154 / 236
悪魔が来たりて嘘をつく編
第144話 最初からやってくださいよ!
しおりを挟む 後ろから、複数の声と足音が聞こえて来る。
それらの声を聞いて、私の体はビクリと震えた。
聞き覚えのある声が混じっていたからだ。
王太子の護衛をしていた騎士の声に、似ていると思った。
それと同時に、今の時期に王太子から離れないだろうと『似ているだけ』だと期待する気持ちが湧く。
後ろを振り向いて確認したい衝動に駆られるが、不審な動きをした方が目立つから出来ない。
せめて、フードでも被って顔を隠せていれば良かったのに。
馭者席に座る際にフードを被っていると、不審がられ兵に停められる。
馬車の操作上、事故に繋がる為の禁止事項とされているからだ。
騎士と門番の責任者と思しき男の会話が耳に入って来た。
「泊まる宿屋もないですし、ここの人達は通してしまっても良いのではないですか?」
「我が国の不手際を他国に押し付けるのか!」
騎士が、責任者らしい男を怒鳴りつけている。
騎士が何かを話す度に、私の身は縮まった。
「いえ、オーリア国入ってすぐのバダンリーク領では、話はついているんです。こちらの交換札を見せる事によってお互いが対応出来る様になっているんですよ」
「では、今対応しても変わらんな」
「ですから時間が掛かりすぎるんですよ。それに、そんなに急ぐ事ですか?」
説明をしている責任者らしい男も騎士も、どちらも苛立ちを隠せない様だ。
「何?俺の指示に従えないのか!」
「いえね、早馬じゃないんですから王都からここ迄来るには、日にちがかかると思うのですがね。そのお嬢様は馬術や馬車操作が優秀だったのですが?」
「そんな事はない」
「では、魔術が得意でフライで飛んで来れるとか?でも、その場合は馬車は捨てる事になりますが」
「魔力などないも等しい娘だ。大体フライなどの高度な魔術は、王宮魔術師長や副師長位の力がないと無理だろう」
「それでは、身体強化が長けているとか交渉術が秀でてよい馭者を雇ったとかですか?」
「ふん!あれは何をやっても無能だと聞いている」
「では、安心ではないですか。無能がこんな短期間でここ迄来ませんよ…………本当にここ迄来ているのなら、それは有能だと思いますがね」
大きく会話が響くなか、私はとても驚いていた。
しかし、そんな気持ちなど騎士の一言で消え失せた。
「これは平民が使うには、随分と立派ではないのか?」
私の後ろから、そんな声が聞こえた。
「そうですかね?何処にでもある、二頭馬車だと思いますがね」
「勿論俺達には貧相な馬車だが……しかし、見かけた事がある様な気がするんだがな」
「汎用性の高い物は、似るものだと思いますがね」
「まぁ、取っ手はどう見ても安物だが。おい、この窓のカーテンを開け顔を見せろ」
無造作に馬車を叩く騎士に、責任者らしい男が小さく呟いている。
「またですかい?一体何度目になるやら……」
「何かあったのでしょうか?私達は急いでオーリア国に向かわなければならないのですが」
カーテンを開ける音と同時に、そんなレニーの声が聞こえた。
私は人が見ても、一目瞭然に震えていたのだろう。
手網を通して分かったのか、馬達が不安そうにこちらを振り返える。
そっと落ち着く様に、アビィが手を重ねて震えを止めてくれた。
騎士達が横を通り過ぎる際は、自然と息を止めてしまった。
その際、騎士に従っている責任者らしい男の手には、しっかりと水晶が収まった箱を捧げ持っていた。
この国境門では、丁度門の中程に水晶で確認をする部屋を設けている。
今から、そこに設置しに行くのだろう。
そう思っていた時、騎士と責任者らしい男はまた言い合いを始めた。
その際、騎士が男を押した様に見えた。
「え?」
ニヤリといやらしく笑った見覚えのある騎士の顔と、驚いた責任者らしい男の顔が、妙に目に焼き付いた。
こちらに倒れてきた男は、必死に水晶を守ろうとしたのだろう。
しかし宙に浮いた水晶は、地の力に従い放物線を描き私の膝にポトリと落ちた。
それらの声を聞いて、私の体はビクリと震えた。
