ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
142 / 235
その日にむけて編

第132話 決意の日

しおりを挟む

「アレク、もうすぐ誕生日だな……」
 愛し合った後のぐったりした身体を投げだしながら、琉生斗は言った。
「そうだなーー。早いものだな」
「何か欲しいものはない?」
「そうだな。ルートがいい」

 温めたタオルで琉生斗の顔を拭き、アレクセイが答える。


 琉生斗は吹きだした。
「毎年言うよな、それ!」
 ほんとにアレクはー、とアレクセイの身体を抱きしめてキスをする。

「ーー来年も一緒にいような」

「ああ。来年だけじゃないがな。永遠に一緒にいる」
 ふふっ、と笑った後、琉生斗は視線を横にした。話しをするのをためらうような口の動きに、アレクセイが目を細める。



「アレク……。ーーおれ、今日じいちゃんとあの場所に行ったよーー」



 アレクセイの目が大きく開かれた。
「ーールート……」
「ようやく、行けた。じいちゃんが時空竜の女神様の身体をえぐる行為だって言ってたーー、普通はできないんだな……」
 琉生斗の目が揺らいでいる。

「ーーああ、ロードリンゲンの地は特殊だ。攻撃はできない、はずだったーー」
 時空竜の女神様の恵み深き土地に傷を入れるなど、普通の魔法ではない。

「すごい、魔法だったんだな。じいちゃんも難しい顔をしてた……」
「ーーそうだな」

 現時点では、たぶん勝てないだろうーー。


「ーー何か思う間が、あったかな……」
「………」

「あったらさ、おれの事考えてくれたら、女神様が助けてくれたかもしれないじゃん?それをあいつってば何があってもおれに頼らない、って言ってさ、もっと融通きかせてくれ、って思わねぇ?」

 静かな海の前にいるような、琉生斗の声だった。アレクセイは何も言えず、ただ、黙って話を聞く。

「普段からおれに頼ればよかったんだよ。えこひいき上等だよな。女神様も色々特典をつけてくれればよかったのに、あいつだけ、これ、ってものがなかったんだぜ。それを、ひとりでどうにかしてきた、ほんと凄いよな!」

 知識量が異常に多く、はじめて会ったときから自分に怯まない度胸もあった。

「ーーああ」
 凄すぎて女神様も特典のつけようがなかったのかもしれない。



「なあーー」

「どうした?」


「ーーラルジュナさんの事、想う間があったかな?」
「………」

 
 沈黙の後、琉生斗は続けた。

「あったら、いいなーー」
 琉生斗の目から涙がこぼれていく。その美しさにアレクセイは見惚れ、彼の気持ちに頷いた。
「きっと、想えたはずだ」

「ーーそうだといいな……」

 お互いをきつく抱きしめ合い、キスを繰り返す。


「ーーみんな幸せに、なんでなれないんだろう」
 琉生斗の髪を優しくすきながら、アレクセイは目を閉じた。
「ーー幸せになりたいのにな」
「そうだな」
 

「アレク……。おれはハオルを呪いたかった」
 琉生斗の言葉にアレクセイは頷いた。かけても不思議ではない状況だったのに、かけなかったのか。

「ーーだろうな」
 誰もが共感する殺意が、この世にはある。琉生斗の気持ちは万人が理解するだろう。

「殺してやりたいよ」
「ああ」
 
「ーーおまえがいるから耐えた」

 そう、聖女の呪いは強力だ。必ずきくが呪いが大切なひとに返ってくる。スズの夫であるコランダムは、スズが王妃ルチアを呪った事で病に倒れた。

 その結果、ルチアは死んだ。夫を失い自分の寿命も縮めたのかもしれないと思うと、使えるものではないーー。
 

 
「ーールート……。すまない…、我々が勝手に彼を巻き込んだ」
「それは今さらだ。ハオルは花蓮や他の仲間も狙うかもしれない。絶対に守らないとーー」
「ああ。生命にかえても、皆を守ろう」
 アレクセイの言葉に琉生斗は彼の額にデコピンをした。
「ひとりで戦おうとするなよ。約束な」
「ーーそうだな。私にはルートがいる」
「そうだ。アレクには、おれがいるんだからな」

 ふたりで戦うんだ。
















 その日、琉生斗とアレクセイはラルジュナの元を訪れた。
 近衛兵のジュドーが、安心したような表情を浮かべる。
「ーーすみません。いま、アスラーン様とーー」

 中へ通されると、アスラーンの怒鳴り声が聞こえた。アレクセイが歩みを早める。


「ーーいい加減にしろ!いつまでそうしているつもりだ!」
 部屋に通された琉生斗の視界に、アスラーンがラルジュナの胸ぐらをつかんでいるのが見えた。アレクセイがアスラーンの肩を押さえる。

「ーーやめろ」
「いや、もう無理だ。悪魔達が日を割りだした。5月か6月には悪魔の城がくる」

 琉生斗は目を見開いた。

 後、5ヶ月しかないのかーー。

「ーーもう、ラルジュナの事は……」
「いい加減にしろ!アレクセイ!おまえもしょうもない同情をするな!」
 つかんでいた手を突き放し、アスラーンが吠える。

「兄も兄なら、弟も弟だな。こいつの弟が結婚の知らせを送ってきたぞ。アレクセイ、おまえのところにも来ただろう!」
 アスラーンの言葉にアレクセイが俯いた。
「…………すまない」
「目出度い事だが出席はできそうにない!」
「当然だ……」

「まったく。こちらの要望には一切触れずにそんな事を言うとはな、バッカイアも落ちたものだ」
 アスラーンのため息に、ラルジュナは肩をピクリと震わせた。ジュドーが申し訳なさそうに項垂れる。

「ルートもこうして立っている!ミハナも最近は日常生活に戻れていると聞く!なのに、なぜおまえはそのままなんだ……!!!」

 焦りがアスラーンを急き立てているようだった。俯くラルジュナは、前に見舞ったときより痩せていた。



 琉生斗はラルジュナの側に近寄る。
「ルート」
 アレクセイが琉生斗を見たが、静かに手をあげ彼の動きをとめた。

「これ、あいつが考案して作った『神殿プリン』、甘いもの嫌いって聞いたけど、身体にはいいと思う」
 プリンの箱をベット脇に置かれた机に置く。一瞬だけラルジュナの目がプリンの箱を見た。

 琉生斗は呼吸を整えて、言葉を紡ぐ。



「ーーラルジュナさん。死にたいなら死んでもいいと思うよ」

「ルート!」
 アスラーンが驚愕した。目を見開いて言葉を失う。



「ーーだけど、ハオルを殺してからにして。それなら誰も貴方に生きろなんて言わない」

 はっとした表情にアスラーンはなった。そのまま息を吐いて頭を押さえる。涙をこらえているようにアレクセイには見えた。

「……ハオル……」
「アスラーンさんはああいうけど、おれはラルジュナさんの気持ちがわかるよ。だって、おれにはアレクがいるーー」

「………」

「葛城には、ファウラがいる。町子にはティンさんがいて、花蓮にはクリスがいる。ーー東堂にだってアスラーンさんがいるんだ。気持ちのやり場がみんなあるのに、ラルジュナさんにはそれがないんだもん。仕方ないよ」

 ラルジュナの目が潤んでいく。

「だけど、おれはわがままを言うよ。死ぬならハオルを殺してからだ。ーーあいつなら、ちょっとぐらい待ってくれるーー」



 琉生斗の心からの言葉に、ラルジュナが目を細める。色のない表情に、少しだけ生気が戻ったようにも見えた。







「ーーそうだね……。ハオルを生かしたままにはできないよね……」

 アスラーンは久々にラルジュナの声を聞いた。かすれてはいたが、弱々しい声ではない。痩せた顔に星空のような目が、鋭い光をはなっていく。

「ーールートのわがままを聞くよ。必ず、ボクがハオルを殺すからーー」

「うん……。約束だよ」


 ジュドーが人知れず泣いた。

 アスラーンの目も潤んでいる。そうでなければ、ラルジュナは生きていけないのだ。復讐の後に恋人の元へいく事を考えるまでに、兵馬の事を愛しているのだ。












「ーーおれも無茶苦茶だな」
「いや、荒療治だが、効果はあった……」
「ひどいな、おれ。でも、アレクを死なせるわけにはいかない」
 琉生斗の目に強い光が宿る。

「ルート」
「じいちゃん、蘇生はまだ無理だって言うんだ。絶対、5ヶ月でものにしてやるぜ!」
「蘇生かーー、死にたくはないがなーー」


 悪魔の城が、もうすぐくる。

 アレクセイは琉生斗を強く抱きしめ、誓う。



 何があろうとも、君だけはーー。





 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 いつも読んでいただきありがとうございます。アレクセイの留学初日のお話を外伝でアップしましたので、読んでいただけたらうれしいです✨
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ! 主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!

元森
BL
 「嘘…俺、平凡受け…?!」 ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?! 隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!

処理中です...