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その日にむけて編
第132話 決意の日
しおりを挟む「アレク、もうすぐ誕生日だな……」
愛し合った後のぐったりした身体を投げだしながら、琉生斗は言った。
「そうだなーー。早いものだな」
「何か欲しいものはない?」
「そうだな。ルートがいい」
温めたタオルで琉生斗の顔を拭き、アレクセイが答える。
琉生斗は吹きだした。
「毎年言うよな、それ!」
ほんとにアレクはー、とアレクセイの身体を抱きしめてキスをする。
「ーー来年も一緒にいような」
「ああ。来年だけじゃないがな。永遠に一緒にいる」
ふふっ、と笑った後、琉生斗は視線を横にした。話しをするのをためらうような口の動きに、アレクセイが目を細める。
「アレク……。ーーおれ、今日じいちゃんとあの場所に行ったよーー」
アレクセイの目が大きく開かれた。
「ーールート……」
「ようやく、行けた。じいちゃんが時空竜の女神様の身体をえぐる行為だって言ってたーー、普通はできないんだな……」
琉生斗の目が揺らいでいる。
「ーーああ、ロードリンゲンの地は特殊だ。攻撃はできない、はずだったーー」
時空竜の女神様の恵み深き土地に傷を入れるなど、普通の魔法ではない。
「すごい、魔法だったんだな。じいちゃんも難しい顔をしてた……」
「ーーそうだな」
現時点では、たぶん勝てないだろうーー。
「ーー何か思う間が、あったかな……」
「………」
「あったらさ、おれの事考えてくれたら、女神様が助けてくれたかもしれないじゃん?それをあいつってば何があってもおれに頼らない、って言ってさ、もっと融通きかせてくれ、って思わねぇ?」
静かな海の前にいるような、琉生斗の声だった。アレクセイは何も言えず、ただ、黙って話を聞く。
「普段からおれに頼ればよかったんだよ。えこひいき上等だよな。女神様も色々特典をつけてくれればよかったのに、あいつだけ、これ、ってものがなかったんだぜ。それを、ひとりでどうにかしてきた、ほんと凄いよな!」
知識量が異常に多く、はじめて会ったときから自分に怯まない度胸もあった。
「ーーああ」
凄すぎて女神様も特典のつけようがなかったのかもしれない。
「なあーー」
「どうした?」
「ーーラルジュナさんの事、想う間があったかな?」
「………」
沈黙の後、琉生斗は続けた。
「あったら、いいなーー」
琉生斗の目から涙がこぼれていく。その美しさにアレクセイは見惚れ、彼の気持ちに頷いた。
「きっと、想えたはずだ」
「ーーそうだといいな……」
お互いをきつく抱きしめ合い、キスを繰り返す。
「ーーみんな幸せに、なんでなれないんだろう」
琉生斗の髪を優しくすきながら、アレクセイは目を閉じた。
「ーー幸せになりたいのにな」
「そうだな」
「アレク……。おれはハオルを呪いたかった」
琉生斗の言葉にアレクセイは頷いた。かけても不思議ではない状況だったのに、かけなかったのか。
「ーーだろうな」
誰もが共感する殺意が、この世にはある。琉生斗の気持ちは万人が理解するだろう。
「殺してやりたいよ」
「ああ」
「ーーおまえがいるから耐えた」
そう、聖女の呪いは強力だ。必ずきくが呪いが大切なひとに返ってくる。スズの夫であるコランダムは、スズが王妃ルチアを呪った事で病に倒れた。
その結果、ルチアは死んだ。夫を失い自分の寿命も縮めたのかもしれないと思うと、使えるものではないーー。
「ーールート……。すまない…、我々が勝手に彼を巻き込んだ」
「それは今さらだ。ハオルは花蓮や他の仲間も狙うかもしれない。絶対に守らないとーー」
「ああ。生命にかえても、皆を守ろう」
アレクセイの言葉に琉生斗は彼の額にデコピンをした。
「ひとりで戦おうとするなよ。約束な」
「ーーそうだな。私にはルートがいる」
「そうだ。アレクには、おれがいるんだからな」
ふたりで戦うんだ。
その日、琉生斗とアレクセイはラルジュナの元を訪れた。
近衛兵のジュドーが、安心したような表情を浮かべる。
「ーーすみません。いま、アスラーン様とーー」
中へ通されると、アスラーンの怒鳴り声が聞こえた。アレクセイが歩みを早める。
