ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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その日にむけて編

第139話 琉生斗にあのトリがくる ☆

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 一方、琉生斗は教皇ミハエルと修行を続けていた。

 蘇生は無理だが、かなりの治癒を使えるようになってきている。



 しかし、問題はほかにあったーー。




 ミハエルも頭を押さえる。

「じいちゃんーー、気持ち悪い……」

「我慢しろとしかーー」

 まさかの、悪阻つわりである。なぜ、こんなときにーー。



「ーーどうしよう、じいちゃん」
「殿下には?」
「言えるわけないだろ!ぶえぇー!」
「子供は欲しいときには授からないと聞きますからね。悪阻もケロッとしてるひとはしてるんですがーー」

 琉生斗は吐き気をこらえて噛みついた。

「これ、ケロッとできるひといるの?あれでしょ?全部個人差なんでしょ!どうせ、おれがだめなんですよぉ!」
「落ち着きなさい」
「がんばれ!がんばれよ!おれ!ーーおぇ~~~」

 極秘事項であるがゆえにミハエルも誰にも相談できない。

「こんなときにーー」


 彼がいてくれたらーー、切に教皇は思う。


「ーー根性で乗り切るぞ……」
「安静にして欲しいですがーー、聖女様が第一線で戦闘を行うとはーー」

 ミハエルが項垂れるが琉生斗の目はやる気に満ちている。

「ーーじいちゃん、何とかドーピングしてくれよ!」
「気休め程度ですがーー。酔い止め聖魔法を教えておきましょうーー。何にせよ、おめでとうございます」

 深くミハエルが頭を垂れた。


「ふふっ、ありがとう。いやー、本当にできてるの?って感じだけどさ」
 琉生斗は照れくさそうに頭をかく。
「やり過ぎも良くありませんよ」

 うるさい。

「夜は控えめにしてください」
 呆れるミハエルの気持ちは痛いほどわかるが、琉生斗にだって事情がある。

「そんなの理由を言わなきゃならないじゃないか。言ったら最後、神殿で留守番だよ」
「でしょうねーー」
 
 ミハエルの心配は尽きない。

 本当に無事にあの悪魔に勝てるのだろうかーー。














「ルート……」
 アレクセイが首すじにキスをしながら琉生斗の寝衣を脱がせていく。琉生斗は気持ちの悪さを隠しながら、ひたすら、根性、と念じた。


 ーーそのうち終わる、って本に書いてた。明日になったら終わってるかもーー。


 普段なら琉生斗の顔色が冴えない場合、アレクセイはすぐに気づくだろう。

 だが、アレクセイは琉生斗の体調がすぐれないのは、親友の事で心が傷ついているからだと思っているし、それは間違いではない。琉生斗がおった傷は、生涯癒えることがないからだ。

 だからこそ、アレクセイは妻を大切に抱く。少しでも心の傷が薄くなるようにと願いを込めながらーー。

 それがわかるから、琉生斗は断れないのだ。

「あんっ!アレク!」
 針一本通す隙間もないほどきつく肌を重ね、後孔の最奥を深く突かれる。

 気持ちがいいのか悪いのか、琉生斗は喘ぎながらも早く終わらないかなー、と考えてしまう。そして、アレクセイへの罪悪感でいっぱいになるのだ。

 
 やっぱ、言わなきゃだめだよなーー。















「よす!町子に葛城」

 訓練場のなかでも特別な場所にふたりはいた。元々王都の結界内では魔法は使いにくい。それを兵士の訓練場では使えるようにしてあるのだ。

 いま、町子達がいる訓練場は、貴族の子息子女以上しか使用できない特別な場だった。ふたりはここで、魔法の修行をしている。

 教師はもちろん、この方である。

「ラルさん。お世話になります」
「ルート、顔色が悪いね」
「そうかな……」

 化粧をしてきたが、すぐにバレる。

「ミハナ!すぐバテんな!」
「は、はいっ!」
 美花は汗もぬぐえずに魔力を練り続けていた。

「呼吸おかしくないか?」
 心配になった琉生斗がラルジュナに告げる。
「だから?」
「………」
「やるって決めたのは彼女だ。無理ならやめればいい」

 それはそうなのだろうが……。


「マチコ、解析が遅いよ!」
 町子の周囲には、禍々しく波のように揺れる黒い円があった。

「はいっ!」

「ーーあれは?」
「悪魔の磁場を複製したものを、磁場解析させて、解除する。その練習」

「あー、解析計算かーー」
「答え解る?」
「範囲は黒い円なんだろ?けど、円柱と考えて、上の範囲がーーーーー、おっ、簡単じゃんーー」
「秒で解いてほしいなー」

 ラルジュナがため息をつく。その姿を横目で見て、琉生斗はつぶやいた。

「ーーあいつなら、秒もいらないか……」
 
 彼の表情は変わらなかった。星空のような瞳も澄んだままだ。



 ーー決意は堅いみたいだな。焚きつけておきながらやっぱり生きてくれ、って言うのもなーー。






「ムカつく~」
 珍しく町子が苛立っている。
 解除に時間がかかり過ぎて、実戦で使えるかわからない。

「ふわふわふわのふわりんちょ!」

 アニメの魔法少女達があきらめた事は一度もない。あきらめたとき、それはまわりのひとや、世界の平和がなくなるからだ。

「次!お願いしますー!」
 スポ根アニメの台詞を、高らかに叫ぶ。

「ちょっと高位の悪魔いくよー」
「ええぇ~~~!!」
 授業の進みが早い教師だ。





「ちょっとごめん」
 琉生斗は胃がムカムカしてきて、訓練場を出る事にした。挨拶もそこそこに場を離れる。


「ーーふぅ、みんながんばってるな」
 他の訓練場からも勇ましい声が聞こえてくる。

 そんな状況なのに、自分はーー。



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