ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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きみを忘れることなかれ 編

第129話 戻らない日常 

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 朝日に目が覚める。
 朝は明るいのに、琉生斗の心の中は夜のままだ。いつまでも夜が明けない。


 泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いてーー。


 泣き続けても、兵馬は帰って来なかった。


 何も考えられずに、ただ泣くしかなかった。泣き叫ぶ琉生斗をアレクセイは必死に抱きしめる。それがなかったら死んでいただろう。

 それでも、魔蝕の浄化に行かなければならなかった。教皇ミハエルも同行したが、琉生斗のあまりに痩せた姿に言葉を失う。

 聖女は過酷だ。
 どんな状況でも魔蝕が発生すればそこに行かなければならない。
 この世界の不変の法則と、戦い続けるのだ。














「アスラーン王太子殿下、ご臨席でございます」
 
 アダマスは対策のため何度も会議を開いた。
 そして、今日はアスラーンから話があるらしく、彼が会議に参加する運びになった。

 正装のアスラーンは厳しい表情をくずさぬまま、挨拶をした。
「突然の来訪、失礼する。ここにいる者は口が堅いか。すべる者はでていくがよい」
 場がざわついた。
 クリステイルが指示をだすと、給仕や衛兵が退出していく。

「これでよろしいか。公爵以上しかおらん」
 アダマスが威厳を保つが、年齢が半分の王太子に負けている気がする。隣りのミハエルが苦笑まじりにため息をついた。

「なら、知っているな」
 アスラーンの呼びかけに背後に控えた青年がふたり前に出る。

「うちの食客悪魔パラサイトデビルだ」

「えっ!」
 クリステイルの口から驚きの声がでるのを、アスラーンは見逃さなかった。
「知らんのか、王太子がーー」
「クリステイルは悪くない。リーフが口止めをしていたのだ」

「平和ぼけと言われても仕方がないな。アレクセイ、おまえも知らんかったのか。高位な悪魔は先進国には必ずいる。他の悪魔が国に悪さをしないための人質のようなものだ」

「ーーなるほど」
 アレクセイはリーフを睨んだ。傲岸不遜を絵に描いたような男が、項垂れて何も言わない。

「いえいえ。私達はひとの暮らしが好きなので、人質とは思っておりませんよ」
「部下も多数住んでいます。アレクセイ殿下には、前に見逃していただきありがとうございます」
「ーークロセルか……」
 アレクセイは記憶を辿り、すぐに思い出す。

「はい。あのときは油断して魔蝕に取り込まれましたーー」

 氷の悪魔は美しい青年に化けていた。

「ーーして、彼らは何を?」

「私はイボスと言います。私達の部下が数名、ハオルに殺されました」

「!」


「奴は悪魔の城を探し、城に住む悪魔達を征服した後、ロードリンゲンに攻撃をしかけるつもりです」

「ーー何だと……。彼はなぜそこまで……」

「奴の心情などどうでもいい。問題は聖女を葬る、と言っているところだ」
 会議室に緊張が走る。

「だが、悪魔の城という場所は簡単に行けるものではないらしい」
 アスラーンの言葉にクロセルが頷いた。

「悪魔の城は、この世界とは次元が異なる空間にあります。そして常に移動しているので、転移魔法は使用できません。ある周期になれば、この世界に近付いてきますので、我々も用があれば行ったりもします」
「用ーー」

「ーー別の世界に行くときに使います」

「ーーそれはルート達のいた世界も含まれるのか?」
「もちろんです。悪魔やあちらの神は行き来が可能ですから」

「そうか。ルートが向こうの神が喚べるのは、向こうの神にその特長があるからなんですね?」
 ティンが納得したように頷く。

「そうです。問題はここからなのですが、悪魔の城に住んでいる悪魔達は、ハオルにつくと思います」

「なぜだ?」
 アダマスが眉根を寄せた。

「強いからです。我々は強さがすべてですのでーー」
 表情もなく、悪魔達は事実のみを告げる。
「…………」

「現時点で攻撃されれば国はいくつか滅ぶでしょう。ですが、軌道から外れているため、しばらくはこちらには来ません。いま、仲間達が正確な月日を割り出しています」

「急いでくれ」
「はい。アスラーン様のためとあらば」
 悪魔ふたりは恭しく頭を垂れる。その姿をアダマスとミハエルは目を見開いて見ていた。

「リーフ殿、言いたい事はないか?」
 アスラーンに問われ、リーフが肩を震わせた。

「ーーひとつ疑問に思っている事があります……」

「なんだ」

「ーーヒョウマ殿はフェレスを一目見ただけで、悪魔と見抜いた様子でした。なぜでしょうか?」
「名を知っている悪魔だったのだろう」
「ーー名を知っている……。そうですか。いえ、もしかしたら聖魔法を使えたのかと思っただけです……」

「ーーヒョウマには魔力器官しかなかった」
 アレクセイは重た気に口を開いた。名前を呼ぶのでさえ、心がつらい。



「ーーいえ、ありましたよ。聖魔力器官がーー」

「!」
 ティンが目を見張った。ミハエルの顔を凝視する。

「教皇ーー、どういう事だ?」
 そんなはずはないーー。見間違えはないはずだがーー。

「私もはじめて見ましたが、魔力器官の中に聖魔力器官が入っているんですよ。身体に異常に負担がかかっていましたので、どうするべきか考えていたのですがーー、こんな事になるなら、聖魔法結界だけでも教えておけばよかった……」
 ミハエルが息をはいた。

「ヒョウマに聖魔力器官が……」
 身体に負担と聞いて、アレクセイは納得した。あの異常な体力のなさはそこからきていたのだろう。

「いまさらな話だな」
 アスラーンが立ちあがる。
「皆、用心するように。我が国も結界の強化には協力しよう。なんせ、ロードリンゲンの結界は古すぎだからな」
 
 皮肉を浴びせながらアジャハン国の王太子は出口に足を向けた。


 そのとき、
「お待ちください!」
 と、控えの間にいた王女ミントに呼びとめられる。

「何だ?」

「シャラジュナ様が、お兄上を国に返すようにおっしゃっています!」

 アスラーンは歩みをとめなかった。

「無理だな」
「なぜです?国に帰るほうがお心が休まるはずではーー」
「ミント、下がりなさい!」
 クリステイルが妹を制止する。

「ならば、ジュドーをアジャハンに寄越せ」
「えっ?」

「あいつがいれば、少しは心が休まるだろう」
「シャラジュナ様も、王妃陛下も心配なさっております!」
 目を細めたアスラーンは、ミントの顔を見据えた。

「そうか、ならばわかってくれるな」
「はい?」


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