ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
153 / 236
悪魔が来たりて嘘をつく編

第143話 悪魔より悪魔らしいひと

しおりを挟む
「よしっ!おらっ!もういっちょ!」
 戦闘がはじまってから、東堂はずっと剣を振り続けている。とまる事をしらない、狂戦士のように。

「悪魔が磁場を展開したーー!」
 その範囲は魔法が使えない。ますます東堂の出番が増える。

「トードォ!保護がない状態だぞ!無理に突っ込むな!」
  トルイストの声も耳に入らない。東堂はただ、聖剣を振るう。最後はハオルのところへ行くために、前へ進むのだ。

「磁場解除しました~!」
 町子が叫ぶ。悪魔が磁場を張る度に、磁場解析をして解除しているため、攻撃に転じる事ができない。
「ーーハオルをぶん殴りたいのに~~!」
 皆、気持ちは同じだ。

「おうっ!行くぜ、町子!」
「は~い~!」

 戦いは続くーー。

 









 早く起きないとーー。

 琉生斗は焦る。
 こうしている間にも皆が危険な目にあっているかもしれない。自分の力が少しでも役に立つなら行きたい。

 なのに、身体が動かない。


 水鏡の間じゃ、神農じいちゃんも出てこれねえよなーー。魔蝕もだめだーー、女神様の気にビビってるーー。
 このままじゃーー。


『ーールート、知ってる?金縛りになったときはね、焦って体を無理に動かしちゃだめなんだってーー。 まずは深呼吸をして呼吸を整えて、ゆっくりと身体の一部を動かしてみるんだ。 一部を動かすことによって、その行動を脳が察知し金縛りが解けるんだってーー』

 琉生斗は深呼吸を繰り返した。


 一部、身体の一部分。
 頼むから動いてくれーー!

















 美花が荒く呼吸を繰り返す。
 
 日が変わろうとしている。

 よくもったほうだ、とラルジュナは思う。

 悪魔の力が活発になる夜が、まだ続く。魔法騎士達の顔からも疲労と緊張感が漂っていた。

「ーー破壊すればするほど強くなるみたいだね」
 ハオルはまた強さの段階があがっている。にやにやと微笑む顔も、ハオルの原型はない。ただの悪魔だ。

 
 彼は塵ひとつ残っていれば再生してしまう。

「結界に閉じ込めて潰してもだめ、蒸発させてもだめ。火力が足りなかったーー、なら、」
 ラルジュナが大天使ミカエルの盾を3つだし、ハオルの魔法を防ぐ。

「アリョーシャ、粉々にした後に浄化しよう。ルートを連れてきて」
「……」
「アリョーシャ?ーーまさか……」
 ラルジュナが目を見開いた。アレクセイがだんまりを決めていることから状況を悟る。

「ーー閉じ込めてるのか」
「水鏡の間だ」
「あー、時空竜の女神様が守ってくれるんだね。それって、ルートのお腹に神竜がいるから、君なんかどうでもいいって判断されたんだ」
 親友の言葉にアレクセイは俯いた。


「ーー私も同意した……」
「あっそうーー、また、悪魔をだしてきたな。どんだけいるんだかーー」

 このままでは、負けるーー。だが、ハオルがいなくなれば悪魔達は帰るだろう。


 アレクセイが魔力を練る。



 静かに、彼は目を閉じた。







太陽炎サン・フレアを使うーー」
 手の中に異常な熱量の塊が現れる。

「ーーこっちが逃げなきゃだめじゃん。それやりたきゃ、別次元に飛んでからやって」
 目を眇めてラルジュナが言った。

「君も無事じゃすまないだろうけど、覚悟してるんだ?」
「ーーああ」

 決意に揺らぎはない。






 ーーちゃんと別れも言ってないだろ。向こうが一生引きずるよ……。

 ラルジュナはため息をついた。


「ハオルと心中か。あいつは本望だね」
「?」

「ちょっとでる!防御はまかせたよ!!!」
「!」
 ラルジュナの手から黒槍が現れる。神々しくも猛々しい槍をかまえ、ハオルに突っ込んでいく。




『雑魚が!立派なものをーー』
「おまえこそ、ちゃんと告白してフラれたらどう?」
 ハオルの腕をふっ飛ばし、ラルジュナはさらに鋭い突きを食らわせる。

『ーーなんだ、それはっ!だ、誰が!』
 
「可哀想にねー、そこまでなっても見向きもされないなんてーー。わかる?アリョーシャ、聖女のこと隠してるよー。すっごく大事なんだねー」
 アレクセイに聞こえないようにラルジュナは囁いた。
 ハオルの顔がこれ以上ないぐらい歪んだ。


『わ、私だってーー』

「ーー付き合いたかったんだよねー。隣りを歩いて、ダンジョンだって一緒に攻略したりしてー」
 近づき過ぎると皮膚が燃えてくる。ラルジュナはそれを気にせずに話し続けた。


『ふっ!』
 悔しそうな息を吐き、ハオルが触手をぶつけてきた。動揺のためか、攻撃が雑になっている。


「アレクセイのすべては聖女のものだよー。毎日キスして、セックスしてーー、どれだけやってるんだろうねーー。あいつはどういうふうに聖女を抱くんだろうーーーー」

『うるさい!!!』

 悪魔より悪魔らしくラルジュナは笑った。

「ーーねえー、聖女をどうするんだったー?」
『殺す!殺してやる!!!』
 ハオルの身体が黒く光りだした。苛烈な光りは方方に散らばり、王都の結界をも破壊していく。

「うわぁ!すごい威力!聖女は神殿だよー」

『ぐっ!』
 ハオルが凄まじいスピードで王都に飛ぶ。




「ーーラルジュナ?」
 悪魔の行動にアレクセイは驚愕した。

「ごめん!逃がしたっ!」




 嘘だーー。

 目を見張り、ハオルの後を追いかける。

「なぜだ!ラルジュナ!」
 顔色を変えてアレクセイは怒鳴った。

「君がバカだからだよ!」
 ラルジュナが追いついて怒鳴り返してくる。

「私は、ルートには生きていてもらいたい!」

 別次元でハオルを仕留めるーー、それは自分の死を意味することだとしても、愛しいひとが無事でいるならそれでいいーー。



 ガンッ!



「勝手に決めんな!ばかっ!」
 親友の端正な顔に拳をいれて、ラルジュナは叫んだ。
 
「それしか方法がないわけじゃないだろ!楽な方に逃げるな!ルートは囮にする!決めてただろ!!!」

「ーーラルジュナ……」
 傷ついた目でアレクセイが見てくる。ラルジュナは吐き捨てるように言った。

「ったく!この甘ったれ!!!」



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...