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僕らがいた国編
第154話 幸せを取り戻す
しおりを挟む照れくさそうに頭をかきながら、彼は口を開いた。
「ーーーーえっと……、久しぶり、でいいかーー」
彼がすべてを言う前に、ラルジュナは動いた。強く抱きしめて、頬で頬をこする。
「ーー会いたかった……」
「ーージュナ……」
兵馬の目から大粒の涙がこぼれていく。
「ーー痩せたね……」
ラルジュナの頬に触れ、兵馬が言った。
「…………」
ーー愛しているーー。
ふたりは同じ瞬間に同じ事を想った。
「ーーどういう事だ?」
アスラーンがアレクセイに尋ねる。
疲れたのかアレクセイは荒い呼吸を繰り返していた。
「ーー少し、横になりたい……」
「大丈夫かアレク!おれもちょっとは飛べるんだけどさ、おまえにまかせきりでーー!」
「ーーいや、ヒョウマはなぜ向こうにいた?」
アスラーンの追及に、琉生斗は鼻をかいた。
「そりゃ、女神様の特典だよ!」
ミハエルがさらに頭を押さえる。
休めるところに連れて行くと、琉生斗は歩きだし、兵馬の目を見た。
兵馬が頷く。
「ーーちょっとジュナ、ごめん……」
「なんで?」
嫌だ、とラルジュナがむくれた。
「ちょっと、ねっ!ちょっとだから!!!」
強引に兵馬が離れ、美花達の方に駆けていく。
「兵馬ぁ!!!」
涙を流しながら美花が両手を開きーー。
「姉さん!後で!!!」
「えっーー?」
美花をスルーすると兵馬はミハエルの側に行き、耳に口を寄せ何やらふたりで話をはじめた。
「?」
ミハエルが頷き、美花からは兵馬が見えないように立つ。その後ろをアレクセイのマントを広げながら、琉生斗達が通っていく。
皆、まるで何かを隠すような動きだ。
「じゃあ!」
「ーーはいはい」
ミハエルが何かを抱え、琉生斗達と一緒に神殿内に帰っていく。
「ーー何してるの?あんた?」
「やぁ!姉さん!元気だった!」
変わらない笑顔で弟が答える。
「元気なわけないでしょ!」
ムカつく!
美花が泣き喚き、東堂は号泣した。
「よかった~!兵馬君~~」
「あっ、町子!お土産があるんだ。ふわりんのDVD全巻!」
兵馬が鞄の中からDVDセットを取り出し、町子に渡した。
「うそぉ~~~!」
「可視化で観えるでしょ?」
「できるできる~~~!」
飛び上がって町子が喜ぶ。
「きゃあ~!さっそくティン様と見よう~」
ウキウキで箒に乗って飛んでいく。
「東堂は、ーーはいっ!」
「なんだよーーー」
「お父さんから手紙、もらってきたよ」
「マジっ!」
手紙を受け取りじっと見る。懐かしい父の筆跡だ。
「ーー会ったのか?」
「街頭にふたりで立ってた。会えるかわかりませんが手紙を預かります、って言ったら渡してくれたよ……。本当に心配してたーー」
「ーーそっか……」
美花は涙を拭いて兵馬を睨んだ。
「もう!あんたったら、ダメよ!危ないことしちゃ!!!」
「ごめん、姉さんーー。母さんが、元気でね、だって」
「ーーほんと?」
疑うように美花は眉をしかめる。
「うん。ケロッとしてたよ。後、公爵家の若様ゲットおめでとう、だって」
「ーー何それ」
「ねえ」
ふたりは吹きだして、笑った。
「ーーもう、いい?」
兵馬の背中をラルジュナが抱く。
「あー、、、」
「ーーちゃんとかまってよ……」
耳に熱い言葉が入る。
兵馬よりも美花の顔が赤くなった。
「お、お姉ちゃん、ふぁ、ファウラ様や士長に説明してくるーー。な、な、な、なんで向こうにいたの?」
「えーと。僕が、蛇羊神様の加護があったからかなーー」
「ーーそうなんだ!そう言っとくわ!」
「うん」
あはははっ、と照れたように笑いながら美花が走りだす。
「ーーボクも冷静さを欠いてたな……」
兵馬の耳を見てラルジュナが苦笑いだ。オレンジダイヤに軽くキスをする。
「ヒョウマ……」
「あのね、ジュナーー」
「いい加減、キスさせてーー」
「ジュナ……」
「ヒョウマーー」
「あのねーーーーっ!」
「えっ?」
ラルジュナが目を見張った。
兵馬の腕の中に赤ん坊がいる。
「ーーいつの間に?」
転移魔法の気配はなかった。
「ぁぁぅ」
「えっ?カワイイ、何この赤ちゃんーー」
ウサ耳のついたフードをかぶり、ふにゃふにゃと口を動かしている。
「どこからあらわれたのだ?」
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「ーーこれは、バッカイア王家の星の目だな……」
おまえの隠し子か(最低だな)?、とアスラーンが友に尋ねた。
パパのかも(そんなわけないでしょ)、と言いかけてラルジュナはじっと兵馬を見る。
真っ青になっている彼を見ながら、赤ん坊のウサ耳フードをはずす。
茶系オレンジ色の髪が光った。
「……………」
「……………」
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