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僕らがいた国編
第147話 きみがいる世界
しおりを挟む「母さんの知り合いの闇医者に帝王切開を頼んだよ」
「闇医者ーー」
「意外にいるんだよね。あっ、琉生亜さんに頼まれて君の相続するマンション売ったから」
「えっ!兄貴に会ったの!」
「うん。こっちに着いたとき、自分の家の前だったんだけど、売り家の看板がでてて、どうしようと思ってたら琉生亜さんが通りかかってくれてね」
「ほう」
「スマホを借りて、母さんに電話して。そのついでに頼まれてね」
「おまえ、おれの字上手いもんな」
兄貴め。金がなくなってきたのかーー。
父親も遺産と家賃収入で生活していたし、働いていないのだろうかーー。
「お金もくれたから助かったよ。母さんちっともくれないんだもん。僕の通帳は父さんが持っていったみたいだしーー」
悲しそうに兵馬が語る。
「お金がないと、ユーリにミルクも買えないのにね」
パクパク口を開ける赤ちゃんが可愛すぎて、琉生斗は目が離せない。
「ーーねえ、ルート。もしかしてお腹にいる?」
「あっ、まあ。そんな感じーー」
琉生斗は頭をかいた。
「顔色よくないもんね。ちょっと鉄分豊富な料理にしないと」
「あはっ、おまえは変わらないなー」
「1年ぐらいで変わらないでしょ」
変わらなさに、琉生斗は涙ぐんでしまう。
「ーーまじでうれしい……」
「ルート……」
「早くみんなに、ーーラルさんに知らせたいーー」
兵馬の表情が少し曇った。視線をはずしながら、言いにくそうに口を開く。
「そのー。ーー新しいひととか、いない?」
「えっ?」
「あっ、なしなし。気にしないで、変なこと言った。殿下、苦しそうだね」
「ーーこっちが合わないんだな」
「そうだねーー。ユーリはそんな事もないんだけど」
「異世界人なのに、ニホン産まれとは」
「ーーこの子ね、時空魔法が使えるよ」
「はあ!」
琉生斗の声に驚き、ユーリがふにゃふにゃと泣きだした。
「マジで!」
「僕も気づいてよかったんだけど、ルート抱っこしててーー」
琉生斗はユーリを受け取った。
「かるー」
その軽さに目を見張る。
兵馬が隣りの部屋に行き、手を叩いた。
「ユーリ!」
「えっ?」
秒もかからず琉生斗の手からユーリはいなくなった。はっと顔をあげると、兵馬の腕の中にユーリがいる。
「はやーー」
「凄いでしょ?この子が助けてくれたんだと思ってるんだ。産まれた後、離れてたはずなのに気づいたら僕の側にいたりしてね。なんとか合図なしに魔法を使うな、って言い聞かせてるんだけど」
生後一ヶ月を言い聞かせるって……。
「はあー、腹の中から母ちゃんを助けたのか、えらいなぁーー。うちのは気持ちが悪くなるだけだよー」
「初期はそんなものだったよ。ビビるぐらいお腹がでてくるね」
「ーーほんとかよ」
「下も見にくいし、かがむのもしんどいし。君、魔蝕の浄化もあるのに、大変だね」
「助けてくれ」
「こればっかりはーー、あっ、産んだ後なら子守りするからね」
「そこ、大事だな」
琉生斗と兵馬は声をあげて笑った。
もう、うれしくてしょうがないーー。夜通し話しながら、話しても話しても話しが、尽きなかった。
「ーーおれはやっぱりおまえがいないとだめだなーー」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら琉生斗が語る。
「ーールート……」
「あ、アレク!大丈夫かーー」
顔をしかめながらアレクセイが身を起こした。
「くらくらする。空気が吸いづらいーー」
「魔石、足す?」
「ヒョウマーー」
アレクセイの目が丸くなる。
「ーー冥界か?」
真顔で尋ねた。
「ニホンだよ。はい、魔石。たくさん作ったけどどう?」
「いい出来だ」
手に取り、感心するようにアレクセイが目を細める。
「あっちに転移できそう?」
「ーー少し時間はかかるが、ここの魔力を使えるように変換するしかない。魔石がありがたいなーー」
側に置かれた段ボール箱には、兵馬が作った魔石がずっしりと入っていた。アレクセイがそれを見て愁眉を開く。
「よかった」
自動翻訳はできるんだね、と笑う兵馬をアレクセイがじっと見つめた。
「ーー生きていたのか」
「そうなんだよ。殿下もおめでとう。念願のパパになるね」
「ああ」
幸せを噛みしめるようにアレクセイが頷く。横で聞いてて恥ずかしい限りだ。
「ーー向こうは大丈夫かな」
不安そうに琉生斗は膝を抱える。
「アスラーンがいる。何とかしているだろう」
「そういえば、こっちに来たのってどうしてなの?」
兵馬の問いにかいつまんで説明をすると、彼の顔が曇っていく。
「……えっと、それはつまり、僕は死亡届をだされてるわけかーー」
「いや、撤回するからな!」
「もしかしてーー。花蓮、耳の小型魔通信機はずしてる?」
「あっ!」
そういえば、いまはクリステイルからのプレゼントばかりつけているはずだ。
「あれが潰れてなければ、僕が生きてるって証拠だったんだけどな」
そうかー、と兵馬が肩を落とした。
「悪い。そこまで気がまわらなかった」
本当に視界が狭まるんだな、ああいうときはーー。
「僕はハオルの魔法を見てないからわからないけどーー。よっぽどすごかったんだね、ダイヤモンドがなくなるぐらいーー」
「…………」
琉生斗とアレクセイは互いの顔を盗み見た。
ーー怒ってる?
ーーいや、ラルジュナも気づいていなかったな……。
ーーだよなーー。
「何ふたりでアイコンタクトしてるの」
兵馬は苦笑いだ。
「いや、悪いーー。たしかに割れるだろうけど無くなりはしないよな」
ダイヤモンドは電気を通さないーー。いや、でも衝撃には弱いから地面抉れるぐらいだしどうなんだろーー、って誰がそんなもったいない実験するんだかーー。
「全然だよ」
気を取り直したように兵馬がつぶやく。
「ーーきっと、その別次元はこっちの世界に近い次元だったんだね。転移が可能なぐらい」
「そうだな」
納得するように兵馬とアレクセイが会話を続けた。
「ーーそれより、ヒョウマ」
言いにくそうにアレクセイが口を開いた。
「何?」
「あの、ーーラルジュナに似た赤子はなんだ?」
「うん。ジュナの子だよ」
「え」
「さあ、ご飯だね」
「お腹空いた」
固まっているアレクセイを放おっておいて、ふたりは食事をすることにした。兵馬が手早く用意をするのを、琉生斗は横になりながら見ていた。
うれしいなーー、うれしいとしか言えないやーー。
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