ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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悪魔が来たりて嘘をつく編

第143話 悪魔より悪魔らしいひと

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「よしっ!おらっ!もういっちょ!」
 戦闘がはじまってから、東堂はずっと剣を振り続けている。とまる事をしらない、狂戦士のように。

「悪魔が磁場を展開したーー!」
 その範囲は魔法が使えない。ますます東堂の出番が増える。

「トードォ!保護がない状態だぞ!無理に突っ込むな!」
  トルイストの声も耳に入らない。東堂はただ、聖剣を振るう。最後はハオルのところへ行くために、前へ進むのだ。

「磁場解除しました~!」
 町子が叫ぶ。悪魔が磁場を張る度に、磁場解析をして解除しているため、攻撃に転じる事ができない。
「ーーハオルをぶん殴りたいのに~~!」
 皆、気持ちは同じだ。

「おうっ!行くぜ、町子!」
「は~い~!」

 戦いは続くーー。

 









 早く起きないとーー。

 琉生斗は焦る。
 こうしている間にも皆が危険な目にあっているかもしれない。自分の力が少しでも役に立つなら行きたい。

 なのに、身体が動かない。


 水鏡の間じゃ、神農じいちゃんも出てこれねえよなーー。魔蝕もだめだーー、女神様の気にビビってるーー。
 このままじゃーー。


『ーールート、知ってる?金縛りになったときはね、焦って体を無理に動かしちゃだめなんだってーー。 まずは深呼吸をして呼吸を整えて、ゆっくりと身体の一部を動かしてみるんだ。 一部を動かすことによって、その行動を脳が察知し金縛りが解けるんだってーー』

 琉生斗は深呼吸を繰り返した。


 一部、身体の一部分。
 頼むから動いてくれーー!

















 美花が荒く呼吸を繰り返す。
 
 日が変わろうとしている。

 よくもったほうだ、とラルジュナは思う。

 悪魔の力が活発になる夜が、まだ続く。魔法騎士達の顔からも疲労と緊張感が漂っていた。

「ーー破壊すればするほど強くなるみたいだね」
 ハオルはまた強さの段階があがっている。にやにやと微笑む顔も、ハオルの原型はない。ただの悪魔だ。

 
 彼は塵ひとつ残っていれば再生してしまう。

「結界に閉じ込めて潰してもだめ、蒸発させてもだめ。火力が足りなかったーー、なら、」
 ラルジュナが大天使ミカエルの盾を3つだし、ハオルの魔法を防ぐ。

「アリョーシャ、粉々にした後に浄化しよう。ルートを連れてきて」
「……」
「アリョーシャ?ーーまさか……」
 ラルジュナが目を見開いた。アレクセイがだんまりを決めていることから状況を悟る。

「ーー閉じ込めてるのか」
「水鏡の間だ」
「あー、時空竜の女神様が守ってくれるんだね。それって、ルートのお腹に神竜がいるから、君なんかどうでもいいって判断されたんだ」
 親友の言葉にアレクセイは俯いた。


「ーー私も同意した……」
「あっそうーー、また、悪魔をだしてきたな。どんだけいるんだかーー」

 このままでは、負けるーー。だが、ハオルがいなくなれば悪魔達は帰るだろう。


 アレクセイが魔力を練る。



 静かに、彼は目を閉じた。







太陽炎サン・フレアを使うーー」
 手の中に異常な熱量の塊が現れる。

「ーーこっちが逃げなきゃだめじゃん。それやりたきゃ、別次元に飛んでからやって」
 目を眇めてラルジュナが言った。

「君も無事じゃすまないだろうけど、覚悟してるんだ?」
「ーーああ」

 決意に揺らぎはない。






 ーーちゃんと別れも言ってないだろ。向こうが一生引きずるよ……。

 ラルジュナはため息をついた。


「ハオルと心中か。あいつは本望だね」
「?」

「ちょっとでる!防御はまかせたよ!!!」
「!」
 ラルジュナの手から黒槍が現れる。神々しくも猛々しい槍をかまえ、ハオルに突っ込んでいく。




『雑魚が!立派なものをーー』
「おまえこそ、ちゃんと告白してフラれたらどう?」
 ハオルの腕をふっ飛ばし、ラルジュナはさらに鋭い突きを食らわせる。

『ーーなんだ、それはっ!だ、誰が!』
 
「可哀想にねー、そこまでなっても見向きもされないなんてーー。わかる?アリョーシャ、聖女のこと隠してるよー。すっごく大事なんだねー」
 アレクセイに聞こえないようにラルジュナは囁いた。
 ハオルの顔がこれ以上ないぐらい歪んだ。


『わ、私だってーー』

「ーー付き合いたかったんだよねー。隣りを歩いて、ダンジョンだって一緒に攻略したりしてー」
 近づき過ぎると皮膚が燃えてくる。ラルジュナはそれを気にせずに話し続けた。


『ふっ!』
 悔しそうな息を吐き、ハオルが触手をぶつけてきた。動揺のためか、攻撃が雑になっている。


「アレクセイのすべては聖女のものだよー。毎日キスして、セックスしてーー、どれだけやってるんだろうねーー。あいつはどういうふうに聖女を抱くんだろうーーーー」

『うるさい!!!』

 悪魔より悪魔らしくラルジュナは笑った。

「ーーねえー、聖女をどうするんだったー?」
『殺す!殺してやる!!!』
 ハオルの身体が黒く光りだした。苛烈な光りは方方に散らばり、王都の結界をも破壊していく。

「うわぁ!すごい威力!聖女は神殿だよー」

『ぐっ!』
 ハオルが凄まじいスピードで王都に飛ぶ。




「ーーラルジュナ?」
 悪魔の行動にアレクセイは驚愕した。

「ごめん!逃がしたっ!」




 嘘だーー。

 目を見張り、ハオルの後を追いかける。

「なぜだ!ラルジュナ!」
 顔色を変えてアレクセイは怒鳴った。

「君がバカだからだよ!」
 ラルジュナが追いついて怒鳴り返してくる。

「私は、ルートには生きていてもらいたい!」

 別次元でハオルを仕留めるーー、それは自分の死を意味することだとしても、愛しいひとが無事でいるならそれでいいーー。



 ガンッ!



「勝手に決めんな!ばかっ!」
 親友の端正な顔に拳をいれて、ラルジュナは叫んだ。
 
「それしか方法がないわけじゃないだろ!楽な方に逃げるな!ルートは囮にする!決めてただろ!!!」

「ーーラルジュナ……」
 傷ついた目でアレクセイが見てくる。ラルジュナは吐き捨てるように言った。

「ったく!この甘ったれ!!!」



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