ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
163 / 236
僕らがいた国編

第153話 聖女、帰る

しおりを挟む

 
「ーー王太子……」
 王都の外れにアスラーンの天幕があった。外からフストンは声をかける。

「ーーーーーなんだ」


「ミハナさんが来てますよ……」
「ーーーーわかった。すぐ行く」
 不服そうなアスラーンの声に苦笑いし、フストンは姿勢を正した。
 中から声がもれてくる。嬌声を抑えるような喘ぎ声だ。






「何かあったのか?」
 襟をなおしながらアスラーンがでてくる。
「わかりません」
「要件ぐらい聞いておけ」
「ーーお顔に傷がついていますよ……」
「引っかかれた。可愛い奴だ」
 頬にさらりと触れ、不敵に笑う。

「そうですかーー」
 フストンは苦笑しかでない。




「ミハナ、どうした?」
「あっ、ラルジュナさんが見つかりました!」
 美花は詰め寄るようにアスラーンの側に行く。


「何!早く言わないか!どこにいる!?」
「神殿の救護室です!ラルジュナさんが、ルート達が向こうの世界にいるって言ってたそうです!!」 


 その瞬間、アスラーンが重荷をおろしたような表情になった。だが、それも一瞬で、彼はまたすぐに表情を引き締める。


「ーーそうか!無事かーー!神殿へ向かうぞ」
 動きだしたアスラーンに美花も従う。

「はい!」
 フストンが恭しく頭を下げた。
 












「アスラーン王太子」
「教皇、ラルジュナはどうだ?」
 眠る友を見ながらミハエルに尋ねる。ラルジュナは顔色こそ悪かったが、それ以外に気になるところはない。


「魔力が尽きています。しばらくすれば戻るでしょう。いやはや、おひとりで悪魔の城の軌道を変えるとはーー、神殺しゴッドスレイヤーとはいえ恐ろしいお方です」
 ミハエルが静かに首を振る。


「ーーそうだな。ーー教皇、何かこいつに隠していることはないか?」 
 アスラーンの鋭い眼光に、まわりの神官達が息をのんだ。
「隠し事、でございますかーー。さてーー」
 まわりにわからないようにミハエルが口に人差し指をあてた。
 しぃー、である。
「そうか……」

「アスラーン王太子、アレクセイ殿下から通信がきていませんか?」

「ーー通信……。少し待てーー」

 アスラーンは目をつむり、アレクセイの魔力を探す。遠く遠くへ感知を広げていきーー。






 波紋のように広がる円が、ある部分に触れる。

「ーーーーいた!!!ーーいたが、あまりにも遠すぎるーー」
 ミハエルが安堵の息をはいた。

「座標がはっきりしないと、いくらアレクセイ殿下でもこちらに来れませんーー」
「私だけでは無理だな。ラルジュナの回復を待とう」
 
 ラルジュナの回復を待つ間も、王都の復興は続いた。

















 次の日、大神殿の最上段にアスラーンとラルジュナは立った。
 美花達も何かの助けになればと下がったところでふたりを見ている。




「ーーーー、あ、アレクセイ!無事か?ああ、ラルジュナもいる。いまから魔力を最大限に高めるーー」

 アスラーンは通信を切ってラルジュナを見た。
「私達の魔力を座標にするとーー」

「ーーわかった」




 ふたりが準備に入ろうとした、そのときーー、

「ーーラルジュナ様!」
「あっ、フェレスさん!」
 美花が声をあげた。

 ハーベスター公爵家の家令にして、悪魔のフェレスが早足で歩いてくる。
「無事だったんですね!」
 よかったです、と美花が言うと、フェレスの氷のような目が少し揺れた。見た目は変わらないが、まとう空気が嬉しそうだ。
「ありがとうございますーー」


「ーー神殿に悪魔がーー」
 ミハエルが頭を押さえた。


「私も嫌ですよ。しかし、急ぎお伝えしたいことがありましてーー」
「何?」
 魔力を練りあげながらラルジュナが尋ねた。魔力の質の強さに町子の目がらんらんと光る。


「ーー印が残っています」
 フェレスが手の甲の模様を見せた。
「……」
「印?」
 アスラーンは首を傾げた。
 不思議そうな顔で隣りの友を見て、目を見開く。


「ーーやっぱり……」
 ラルジュナが笑っていた。
 顔をくしゃくしゃにして泣く手前の顔だ。

 
 涙をこらえるように歯を食いしばり、ラルジュナが最大限に魔力を練った。空気が震え、神殿の石畳が動きだす。
 アスラーンもそれにならうと、大神殿に火花が散り稲光も走りだした。


 轟々と圧が吹き荒れる中、祭壇に一筋の光が落ちた。あまりにも疾く、瞬く暇さえない。








「ーーよお!みんな元気かぁ!」

 光が残る中、琉生斗は立ちあがった。

「ルートーーー……」
 東堂が声をあげて、固まった。

 美花は口を開けたまま腰を抜かし、その場にへたり込む。
 琉生斗とアレクセイだけではない。


 彼がいるーー。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【陽気な庶民✕引っ込み思案の御曹司】 これまで何人の女性を相手にしてきたか数えてもいない生田雅紀(いくたまさき)は、整った容姿と人好きのする性格から、男女問わず常に誰かしらに囲まれて、暇をつぶす相手に困らない生活を送っていた。 それゆえ過去に囚われることもなく、未来のことも考えず、だからこそ生きている実感もないままに、ただただ楽しむだけの享楽的な日々を過ごしていた。 そんな日々が彼に出会って一変する。 自分をも凌ぐ美貌を持つだけでなく、スラリとした長身とスタイルの良さも傘にせず、御曹司であることも口重く言うほどの淑やかさを持ちながら、伏し目がちにおどおどとして、自信もなく気弱な男、久世透。 自分のような人間を相手にするレベルの人ではない。 そのはずが、なにやら友情以上の何かを感じてならない。 というか、自分の中にこれまで他人に抱いたことのない感情が見え隠れし始めている。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻に関する部分です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...