ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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僕らがいた国編

第154話 幸せを取り戻す

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 照れくさそうに頭をかきながら、彼は口を開いた。

「ーーーーえっと……、久しぶり、でいいかーー」
 彼がすべてを言う前に、ラルジュナは動いた。強く抱きしめて、頬で頬をこする。




「ーー会いたかった……」



「ーージュナ……」


 兵馬の目から大粒の涙がこぼれていく。



「ーー痩せたね……」


 ラルジュナの頬に触れ、兵馬が言った。


「…………」

 

 ーー愛しているーー。


 ふたりは同じ瞬間に同じ事を想った。







「ーーどういう事だ?」
 アスラーンがアレクセイに尋ねる。
 疲れたのかアレクセイは荒い呼吸を繰り返していた。
「ーー少し、横になりたい……」
「大丈夫かアレク!おれもちょっとは飛べるんだけどさ、おまえにまかせきりでーー!」
  
「ーーいや、ヒョウマはなぜ向こうにいた?」
 アスラーンの追及に、琉生斗は鼻をかいた。
「そりゃ、女神様の特典だよ!」

 ミハエルがさらに頭を押さえる。

 休めるところに連れて行くと、琉生斗は歩きだし、兵馬の目を見た。
 
 兵馬が頷く。


「ーーちょっとジュナ、ごめん……」
「なんで?」
 嫌だ、とラルジュナがむくれた。

「ちょっと、ねっ!ちょっとだから!!!」
 強引に兵馬が離れ、美花達の方に駆けていく。

「兵馬ぁ!!!」
 涙を流しながら美花が両手を開きーー。


「姉さん!後で!!!」
「えっーー?」
 美花をスルーすると兵馬はミハエルの側に行き、耳に口を寄せ何やらふたりで話をはじめた。

「?」
 

 ミハエルが頷き、美花からは兵馬が見えないように立つ。その後ろをアレクセイのマントを広げながら、琉生斗達が通っていく。

 皆、まるで何かを隠すような動きだ。


「じゃあ!」
「ーーはいはい」
 ミハエルが何かを抱え、琉生斗達と一緒に神殿内に帰っていく。



「ーー何してるの?あんた?」
「やぁ!姉さん!元気だった!」
 変わらない笑顔で弟が答える。

「元気なわけないでしょ!」

 ムカつく!
 美花が泣き喚き、東堂は号泣した。

「よかった~!兵馬君~~」

「あっ、町子!お土産があるんだ。ふわりんのDVD全巻!」
 兵馬が鞄の中からDVDセットを取り出し、町子に渡した。

「うそぉ~~~!」
「可視化で観えるでしょ?」
「できるできる~~~!」
 飛び上がって町子が喜ぶ。
「きゃあ~!さっそくティン様と見よう~」
 ウキウキで箒に乗って飛んでいく。

「東堂は、ーーはいっ!」
「なんだよーーー」
「お父さんから手紙、もらってきたよ」
「マジっ!」
 手紙を受け取りじっと見る。懐かしい父の筆跡だ。

「ーー会ったのか?」
「街頭にふたりで立ってた。会えるかわかりませんが手紙を預かります、って言ったら渡してくれたよ……。本当に心配してたーー」
「ーーそっか……」

 美花は涙を拭いて兵馬を睨んだ。

「もう!あんたったら、ダメよ!危ないことしちゃ!!!」
「ごめん、姉さんーー。母さんが、元気でね、だって」

「ーーほんと?」
 疑うように美花は眉をしかめる。

「うん。ケロッとしてたよ。後、公爵家の若様ゲットおめでとう、だって」


「ーー何それ」
「ねえ」
 ふたりは吹きだして、笑った。



「ーーもう、いい?」
 兵馬の背中をラルジュナが抱く。

「あー、、、」

「ーーちゃんとかまってよ……」
 耳に熱い言葉が入る。

 兵馬よりも美花の顔が赤くなった。

「お、お姉ちゃん、ふぁ、ファウラ様や士長に説明してくるーー。な、な、な、なんで向こうにいたの?」

「えーと。僕が、蛇羊神様の加護があったからかなーー」
「ーーそうなんだ!そう言っとくわ!」
「うん」

 あはははっ、と照れたように笑いながら美花が走りだす。






「ーーボクも冷静さを欠いてたな……」
 兵馬の耳を見てラルジュナが苦笑いだ。オレンジダイヤに軽くキスをする。

「ヒョウマ……」
「あのね、ジュナーー」
「いい加減、キスさせてーー」
「ジュナ……」
「ヒョウマーー」
「あのねーーーーっ!」
「えっ?」
 ラルジュナが目を見張った。

 兵馬の腕の中に赤ん坊がいる。


「ーーいつの間に?」
 転移魔法の気配はなかった。
「ぁぁぅ」

「えっ?カワイイ、何この赤ちゃんーー」
 ウサ耳のついたフードをかぶり、ふにゃふにゃと口を動かしている。

「どこからあらわれたのだ?」
 ラルジュナとアスラーンが興味にかられて顔を覗き込んで、固まる。


「ーーこれは、バッカイア王家の星の目だな……」
 おまえの隠し子か(最低だな)?、とアスラーンが友に尋ねた。
 パパのかも(そんなわけないでしょ)、と言いかけてラルジュナはじっと兵馬を見る。

 真っ青になっている彼を見ながら、赤ん坊のウサ耳フードをはずす。

 茶系オレンジ色の髪が光った。

「……………」

「……………」

 
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