ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
155 / 235
悪魔が来たりて嘘をつく編

第145話 悪魔の最後の嘘

しおりを挟む


「ーーさて、ハオル。どういう結末がお望みだーー?」


 王者の問いにハオルの顔が歪んだ。

『うるさい!うるさい!おまえらがまとわりついていたせいだぁ!!!』
 ハオルの激昂に、アスラーンとラルジュナは眉をしかめる。

「ーーふっ、初恋こじれは怖いな」
「しっー!」
 ふたりの話が耳に聞こえ、琉生斗は気づいた。


 ハオルがアレクのことを好きだって、アレクだけは知らないのかーー。


 いや、そうだろうな。

 この激鈍げきにぶにひとの好意がわかるわけがないーー。



 だからといって、許せる話ではない。

『ブフッ!!!』

「おい!」
 ハオルの身体がボコボコと音をたてて膨らみはじめた。
「ーー自爆!?」
 もうっ!とラルジュナが大天使ミカエルの盾をハオルを囲むように出現させる。魔力の残っている者も結界をだす。


「ーーアスラーン王太子!!!」
「どうした?」
 司祭イワンが咳き込むように走ってきた。
「教皇様が!悪魔の城が落ちてくると!!!」
 震えるようにイワンが叫び、アスラーンは舌打ちをした。

「ハオル!貴様!!!」
 ぼこぼこと膨らむハオルがにやついた。

『ーー聖女!おまえだけは絶対に殺してやる!!!』
 背中の触手が動く。
 それは誰よりも疾く琉生斗の身体に届いた。

「ルート!!!」
 アレクセイの叫びに琉生斗は頷いた。ふたりは目を合わせて、心を決める。




 ーー時空転移ーー!!!


 







「消えた!!!」
 東堂が目を見張る。
 琉生斗とアレクセイが、この場からハオルと消えたのだ。

「魔力が残ってるもので、悪魔の城の軌道を変えるよ」
 ラルジュナが次の指示をだした。

「うすっ!」
「トードォ!無理はするな!」
 アスラーンが眉を顰める。
「平気っす!」
 毒が仕込んであったのか、血が止まらない。それでも東堂は進んでいく。

「ミハナ、休んだだろ?」
 冷たくラルジュナに言われ、顔を叩いて美花は気合を入れる。

 ーーどうして彼は美花に厳しくあたるのか。

 まわりの者は不思議で仕方がない。恋人の姉なら優しくするべきなのにーー。


 ーーただその中、トルイストは気づいている。

 美花に変な噂が立たないようにしているのだ。婚約者にいらぬ邪推を起こさせないように、わざと強い物言いをしているのだろう。

 ーーお優しい方だーー。

 トルイストは涙を見せぬよう目をしばたいた。


「ーーがんばります!」
 美花の様子にファウラが心配そうな顔をする。だが、すぐに自分のすべき事に集中する表情へと切り替わった。

「おまえ達も立たなければ国がなくなるぞ」
 アスラーンの言葉に、場の空気が締まった。

「「「はっ!」」」
 アンダーソニーや、魔法騎士団は疲労を忘れて走りだした。

 まだ、戦える!国が守れる!

 







「ーー来たか」
 大神殿にはアダマスとクリステイルが立っていた。
「陛下!」
「ーー皆、力を貸してくれ」
 アダマスが頭を深く下げる。

「もちろんです」
 魔法騎士達はこうべを垂れた。

「父上、ふたりなら原初大爆発ビッグバンが使えます」
「結界を頼むぞ」
 アダマスが近衛兵長のパボンに告げる。
「はっ!おまかせを!!」
 パボンがうれしそうに主に頭を下げた。



