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その日にむけて編
第135話 流行り病
しおりを挟むハオルとの戦いに備え、国が動き出すーー。
アダマスが重い腰をあげ、各国に頭を下げ協力を請うた。
各国の兵士達は、国民の避難誘導の訓練を何度も行ない、皆の意識を高める。なかでもバルド国の兵士の必死な姿には、まわりからの同情を集めた。
その中で琉生斗は、バルド国で自身を助けてくれた空軍所属のソルトに気づき、声をかける。だが、側にいるアレクセイが嫌そうな表情をしていたため、ソルトは終始それに怯えなければならなかった。
「ほんとに世話になったんだよ」
琉生斗が言うとアレクセイは渋々口を開き、
「礼を言う」
と、思ってもなさそうな顔で言った。
「いえ!とんでもないことでございますりゅ!」
テンパリすぎてソルトは舌を噛む。
ーーさらに、まわりの同情を集めたそうだ。
「う~ん。悪魔だから、光の神様だよな。いい神様いないかな」
さすがに神話までは読んでいない。
琉生斗は神殿の稽古場に寝転んだ。
「ーーあいつがいたらな……」
彼の不在がつらい。
「ーー天国って、図書館あるのかな……」
墓をどうするかアダマスに尋ねられ、アレクセイは激怒した。そんなものは必要ない、と父親に食ってかかってくれた事が本当に嬉しかった。
アダマスとしては気を使ってくれたのだろうが、気の使い方が終わっている。
「ーーいつか、気持ちの整理がついてからだよな。まったく」
「ーー何をさぼっておられますか?」
「瞑想だよ」
ミハエルがため息をついた。
「悪魔って浄化は効かないの?」
「やるだけ無駄です。彼らは都合が悪くなると霊体になって逃げますから」
「はーん」
「いまの聖女様の浄化では、一撃では倒せません。逃げられるだけでしょう」
よっ、と琉生斗は身を起こした。
「つまり、逃げない奴には有効だな」
「まあ、そうなります」
あの自信満々な変態キモ眼鏡は、きっと逃げないだろう。
「あいつが弱ったからかましてやる」
「はいはい、勇ましい事でーー。聖女様、まだ、水鏡の間には入れませんか?」
ミハエルの言葉に琉生斗は黙った。
「ーー女神様の話を聞くのが怖いのですか?」
沈黙は肯定の証しだ。
琉生斗は何も言わず、瞑想をはじめた。目を閉じすべての感覚を遮断する。
女神様はいま自分に何を語るのだろう。
希望なのか、絶望なのかーー、あの日から話ができないまま今日に至る。
何も認めたくはない。
何もーー。
「ラルジュナ、国から書簡がきている」
「ーー何?また、シャラの結婚式に出ろってー?」
しばらく、ミルク粥などで胃をいたわっていたラルジュナだが、最近は薄味の食事をとれるようになってきていた。
それでも痩せてはいるが、顔色は良くなってきている。以前と違うところは、笑顔をつくらなくなった事だろう。
「ーー来来国から流行病がでたみたいだよー」
書簡に目を走らせ、ラルジュナはため息をついた。
「何?」
「バッカイアの東にも、罹患者が出たみたいだねー。症状は何日も続く高熱、倦怠感ーー」
「風邪ではないのかーー」
アスラーンが首を傾げた。普通によくある事のようなーー。
「周囲に広がる早さーー、同じ家に住むものが全員罹患し、そのまわりにも驚くほど早く感染していくーー」
「風邪とはいえ脅威だな」
アスラーンには危機感がなかった。
「脅威なんてものじゃないよ、来来国では国民の3分の1がかかっているようだ」
眉を寄せてラルジュナは話す。頭の中にはいくつかの流行病のリストがでている。
「はあ?そんな、ばかなーー。そこまでの感染力をもつ流行病など聞いたことがない!」
ラルジュナの頭の中が、ある病気の可能性を示した。
「アスラーン。アレクセイに鉄道でバッカイアからロードリンゲンに入ってくるひとに感染除去魔法を使うように言って。外に病原菌がついているだけなら、それで効くから」
「ーー何を言っている?」
目を瞬いたアスラーンを横目で見て、ラルジュナは歩きだした。
「ーーボクが行くから連絡を。バッカイアからアジャハンに入る鉄道にもいま言った魔法を使うように伝えろ」
「あ、ああ…」
ラルジュナの後を嬉しそうな顔でジュドーが続いた。
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