ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
159 / 236
僕らがいた国編

第149話 抱える不安

しおりを挟む
 
 ふにゃふにゃと、ユーリがミルクを飲んでいる。

「はい、上手に飲めたねー」
「すっかり母親だな」
「ルートも練習しとく?」
 ゲップをさせるのに縦に起こす。琉生斗から見るとかなり怖い。アレクセイはなんとか触ろうするが、やはり怖いらしい。

「愛らしい生き物だな」
 感想がポンコツだ。
「うちは最初から肉食かもしれないからいいよーー」

「ふふっ」
 満足そうに、けぷっ、とユーリがゲップをする。そのまま幸せそうにうとうとするユーリを見ながら、兵馬が言った。
 
「ーーねえ」
「ん?」


「ーー僕、戻っても大丈夫?」
 心配そうに下から見る目に、不安が混じっている。
「ーー何いってんだよ」
 琉生斗は鋭い目つきで睨んだ。
「いやー、ーー邪魔じゃない?」


 9ヶ月離れていただけーー。けれど自分は死んだことになっている。向こうの状況だって変わっているかもしれないーー。



 兵馬の内情を考えれば、そう思うのは当然のことだ。

「あのな、兵馬ーー」
 口を開いた琉生斗を、アレクセイがとめる。
 
「ーー自分の目で確かめればいい。無理だと思うならこちらに送ろう」
 強く告げたアレクセイに、兵馬が苦笑した。

「ーー殿下も無敵になってきたね。もう、神竜がいなくても聖女連れて来れるんじゃない?」
「おれの次だけいけても意味ないだろ」
「なるほど。ルートらしい考えだーー」
 兵馬は薄く笑った。






 ガチャッ。
「ーーただいま!兵馬ーー!」
 
「ああ、久しぶり」
「母親にいう台詞じゃないな」

 スーツ姿で彩奈が走る。
「まあ!!!なんつうイケメン!!顔面が人間国宝!!!」
 アレクセイを間近で見て、彩奈がはしゃいだ。
「ごめんね、こんな母親でーー」
「ちょっと葛城っぽいよな」
「寝ててもイケメンだったけど、ホント同じ性別に見えないわね」

「比べられても」
「なあ……」
 琉生斗と兵馬は落ち込んだ。

「ーー世話になっています」
 アレクセイが頭を下げる。
「きゃあ!しゃべってもイケメン!いいのよ!気にしないでね!何でも言って!!」
  恥ずかしそうに兵馬が顔を伏せた。

「あっ。また仕事で出るわ!兵馬これまとめといて」
「はいはい」
 USBメモリーを受け取り兵馬がため息をつく。
「そうだ。琉生亜からいつ会える、って連絡がきてたわよ」
「ーールート、どうする?」
「兄貴、来てくれるのか?」

 アレクセイを連れてウロウロはしたくないしーー。

「わかった。連れてくるわ♡」
「母さん!いい加減にーー」

「仕方ないわよ。琉生亜、本命にフラレたんだもん。慰めてあげなくちゃ!」
「母さん!!!」

「あいかわらずだな。レイジのほうは?」
 もう、苦笑するしかない。
「知らないわよ。もう、書類上だけの関係だしーー。ああいう職業だからバツはつけたくないんでしょ」
「母さんが悪いんでしょ?」
 吹っきれたような顔で兵馬は言う。

「違うもん~。断れなかったんだもん」
「生々しいからやめなよ」
「何、父親が誰かわかったのか?」
「まあね。じゃあ、母さん連絡よろしくね」
「は~い」
 急いで彩奈が出ていった。


「ーーおばさん、明るくなったな」
「悩みがなくなったから、よかったそうだよ」
「ああ……。やっぱり隠し通すって、無理があるんだろうな」
 眠くなってきた琉生斗は、そのままアレクセイにもたれながら眠りについた。


 気持ち悪いし、眠いし、大変だよなーー。お腹にいても働いてるひとマジ尊敬するわーー。
















 そのひとがいるだけで場の空気が変わる。

 けして、良い方にじゃないーー。

「よぉ、チビト」
「ーーああ」

 色魔の兄、琉生亜が入ってくるなりアレクセイを見て笑顔を見せた。
「めっちゃいい。欲しい」
「やるか!」
「うわぁ、うらやましい。オレも聖女やりたい」
 アレクセイの顔を舐めるようにみつめる。

「国を滅ぼしそうな聖女だな」
 警戒するアレクセイに微笑むと、暴力的な美貌の主は琉生斗の前に1枚の写真を置いた。

「まあ、いいや。これ、おまえの母親の写真」
「ええ!!!」
「親父の書斎からパクってきた」
 40歳ぐらいのきれいな女性だ。

 アレクセイがその写真を見て目を瞬いた。
「ネットで見たな」
「えっ!?」

「そう、女優の有馬ありまミヤ。おまえ腹にいるときにでっかい仕事があって、おろしたかったそうだが、ジサマが産んだらいい仕事まわすって説得したそうだ。その後は海外で女優やってる」

「ーーへぇ」
「会いたいか?」
「いいよ。元気でやってるなら」
 見てもなんの愛着もわかない。
「そうだな、賞もとってるらしいぜ」

「そうかーー。理由があったんなら仕方ないよな……」
「ルート……」
 アレクセイが琉生斗を後ろから抱きしめる。

「何、マジらぶらぶかよー。引くわ」
「なんで引くんだよ。ヤベーぐらいらぶらぶだぜ」
 身体を預けるとアレクセイが首すじにキスをした。それはやりすぎだ、ここはロードリンゲンじゃないーー。

 その様子を面白そうに眺めながら琉生亜が話す。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...