ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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東堂の恋わずらい編

第2話 ふたりのジュナって?

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「ーー近くにいたい、って思ったんだよね」

「…………」
「形はなんでもよかったんだけどーー。近くにいれたらいいなーー、ぐらいかなーー。隣りを歩きながら事業のことだったり歴史のことだったり、いろんな話しをしたりしてね……」
 楽しそうに兵馬が目を細める。



「ーーなんせ、あんなに話が合うひとってはじめてでね」
「おまえの場合そうだろうな」
「どんな話でもちゃんと最後まで聞いてくれるんだ。……誠実な人柄なんだよね」
「…………」


 ーーこいつ、ラルさんにベタ惚れしてんな。まあ、向こうもそうなんだろうがーー。


『ーー恋愛?それって何の役に立つの?どの教科に有利になるの?』
 って昔言ってたよな。そんな考えをもってた奴がここまでなるって、恋の魔力とはよく言ったもんだがーー。


「きっかけなんか、そんなもんじゃない?」
 明るい表情で話を締めくくる。友の幸せオーラの圧が東堂には目に毒だ。

 だが、正論だ。
 きっかけなんかたいした事じゃないーー。

 せいぜい、容姿が好みとか趣味が合うとか会話がはずむからとか、さらにはーー。


「ーーけど、おまえなんか最強のカードを手に入れたよな」
「ん?ユーリのこと?」
「あんだけ自分に似てたら手放せないだろうよ」
 男は常に疑う生き物だからーー。

 兵馬がため息をついた。
「産むほうは誰の子かわかってるから、似る必要がないってこと?」
「…………わりい」
「いえいえ」

 東堂は髪の毛をかいた。
「ーー今度よぉ、王様との食事に誘われたんだけどーー」

「行くの?」

「ーー別れろ、っていう話じゃねえか?」
 視線があっちこっちに飛ぶ。

「うーん。リルハン陛下の性格上ーーーー、どうかな?僕じゃわからないな」
 絶対にわかってそうな顔で兵馬が笑う。

「そうか……」

 トントントンッ。
 
 近衛兵ルッコラが控えめに顔をだした。
「トードォ。王太子妃殿下が呼んでおられるよ~」
 聖女様の部屋だ。
 可哀想なほどびくびくしている。

「うすっ!行きます!」

 東堂は役目に戻っていく。



 琉生斗とユーリが寝ているのを確認し、兵馬は書類を広げた。

「ーー彼も複雑だね」
 不意に背後から抱きしめられるが、兵馬は慣れたもので驚かない。

「ジュナ。聞いてたの?」
 どこからだろうかーー、兵馬は頬をかいた。

「食事会の話からだよー」
 もちろん兵馬の告白からであるーー。

 ラルジュナが妻の唇や首すじにキスをして、匂いを堪能してから息子を見た。我が子は聖女様と、これでもかというぐらいにくっついて寝ている。

「ーールート、寝相悪いねー」
 ユーリつぶされちゃうよー、と動かそうとするのを兵馬はとめた。
「聖女様の隣りだと熟睡できるみたい」
「ふ~んー、気が安心するのかなー?」








 
 別室で兵馬がコーヒーを淹れながら、ラルジュナに話しかけた。
「東堂がお食事会だって」
「ーーあいつにしてはご執着だねー」
「それってね、東堂が自分の思い通りにならないから、なのかな?」
 ひどいことを平気な顔で言う。

「う~んー」
 あの友人はわがまま放題に見えて、人情は厚いし、ひとのためにどれだけでもやる性格をしているのだがーー。

 問題は、あっちだ。

 相手をつぶすまでやってしまうたちのため、耐えきれずに泣く泣く離れていった人間は多い。
 しかし、他にもアスラーンに心酔している者は多いため、追うことはしない。
「あれさえなければねぇー」
「あれ、って?」

「ーーヒョウマ、3Pとか興味あるー?」
















「ーーごめん。ボクが、悪かったから!」
 口も聞かず無視を続ける兵馬に、ラルジュナは心から謝り倒した。

「ーージュナが好きなわけじゃないんだよね?」
「ボクはいたって普通ですよー」
「ふうん~」
 ちっとも信じていない目で兵馬が夫を見る。

「だから、あいつがそういうのが好きなのー」
「興味ありません。でも、いくら東堂でもするかな……」
 自分の知っている東堂は、そんなことを受け入れるタイプだったろうか。

「3Pってことは、他にひとがいるんでしょ?」
 凄いね、と言いながら兵馬の顔は引きつっている。

「そんなわけないよー。分身だよー」
「なるほど」
 魔法ありきかーー、と適当に相槌をうったのがまずかった。ラルジュナは兵馬に詰め寄る。

「え?ヒョウマも気になる?ふたりのボクに攻められるのってどう?」

「ふたりのジュナーー」


 前からもジュナ、後ろからもジュナーー。


「ーー間違いなく過呼吸と鼻血で死ぬね」
 兵馬の断言にラルジュナは諦めた。

「ーー無理な事はしないからー、今日はアスラーンにユーリ預けてさー」
「前に東堂と鉢合わせして気まずかったんでしょ?」
「そうなんだよー。1日やってたんだってー。うらやましいよねー」

「何がうらやましいの?」
「わかってるでしょ?体力だよー。ルートも1日ぐらい平気だって言うし、ボクらもがんばらないとー」
「ーー3人で首脳会談ごっこしながらそんな話してんだ」
「いや、あのねー」
「殿下にもがっかりだよ。いや、最低だね」
 兵馬がラルジュナの手をはらいのけた。

「ねえ、ジュナ」
「はいーー」

「ひとりで国に帰る?」
 小首をかしげ、兵馬が問う。その仕草にラルジュナは沈黙する。
「ーーもう言いません」
 絶対にひとりでは帰りません。

 こんなカワイイ妻子を置いてなど、帰れるわけがありませんーー。
 

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