ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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僕らがいた国編

第155話 終幕(第三部 終わり)

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「えっ?おまえ、もう身体変えてたの?」
 無言のふたりを気にせずに、東堂が驚いた声で近づいてくる。


「ーー身体を、変える?」
「あっ、アス太子には関係ない話なんで」
「関係ないだとーー?」
 ムッとした表情で、アスラーンが東堂を睨んだ。


「ごめん!兵馬!!!逃げられた!!!」
 琉生斗が走ってくる。

 
「てか、ここ魔法禁止エリアだよな?」
 まわりをくるりと見回して首を傾げた。
「いえ!ハオルに破壊されたのでなおしているところです!」
 ぜーぜー言いながらミハエルも追いかけてくる。

「ーーしかし、生まれつき時空魔法が使えるとはーー、恐ろしい王子様ですな」

「生まれる前からだって、じいちゃん」
「そうでしたな。私が診たときにはいましたしね」
 ははははっ、琉生斗とミハエルが笑う。


 顎を指で押さえ、アスラーンが頷いた。
「つまりーー、その赤ん坊は、おまえの子なのだな」
 いきなり父親というのもおまえらしい、と笑う。ラルジュナは目を見張ったまま、まだ固まっている。

「ぱうぅ」
「おや、父親とわかるみたいだぞ」
 赤ん坊ーー、ユーリがラルジュナの顔をじっと見た。

「まだ、はっきり見えてないよ」
 兵馬がユーリの顔を見せるように、ラルジュナの前にだす。

「いや、魔法で見ているぞーー。恐ろしい赤ん坊だ」
 感心するようにアスラーンが笑った。


「えっと。ユーリってつけたんだけど、ジュナが嫌なら変えてもいいよ」
 ラルジュナが目を細めた。

「ーーママの名前をつけてくれたんだ……」
「うんーー」


「カワイイけど、男の子だよねー?」
「うん。男の子」

「そうか。凶霊キャロラインは気づいてたなー」
 バッカイアの王族の男子、3人目がこの子なのかーー。

 ラルジュナが宙を見た。


 パパ達に知られないようにしなければーー。




「しかし、整った赤ちゃんだねーー」
「びっくりするでしょ?」
「何がー?」
「自分に似ててだよ」
「えー、ボクこんなにカワイくないよー」
 ほわほわと可愛いユーリを抱きあげ、ラルジュナが顔を近づける。

「うわっ!若いパパだな」
 アレクもこうなるのか、と思うと琉生斗は照れてしまう。


「ふふっー、カワイイねー」
 あふれてくる涙をふきもせずに、ラルジュナはユーリに頬を寄せる。
「ーー守ってくれたんだね。ありがとう、ヒョウマ」
「どっちかというとこの子があの場から飛ばしてくれたの。飛び過ぎちゃったけど」
「うーん。ヒョウマには蛇羊神様の印があったから、力が増幅しすぎたのかもね」
 神様は力加減など考えないものだからーー。

「あーあ。そっか、力も良し悪しだね」
「使い方が大事なんだよ。ーーん?どうしたの?ユーリ」
 ラルジュナがユーリに話しかけた。兵馬はその姿だけで、胸がいっぱいで泣きそうになる。

「お腹すいたの?普通はもっと、ギャーギャーー泣くもんだよね……」
「そうだな。うちの妹達などひどいものだったな」

「ーーぅー、ほにゃー、ほにゃー、ほにゃー」
「泣き方が新生児だねー」
「いつだしたのだ?」

「だすの?」
 兵馬がキョトンとした顔で琉生斗をみた。
「いや~、転移魔法を使うって聞いたけど……」

 ラルジュナとアスラーンが何かに気づいたように顔を強張らせた。
「えっ?まさか、切ったの?」
「自分でやったのか!」

「ーーそんなことしないよ。母さんの知り合いの医者にお金を積んで、切ってもらったよ」
 金額を積むあたり、闇の匂いしかしない。


「あー、ハオルがもうちょっと早く来てくれればボクが取り上げたのにー」
「誰もハオルの襲来など望んでいなかったが、まあ、惜しい結果になったな」
「ホントあいつ最低」
 ラルジュナが心底嫌そうな顔をする。

「最後はどうだったのだ?アレクセイに告白ぐらいしたか?」
 その言葉に、琉生斗は視線を横に向けた。

「ーーしなかったな。ーーでも、わだかまりは解けたと思う……」

「そうか」
 アスラーンが息をついた。


「さて、私は一度国に帰ろう。アレクセイがいるなら復興後も大丈夫だろう」

「いや、何から何までお世話になりました」
 深々と頭を下げる。
「なあに、たいした事はしていない」
 王者の器を見せつけるように、アスラーンは高らかに笑った。



「今日はユーリを預かってやろうか?」
「なんで?3人で寝るよ」
「ーー甘いな。新生児がいていちゃつけると思うなよ」

「え?そう?3時間ぐらい寝るんでしょ?」
「どうなのだ?」
「ーーふふふっ、昼夜逆転してます」
「そうか。昼と夜を間違えているのだな」

「アス太子、詳しいっすね。子供いるんすか?」
「12人兄妹の一番上だからな。妹の世話ばかりしてきている」
「へぇ~、イクメンっすね」

「そうだな。ーーだから、トードォ、私の子を産め」
 ものすごい頑丈な男児が生まれるだろう。

「嫌っす」
「産んでくれ!」
「嫌に決まってます!」
 東堂は走って逃げだした。

「ふふ。照れているなーー」


「ーーいまのでそれー?」
「ポジティブだね」
 琉生斗と兵馬は呆れた。







「なあ、じいちゃん。なんで兵馬は早くできたんだ?」
 自分は1年ぐらいかかったはずなのに。

「2回目で早かったのですよ」
「そうなのか?」
 なんだか杜撰ずさんなシステムだ。

「違うでしょ?ミハエルさん。最初からふたつ作ってたんでしょ?」

「おや」
 あいかわらず感がいいですねー、とミハエルがため息をつく。

「なんで?」
「大事なものを作るときって、見本を先に作ったり、スペアを一緒に作ったりするでしょ?ルートのが余ったから、つけたんじゃないの?」

「どうしようかと思われていたときに、ちょうど貴方が願ったそうです」


 手放しで喜んでもいい話だろうかーー。

「ははは」
  兵馬から乾いた笑い声がした。

「わりと女神様ってそういうとこあるよな」
「これ!」
 ミハエルに叱られ琉生斗は舌をだした。




 ーー失礼ナーー。



 ーースミマセンーー。


 





 
「はあー、帰って寝よ。アレク起きたかなーー」

 琉生斗は深呼吸をした。

 
 破壊された王都も、見慣れた姿に戻りつつある。

「ーー魔法はすごいな」


 この世界の空気はすっかり身体になじみ、視界に入る景色すべてが自分の住む国だと思う。

「どこにいても自分は自分だけど」




 よく知る足音が聞こえてきた。
「ルート」
「アレク」

「ーーどうした?」

「いや、数年前には、ここにずっといるなんて想像もしてなかったなー、ってさ」
「ーーそうか」
「それがいま、帰ってきてすっごい安心してるんだ。もう、ここが自分の国だって思ってるんだなーー」

「そうか」
 嬉しそうな顔でアレクセイが微笑む。

「けど、やっぱりおれの隣りにはアレクがいないとな」
「あたり前だ」

「うん。アレクーー、おまえに会えてよかった。おれは一生、おまえに恋をしていくんだ」

「ーー私は未来永劫、ルートを愛していく」

 ふふっーー、とふたりは寄り添って笑い合った。

 これから何があっても、ふたりなら乗り越えていけるだろうーー。
 


 ふたりでならどこまでもーー。








      第三部 終わり

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 最後まで、本当に最後まで読んでいただき、ありがとうございます。皆様に応援をいただき、励ましていただき、書き上げることができました🥹
 このお話で第三部は終わります。
 文章力のなさ、世界観の勉強不足も多々ありますが(多すぎ)、本当に応援ありがとうございました✨


 
 第四部は、東堂とアスラーンの関係や、とうとうアレクセイがパパになる話になると思います(たぶん)。また、お目をとめていただけるとうれしいです🥹








 第四部の内容をちょこっとだけーー。



 ……。

「ーーちょっとは寝てくれよ~~~!!!」
「ルート、苛々はよくない。私が抱っこしているから、寝なさい」
「アレクだって、一週間寝てないだろ~!」
「ーーまだ平気だ」
「無理しないでくれぇぇぇーー!!!」


 ーーさてこの先、どうなる事でしょうーー。

           ー 続く ー 
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