聞き覚えのある声が混じっていたからだ。
王太子の護衛をしていた騎士の声に、似ていると思った。
それと同時に、今の時期に王太子から離れないだろうと『似ているだけ』だと期待する気持ちが湧く。
後ろを振り向いて確認したい衝動に駆られるが、不審な動きをした方が目立つから出来ない。
せめて、フードでも被って顔を隠せていれば良かったのに。
馭者席に座る際にフードを被っていると、不審がられ兵に停められる。
馬車の操作上、事故に繋がる為の禁止事項とされているからだ。
騎士と門番の責任者と思しき男の会話が耳に入って来た。
「泊まる宿屋もないですし、ここの人達は通してしまっても良いのではないですか?」
「我が国の不手際を他国に押し付けるのか!」
騎士が、責任者らしい男を怒鳴りつけている。
騎士が何かを話す度に、私の身は縮まった。
「いえ、オーリア国入ってすぐのバダンリーク領では、話はついているんです。こちらの交換札を見せる事によってお互いが対応出来る様になっているんですよ」
「では、今対応しても変わらんな」
「ですから時間が掛かりすぎるんですよ。それに、そんなに急ぐ事ですか?」
説明をしている責任者らしい男も騎士も、どちらも苛立ちを隠せない様だ。
「何?俺の指示に従えないのか!」
「いえね、早馬じゃないんですから王都からここ迄来るには、日にちがかかると思うのですがね。そのお嬢様は馬術や馬車操作が優秀だったのですが?」
「そんな事はない」
「では、魔術が得意でフライで飛んで来れるとか?でも、その場合は馬車は捨てる事になりますが」
「魔力などないも等しい娘だ。大体フライなどの高度な魔術は、王宮魔術師長や副師長位の力がないと無理だろう」
「それでは、身体強化が長けているとか交渉術が秀でてよい馭者を雇ったとかですか?」
「ふん!あれは何をやっても無能だと聞いている」
「では、安心ではないですか。無能がこんな短期間でここ迄来ませんよ…………本当にここ迄来ているのなら、それは有能だと思いますがね」
大きく会話が響くなか、私はとても驚いていた。
しかし、そんな気持ちなど騎士の一言で消え失せた。
「これは平民が使うには、随分と立派ではないのか?」
私の後ろから、そんな声が聞こえた。
「そうですかね?何処にでもある、二頭馬車だと思いますがね」
「勿論俺達には貧相な馬車だが……しかし、見かけた事がある様な気がするんだがな」
「汎用性の高い物は、似るものだと思いますがね」
「まぁ、取っ手はどう見ても安物だが。おい、この窓のカーテンを開け顔を見せろ」
無造作に馬車を叩く騎士に、責任者らしい男が小さく呟いている。
「またですかい?一体何度目になるやら……」
「何かあったのでしょうか?私達は急いでオーリア国に向かわなければならないのですが」
カーテンを開ける音と同時に、そんなレニーの声が聞こえた。
私は人が見ても、一目瞭然に震えていたのだろう。
手網を通して分かったのか、馬達が不安そうにこちらを振り返える。
そっと落ち着く様に、アビィが手を重ねて震えを止めてくれた。
騎士達が横を通り過ぎる際は、自然と息を止めてしまった。
その際、騎士に従っている責任者らしい男の手には、しっかりと水晶が収まった箱を捧げ持っていた。
この国境門では、丁度門の中程に水晶で確認をする部屋を設けている。
今から、そこに設置しに行くのだろう。
そう思っていた時、騎士と責任者らしい男はまた言い合いを始めた。
その際、騎士が男を押した様に見えた。
「え?」
ニヤリといやらしく笑った見覚えのある騎士の顔と、驚いた責任者らしい男の顔が、妙に目に焼き付いた。
こちらに倒れてきた男は、必死に水晶を守ろうとしたのだろう。
しかし宙に浮いた水晶は、地の力に従い放物線を描き私の膝にポトリと落ちた。
54
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!
こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる