156 / 236
僕らがいた国編
第146話 奇跡の日
しおりを挟む「ーーはいっ!すみません!撮影終了で~す!!!エキストラの皆さん、ありがとうございましたぁ!!!」
元気な声に、琉生斗は弾かれたように顔をあげた。
目を大きく開き、
その人物をしかと見る。
「あっ、、、」
そこには、眼鏡をかけたかわいらしい青年がいた。歳よりも幼く見えるーー。
琉生斗が大好きな、あの青年だーー。
ーーえっ!?
琉生斗は瞬きを繰り返した。
嘘だろ……。そんな事がーー。
ざわめく場を気にもせずに彼は周囲をみまわす。
「報酬をお渡しします?あなた?それともーー」
「あっ、わたしよ!」
ひとりの女性が手をあげて、青年から封筒を受け取った。
「きゃあ!こんなに!」
開封して女性がうれしそうにはしゃぐ。
「他の方は?ちょっとリストを忘れてきてしまって」
「あっ、オレオレ!」
「わたし達もです!」
便乗するように若い男と学生達が手をあげてアピールする。
「配ってもらえますか?」
「ああ、いいぜ!!」
封筒を束で受け取った男はにんまりと笑い、まわりに人だかりをつくりながらその場をしきりだした。学生達が男に催促をする。
「ーー立てる?」
青年ーー、兵馬が早口で話した。
琉生斗は涙をこすりながら頷く。右手を差し出されて迷いもなくその手をとった。薬指のプラチナリングが、あの日と変わらずにきらりとひかる。
本当に、夢ではないのだろうかーー。
「殿下、しっかりーー」
「ーーああ……」
「悪いけど自分で歩いて」
ーーうん。間違いなく兵馬だ。
「早く!」
先ほど一番目に手をあげた女性がワンボックスカーのドアを開けていた。アレクセイを押し込み、琉生斗も乗る。
「ありがとう、母さん」
「はいはい。だすわよ」
「ーーおばさん!」
よく見ると兵馬の母、彩奈だ。
「久しぶりね、ルート君。琉生亜とはタイプが違うけど超イケメン!」
「ーー母さん……」
呆れたように兵馬がシートベルトをしめる。
「ーー兵馬……」
長らく口にしていなかった名前をだし、琉生斗はボロボロと泣いた。
「兵馬ぁ!!!」
抱きついて大泣きする。
「はいはい。君、顔色悪いよ。殿下もやばいね」
とりあえず、家で休もうねーー。
「うんっ!」
夢なら覚めないでくれ、と琉生斗は願った。
まわりに畑しかない小さな家に着くと、寝室に案内され、琉生斗とアレクセイはくっついたまま横になった。あまりにもアレクセイがきつく琉生斗を抱きしめるので、兵馬がなんとかほどこうとする。
「ちょっと殿下ぁ!ルートの顔色がやばいって!!!殿下ぁーーー!」
「ーーし、死ぬ……」
「殿下ぁ!ちょっと腕緩めてーー!」
「もう、おれはおまえに会えないと思ってーー」
起きたら起きたで琉生斗のうざ絡みがはじまり、忙しい兵馬は相手をしながら雑用をこなす。
「うん。僕もあのときは死んだと思ったよ」
アレクセイの胸の上に光る石を置く。
「なんだそれ?」
「こっちでも少しは魔力があるんだ。それで魔石を作ってみた」
「ふ~ん。アレクは魔力が戻らないのか?」
「いくら魔力無限でも、ここの魔力と身体が合うかは別の話でしょ」
「な~る~」
いらないものを身体に詰め込まれてる状態なのか。
「殿下の配合通りで作った魔石だから、純度の高い魔力が身体に浸透すればいいけどーー」
「ーーうん。よくわからん。なあ、それより聞いていいか?」
「ーーうん」
「あれ、おまえの弟か?」
琉生斗はベビーベッドに寝かされた赤ちゃんを指差しながら尋ねた。
実は車の後部座席に取り付けられたチャイルドシートで寝ていたときから気にはなっていたのだが、それどころではなかったので聞けずにいたーー。
ふふっ、と親友が笑う。
「違うよ」
「なんだ、拾ったのか?」
「ーーもうわかってるんでしょ?」
兵馬が右耳にかかる髪の毛をはらうと、オレンジ色のピアスが見える。
「うん。ーーでも、何でなんだ?」
「わからないんだ」
兵馬が首を振った。
「ーー早すぎないか?」
「だよね。でも、生命が助かったのはこの子のおかげなんだよ」
赤ちゃんを抱きあげ兵馬が笑顔を見せる。
「ぁぁー」
「ーーめっちゃ産まれたてじゃねえ?」
「うん。あのときは一ヶ月検診で病院の帰りだったんだ。ねえ、ユーリ」
兵馬が首をしっかりと支え、赤ちゃんに頬を寄せた。
「ーー猿じゃねえな。しっかりあのひとだ」
「びっくりするぐらい整ってるよね」
琉生斗も目を疑うほどあのひとによく似てる。
髪の色も茶系オレンジで、星空が広がる澄んだ目、鼻も高く口の形も品が良い。
「まんま、ラルさんじゃん」
「そうなんだよー」
「何で?」
「う~ん。僕ね、いつの間にか女神様にお願いしてたんだよね」
「へぇ~」
「それが、去年の5月だったかなー。それから、蛇羊神様の神殿で、ジュナが変な窪みがあるって言いだしたの」
「あー、触らなきゃわからない部分ねーー」
顔を赤くしながら琉生斗は相槌をうつ。
「ーーで、入ったから挿れちゃったんだ」
下を向きながら兵馬が話す。
「ーー入口はできてたのか……。いや、その時点でできあがってたのかもなーー」
「う~ん。詳しいことはミハエルさんに聞かなきゃわからないけど。女神様が気を使ってくださったって言ってたから、もうできてたって意味だったのかも。
9月には体調がおかしかったから、ジュナがミハエルさんに相談しよう、って言ってたんだよ」
「そうかーー。どうやって産んだんだ?」
気になるところだ。まさか、自分で腹を開けてないだろうなーー。この親友ならやりかねないような気はするがーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
最後まで読んでいただきありがとうございます。書きたかったお話までくることができました😊
これも、天使のような皆様の励ましのおかげです🥹ありがとうございました✨
68
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる