ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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きみを忘れることなかれ 編

第130話 それでも、生きていく

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「舌を噛まさんようにするのが必死だっ!あの状態で動かせるかぁ!!!」

 アスラーンの怒声に、ミントはすぐにぐすぐすと泣きだした。それを見たアダマスが頭を抱える。

 
「大方、王妃が奴に国を守らせたいだけだろう。利用する事しか考えん女狐が!」
「アスラーン、落ちつけ。ーーミント、まずはラルジュナの様子を聞いてから、用件を伝えるべきだったな」

 激昂するアスラーンの肩を押さえ、静かにミントを諭す。そのアレクセイの姿を、アダマスとクリステイルが目を丸くして見ている。

「貴様の頭の弱い兄弟と、平和ぼけ国王をなんとかしろ。不愉快だ」
「申し訳ない」
 アレクセイはアスラーンに頭を下げた。 
 
 アダマスが深くため息をつく。

「ーーラルジュナがいなければ、ハオルは討てない」
 言いたくはない事を、アレクセイは口にした。

 彼がいなければ、あのハオルには勝てないだろう。

「わかっている。何とかするーー」
 苦しげにアスラーンが答える。
「あいつも、ヒョウマがフェレスに目をつけられたので、神殺しゴッドスレイヤーになったーー」

「ーーそうか……」
「何とも残酷な事だ。フェレスも相談があるなら、そこの王太子にでも言えばよかったのに」

「ーー申し訳ありません」
 クリステイルが深く頭を下げる。

「ほぅ。知らない事は罪ではないが、自分の責任として頭を下げる姿には見直すところがあるな」
 アスラーンは眉をあげて微笑んだ。場の空気が少し和らぐ。


 さすがは、飴と鞭の男ーー。
 フストンが主の性格に苦笑いだ。
 










 アスラーンが退席し、クリステイルがミントを連れて宮に戻った。
 
 アダマスは頭を押さえた。

「なぜ、こんな事にーー、教皇、私はどうすればよい?」

「ーー時空竜の女神様は、前々から準備を促されております。殿下に悪神を斬らせ、魔法騎士達に竜殺しになるようご指示があった。
 まさか、他人事と思って聞いておられましたか?ご自分のご長男が死地に赴くのに?自分は何もしなくても大丈夫だと?甘すぎませんか?」

「…………」

「王都の結界については、タケさまの時代から見直すように言っているはずでしたが、ティン殿まで伝わっていませんでしたかーー」

「ーーいえ、絶対的な油断がありました」
 ティンが俯いた。

「ええ、全員が油断した結果ですよ。すべては、聖女の国への不可侵を信じすぎた我々が悪いのです」

 ミハエルが席を立ち、静かに歩きはじめる。アレクセイは立ちあがり、父に頭を下げてミハエルの後についた。





「何です?聞きたい事でもありましたか?」
「ーーヒョウマはあちらに飛んだ、という事は考えられないか?」

 ミハエルがアレクセイの顔をじっと見た後に、首をしっかりと振った。
「ーー無理でしょう。どこに時空魔法の要素がありました?殿下のように女神様の爪があるわけでもないのに……」
 答えにアレクセイは黙った。

「ーーそれに、万が一飛んだとしても、時空魔法がなければ向こうの世界には入れません」
「入れない、なぜ?」

 向こうの人間なのに入れない理由がないーー。



「身体が変わっています」

「!」

「もうヒョウマは聖女様と同じ、こちらの人間だったのです。あの日は詳しくみるために、ふたりを呼んでいました……」



 ーーそうか、だからラルジュナがいたのか……。



 アレクセイは俯いた。

「ーー奇跡にすがりたい気持ちは我々も同じです。ですが、もう考えるのは終いです。悪魔の襲撃に備えなければーー」















「ーーあれから2ヶ月もたつのか……。信じられないな、兵馬……」
 琉生斗は目を閉じる。


 泣いても何も変わらなかった。女神様も何も答えてはくれないーー。

 ただ、まわりに気を使わせただけ。
 ラルジュナにも会いに行った。薬で無理やり眠らされた状態の彼を見て、涙にくれるしかなかった。

 悲しいのは自分だけじゃない。
 東堂も訓練を放棄しているし、美花は部屋からでられないらしい。



 だが、花蓮は民の心が休まるようにと、また神殿で歌うようになり、町子は結界の事で寝る間もないほど忙しいらしい。


 次に向けて、進んでいるひと達がいるーー。



「おまえのいない年月のほうが、長くなるときがくるのかなーー」
 
 それは、つらいーー。いままでずっといたのにーー。

 涙をぬぐって琉生斗は前を見た。
 
 


「それでも、おれは生きていくよ……」
 


 なあ、兵馬……、おれ、えらいだろ?褒めてくれたっていいじゃないか……。なあ、聞いてるのか……。



「ハオルーー、おまえだけは、何があっても許さないーー」
 決意に満ちた目で琉生斗は宙を睨んだ。






『うん。またねーー』



 あの日に帰りたい。


 おまえが笑っていたあのときにーー。
 






ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「きみを忘れることなかれ編」は今回で終わりです。琉生斗も仲間たちも苦しい時期が続きます。

 AI画像の兵馬の右耳のピアスを忘れてしまいました。申し訳ありません😓

 第三部も終わりに向けてがんばりますので、よろしくお願いいたします🙇
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感想 15

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