「悪魔の城が見えた、いくぞ!」
「はい!」




「「原初大爆発ビッグバン!!!」」

 強大なふたつの力がぶつかり、神聖ロードリンゲン国の空を紅く染めた。
















「ーーすごい、魔法だね」
「流石はロードリンゲン王族だな」
 ラルジュナとアスラーンは少し離れた場所でその光景を見ていた。

「どうだーー?」
 問いにラルジュナが首を振る。
「角度を変えないとまた落ちてくる」

「ーーそうか」

「じゃっ、後は頼んだよ」
 ラルジュナは黒槍を出現させた。

「ラルジュナーー」
 ため息をつきながらアスラーンが悲しげに眉を寄せる。
「他の方法を考える。落ちてくるならまた魔法でーー」

「アスラーン、ありがとう」
 迷いのない顔を見てアスラーンの目に涙が浮かぶ。友の肩を抱き首を振る。

「ーー生きてくれ……」

 心から願う。


「ーー大丈夫だよ」
 ラルジュナはアスラーンの肩を叩いた。

 そして、次の瞬間には転移魔法を使用し、巨大な悪魔の城に向かって凶霊キャロラインの何より愛しい夫の黒槍をかまえる。


「ーーまた会えるよ」


 ひとのだせるスピードを超えて、ラルジュナは悪魔の城に突っ込んでいきーーーーーー。



















『ここは、別次元かーー』
 いまにも爆発しそうなハオルが呻いた。
 空間が歪むその場所は、誰も来ることができない場所だ。自分達、時空魔法をもつもの以外は。


「ーーハオル。さらばだ」

 琉生斗を腕の中に抱き、アレクセイは静かに告げる。それを見てハオルが激怒し、身体は噴火しそうな勢いで燃えだす。

『なぜだー!なぜだーー!』

「ーー私にもわからない。なぜ、おまえはここまでの事をした?」
 その言葉を聞き琉生斗は目を細めた。彼は言うのだろうか、素直に話すのだろうかーー。

『おまえ達も巻き添えにしてやる!!!いいのか!聖女が死ぬぞ!』



 
「ーーああ。女神様がいいって」
 琉生斗は口を開いた。

「死んでも一緒にいたいなら、イイヨ、って」
 本当はそんなことは言われていないが、この状況ではそう言うしかない。


 ふー、ふー、ハオルが荒い息を吐いた。怒りに我を忘れたように目が血走っている。



『死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!』



 ハオルが叫ぶ中、アレクセイが琉生斗の顔を見つめた。


「愛している」
「ーーおれもだ。来世でも一緒になろう、約束な」
「ああーー」
 くちづけをかわし、ふたりは笑う。



『死ね……、死ね……、死ね……、ーーーーー』


「来世では、あいつとも仲良くしてやれよ」
 琉生斗の言葉にハオルが動きをとめた。

「ハオルと?仲が悪いわけではなかったがーー」
 深い海の藍色の目が揺れる。琉生斗はその様子に苦笑をもらした。


『嘘をつけ!!!おまえは私の手を拒んだ!!!あきらかな拒絶だった!!!』


 困ったようにアレクセイは告げる。
「ーー私には呪いがある。だから、握手はできなかったーー」


 ハオルの目がこれ以上ないぐらい開かれた。

『な、な、な、呪いーーー!呪いだとーーー!私は!わたしはぁぁぁ!!!』
「ーーなんだ?」
 アレクセイは言葉を待った。


 悪魔の目がこれ以上ないぐらいに澄んだ色になる。


『ーー私はおまえが憎かった……』
 

 ハオルの身体が弾けていく。

 爆発にアレクセイは自分の生命をかけて結界を張った。


 別次元を破壊するほどのエネルギーが、すべてを覆い尽くしていく。



 ーー時空竜の女神様!!!



 琉生斗は聖女の証を強く握りしめた。



 ーーこの空間を浄化してやる!!!



 ハオルの飛び散った欠片を琉生斗は浄化する。思念には、いかにアレクセイを想っていたかが強く残っていた。


 ーー言わなきゃわかんねえよ……。


 眉をしかめてハオルの欠片を消し去っていく。





「ーーじゃあな……」



 すべてが浄化されたときには、ふたりとも何の力も残っていなかった。お互いをきつく抱きしめたまま、別次元から落ちていく。


 ーーどうなるんだろう。


 ーーそりゃ、死ぬのかーー。




 だが、時空の波にのまれる前に、アレクセイは目を開いた。

 最後の力で魔力を練る。





 どこでもいい!転移をーーー!!!







 波に届く前に、ふたりは消えた。





 










 ……。
 
 ………………。

「風?」
「え?何?ひと?」
 ざわざわと大勢のひとの声がする。

「うっ!」
 琉生斗は口を押さえた。
 空気が悪い。
 一気に気持ち悪さがあがってくる。

「ーー何のコスプレかな?」
「光ってなかった?どんな映画?」
「あの俳優さん、すごいイケメンじゃんーー」


 ?


 恐る恐る顔をあげて、琉生斗は目を見張った。

「あっ!すごい美人!」
「あのひと、女優さんじゃないー?」

 女優、さんてーー、嫌、間違いないーー。


 露出した服や、学校の制服をきた生徒達が自分達のまわりに立って、スマホのカメラを向けている。視界には見渡す限り高いビル、よく行った店の看板の数々。



 ヤバいーー、アレクーー。



 隣りの彼は青ざめた顔で膝をついたまま、動きもしない。


 だめだーー、どうしたらーー。


 吐き気がおさまらない。気絶しそうだ。どうしたらいい?この状況をどうすればーー。


「なんか、変じゃね?」
「ねえ?警察に連絡する?」
「ーーとりあえず、動画撮ろうぜ」

 琉生斗は愕然としたまま、どうにもできずにアレクセイの肩を抱いた。


 どうすればーー、どうすればーー。




 救いのない状況を、どうすればいいのか、これからどうなってしまうのかーー。琉生斗は目を固くつむったーー。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最後まで読んでいただきありがとうございます。稚拙な文や表現しかできなくて、すみません😭
 次回からは元の世界での話になります☺️
 また、お目をとめていただけたらうれしいです🥹
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ! 主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

処理中です...