ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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悪魔が来たりて嘘をつく編

第145話 悪魔の最後の嘘

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「ーーさて、ハオル。どういう結末がお望みだーー?」


 王者の問いにハオルの顔が歪んだ。

『うるさい!うるさい!おまえらがまとわりついていたせいだぁ!!!』
 ハオルの激昂に、アスラーンとラルジュナは眉をしかめる。

「ーーふっ、初恋こじれは怖いな」
「しっー!」
 ふたりの話が耳に聞こえ、琉生斗は気づいた。


 ハオルがアレクのことを好きだって、アレクだけは知らないのかーー。


 いや、そうだろうな。

 この激鈍げきにぶにひとの好意がわかるわけがないーー。



 だからといって、許せる話ではない。

『ブフッ!!!』

「おい!」
 ハオルの身体がボコボコと音をたてて膨らみはじめた。
「ーー自爆!?」
 もうっ!とラルジュナが大天使ミカエルの盾をハオルを囲むように出現させる。魔力の残っている者も結界をだす。


「ーーアスラーン王太子!!!」
「どうした?」
 司祭イワンが咳き込むように走ってきた。
「教皇様が!悪魔の城が落ちてくると!!!」
 震えるようにイワンが叫び、アスラーンは舌打ちをした。

「ハオル!貴様!!!」
 ぼこぼこと膨らむハオルがにやついた。

『ーー聖女!おまえだけは絶対に殺してやる!!!』
 背中の触手が動く。
 それは誰よりも疾く琉生斗の身体に届いた。

「ルート!!!」
 アレクセイの叫びに琉生斗は頷いた。ふたりは目を合わせて、心を決める。




 ーー時空転移ーー!!!


 







「消えた!!!」
 東堂が目を見張る。
 琉生斗とアレクセイが、この場からハオルと消えたのだ。

「魔力が残ってるもので、悪魔の城の軌道を変えるよ」
 ラルジュナが次の指示をだした。

「うすっ!」
「トードォ!無理はするな!」
 アスラーンが眉を顰める。
「平気っす!」
 毒が仕込んであったのか、血が止まらない。それでも東堂は進んでいく。

「ミハナ、休んだだろ?」
 冷たくラルジュナに言われ、顔を叩いて美花は気合を入れる。

 ーーどうして彼は美花に厳しくあたるのか。

 まわりの者は不思議で仕方がない。恋人の姉なら優しくするべきなのにーー。


 ーーただその中、トルイストは気づいている。

 美花に変な噂が立たないようにしているのだ。婚約者にいらぬ邪推を起こさせないように、わざと強い物言いをしているのだろう。

 ーーお優しい方だーー。

 トルイストは涙を見せぬよう目をしばたいた。


「ーーがんばります!」
 美花の様子にファウラが心配そうな顔をする。だが、すぐに自分のすべき事に集中する表情へと切り替わった。

「おまえ達も立たなければ国がなくなるぞ」
 アスラーンの言葉に、場の空気が締まった。

「「「はっ!」」」
 アンダーソニーや、魔法騎士団は疲労を忘れて走りだした。

 まだ、戦える!国が守れる!

 







「ーー来たか」
 大神殿にはアダマスとクリステイルが立っていた。
「陛下!」
「ーー皆、力を貸してくれ」
 アダマスが頭を深く下げる。

「もちろんです」
 魔法騎士達はこうべを垂れた。

「父上、ふたりなら原初大爆発ビッグバンが使えます」
「結界を頼むぞ」
 アダマスが近衛兵長のパボンに告げる。
「はっ!おまかせを!!」
 パボンがうれしそうに主に頭を下げた。



