ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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その日にむけて編

第132話 決意の日

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「アレク、もうすぐ誕生日だな……」
 愛し合った後のぐったりした身体を投げだしながら、琉生斗は言った。
「そうだなーー。早いものだな」
「何か欲しいものはない?」
「そうだな。ルートがいい」

 温めたタオルで琉生斗の顔を拭き、アレクセイが答える。


 琉生斗は吹きだした。
「毎年言うよな、それ!」
 ほんとにアレクはー、とアレクセイの身体を抱きしめてキスをする。

「ーー来年も一緒にいような」

「ああ。来年だけじゃないがな。永遠に一緒にいる」
 ふふっ、と笑った後、琉生斗は視線を横にした。話しをするのをためらうような口の動きに、アレクセイが目を細める。



「アレク……。ーーおれ、今日じいちゃんとあの場所に行ったよーー」



 アレクセイの目が大きく開かれた。
「ーールート……」
「ようやく、行けた。じいちゃんが時空竜の女神様の身体をえぐる行為だって言ってたーー、普通はできないんだな……」
 琉生斗の目が揺らいでいる。

「ーーああ、ロードリンゲンの地は特殊だ。攻撃はできない、はずだったーー」
 時空竜の女神様の恵み深き土地に傷を入れるなど、普通の魔法ではない。

「すごい、魔法だったんだな。じいちゃんも難しい顔をしてた……」
「ーーそうだな」

 現時点では、たぶん勝てないだろうーー。


「ーー何か思う間が、あったかな……」
「………」

「あったらさ、おれの事考えてくれたら、女神様が助けてくれたかもしれないじゃん?それをあいつってば何があってもおれに頼らない、って言ってさ、もっと融通きかせてくれ、って思わねぇ?」

 静かな海の前にいるような、琉生斗の声だった。アレクセイは何も言えず、ただ、黙って話を聞く。

「普段からおれに頼ればよかったんだよ。えこひいき上等だよな。女神様も色々特典をつけてくれればよかったのに、あいつだけ、これ、ってものがなかったんだぜ。それを、ひとりでどうにかしてきた、ほんと凄いよな!」

 知識量が異常に多く、はじめて会ったときから自分に怯まない度胸もあった。

「ーーああ」
 凄すぎて女神様も特典のつけようがなかったのかもしれない。



「なあーー」

「どうした?」


「ーーラルジュナさんの事、想う間があったかな?」
「………」

 
 沈黙の後、琉生斗は続けた。

「あったら、いいなーー」
 琉生斗の目から涙がこぼれていく。その美しさにアレクセイは見惚れ、彼の気持ちに頷いた。
「きっと、想えたはずだ」

「ーーそうだといいな……」

 お互いをきつく抱きしめ合い、キスを繰り返す。


「ーーみんな幸せに、なんでなれないんだろう」
 琉生斗の髪を優しくすきながら、アレクセイは目を閉じた。
「ーー幸せになりたいのにな」
「そうだな」
 

「アレク……。おれはハオルを呪いたかった」
 琉生斗の言葉にアレクセイは頷いた。かけても不思議ではない状況だったのに、かけなかったのか。

「ーーだろうな」
 誰もが共感する殺意が、この世にはある。琉生斗の気持ちは万人が理解するだろう。

「殺してやりたいよ」
「ああ」
 
「ーーおまえがいるから耐えた」

 そう、聖女の呪いは強力だ。必ずきくが呪いが大切なひとに返ってくる。スズの夫であるコランダムは、スズが王妃ルチアを呪った事で病に倒れた。

 その結果、ルチアは死んだ。夫を失い自分の寿命も縮めたのかもしれないと思うと、使えるものではないーー。
 

 
「ーールート……。すまない…、我々が勝手に彼を巻き込んだ」
「それは今さらだ。ハオルは花蓮や他の仲間も狙うかもしれない。絶対に守らないとーー」
「ああ。生命にかえても、皆を守ろう」
 アレクセイの言葉に琉生斗は彼の額にデコピンをした。
「ひとりで戦おうとするなよ。約束な」
「ーーそうだな。私にはルートがいる」
「そうだ。アレクには、おれがいるんだからな」

 ふたりで戦うんだ。
















 その日、琉生斗とアレクセイはラルジュナの元を訪れた。
 近衛兵のジュドーが、安心したような表情を浮かべる。
「ーーすみません。いま、アスラーン様とーー」

 中へ通されると、アスラーンの怒鳴り声が聞こえた。アレクセイが歩みを早める。


「ーーいい加減にしろ!いつまでそうしているつもりだ!」
 部屋に通された琉生斗の視界に、アスラーンがラルジュナの胸ぐらをつかんでいるのが見えた。アレクセイがアスラーンの肩を押さえる。

