ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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きみを忘れることなかれ 編

第127話 悲劇の幕開け

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 今回は重い話になります。
 苦手な方は気をつけてお読みください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー





「だからー?」
「ーー普段はそうじゃないと聞きました。わたしだからですか?」
「はっ?」
「わたしだから、生命を助けてくださったんですよね!」
 女性の強い瞳に兵馬の心が後ずさる。

 気持ちが、悪い……。

「ーーあっ、ジュナ。フェレスさんが待ってるから。先に行くね」
「ヒョウマー!」
「ラルジュナ様!!少しだけお話を!」
 女性がラルジュナの腕をつかんだ。舌打ちをした彼は、その腕を振りほどき兵馬にキスをする。

「すぐに行くからー」
 何の心配もいらない、そんな目だった。

「うん……」


 兵馬はフェレスの待つ大木の側に寄った。
「あの方は?」
「知人みたい、ですーー」
「ーーそうですか……」 
 どうでもよさそうにフェレスが視線を兵馬に向けた。肌が白すぎて怖いぐらいだ。

「何のお話ですか?」

 ラルジュナが女性に詰め寄られているーー。

 兵馬はそちらが気になってしまい、フェレスに肩をすくめられる。

「真剣な話なのですがーー」
「すみません。見えない位置に移動しますから」
 大木でラルジュナの姿を見えないようにすると、気にはなるがなんとか我慢できた。

 ーーなんか腹がたつし、ムカムカする、ってそんな場合じゃないや。


「ーーハオルの動向が気になります」
 突然、その名がでて、兵馬は声が裏返った。
「えっ?」

「悪魔達の住む城を探しているようですーー」
 フェレスの顔はどこまでも無表情で、生きている生気のようなものがない。彼は悪魔なのだ。
「悪魔達の住む城……」
「ええーー、」




『ーーーーーーそうだ。どこにある?』
 
 不意に聞こえた声。

 兵馬は不気味な声に、心臓が飛びはねるほどの衝撃を受けた。背中をヒヤリと悪寒が走る。
「ーーまさか……、ハオル」
 いつの間にか、フェレスの後ろに黒いローブ姿のひとがいた。

 ローブの下の白色の顔は、ハオルのものだ。だが、彼はもうひとじゃないーー、それは兵馬にもすぐにわかった。フェレスと同じになっている。
 
 フェレスが顔をゆがめて叫んだ。

「ヒョウマ殿!逃げーー!」

『魔神雷ーー!』












 ーー突如、鼓膜を破る音が、神聖ロードリンゲン国を揺るがした。恐ろしさが音になるとはこういうものなのだろう、響いた音にすべてのひとが愕然とする。
 王都の民は恐怖のあまりパニックを起こし倒れる者もいた。

 それほどまでの強い恐怖が国を駆け抜けていきーー。












「なっ!」
 ラルジュナがそこについたときには、森はなくなり、地面に巨大な穴があいていた。

「ヒョウマァ!!!」
 煙が立つ絶望的な光景の中、ラルジュナは叫んだ。



「ら、ラルジュナ様……」
 焼けた地面にフェレスが転がっている。

「フェレス!?」

 フェレスの半身が、ない。


「あ、悪魔の私がこれほどのーー」
 息も絶え絶えにフェレスが口を開く。

「私は、眠りにつきますーー。主に伝えてくださいーー」
 フェレスから黒い霧があふれる。
「ヒョウマは!ヒョウマはどこに!」

「ーーーー穴の中にいなければ、もう……」
「もう!何だよ!」


「ーー生きてはいないかとーー」


 
 !?