「悪魔の城が見えた、いくぞ!」
「はい!」




「「原初大爆発ビッグバン!!!」」

 強大なふたつの力がぶつかり、神聖ロードリンゲン国の空を紅く染めた。
















「ーーすごい、魔法だね」
「流石はロードリンゲン王族だな」
 ラルジュナとアスラーンは少し離れた場所でその光景を見ていた。

「どうだーー?」
 問いにラルジュナが首を振る。
「角度を変えないとまた落ちてくる」

「ーーそうか」

「じゃっ、後は頼んだよ」
 ラルジュナは黒槍を出現させた。

「ラルジュナーー」
 ため息をつきながらアスラーンが悲しげに眉を寄せる。
「他の方法を考える。落ちてくるならまた魔法でーー」

「アスラーン、ありがとう」
 迷いのない顔を見てアスラーンの目に涙が浮かぶ。友の肩を抱き首を振る。

「ーー生きてくれ……」

 心から願う。


「ーー大丈夫だよ」
 ラルジュナはアスラーンの肩を叩いた。

 そして、次の瞬間には転移魔法を使用し、巨大な悪魔の城に向かって凶霊キャロラインの何より愛しい夫の黒槍をかまえる。


「ーーまた会えるよ」


 ひとのだせるスピードを超えて、ラルジュナは悪魔の城に突っ込んでいきーーーーーー。



















『ここは、別次元かーー』
 いまにも爆発しそうなハオルが呻いた。
 空間が歪むその場所は、誰も来ることができない場所だ。自分達、時空魔法をもつもの以外は。


「ーーハオル。さらばだ」

 琉生斗を腕の中に抱き、アレクセイは静かに告げる。それを見てハオルが激怒し、身体は噴火しそうな勢いで燃えだす。

『なぜだー!なぜだーー!』

「ーー私にもわからない。なぜ、おまえはここまでの事をした?」
 その言葉を聞き琉生斗は目を細めた。彼は言うのだろうか、素直に話すのだろうかーー。

『おまえ達も巻き添えにしてやる!!!いいのか!聖女が死ぬぞ!』



 
「ーーああ。女神様がいいって」
 琉生斗は口を開いた。

「死んでも一緒にいたいなら、イイヨ、って」
 本当はそんなことは言われていないが、この状況ではそう言うしかない。


 ふー、ふー、ハオルが荒い息を吐いた。怒りに我を忘れたように目が血走っている。



『死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!』



 ハオルが叫ぶ中、アレクセイが琉生斗の顔を見つめた。


「愛している」
「ーーおれもだ。来世でも一緒になろう、約束な」
「ああーー」
 くちづけをかわし、ふたりは笑う。



『死ね……、死ね……、死ね……、ーーーーー』


「来世では、あいつとも仲良くしてやれよ」
 琉生斗の言葉にハオルが動きをとめた。

「ハオルと?仲が悪いわけではなかったがーー」
 深い海の藍色の目が揺れる。琉生斗はその様子に苦笑をもらした。


『嘘をつけ!!!おまえは私の手を拒んだ!!!あきらかな拒絶だった!!!』


 困ったようにアレクセイは告げる。
「ーー私には呪いがある。だから、握手はできなかったーー」


 ハオルの目がこれ以上ないぐらい開かれた。

『な、な、な、呪いーーー!呪いだとーーー!私は!わたしはぁぁぁ!!!』
「ーーなんだ?」
 アレクセイは言葉を待った。


 悪魔の目がこれ以上ないぐらいに澄んだ色になる。


『ーー私はおまえが憎かった……』
 

 ハオルの身体が弾けていく。

 爆発にアレクセイは自分の生命をかけて結界を張った。


 別次元を破壊するほどのエネルギーが、すべてを覆い尽くしていく。



 ーー時空竜の女神様!!!



 琉生斗は聖女の証を強く握りしめた。



 ーーこの空間を浄化してやる!!!



 ハオルの飛び散った欠片を琉生斗は浄化する。思念には、いかにアレクセイを想っていたかが強く残っていた。


 ーー言わなきゃわかんねえよ……。


 眉をしかめてハオルの欠片を消し去っていく。





「ーーじゃあな……」



 すべてが浄化されたときには、ふたりとも何の力も残っていなかった。お互いをきつく抱きしめたまま、別次元から落ちていく。


 ーーどうなるんだろう。


 ーーそりゃ、死ぬのかーー。




 だが、時空の波にのまれる前に、アレクセイは目を開いた。

 最後の力で魔力を練る。





 どこでもいい!転移をーーー!!!







 波に届く前に、ふたりは消えた。





 










 ……。
 
 ………………。

「風?」
「え?何?ひと?」
 ざわざわと大勢のひとの声がする。

「うっ!」
 琉生斗は口を押さえた。
 空気が悪い。
 一気に気持ち悪さがあがってくる。

「ーー何のコスプレかな?」
「光ってなかった?どんな映画?」
「あの俳優さん、すごいイケメンじゃんーー」


 ?


 恐る恐る顔をあげて、琉生斗は目を見張った。

「あっ!すごい美人!」
「あのひと、女優さんじゃないー?」

 女優、さんてーー、嫌、間違いないーー。


 露出した服や、学校の制服をきた生徒達が自分達のまわりに立って、スマホのカメラを向けている。視界には見渡す限り高いビル、よく行った店の看板の数々。



 ヤバいーー、アレクーー。



 隣りの彼は青ざめた顔で膝をついたまま、動きもしない。


 だめだーー、どうしたらーー。


 吐き気がおさまらない。気絶しそうだ。どうしたらいい?この状況をどうすればーー。


「なんか、変じゃね?」
「ねえ?警察に連絡する?」
「ーーとりあえず、動画撮ろうぜ」

 琉生斗は愕然としたまま、どうにもできずにアレクセイの肩を抱いた。


 どうすればーー、どうすればーー。




 救いのない状況を、どうすればいいのか、これからどうなってしまうのかーー。琉生斗は目を固くつむったーー。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最後まで読んでいただきありがとうございます。稚拙な文や表現しかできなくて、すみません😭
 次回からは元の世界での話になります☺️
 また、お目をとめていただけたらうれしいです🥹
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