ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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僕らがいた国編

第151話 うちに帰ろう。

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「え、ー明日?」
 兵馬が目を丸くした。
「ああ。魔法が使えるーー」
 手の平の上で魔力を練りながらアレクセイが答えた。
「これから準備に入る」
 時空魔法を使うために、魔力を練り続けなければならない。

「そっか……」
「ーー何か都合が悪いのか?」
 心配になって琉生斗は親友の肩を押さえた。



 まさかーー、兄貴と何かあるのかーー。



 眉を寄せて兵馬がユーリを見る。
「ーージュナ。肺炎球菌ワクチンもってなかった気がするんだけど、大丈夫かな」
「はいえんきゅうきん?」
「ワクチンかーー。赤子がいると心配がつきないな」
 アレクセイが頷いた。

「成分表があれば、あいつなら作れる」
「あっ!そっか!月齢ごまかそうかと思ったけど、保険証も偽造してるし、これ以上はやばいよね」
 真顔で兵馬が言った。

「うん。早く帰ろう」
 親友がこれ以上罪を重ねる前に連れて帰ろう。そうしよう。

 保険証偽造とはーー。

「出生届は?」
「だせるわけないよ」
「一ヶ月検診って、ユーリの身体変わってるって言われなかったか?」
 
「魔力器官は、音がないんじゃないかな?聴診器をあてられても大丈夫だったよ」
「まあ、外側からしか調べないか」

「ーーさすがに10年ぐらいルートが来ないなら、戸籍も作らなきゃ、とは思ったけどね」

 学校に行かなきゃならないーー。




「兵馬ーー!あんたいつまでいるの!」
「明日まで!」
「じゃあね、美花によろしく!」

 彩奈が忙しそうに鞄に荷物をつめて出ていく。
「母さん、出張?」
「琉生亜と旅行よ」
「いってらっしゃーい!」
「うん。あーー、孫、見せてくれてありがとう」
 虚を突かれたような顔を兵馬がした。
「ーー見たかったの?」
「全然!」
 元気な姿で彩奈が出ていく。



「あっさりしてるな」
「うちの母さん、普段から家にいなかったからね」
「たしかに。おれいつもおまえの部屋にいたのに絶対に知らないだろうな」
「自分が一番のひとだからね。でも、産んでもらってよかったよ」
「兵馬」
「存在しなきゃ、奇跡は起こしようがない」
 ふふっ、と兵馬が笑った。













「ーーアスラーン……。ーー大丈夫だ。ルートも無事だ。おまえやラルジュナの魔力を高めてくれ。ーーそれを座標にするーー」

 鞄にパンパンに荷物をつめて、兵馬が胸前で抱っこ紐を付ける。ケープのようなものでユーリを隠すが、おとなしくしていてくれるだろうか。

「アス王太子には、バレてもいいの?」
「そのうち東堂とつくるんじゃねえ?」

 ふたりの会話にアレクセイが目を見開いている。
「それにしても荷物が多い」
「これでも減らしたよ」
「しっかり持てーー」




「行くぞーー」
 アレクセイのまわりを魔石が囲む。

 彼は目を閉じて完全な集中に入った。琉生斗もアスラーンやラルジュナの魔力を感知し、アレクセイのイメージを明確にする。

 兵馬がユーリを強く抱きしめた。
「ーーもうすぐ会えるよ。わかる?」
「ぁぅぁぅ」
 ユーリはごきげんだ。まだ目ははっきりと見えていないのに、兵馬の顔をじっと見ている。
「つぶらな瞳すぎる~」
「集中しろーー」



 自分達が生まれ育った世界。

 懐かしくはあったが、自分はもうここには帰らないと決めていたのだろう。離れる事にためらう気持ちが起こらない。
 
 アレクセイがいればどこでも生きていけるが、それでもいまはあの世界に早く帰りたいーー。

 稲光のように魔力が走った。

 向こうのイメージがはっきりと脳内に映し出される。




 ーー時空転移ーー!



 瞬間、光が飛んだ。



 

 ーーバイバイ、元の世界。また、いつか来るよーー。

 


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