ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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その日にむけて編

第136話 ラルジュナと父親 

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「ーーどういう事だ?」
 マスクをつけさせられたアレクセイも、理由がわからず首を捻る。

「ーーここで止めるんだよ。でないとロードリンゲンにもすぐに広がるよ」
「風邪がか?」
 ロードリンゲンの駅に大量の魔法陣を出現させ、ラルジュナはひとの動きを見ていた。皆、魔法陣の上を不思議そうな顔で通っていくがーー。
 
「一ヶ月は保つようにしとく。できれば至るところに展開したいーー」

「おーい!」
 琉生斗が駅に走ってきた。神官が息を切らせながら後を追う。
「ルート」
 マスクをした琉生斗が駆け寄ってくる。
「ラルさん!まさか、あの病気か!」
「あの病気?」
 アレクセイが眉を顰めるのも気にせずに、琉生斗はラルジュナの顔を見た。
「似て非なるものだ。まったく同じというのはありえない」
「おれ達が来た影響は!?」
「ーーいくら何でも日が経ちすぎているよ」
 そうかーー、と琉生斗は少し落ち着いた表情になる。
 
「何の流行病なのだ?」
「おれ達がこっちにくる前に流行った病気に似てるんだよ。感染力が異常に強くて、町を封鎖するぐらいになって、国をまたぐのも禁止のときがあったんだ」
 琉生斗の焦りようから、アレクセイはそれが異常な流行病である事を悟った。

「それが、来来国で起こったと?」
「ーー姉さんと連絡がとれない」
「貴妃様と?行くの?」
「いや」
 ラルジュナが遠くを見た。
「先にバッカイアの東に行く」
「来来国は、ほっとくのかよ!」

 目を見開いた琉生斗を無視するかのように彼は告げる。
「先に、と言った。そこをまず叩くんだよ」
 冷たい視線に琉生斗は眉をあげた。


「アレクセイ、バッカイアに入る。王都に連絡をいれてくれ」

「ーー大丈夫なのか?」
 アレクセイは目を見張った。
「東に行くだけだよ。わざわざ病気が流行ってる地域に、ボクを捕まえに来るヤツなんかいない」
「だがーー」
「頼んだよ」
 一瞬でラルジュナとジュドーが消えた。

「ーーあいかわらず速いな。ラルさんなら、時空魔法いけるんじゃないか?」
 眉をしかめながら琉生斗は言う。
「女神様に爪をいただくかーー」
 消えた友をアレクセイが案じる。

 アレクセイは駅の魔通信室からバッカイアに連絡を入れた。向こう側の驚きが琉生斗にまで聞こえる。
『ラルジュナ様が!東に向かわれたぞ!』
 ざわめきが響き渡る。
「ーーどういう状況なのだ?」

『とにかく、罹患者が増え続けています!症状は軽い者から重い者まで様々ですが、死者もでています。来来国では過去の流行病とは比べものにならないほどの死者数のようですーー』

「そこまでとは……」
 アレクセイは言葉を失った。


 こんなときにーー。
 
 ハオルが攻めてきたときに、国民が病気になっていては避難も難しくなるーー。

 すぐにおさまるのだろうかーー。

 ーーいや、だからこそ感染除去魔法が必要なのだな。

 アレクセイはすぐに、神聖ロードリンゲン国の各国境に魔法陣を展開させた。人々は面妖なことをすると首を傾げたが、それでも魔法陣の上を通ることを習慣づけてくれたようだ。

 これで流行り病が防げるのならば、徹底させなくては、とアレクセイは他国の国境にも魔法陣を展開し、病が国に入るのを防いだ。











 アレクセイの心配の甲斐もあって、事態はふた月ほどで終息を迎えることになる。

 ラルジュナが流行病を治療魔法で治したからだ。

 病原菌がわからなければ治療魔法は使えないはずたが、彼はこの短期間で治療法に辿りついたのかーー。
 
 各国の研究機関は騒然となった。

 この流行病が起こる事を予測していたのかーー。周辺諸国は彼の危機意識の高さに、賛辞と感謝を惜しみなく送った。











「ラルジュナ!」
 バッカイア国国王アルジュナが久しぶりに見る息子に飛びついた。

 ラルジュナは来来国の姉の元に治療に赴いていたが、彼の国が落ち着きアジャハン国に戻ろうとしていたところ、元帥ヒュースに捕まった。
 ジュドーは先に戻らせた。彼が捕らえられると厄介だからだ。


