ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
163 / 235
僕らがいた国編

第153話 聖女、帰る

しおりを挟む

 
「ーー王太子……」
 王都の外れにアスラーンの天幕があった。外からフストンは声をかける。

「ーーーーーなんだ」


「ミハナさんが来てますよ……」
「ーーーーわかった。すぐ行く」
 不服そうなアスラーンの声に苦笑いし、フストンは姿勢を正した。
 中から声がもれてくる。嬌声を抑えるような喘ぎ声だ。






「何かあったのか?」
 襟をなおしながらアスラーンがでてくる。
「わかりません」
「要件ぐらい聞いておけ」
「ーーお顔に傷がついていますよ……」
「引っかかれた。可愛い奴だ」
 頬にさらりと触れ、不敵に笑う。

「そうですかーー」
 フストンは苦笑しかでない。




「ミハナ、どうした?」
「あっ、ラルジュナさんが見つかりました!」
 美花は詰め寄るようにアスラーンの側に行く。


「何!早く言わないか!どこにいる!?」
「神殿の救護室です!ラルジュナさんが、ルート達が向こうの世界にいるって言ってたそうです!!」 


 その瞬間、アスラーンが重荷をおろしたような表情になった。だが、それも一瞬で、彼はまたすぐに表情を引き締める。


「ーーそうか!無事かーー!神殿へ向かうぞ」
 動きだしたアスラーンに美花も従う。

「はい!」
 フストンが恭しく頭を下げた。
 












「アスラーン王太子」
「教皇、ラルジュナはどうだ?」
 眠る友を見ながらミハエルに尋ねる。ラルジュナは顔色こそ悪かったが、それ以外に気になるところはない。


「魔力が尽きています。しばらくすれば戻るでしょう。いやはや、おひとりで悪魔の城の軌道を変えるとはーー、神殺しゴッドスレイヤーとはいえ恐ろしいお方です」
 ミハエルが静かに首を振る。


「ーーそうだな。ーー教皇、何かこいつに隠していることはないか?」 
 アスラーンの鋭い眼光に、まわりの神官達が息をのんだ。
「隠し事、でございますかーー。さてーー」
 まわりにわからないようにミハエルが口に人差し指をあてた。
 しぃー、である。
「そうか……」

「アスラーン王太子、アレクセイ殿下から通信がきていませんか?」

「ーー通信……。少し待てーー」

 アスラーンは目をつむり、アレクセイの魔力を探す。遠く遠くへ感知を広げていきーー。






 波紋のように広がる円が、ある部分に触れる。

「ーーーーいた!!!ーーいたが、あまりにも遠すぎるーー」
 ミハエルが安堵の息をはいた。

「座標がはっきりしないと、いくらアレクセイ殿下でもこちらに来れませんーー」
「私だけでは無理だな。ラルジュナの回復を待とう」
 
 ラルジュナの回復を待つ間も、王都の復興は続いた。

















 次の日、大神殿の最上段にアスラーンとラルジュナは立った。
 美花達も何かの助けになればと下がったところでふたりを見ている。




「ーーーー、あ、アレクセイ!無事か?ああ、ラルジュナもいる。いまから魔力を最大限に高めるーー」

 アスラーンは通信を切ってラルジュナを見た。
「私達の魔力を座標にするとーー」

「ーーわかった」




 ふたりが準備に入ろうとした、そのときーー、

「ーーラルジュナ様!」
「あっ、フェレスさん!」
 美花が声をあげた。

 ハーベスター公爵家の家令にして、悪魔のフェレスが早足で歩いてくる。
「無事だったんですね!」
 よかったです、と美花が言うと、フェレスの氷のような目が少し揺れた。見た目は変わらないが、まとう空気が嬉しそうだ。
「ありがとうございますーー」


「ーー神殿に悪魔がーー」
 ミハエルが頭を押さえた。


「私も嫌ですよ。しかし、急ぎお伝えしたいことがありましてーー」
「何?」
 魔力を練りあげながらラルジュナが尋ねた。魔力の質の強さに町子の目がらんらんと光る。


「ーー印が残っています」
 フェレスが手の甲の模様を見せた。
「……」
「印?」
 アスラーンは首を傾げた。
 不思議そうな顔で隣りの友を見て、目を見開く。


「ーーやっぱり……」
 ラルジュナが笑っていた。
 顔をくしゃくしゃにして泣く手前の顔だ。

 
 涙をこらえるように歯を食いしばり、ラルジュナが最大限に魔力を練った。空気が震え、神殿の石畳が動きだす。
 アスラーンもそれにならうと、大神殿に火花が散り稲光も走りだした。


 轟々と圧が吹き荒れる中、祭壇に一筋の光が落ちた。あまりにも疾く、瞬く暇さえない。








「ーーよお!みんな元気かぁ!」

 光が残る中、琉生斗は立ちあがった。

「ルートーーー……」
 東堂が声をあげて、固まった。

 美花は口を開けたまま腰を抜かし、その場にへたり込む。
 琉生斗とアレクセイだけではない。


 彼がいるーー。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

エルフの国の取り替えっ子は、運命に気づかない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
  エルフの国の王子として生まれたマグノリアンは人間の種族。そんな取り替えっ子の彼は、満月の夜に水の向こうに人間の青年と出会う。満月の夜に会う様になった彼と、何処か満たされないものを感じていたマグノリアンは距離が近づいていく。 エルフの夜歩き(恋の時間※)で一足飛びに大人になるマグノリアンは青年に心を引っ張られつつも、自分の中のエルフの部分に抗えない。そんな矢先に怪我で記憶を一部失ったマグノリアンは青年の事を忘れてしまい、一方で前世の記憶を得てしまった。  18歳になった人間のマグノリアンは、父王の計らいで人間の国へ。青年と再開するも記憶を失ったマグノリアンは彼に気づかない。 人間の国の皇太子だった青年とマグノリアン、そして第二王子や幼馴染のエルフなど、彼らの思惑が入り乱れてマグノリアンの初恋の行方は?  

処理中です...