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僕らがいた国編
第146話 奇跡の日
しおりを挟む「ーーはいっ!すみません!撮影終了で~す!!!エキストラの皆さん、ありがとうございましたぁ!!!」
元気な声に、琉生斗は弾かれたように顔をあげた。
目を大きく開き、
その人物をしかと見る。
「あっ、、、」
そこには、眼鏡をかけたかわいらしい青年がいた。歳よりも幼く見えるーー。
琉生斗が大好きな、あの青年だーー。
ーーえっ!?
琉生斗は瞬きを繰り返した。
嘘だろ……。そんな事がーー。
ざわめく場を気にもせずに彼は周囲をみまわす。
「報酬をお渡しします?あなた?それともーー」
「あっ、わたしよ!」
ひとりの女性が手をあげて、青年から封筒を受け取った。
「きゃあ!こんなに!」
開封して女性がうれしそうにはしゃぐ。
「他の方は?ちょっとリストを忘れてきてしまって」
「あっ、オレオレ!」
「わたし達もです!」
便乗するように若い男と学生達が手をあげてアピールする。
「配ってもらえますか?」
「ああ、いいぜ!!」
封筒を束で受け取った男はにんまりと笑い、まわりに人だかりをつくりながらその場をしきりだした。学生達が男に催促をする。
「ーー立てる?」
青年ーー、兵馬が早口で話した。
琉生斗は涙をこすりながら頷く。右手を差し出されて迷いもなくその手をとった。薬指のプラチナリングが、あの日と変わらずにきらりとひかる。
本当に、夢ではないのだろうかーー。
「殿下、しっかりーー」
「ーーああ……」
「悪いけど自分で歩いて」
ーーうん。間違いなく兵馬だ。
「早く!」
先ほど一番目に手をあげた女性がワンボックスカーのドアを開けていた。アレクセイを押し込み、琉生斗も乗る。
「ありがとう、母さん」
「はいはい。だすわよ」
「ーーおばさん!」
よく見ると兵馬の母、彩奈だ。
「久しぶりね、ルート君。琉生亜とはタイプが違うけど超イケメン!」
「ーー母さん……」
呆れたように兵馬がシートベルトをしめる。
「ーー兵馬……」
長らく口にしていなかった名前をだし、琉生斗はボロボロと泣いた。
「兵馬ぁ!!!」
抱きついて大泣きする。
「はいはい。君、顔色悪いよ。殿下もやばいね」
とりあえず、家で休もうねーー。
「うんっ!」
夢なら覚めないでくれ、と琉生斗は願った。
まわりに畑しかない小さな家に着くと、寝室に案内され、琉生斗とアレクセイはくっついたまま横になった。あまりにもアレクセイがきつく琉生斗を抱きしめるので、兵馬がなんとかほどこうとする。
「ちょっと殿下ぁ!ルートの顔色がやばいって!!!殿下ぁーーー!」
「ーーし、死ぬ……」
「殿下ぁ!ちょっと腕緩めてーー!」
「もう、おれはおまえに会えないと思ってーー」
起きたら起きたで琉生斗のうざ絡みがはじまり、忙しい兵馬は相手をしながら雑用をこなす。
「うん。僕もあのときは死んだと思ったよ」
アレクセイの胸の上に光る石を置く。
「なんだそれ?」
「こっちでも少しは魔力があるんだ。それで魔石を作ってみた」
「ふ~ん。アレクは魔力が戻らないのか?」
「いくら魔力無限でも、ここの魔力と身体が合うかは別の話でしょ」
「な~る~」
いらないものを身体に詰め込まれてる状態なのか。
「殿下の配合通りで作った魔石だから、純度の高い魔力が身体に浸透すればいいけどーー」
「ーーうん。よくわからん。なあ、それより聞いていいか?」
「ーーうん」
「あれ、おまえの弟か?」
琉生斗はベビーベッドに寝かされた赤ちゃんを指差しながら尋ねた。
実は車の後部座席に取り付けられたチャイルドシートで寝ていたときから気にはなっていたのだが、それどころではなかったので聞けずにいたーー。
ふふっ、と親友が笑う。
「違うよ」
「なんだ、拾ったのか?」
「ーーもうわかってるんでしょ?」
兵馬が右耳にかかる髪の毛をはらうと、オレンジ色のピアスが見える。
「うん。ーーでも、何でなんだ?」
「わからないんだ」
兵馬が首を振った。
「ーー早すぎないか?」
「だよね。でも、生命が助かったのはこの子のおかげなんだよ」
赤ちゃんを抱きあげ兵馬が笑顔を見せる。
「ぁぁー」
「ーーめっちゃ産まれたてじゃねえ?」
「うん。あのときは一ヶ月検診で病院の帰りだったんだ。ねえ、ユーリ」
兵馬が首をしっかりと支え、赤ちゃんに頬を寄せた。
「ーー猿じゃねえな。しっかりあのひとだ」
「びっくりするぐらい整ってるよね」
琉生斗も目を疑うほどあのひとによく似てる。
髪の色も茶系オレンジで、星空が広がる澄んだ目、鼻も高く口の形も品が良い。
「まんま、ラルさんじゃん」
「そうなんだよー」
「何で?」
「う~ん。僕ね、いつの間にか女神様にお願いしてたんだよね」
「へぇ~」
「それが、去年の5月だったかなー。それから、蛇羊神様の神殿で、ジュナが変な窪みがあるって言いだしたの」
「あー、触らなきゃわからない部分ねーー」
顔を赤くしながら琉生斗は相槌をうつ。
「ーーで、入ったから挿れちゃったんだ」
下を向きながら兵馬が話す。
「ーー入口はできてたのか……。いや、その時点でできあがってたのかもなーー」
「う~ん。詳しいことはミハエルさんに聞かなきゃわからないけど。女神様が気を使ってくださったって言ってたから、もうできてたって意味だったのかも。
9月には体調がおかしかったから、ジュナがミハエルさんに相談しよう、って言ってたんだよ」
「そうかーー。どうやって産んだんだ?」
気になるところだ。まさか、自分で腹を開けてないだろうなーー。この親友ならやりかねないような気はするがーー。
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最後まで読んでいただきありがとうございます。書きたかったお話までくることができました😊
これも、天使のような皆様の励ましのおかげです🥹ありがとうございました✨
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