ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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その日にむけて編

第138話 会議は続く

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 最悪だーー。何なんだよーー。

 琉生斗は俯いた。








 
 4月になると、国が厳戒態勢になってきた。
「ハオルが悪魔の城を制圧するのにどれぐらいかかるかだ……」
 アスラーンの眉間にしわが寄っている。数カ月間の間寄りっぱなしのような気がする。

「そもそも、本当に王都に来るのー?あいつの事だからそうと見せかけて、ってパターンかもよー」
「そうなると、初動が遅れるな……」

 会議にラルジュナが出るようになり、ロードリンゲン側は大変救われる思いをしている。アレクセイやアスラーンの扱いが上手いからだ。

「王都の結界は張り直ししたんだし、あそこを狙うのは無理だとして、ロードリンゲンを攻めたい気持ちはあるわけでしょー?」

「そうだろうな」

「アレクセイ、国の結界外ならぶっ放しも可能でしょー?ハオルが来たらクリシュナにでも誘導したらー?君の領地、住んでるひと少ないから避難誘導も早いしー」
「ハオルがいつくるかわかるのか?」
 眉をしかめてアスラーンが尋ねる。

「大陸全体の上空に感知結界を張ってるから、悪魔の気配がわかりますー。霊体でも感知できますー。もちろん、弱いヤツは通れませんー」
 会議室内がざわついた。ティンの表情も複雑だ。

「さすがだな……」
 アレクセイも目を見張るしかない。

「そうなんだよー、自分でも凄すぎて怖いぐらいだよー」
 いつでも戦闘態勢に入れる。ラルジュナからはそんな気配がした。

「蛇羊神様から教えてもらった古代魔法だからねー、効果は抜群だよー」
凶霊キャロラインと喧嘩にならないのか?」
 差が開いたな、とアスラーンがぼやく。
凶霊キャロラインもオススメの神様だよー、攻撃力は神々のなかでもトップクラスだってー」

「おまえにかかると神々も商品のようだな」

 笑顔こそは少なくなったが、ラルジュナの表情には屈託がない。なぜ、そうなったのかはアレクセイも怖くて聞いていないのだがーー。

「何言ってるのー?ーーキミに勝つためにボクがどれだけやってきたかー。まあ、勉強でしか勝てなかったけどねー」
 不敵に笑いながらラルジュナがアレクセイを軽く睨んだ。
「圧勝だったが」
「だって、キミ3年間野生児だったでしょー?巻き返しがヤバイよねー」


 野生児ーー。

 アダマスが顔を伏せた。

「そうだ、陛下。シャラの結婚式ありがとね」
「ーーいや」
「でも、なんでこのタイミングだったの?」

 ロードリンゲン側が沈黙した。



「ーー子供が、」
 重たい会議室の空気をさらに重くしたのはアレクセイだ。アダマスが目を剥いてクリステイルを叩く。

「ああ、いるの?」
「ーー勘違いだったそうだ」
 クリステイルも頭を抱えるしかない。

 なんで素直にいっちゃうのかな、兄上はーー。


「ふうん」
 ラルジュナが首を捻った。
「まさか、生理が一度とんだから慌てたわけじゃないよね?」
「はははっ!そんなことよくある事だろう!」
 妹達と仲が良いアスラーンが大笑いする。


 だがーー、

 妙に静かなアダマスやクリステイルを見て、ラルジュナは謝罪を口にした。

「あ、ごめんねー。勘違いは誰でもあるよねー」
「ここの王族は性教育はしないのか?」
 他国の王子のドン引きに、アダマスは退席しようとしてクリステイルにとめられる。

「まぁ、ラルジュナが詳しいのは仕方がない。医学部もでているからな」

「えっ!?」
 クリステイルが目を見開いた。

「必要だからね。世界には医者も神官もいない国がたくさんあるんだしー」
「うちも定期的に派遣はするが、永住となると皆嫌がるな」
「そうだよねー」
 ふたりは深く頷いた。



「でもよかったよ。ミント王女ならお母様も嫁いびりはできないだろうしー」
「だろうな。早く子供ができればおまえの父親も安心するだろう」
「うちも男子が少ないからねー。パパも兄妹は多いのに、ひとりだけだし……。ーーあれ?」
 突如、ラルジュナの動きがとまる。

「どうした?」
「んー、何か引っかかったんだけど、まあいいやー」
「?」

「じゃあ、ボク行くところあるからー」
 ラルジュナが椅子からひょいと立ちあがる。仕草は洗練されているのに、動作が早い。

「ああ。私も国に戻る」
「公務はどうしてるのー?」
「マルテス達がやっている」

「ふーん。結局自分がやったほうが早くないー?」
 肩をすくめながらラルジュナが言う。

「だから、おまえは駄目なのだ。愛情をもって部下を育てる立場のくせに何でもやるから」
「ーーはいはい。どうせボクにひとの育成はできませんよー」 




 言い合いをしながら出ていくふたりを見て、クリステイルがため息をついた。

「どうした、クリス」
「ーーいえ、格の違いに悩まされているのですよ」
「そうだな。だが、あのふたりには私も敵わない」
 兄の言葉にクリステイルが目を丸くする。

「兄上でもそう思うのですねーー」
「アスラーンのような根っからの王太子には誰もなれないだろう。産まれた日に女神様が加護を授けに来る人間など、いないに等しいからな」

「ーー確かに。それはそうですが……」
「ラルジュナの場合、本人が言っていたがーー」
「はい」
「姉が3人いるから、だそうだ」
「えっ?」
「姉達にパシリにされないと、ああはなれないらしい」
 真顔のアレクセイに、アダマスは頭を抱えた。真剣な面持ちでクリステイルが頷く。

「なるほどーー、父上の事です。どこかに姉上がいるかもしれません」 

「おらんわ!!ふたりして呑気すぎないか?」
「父上こそ、アスラーン様がいるときはずいぶん静かですが」
「それはーー」

 アダマスが言葉に詰まる。


「怖いからーー」

 会議室が水を打ったように静かになった。


「それにしても、ラルジュナ様は大丈夫なのですか?」
 気を取り直すようにクリステイルが兄に話しかける。
「ーーどうだろう。ハオルを討つまでは問題はないと思うが……」
「兄上もおふたりとは本当に仲が良いですね」
 羨ましそうな目で弟が兄を見た。

「そうだな」
「すぐに気が合われたのですか?」
「ラルジュナがすぐ絡んできた」
「ははあ、社交的ですね」
 クリステイルが、わかります、と頷いた。



 弟の頭の中には平和なビジョンが浮かぶーー。

『はじめましてー、ボクはラルジュナー。これからよろしくねー☆』
『ああ。よろしく』
『私はアスラーンだ。この国の王子だが、気楽に接してくれ』
 絵に描いたようなきらきらした学生生活のはじまりだ。


 楽しそうな弟の様子に、違うけどまあいいか、とアレクセイは訂正しない事にした。


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