「ーーやめろ」
「いや、もう無理だ。悪魔達が日を割りだした。5月か6月には悪魔の城がくる」

 琉生斗は目を見開いた。

 後、5ヶ月しかないのかーー。

「ーーもう、ラルジュナの事は……」
「いい加減にしろ!アレクセイ!おまえもしょうもない同情をするな!」
 つかんでいた手を突き放し、アスラーンが吠える。

「兄も兄なら、弟も弟だな。こいつの弟が結婚の知らせを送ってきたぞ。アレクセイ、おまえのところにも来ただろう!」
 アスラーンの言葉にアレクセイが俯いた。
「…………すまない」
「目出度い事だが出席はできそうにない!」
「当然だ……」

「まったく。こちらの要望には一切触れずにそんな事を言うとはな、バッカイアも落ちたものだ」
 アスラーンのため息に、ラルジュナは肩をピクリと震わせた。ジュドーが申し訳なさそうに項垂れる。

「ルートもこうして立っている!ミハナも最近は日常生活に戻れていると聞く!なのに、なぜおまえはそのままなんだ……!!!」

 焦りがアスラーンを急き立てているようだった。俯くラルジュナは、前に見舞ったときより痩せていた。



 琉生斗はラルジュナの側に近寄る。
「ルート」
 アレクセイが琉生斗を見たが、静かに手をあげ彼の動きをとめた。

「これ、あいつが考案して作った『神殿プリン』、甘いもの嫌いって聞いたけど、身体にはいいと思う」
 プリンの箱をベット脇に置かれた机に置く。一瞬だけラルジュナの目がプリンの箱を見た。

 琉生斗は呼吸を整えて、言葉を紡ぐ。



「ーーラルジュナさん。死にたいなら死んでもいいと思うよ」

「ルート!」
 アスラーンが驚愕した。目を見開いて言葉を失う。



「ーーだけど、ハオルを殺してからにして。それなら誰も貴方に生きろなんて言わない」

 はっとした表情にアスラーンはなった。そのまま息を吐いて頭を押さえる。涙をこらえているようにアレクセイには見えた。

「……ハオル……」
「アスラーンさんはああいうけど、おれはラルジュナさんの気持ちがわかるよ。だって、おれにはアレクがいるーー」

「………」

「葛城には、ファウラがいる。町子にはティンさんがいて、花蓮にはクリスがいる。ーー東堂にだってアスラーンさんがいるんだ。気持ちのやり場がみんなあるのに、ラルジュナさんにはそれがないんだもん。仕方ないよ」

 ラルジュナの目が潤んでいく。

「だけど、おれはわがままを言うよ。死ぬならハオルを殺してからだ。ーーあいつなら、ちょっとぐらい待ってくれるーー」



 琉生斗の心からの言葉に、ラルジュナが目を細める。色のない表情に、少しだけ生気が戻ったようにも見えた。







「ーーそうだね……。ハオルを生かしたままにはできないよね……」

 アスラーンは久々にラルジュナの声を聞いた。かすれてはいたが、弱々しい声ではない。痩せた顔に星空のような目が、鋭い光をはなっていく。

「ーールートのわがままを聞くよ。必ず、ボクがハオルを殺すからーー」

「うん……。約束だよ」


 ジュドーが人知れず泣いた。

 アスラーンの目も潤んでいる。そうでなければ、ラルジュナは生きていけないのだ。復讐の後に恋人の元へいく事を考えるまでに、兵馬の事を愛しているのだ。












「ーーおれも無茶苦茶だな」
「いや、荒療治だが、効果はあった……」
「ひどいな、おれ。でも、アレクを死なせるわけにはいかない」
 琉生斗の目に強い光が宿る。

「ルート」
「じいちゃん、蘇生はまだ無理だって言うんだ。絶対、5ヶ月でものにしてやるぜ!」
「蘇生かーー、死にたくはないがなーー」


 悪魔の城が、もうすぐくる。

 アレクセイは琉生斗を強く抱きしめ、誓う。



 何があろうとも、君だけはーー。





 

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 いつも読んでいただきありがとうございます。アレクセイの留学初日のお話を外伝でアップしましたので、読んでいただけたらうれしいです✨
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