ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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僕らがいた国編

第146話 奇跡の日

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「ーーはいっ!すみません!撮影終了で~す!!!エキストラの皆さん、ありがとうございましたぁ!!!」
 
 元気な声に、琉生斗は弾かれたように顔をあげた。


 目を大きく開き、

 その人物をしかと見る。


「あっ、、、」


 
 そこには、眼鏡をかけたかわいらしい青年がいた。歳よりも幼く見えるーー。

 琉生斗が大好きな、あの青年だーー。




 ーーえっ!?




 琉生斗は瞬きを繰り返した。



 嘘だろ……。そんな事がーー。



 ざわめく場を気にもせずに彼は周囲をみまわす。
「報酬をお渡しします?あなた?それともーー」

「あっ、わたしよ!」
 ひとりの女性が手をあげて、青年から封筒を受け取った。
「きゃあ!こんなに!」
 開封して女性がうれしそうにはしゃぐ。

「他の方は?ちょっとリストを忘れてきてしまって」
「あっ、オレオレ!」
「わたし達もです!」
 便乗するように若い男と学生達が手をあげてアピールする。

「配ってもらえますか?」
「ああ、いいぜ!!」
 封筒を束で受け取った男はにんまりと笑い、まわりに人だかりをつくりながらその場をしきりだした。学生達が男に催促をする。

「ーー立てる?」
 青年ーー、兵馬が早口で話した。

 琉生斗は涙をこすりながら頷く。右手を差し出されて迷いもなくその手をとった。薬指のプラチナリングが、あの日と変わらずにきらりとひかる。


 本当に、夢ではないのだろうかーー。

「殿下、しっかりーー」
「ーーああ……」
「悪いけど自分で歩いて」

 ーーうん。間違いなく兵馬だ。


「早く!」
 先ほど一番目に手をあげた女性がワンボックスカーのドアを開けていた。アレクセイを押し込み、琉生斗も乗る。

「ありがとう、母さん」
「はいはい。だすわよ」

「ーーおばさん!」
 よく見ると兵馬の母、彩奈あやなだ。
「久しぶりね、ルート君。琉生亜るきあとはタイプが違うけど超イケメン!」
「ーー母さん……」
 呆れたように兵馬がシートベルトをしめる。

「ーー兵馬……」
 長らく口にしていなかった名前をだし、琉生斗はボロボロと泣いた。

「兵馬ぁ!!!」
 抱きついて大泣きする。

「はいはい。君、顔色悪いよ。殿下もやばいね」
 とりあえず、家で休もうねーー。

「うんっ!」
 夢なら覚めないでくれ、と琉生斗は願った。










 まわりに畑しかない小さな家に着くと、寝室に案内され、琉生斗とアレクセイはくっついたまま横になった。あまりにもアレクセイがきつく琉生斗を抱きしめるので、兵馬がなんとかほどこうとする。

「ちょっと殿下ぁ!ルートの顔色がやばいって!!!殿下ぁーーー!」
「ーーし、死ぬ……」 
「殿下ぁ!ちょっと腕緩めてーー!」














「もう、おれはおまえに会えないと思ってーー」
 起きたら起きたで琉生斗のうざ絡みがはじまり、忙しい兵馬は相手をしながら雑用をこなす。
「うん。僕もあのときは死んだと思ったよ」
 アレクセイの胸の上に光る石を置く。

「なんだそれ?」
「こっちでも少しは魔力があるんだ。それで魔石を作ってみた」
「ふ~ん。アレクは魔力が戻らないのか?」
「いくら魔力無限でも、ここの魔力と身体が合うかは別の話でしょ」
「な~る~」
 いらないものを身体に詰め込まれてる状態なのか。

「殿下の配合通りで作った魔石だから、純度の高い魔力が身体に浸透すればいいけどーー」
「ーーうん。よくわからん。なあ、それより聞いていいか?」


「ーーうん」


「あれ、おまえの弟か?」
 琉生斗はベビーベッドに寝かされた赤ちゃんを指差しながら尋ねた。

 実は車の後部座席に取り付けられたチャイルドシートで寝ていたときから気にはなっていたのだが、それどころではなかったので聞けずにいたーー。
 
 ふふっ、と親友が笑う。


「違うよ」
「なんだ、拾ったのか?」
「ーーもうわかってるんでしょ?」
 兵馬が右耳にかかる髪の毛をはらうと、オレンジ色のピアスが見える。

「うん。ーーでも、何でなんだ?」
「わからないんだ」
 兵馬が首を振った。
「ーー早すぎないか?」
「だよね。でも、生命が助かったのはこの子のおかげなんだよ」
 赤ちゃんを抱きあげ兵馬が笑顔を見せる。

「ぁぁー」

「ーーめっちゃ産まれたてじゃねえ?」
「うん。あのときは一ヶ月検診で病院の帰りだったんだ。ねえ、ユーリ」 
 兵馬が首をしっかりと支え、赤ちゃんに頬を寄せた。
「ーー猿じゃねえな。しっかりあのひとだ」
「びっくりするぐらい整ってるよね」
 琉生斗も目を疑うほどあのひとによく似てる。

 髪の色も茶系オレンジで、星空が広がる澄んだ目、鼻も高く口の形も品が良い。

「まんま、ラルさんじゃん」
「そうなんだよー」
「何で?」
「う~ん。僕ね、いつの間にか女神様にお願いしてたんだよね」
「へぇ~」
「それが、去年の5月だったかなー。それから、蛇羊神様の神殿で、ジュナが変な窪みがあるって言いだしたの」
「あー、触らなきゃわからない部分ねーー」

 顔を赤くしながら琉生斗は相槌をうつ。

「ーーで、入ったから挿れちゃったんだ」
 下を向きながら兵馬が話す。

「ーー入口はできてたのか……。いや、その時点でできあがってたのかもなーー」
「う~ん。詳しいことはミハエルさんに聞かなきゃわからないけど。女神様が気を使ってくださったって言ってたから、もうできてたって意味だったのかも。
 9月には体調がおかしかったから、ジュナがミハエルさんに相談しよう、って言ってたんだよ」

「そうかーー。どうやって産んだんだ?」
 気になるところだ。まさか、自分で腹を開けてないだろうなーー。この親友ならやりかねないような気はするがーー。






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 最後まで読んでいただきありがとうございます。書きたかったお話までくることができました😊
 これも、天使のような皆様の励ましのおかげです🥹ありがとうございました✨
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