵馬が夫を見る。
「だから、あいつがそういうのが好きなのー」
「興味ありません。でも、いくら東堂でもするかな……」
自分の知っている東堂は、そんなことを受け入れるタイプだったろうか。
「3Pってことは、他にひとがいるんでしょ?」
凄いね、と言いながら兵馬の顔は引きつっている。
「そんなわけないよー。分身だよー」
「なるほど」
魔法ありきかーー、と適当に相槌をうったのがまずかった。ラルジュナは兵馬に詰め寄る。
「え?ヒョウマも気になる?ふたりのボクに攻められるのってどう?」
「ふたりのジュナーー」
前からもジュナ、後ろからもジュナーー。
「ーー間違いなく過呼吸と鼻血で死ぬね」
兵馬の断言にラルジュナは諦めた。
「ーー無理な事はしないからー、今日はアスラーンにユーリ預けてさー」
「前に東堂と鉢合わせして気まずかったんでしょ?」
「そうなんだよー。1日やってたんだってー。うらやましいよねー」
「何がうらやましいの?」
「わかってるでしょ?体力だよー。ルートも1日ぐらい平気だって言うし、ボクらもがんばらないとー」
「ーー3人で首脳会談ごっこしながらそんな話してんだ」
「いや、あのねー」
「殿下にもがっかりだよ。いや、最低だね」
兵馬がラルジュナの手をはらいのけた。
「ねえ、ジュナ」
「はいーー」
「ひとりで国に帰る?」
小首をかしげ、兵馬が問う。その仕草にラルジュナは沈黙する。
「ーーもう言いません」
絶対にひとりでは帰りません。
こんなカワイイ妻子を置いてなど、帰れるわけがありませんーー。
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