「ーーこんなに痩せて……。つらかったなーー。もう、パパの側にいなさい。ジュリアムには何も言わさん……」
「……………」
 久々の再会なのに、息子の顔には何の喜びも懐かしさもない。ただ、連れてこられたから、そう顔に書いてある。

「ラルジュナ?」
「アジャハンに戻るよ」
「何を言っているんだ!もう、その必要はないはずだ!」
「集中して魔法の研究をしたいからね」

「ラルジュナ!ここにいてくれ!パパがどれたけ寂しかったかわかるか!」

「そうだ。今後はボクの研究室に出入りしたいから、各国境に転移魔法を使用すると伝えて」
 ラルジュナはヒュースに告げた。
 元帥は賢まって敬礼する。

「ーー元気そうでよかったよ、パパ。後、シャラの結婚式は延期するように王妃に言って。流行病が完全に治まるまではやめたほうがいい」
 
「おまえが治したのだろう?さすがはラルジュナだ。なんと優れた息子だろう。パパはうれしいぞ」
「病に油断は禁物だよ。たいしたことはない、って思うとろくな目に合わない」
 ヒュースの背後に兵士が増えていく。召集されたのだろうか。

「なぜ、行こうとする?」
 引きとめるアルジュナの手をラルジュナは払う。

「ーーハオルを殺すためだよ」

 アルジュナが深く息を吐いた。

「ーーもう、あの子の事は忘れなさい。忘れておまえが幸せになる事を考えよう。なっ?おまえとぜひ結婚したいという姫が多いんだぞ。本当におまえはハンサムだからな」

 笑顔で話しかけるがラルジュナの表情は冷たいままだ。



「ーーねえ、パパ。パパの子供って何人?」
 急に話が変わりアルジュナは目を瞬いた。
「うん?パパには、おまえの姉が3人とジュリアムの娘が3人とシャラジュナがいて、8人だな」
 薄く笑いながら目を細めた息子を、父は不安気な顔で見つめた。
「ーーふうん。ボクね、小さい頃からよく部屋に暗殺者が来てたんだけどね、」
 自分で言ってて変な話だね、とラルジュナが続ける。

「理由はわからないんだけど、5人だけ、見逃したんだよ」
「ラルジュナ?」

「何だろう。殺しちゃダメだってブレーキがかかったんだ。ーーでっ、最近そのひとりが、ボクに会いに来たんだ」
「………」
 アルジュナは何かを察したのか、顔色が真っ青になっていく。その様子を横目で見ながらラルジュナが椅子に腰をかけた。

「そしたらびっくり、ボクと父親が一緒だって言うわけ」

 椅子を後ろに倒したり、遊ぶように座るラルジュナを兵士達が見ている。誰も口を挟む事ができず、場を沈黙が支配した。




「ーー愛人の子は暗殺者にされたんだね」
 アルジュナは弾かれたように口を挟んだ。
「ーーラルジュナ……、それはっ!」

「パパ、知ってたの?」
「いや……」
「ボクなら大丈夫って?じゃあ、彼らは?」

 目の前にいる息子は、本当に自分の息子なのか?別人のようにアルジュナには見える。

「ーー父親は同じなのに可哀想だね……」

「許してくれ……」
 顔を覆いアルジュナは泣きだした。
「別にボクはどうも思わないよ。ーーあんな事で動揺した自分が許せないだけだ。許してほしいなら、彼らに言ったら」

 椅子から立ちあがるとラルジュナが出口に向かって歩きだす。その威圧感に兵士は後退った。

「まちなさい」

 ジュリアムの制止にラルジュナは足をとめる。

「行かせません。あなたはここでわたくし達を守るのよーー」
『ーーやめなさい』

 突然の声にラルジュナは目を細めた。

 ジュリアムの前に光る槍がある。それを見て王妃は悲鳴をあげ、その場にへたり込んだ。

「魔法禁止区域で……」
 ヒュースが我に返りジュリアムの前に立ち剣を構える。ラルジュナは視線を隣りに向けた。

「ーーなぜ?」

 バッカイア国民が崇める美しき神、凶霊キャロラインがそこにはいた。

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