「ーーいい加減にしろ!いつまでそうしているつもりだ!」
部屋に通された琉生斗の視界に、アスラーンがラルジュナの胸ぐらをつかんでいるのが見えた。アレクセイがアスラーンの肩を押さえる。
「ーーやめろ」
「いや、もう無理だ。悪魔達が日を割りだした。5月か6月には悪魔の城がくる」
琉生斗は目を見開いた。
後、5ヶ月しかないのかーー。
「ーーもう、ラルジュナの事は……」
「いい加減にしろ!アレクセイ!おまえもしょうもない同情をするな!」
つかんでいた手を突き放し、アスラーンが吠える。
「兄も兄なら、弟も弟だな。こいつの弟が結婚の知らせを送ってきたぞ。アレクセイ、おまえのところにも来ただろう!」
アスラーンの言葉にアレクセイが俯いた。
「…………すまない」
「目出度い事だが出席はできそうにない!」
「当然だ……」
「まったく。こちらの要望には一切触れずにそんな事を言うとはな、バッカイアも落ちたものだ」
アスラーンのため息に、ラルジュナは肩をピクリと震わせた。ジュドーが申し訳なさそうに項垂れる。
「ルートもこうして立っている!ミハナも最近は日常生活に戻れていると聞く!なのに、なぜおまえはそのままなんだ……!!!」
焦りがアスラーンを急き立てているようだった。俯くラルジュナは、前に見舞ったときより痩せていた。
琉生斗はラルジュナの側に近寄る。
「ルート」
アレクセイが琉生斗を見たが、静かに手をあげ彼の動きをとめた。
「これ、あいつが考案して作った『神殿プリン』、甘いもの嫌いって聞いたけど、身体にはいいと思う」
プリンの箱をベット脇に置かれた机に置く。一瞬だけラルジュナの目がプリンの箱を見た。
琉生斗は呼吸を整えて、言葉を紡ぐ。
「ーーラルジュナさん。死にたいなら死んでもいいと思うよ」
「ルート!」
アスラーンが驚愕した。目を見開いて言葉を失う。
「ーーだけど、ハオルを殺してからにして。それなら誰も貴方に生きろなんて言わない」
はっとした表情にアスラーンはなった。そのまま息を吐いて頭を押さえる。涙をこらえているようにアレクセイには見えた。
「……ハオル……」
「アスラーンさんはああいうけど、おれはラルジュナさんの気持ちがわかるよ。だって、おれにはアレクがいるーー」
「………」
「葛城には、ファウラがいる。町子にはティンさんがいて、花蓮にはクリスがいる。ーー東堂にだってアスラーンさんがいるんだ。気持ちのやり場がみんなあるのに、ラルジュナさんにはそれがないんだもん。仕方ないよ」
ラルジュナの目が潤んでいく。
「だけど、おれはわがままを言うよ。死ぬならハオルを殺してからだ。ーーあいつなら、ちょっとぐらい待ってくれるーー」
琉生斗の心からの言葉に、ラルジュナが目を細める。色のない表情に、少しだけ生気が戻ったようにも見えた。
「ーーそうだね……。ハオルを生かしたままにはできないよね……」
アスラーンは久々にラルジュナの声を聞いた。かすれてはいたが、弱々しい声ではない。痩せた顔に星空のような目が、鋭い光をはなっていく。
「ーールートのわがままを聞くよ。必ず、ボクがハオルを殺すからーー」
「うん……。約束だよ」
ジュドーが人知れず泣いた。
アスラーンの目も潤んでいる。そうでなければ、ラルジュナは生きていけないのだ。復讐の後に恋人の元へいく事を考えるまでに、兵馬の事を愛しているのだ。
「ーーおれも無茶苦茶だな」
「いや、荒療治だが、効果はあった……」
「ひどいな、おれ。でも、アレクを死なせるわけにはいかない」
琉生斗の目に強い光が宿る。
「ルート」
「じいちゃん、蘇生はまだ無理だって言うんだ。絶対、5ヶ月でものにしてやるぜ!」
「蘇生かーー、死にたくはないがなーー」
悪魔の城が、もうすぐくる。
アレクセイは琉生斗を強く抱きしめ、誓う。
何があろうとも、君だけはーー。
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いつも読んでいただきありがとうございます。アレクセイの留学初日のお話を外伝でアップしましたので、読んでいただけたらうれしいです✨
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