ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
149 / 235
その日にむけて編

第139話 琉生斗にあのトリがくる ☆

しおりを挟む
 
 一方、琉生斗は教皇ミハエルと修行を続けていた。

 蘇生は無理だが、かなりの治癒を使えるようになってきている。



 しかし、問題はほかにあったーー。




 ミハエルも頭を押さえる。

「じいちゃんーー、気持ち悪い……」

「我慢しろとしかーー」

 まさかの、悪阻つわりである。なぜ、こんなときにーー。



「ーーどうしよう、じいちゃん」
「殿下には?」
「言えるわけないだろ!ぶえぇー!」
「子供は欲しいときには授からないと聞きますからね。悪阻もケロッとしてるひとはしてるんですがーー」

 琉生斗は吐き気をこらえて噛みついた。

「これ、ケロッとできるひといるの?あれでしょ?全部個人差なんでしょ!どうせ、おれがだめなんですよぉ!」
「落ち着きなさい」
「がんばれ!がんばれよ!おれ!ーーおぇ~~~」

 極秘事項であるがゆえにミハエルも誰にも相談できない。

「こんなときにーー」


 彼がいてくれたらーー、切に教皇は思う。


「ーー根性で乗り切るぞ……」
「安静にして欲しいですがーー、聖女様が第一線で戦闘を行うとはーー」

 ミハエルが項垂れるが琉生斗の目はやる気に満ちている。

「ーーじいちゃん、何とかドーピングしてくれよ!」
「気休め程度ですがーー。酔い止め聖魔法を教えておきましょうーー。何にせよ、おめでとうございます」

 深くミハエルが頭を垂れた。


「ふふっ、ありがとう。いやー、本当にできてるの?って感じだけどさ」
 琉生斗は照れくさそうに頭をかく。
「やり過ぎも良くありませんよ」

 うるさい。

「夜は控えめにしてください」
 呆れるミハエルの気持ちは痛いほどわかるが、琉生斗にだって事情がある。

「そんなの理由を言わなきゃならないじゃないか。言ったら最後、神殿で留守番だよ」
「でしょうねーー」
 
 ミハエルの心配は尽きない。

 本当に無事にあの悪魔に勝てるのだろうかーー。














「ルート……」
 アレクセイが首すじにキスをしながら琉生斗の寝衣を脱がせていく。琉生斗は気持ちの悪さを隠しながら、ひたすら、根性、と念じた。


 ーーそのうち終わる、って本に書いてた。明日になったら終わってるかもーー。


 普段なら琉生斗の顔色が冴えない場合、アレクセイはすぐに気づくだろう。

 だが、アレクセイは琉生斗の体調がすぐれないのは、親友の事で心が傷ついているからだと思っているし、それは間違いではない。琉生斗がおった傷は、生涯癒えることがないからだ。

 だからこそ、アレクセイは妻を大切に抱く。少しでも心の傷が薄くなるようにと願いを込めながらーー。

 それがわかるから、琉生斗は断れないのだ。

「あんっ!アレク!」
 針一本通す隙間もないほどきつく肌を重ね、後孔の最奥を深く突かれる。

 気持ちがいいのか悪いのか、琉生斗は喘ぎながらも早く終わらないかなー、と考えてしまう。そして、アレクセイへの罪悪感でいっぱいになるのだ。

 
 やっぱ、言わなきゃだめだよなーー。















「よす!町子に葛城」

 訓練場のなかでも特別な場所にふたりはいた。元々王都の結界内では魔法は使いにくい。それを兵士の訓練場では使えるようにしてあるのだ。

 いま、町子達がいる訓練場は、貴族の子息子女以上しか使用できない特別な場だった。ふたりはここで、魔法の修行をしている。

 教師はもちろん、この方である。

「ラルさん。お世話になります」
「ルート、顔色が悪いね」
「そうかな……」

 化粧をしてきたが、すぐにバレる。

「ミハナ!すぐバテんな!」
「は、はいっ!」
 美花は汗もぬぐえずに魔力を練り続けていた。

「呼吸おかしくないか?」
 心配になった琉生斗がラルジュナに告げる。
「だから?」
「………」
「やるって決めたのは彼女だ。無理ならやめればいい」

 それはそうなのだろうが……。


「マチコ、解析が遅いよ!」
 町子の周囲には、禍々しく波のように揺れる黒い円があった。

「はいっ!」

「ーーあれは?」
「悪魔の磁場を複製したものを、磁場解析させて、解除する。その練習」

「あー、解析計算かーー」
「答え解る?」
「範囲は黒い円なんだろ?けど、円柱と考えて、上の範囲がーーーーー、おっ、簡単じゃんーー」
「秒で解いてほしいなー」

 ラルジュナがため息をつく。その姿を横目で見て、琉生斗はつぶやいた。

「ーーあいつなら、秒もいらないか……」
 
 彼の表情は変わらなかった。星空のような瞳も澄んだままだ。



 ーー決意は堅いみたいだな。焚きつけておきながらやっぱり生きてくれ、って言うのもなーー。






「ムカつく~」
 珍しく町子が苛立っている。
 解除に時間がかかり過ぎて、実戦で使えるかわからない。

「ふわふわふわのふわりんちょ!」

 アニメの魔法少女達があきらめた事は一度もない。あきらめたとき、それはまわりのひとや、世界の平和がなくなるからだ。

「次!お願いしますー!」
 スポ根アニメの台詞を、高らかに叫ぶ。

「ちょっと高位の悪魔いくよー」
「ええぇ~~~!!」
 授業の進みが早い教師だ。





「ちょっとごめん」
 琉生斗は胃がムカムカしてきて、訓練場を出る事にした。挨拶もそこそこに場を離れる。


「ーーふぅ、みんながんばってるな」
 他の訓練場からも勇ましい声が聞こえてくる。

 そんな状況なのに、自分はーー。



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

エルフの国の取り替えっ子は、運命に気づかない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
  エルフの国の王子として生まれたマグノリアンは人間の種族。そんな取り替えっ子の彼は、満月の夜に水の向こうに人間の青年と出会う。満月の夜に会う様になった彼と、何処か満たされないものを感じていたマグノリアンは距離が近づいていく。 エルフの夜歩き(恋の時間※)で一足飛びに大人になるマグノリアンは青年に心を引っ張られつつも、自分の中のエルフの部分に抗えない。そんな矢先に怪我で記憶を一部失ったマグノリアンは青年の事を忘れてしまい、一方で前世の記憶を得てしまった。  18歳になった人間のマグノリアンは、父王の計らいで人間の国へ。青年と再開するも記憶を失ったマグノリアンは彼に気づかない。 人間の国の皇太子だった青年とマグノリアン、そして第二王子や幼馴染のエルフなど、彼らの思惑が入り乱れてマグノリアンの初恋の行方は?  

処理中です...