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僕らがいた国編
第153話 聖女、帰る
しおりを挟む「ーー王太子……」
王都の外れにアスラーンの天幕があった。外からフストンは声をかける。
「ーーーーーなんだ」
「ミハナさんが来てますよ……」
「ーーーーわかった。すぐ行く」
不服そうなアスラーンの声に苦笑いし、フストンは姿勢を正した。
中から声がもれてくる。嬌声を抑えるような喘ぎ声だ。
「何かあったのか?」
襟をなおしながらアスラーンがでてくる。
「わかりません」
「要件ぐらい聞いておけ」
「ーーお顔に傷がついていますよ……」
「引っかかれた。可愛い奴だ」
頬にさらりと触れ、不敵に笑う。
「そうですかーー」
フストンは苦笑しかでない。
「ミハナ、どうした?」
「あっ、ラルジュナさんが見つかりました!」
美花は詰め寄るようにアスラーンの側に行く。
「何!早く言わないか!どこにいる!?」
「神殿の救護室です!ラルジュナさんが、ルート達が向こうの世界にいるって言ってたそうです!!」
その瞬間、アスラーンが重荷をおろしたような表情になった。だが、それも一瞬で、彼はまたすぐに表情を引き締める。
「ーーそうか!無事かーー!神殿へ向かうぞ」
動きだしたアスラーンに美花も従う。
「はい!」
フストンが恭しく頭を下げた。
「アスラーン王太子」
「教皇、ラルジュナはどうだ?」
眠る友を見ながらミハエルに尋ねる。ラルジュナは顔色こそ悪かったが、それ以外に気になるところはない。
「魔力が尽きています。しばらくすれば戻るでしょう。いやはや、おひとりで悪魔の城の軌道を変えるとはーー、神殺しとはいえ恐ろしいお方です」
ミハエルが静かに首を振る。
「ーーそうだな。ーー教皇、何かこいつに隠していることはないか?」
アスラーンの鋭い眼光に、まわりの神官達が息をのんだ。
「隠し事、でございますかーー。さてーー」
まわりにわからないようにミハエルが口に人差し指をあてた。
しぃー、である。
「そうか……」
「アスラーン王太子、アレクセイ殿下から通信がきていませんか?」
「ーー通信……。少し待てーー」
アスラーンは目をつむり、アレクセイの魔力を探す。遠く遠くへ感知を広げていきーー。
波紋のように広がる円が、ある部分に触れる。
「ーーーーいた!!!ーーいたが、あまりにも遠すぎるーー」
ミハエルが安堵の息をはいた。
「座標がはっきりしないと、いくらアレクセイ殿下でもこちらに来れませんーー」
「私だけでは無理だな。ラルジュナの回復を待とう」
ラルジュナの回復を待つ間も、王都の復興は続いた。
次の日、大神殿の最上段にアスラーンとラルジュナは立った。
美花達も何かの助けになればと下がったところでふたりを見ている。
「ーーーー、あ、アレクセイ!無事か?ああ、ラルジュナもいる。いまから魔力を最大限に高めるーー」
アスラーンは通信を切ってラルジュナを見た。
「私達の魔力を座標にするとーー」
「ーーわかった」
ふたりが準備に入ろうとした、そのときーー、
「ーーラルジュナ様!」
「あっ、フェレスさん!」
美花が声をあげた。
ハーベスター公爵家の家令にして、悪魔のフェレスが早足で歩いてくる。
「無事だったんですね!」
よかったです、と美花が言うと、フェレスの氷のような目が少し揺れた。見た目は変わらないが、まとう空気が嬉しそうだ。
「ありがとうございますーー」
「ーー神殿に悪魔がーー」
ミハエルが頭を押さえた。
「私も嫌ですよ。しかし、急ぎお伝えしたいことがありましてーー」
「何?」
魔力を練りあげながらラルジュナが尋ねた。魔力の質の強さに町子の目がらんらんと光る。
「ーー印が残っています」
フェレスが手の甲の模様を見せた。
「……」
「印?」
アスラーンは首を傾げた。
不思議そうな顔で隣りの友を見て、目を見開く。
「ーーやっぱり……」
ラルジュナが笑っていた。
顔をくしゃくしゃにして泣く手前の顔だ。
涙をこらえるように歯を食いしばり、ラルジュナが最大限に魔力を練った。空気が震え、神殿の石畳が動きだす。
アスラーンもそれにならうと、大神殿に火花が散り稲光も走りだした。
轟々と圧が吹き荒れる中、祭壇に一筋の光が落ちた。あまりにも疾く、瞬く暇さえない。
「ーーよお!みんな元気かぁ!」
光が残る中、琉生斗は立ちあがった。
「ルートーーー……」
東堂が声をあげて、固まった。
美花は口を開けたまま腰を抜かし、その場にへたり込む。
琉生斗とアレクセイだけではない。
彼がいるーー。
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