ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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僕らがいた国編

第148話 アレクセイは馴染む

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「あっ、美味い!」
「かつおだし、しみるよね。天ぷら上手くできてよかったよ」
「ーースープパスタか?」
「うどんだよ。カンサイ風にしてみました」

 味が濃いものがだめなアレクセイは、出汁が気に入ったようだ。こちらの服に着替えてもらったが、安物の白のトレーナーがブランド品に見える。

「Gパンのサイズ、もうワンサイズ下だったね」
「アレクが細いだけだよ」
 琉生斗は鼻血がとまらない。


「はい、殿下。これね、新聞や本が読めるよ。魔力をためる間暇でしょ?」
「ーー言語がー」
「こっちに辞書作ったから。そう、スクロールしてーー」
「辞書、作ったのか!?」

 パソコンの使い方を教えながら兵馬が、うん、と言う。

「東堂用に作ったのと反対だからね」
「はあー。ソラリス語の辞書なんて、おれらしか使わねえのに」

 アレクセイはパソコンに興味しんしんだ。すぐに操作を覚えて熱中している。



「ーールートが来たら琉生亜さんが教えてくれって言ってたよ」
 琉生斗は片眉をあげた。
「ーーはーん。ここで偶然飛んだ、ってわけか……」
「そうなんだろうね。僕もいずれルート達が来るって知ってたからよかったよ。もう少し先かな、って思ってたけどーー」

「ああ、あのときのおれは、30歳はこえてたよな。まだ、何かあるのかなーー」
 琉生斗はため息をついた。

「ーー今回、足は無事だったんでしょ」
「今回は違ったんだな」
 琉生斗の言葉に兵馬が眉を寄せる。

「う~ん。まったく同じ事が起きるとは限らないよ。未来のルートも、おれはこうなった、って言ってたし、未来のルートが会ったさらに未来のルートは違ってたのかもーー」

「ややこしい話だ」
 お手あげ、と琉生斗は寝ころんだ。

「はあー、それにしても気持ち悪い」
「寝てなよ」
「おまえは?」
「母さんに頼まれた仕事しないと。お金も借りたし」
「あー、あのときのか!すみません!おれの指輪いる?」

 アレキサンドライトとダイヤがついた結婚指輪を外そうとする。アレクセイがそれを見ても口を挟まないのは、仕方がないことだと思っているのだろう。

「ーーちょっと高価すぎるね」
「あんな、封筒とかよく持ってたな」
「母さん議員秘書だから、色々車に積んでる」
「あっ、そうかーー」
「ネットにもあがってないから、みんな撮影で信じてくれたみたいだ」 

 ホッとしたように、兵馬が息をついた。

「いや、マジで助かったわ」
 あいかわらず機転がききすぎだ。

 


 アレクセイの魔力が少しずつ回復していく。彼はほぼニホン語をマスターし、辞書なしで新聞を読めるほどになっていた。

「ーーヤベーやつだな」

「こちらは人口が多すぎないか?」
「あっちは少なすぎるよね」
「たしかになぁーー」

「だが、文化が似ている」
「悪魔が行き来してるからでしょ?」

「ーーなるほど」
 子供が新しいおもちゃで遊ぶように、アレクセイはこちらの知識に夢中になっている。 
「ヒョウマ、広告が邪魔だ」
「ーー我慢して」

 学習が早すぎるのも問題だ。

「広告ってやらしいのが多いだろ?」
 琉生斗がにやにやしてパソコンの画面をのぞくが、見ているのは欧州の首脳会談の内容だ。

「たいした内容ではなかったなーー」
 真顔の旦那様に琉生斗は目を細める。
 


「…………さて、洗濯してこよう」
 照れながら兵馬が席を立つ。

「頼む、何か言ってくれぇ!」
 泣きながら琉生斗は親友にすがりついた。

「大丈夫、ルート達がハードなのは知ってるからーー」
「おれは知らなかったんだぁ!!!」
「そうだよねー」
 遠い目で兵馬が適当に返事をする。
「だいたい、なんでアレクは色々知ってんだよ!」
 ほぼ童貞だったくせに。

 琉生斗の視線にアレクセイは顔を顰めた。



「ーーーーーーーーーーーー母がしていたから…………」

「おれが悪かったぁ!!!許してくれぇ!!!(おまえの母親が妓女だって忘れてたんだよ!)」

「あーあ。ルート、殿下泣かしちゃって」






「ーーふみゃー」
「あっ、ユーリ起きた」
 新生児は寝たり起きたり忙しいそうだ。顔が整いすぎた赤ちゃんらしくない赤ちゃんだが、見ているだけで幸せを感じる。

「めっちゃカワイイよな!神竜の場合は泣くのかな?」
「どうだろう。子供のドラゴンはいかつい泣き声だがーー」
「ギャオスッ!とか、やだなー」
 兵馬が吹きだした。







「ーーどうだ、アレク」
 アレクセイがこめかみに指をあて、向こうの世界を探る。

「ーーもう少しだな……。ーーアスラーン、アスラーンーー!」
 話しかけるが相手からの応答がない。そんな様子がうかがえた。

「アスラーンさんが見えたのか?」
「魔力を感じた。あいつの魔力を座標にするかーー、ラルジュナが近くにいればよくわかるのだがーー」
「通信できない?」
「もう少しだなーー」


 ラルジュナが近くにいないと聞いて、琉生斗は眉を寄せる。焦るようなふたりの態度に、兵馬が首を傾げた。


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