 …………。

「ラルジュナ!」
 膝からくずれた友をアレクセイが支える。

 急いで転移してきたが、状況がわからない。ただ、嫌な予感しかないーー。

「ーーハオルの魔法です……」
 顔だけのフェレスが語る。身体は黒い霧だ。

「!」
「恐ろし、いーー。魔王様の魔法を使えるとはーー、王都の結界を破るなどーー」

 黒い霧が煙のように消えた。

「ラルジュナ!しっかりしろ!ラルジュナ!」
 目を見開いたまま、どこか遠くを見ている友をアレクセイは揺さぶった。

「ーーアリョーシャ、ウソだよね?」
「ーー何がだ?」

「……ヒョウマが、……感じられないーー」
「なっ!」

 アレクセイの顔色が変わる。
 目を走らせ、攻撃対象がすでに消えた事を確認し、まわりに感知魔法を広げた。神経を研ぎ澄ませて兵馬の魔力を探る。

「…………」

「ーーいない?」
「連れ去られたのか?」

「ーー魔力が……、ここで切れてる……」
 
「本当にヒョウマがいたのか!?」

 目を見開きアレクセイは感知範囲を広げた。

 国内、近隣諸国にもいないーー。


『信じられないのか?』
 背後から声があがる。
 アレクセイは剣を抜いた。稲妻の如き疾さで不気味な男を斬る。

『残留思念だ。本体がいつまでもいるわけがない』
 ゆらゆらとハオルがにやつく。

「ーーヒョウマをどうした?」
『見てわからないとは、平和ぼけしたなぁ。私は理想の私になったよ。これから、悪魔の城を見つけて、私が魔王になる』

「それで?」
 アレクセイの問いにハオルが気味の悪い笑顔になった。

『聖女の国をつぶす。まわりのうざい国もだ。そして、おまえの目の前で聖女を殺してやる。あの眼鏡は、見せしめに、というやつだな』
「ハオル!貴様ぁ!!!」

『ーー悪魔どもの手によってこの国は終わる。アレクセイ、おまえが私に泣いて許しを請う姿を早くみたいものだーー』

 気が狂ったような笑い声がいつまでも耳に残る。


「ハオルーー!!!」
 聞いたことないようなアレクセイの怒号に、駆けつけた魔法騎士達は恐怖した。
 惨状にも目を向けられず、誰もが言葉を発することができずにいる中、ラルジュナがふらふらと立ちあがる。

「ラルジュナ!」
「ーー穴の中に、いるのかな……」
「………」 

 深い巨大な穴だ。
 だが、穴の中から生命反応は感知できない。

 ラルジュナが飛ぶのを見て、アレクセイも続いた。

 凄まじい魔法が使われた事が、魔力の痕跡でわかる。ハオルは何をしてああなったのか、ひとをやめるという事はどういう事なのか。神殺しの自分でさえも、ひとの形は保っている。

 だが、ハオルの魔力反応からは、ひとというものが感じられない。
 彼は、本当にひとをやめたのだーー。




「ーーヒョウマ……、どこにいるの……?」

 ラルジュナの目から涙がこぼれていく。堰を切ったように、涙はとまらず流れる。

「どこ……?どこにいるんだよぉ!ヒョウマ!!!」

 心の痛みがそのまま声になったようだった。

 あまりにも悲痛な叫びに、アレクセイはかける言葉もなく項垂れる。



「ヒョウマァーーー!!!」


 号泣はやまず、ラルジュナは泣き続けた。天を裂く悲鳴のような嗚咽に、誰もが心の中をえぐられ涙ぐむ。
 アレクセイは涙を払い、ラルジュナの肩を抱いた。彼の涙はとまることなく流れ続けた。



 どこを捜しても兵馬はいないーー。






「ーーファウラ様」
「ミハナ!」
 よろけた美花をファウラが抱きとめた。


「あ、あたし、半分、ありますか?」
 身体を確認しながら美花がつぶやく。

「………」
 近くにいた東堂の顔色が変わる。


 
 まさかーー。



 

「あたしが、半分ない……」
「ミハナーー」


 そんなことが、現実に起こるなんてーー。


「あたしの半分どこいったの!」
「ミハナ!落ちついてください!」

「ない!どこにもない!なんでぇ!?」

 くずれおちて泣き喚く美花を、ファウラが強く抱きしめた。

 魔法騎士達は何もできぬまま、その場に立ち尽くす。

 知らせは、神殿にいる聖女の元へも届くだろう。
 

 そのとき聖女は、どうなるのかーー。




 考えたくない事態に、皆が目を閉じた。





 
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