ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
139 / 235
きみを忘れることなかれ 編

第129話 戻らない日常 

しおりを挟む
 朝日に目が覚める。
 朝は明るいのに、琉生斗の心の中は夜のままだ。いつまでも夜が明けない。


 泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いてーー。


 泣き続けても、兵馬は帰って来なかった。


 何も考えられずに、ただ泣くしかなかった。泣き叫ぶ琉生斗をアレクセイは必死に抱きしめる。それがなかったら死んでいただろう。

 それでも、魔蝕の浄化に行かなければならなかった。教皇ミハエルも同行したが、琉生斗のあまりに痩せた姿に言葉を失う。

 聖女は過酷だ。
 どんな状況でも魔蝕が発生すればそこに行かなければならない。
 この世界の不変の法則と、戦い続けるのだ。














「アスラーン王太子殿下、ご臨席でございます」
 
 アダマスは対策のため何度も会議を開いた。
 そして、今日はアスラーンから話があるらしく、彼が会議に参加する運びになった。

 正装のアスラーンは厳しい表情をくずさぬまま、挨拶をした。
「突然の来訪、失礼する。ここにいる者は口が堅いか。すべる者はでていくがよい」
 場がざわついた。
 クリステイルが指示をだすと、給仕や衛兵が退出していく。

「これでよろしいか。公爵以上しかおらん」
 アダマスが威厳を保つが、年齢が半分の王太子に負けている気がする。隣りのミハエルが苦笑まじりにため息をついた。

「なら、知っているな」
 アスラーンの呼びかけに背後に控えた青年がふたり前に出る。

「うちの食客悪魔パラサイトデビルだ」

「えっ!」
 クリステイルの口から驚きの声がでるのを、アスラーンは見逃さなかった。
「知らんのか、王太子がーー」
「クリステイルは悪くない。リーフが口止めをしていたのだ」

「平和ぼけと言われても仕方がないな。アレクセイ、おまえも知らんかったのか。高位な悪魔は先進国には必ずいる。他の悪魔が国に悪さをしないための人質のようなものだ」

「ーーなるほど」
 アレクセイはリーフを睨んだ。傲岸不遜を絵に描いたような男が、項垂れて何も言わない。

「いえいえ。私達はひとの暮らしが好きなので、人質とは思っておりませんよ」
「部下も多数住んでいます。アレクセイ殿下には、前に見逃していただきありがとうございます」
「ーークロセルか……」
 アレクセイは記憶を辿り、すぐに思い出す。

「はい。あのときは油断して魔蝕に取り込まれましたーー」

 氷の悪魔は美しい青年に化けていた。

「ーーして、彼らは何を?」

「私はイボスと言います。私達の部下が数名、ハオルに殺されました」

「!」


「奴は悪魔の城を探し、城に住む悪魔達を征服した後、ロードリンゲンに攻撃をしかけるつもりです」

「ーー何だと……。彼はなぜそこまで……」

「奴の心情などどうでもいい。問題は聖女を葬る、と言っているところだ」
 会議室に緊張が走る。

「だが、悪魔の城という場所は簡単に行けるものではないらしい」
 アスラーンの言葉にクロセルが頷いた。

「悪魔の城は、この世界とは次元が異なる空間にあります。そして常に移動しているので、転移魔法は使用できません。ある周期になれば、この世界に近付いてきますので、我々も用があれば行ったりもします」
「用ーー」

「ーー別の世界に行くときに使います」

「ーーそれはルート達のいた世界も含まれるのか?」
「もちろんです。悪魔やあちらの神は行き来が可能ですから」

「そうか。ルートが向こうの神が喚べるのは、向こうの神にその特長があるからなんですね?」
 ティンが納得したように頷く。

「そうです。問題はここからなのですが、悪魔の城に住んでいる悪魔達は、ハオルにつくと思います」

「なぜだ?」
 アダマスが眉根を寄せた。

「強いからです。我々は強さがすべてですのでーー」
 表情もなく、悪魔達は事実のみを告げる。
「…………」

「現時点で攻撃されれば国はいくつか滅ぶでしょう。ですが、軌道から外れているため、しばらくはこちらには来ません。いま、仲間達が正確な月日を割り出しています」

「急いでくれ」
「はい。アスラーン様のためとあらば」
 悪魔ふたりは恭しく頭を垂れる。その姿をアダマスとミハエルは目を見開いて見ていた。

「リーフ殿、言いたい事はないか?」
 アスラーンに問われ、リーフが肩を震わせた。

「ーーひとつ疑問に思っている事があります……」

「なんだ」

「ーーヒョウマ殿はフェレスを一目見ただけで、悪魔と見抜いた様子でした。なぜでしょうか?」
「名を知っている悪魔だったのだろう」
「ーー名を知っている……。そうですか。いえ、もしかしたら聖魔法を使えたのかと思っただけです……」

「ーーヒョウマには魔力器官しかなかった」
 アレクセイは重た気に口を開いた。名前を呼ぶのでさえ、心がつらい。



「ーーいえ、ありましたよ。聖魔力器官がーー」

「!」
 ティンが目を見張った。ミハエルの顔を凝視する。

「教皇ーー、どういう事だ?」
 そんなはずはないーー。見間違えはないはずだがーー。

「私もはじめて見ましたが、魔力器官の中に聖魔力器官が入っているんですよ。身体に異常に負担がかかっていましたので、どうするべきか考えていたのですがーー、こんな事になるなら、聖魔法結界だけでも教えておけばよかった……」
 ミハエルが息をはいた。

「ヒョウマに聖魔力器官が……」
 身体に負担と聞いて、アレクセイは納得した。あの異常な体力のなさはそこからきていたのだろう。

「いまさらな話だな」
 アスラーンが立ちあがる。
「皆、用心するように。我が国も結界の強化には協力しよう。なんせ、ロードリンゲンの結界は古すぎだからな」
 
 皮肉を浴びせながらアジャハン国の王太子は出口に足を向けた。


 そのとき、
「お待ちください!」
 と、控えの間にいた王女ミントに呼びとめられる。

「何だ?」

「シャラジュナ様が、お兄上を国に返すようにおっしゃっています!」

 アスラーンは歩みをとめなかった。

「無理だな」
「なぜです?国に帰るほうがお心が休まるはずではーー」
「ミント、下がりなさい!」
 クリステイルが妹を制止する。

「ならば、ジュドーをアジャハンに寄越せ」
「えっ?」

「あいつがいれば、少しは心が休まるだろう」
「シャラジュナ様も、王妃陛下も心配なさっております!」
 目を細めたアスラーンは、ミントの顔を見据えた。

「そうか、ならばわかってくれるな」
「はい?」


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

エルフの国の取り替えっ子は、運命に気づかない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
  エルフの国の王子として生まれたマグノリアンは人間の種族。そんな取り替えっ子の彼は、満月の夜に水の向こうに人間の青年と出会う。満月の夜に会う様になった彼と、何処か満たされないものを感じていたマグノリアンは距離が近づいていく。 エルフの夜歩き(恋の時間※)で一足飛びに大人になるマグノリアンは青年に心を引っ張られつつも、自分の中のエルフの部分に抗えない。そんな矢先に怪我で記憶を一部失ったマグノリアンは青年の事を忘れてしまい、一方で前世の記憶を得てしまった。  18歳になった人間のマグノリアンは、父王の計らいで人間の国へ。青年と再開するも記憶を失ったマグノリアンは彼に気づかない。 人間の国の皇太子だった青年とマグノリアン、そして第二王子や幼馴染のエルフなど、彼らの思惑が入り乱れてマグノリアンの初恋の行方は?  

処理中です...