ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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きみを忘れることなかれ 編

第126話 元カノ?

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「ルート、おはよう」
「兵馬」
 兵馬が離宮に顔をだした。表情も明るく、何の悩み事もなさそうだ。

「来てもらって悪いな」
「ううん。そろそろバレたのかなー、って思ってたよ」

「ああ。いまも公爵の嫌がらせは続いているのか?」

 琉生斗の言葉に兵馬が目を瞬いた。

「ーーそっちか」
「ん?」

「うん!姉さんが名誉騎士になったし、ファウラさんにも話しておいたから、公爵も怒られたのか最近はおとなしいよ」
「そうなんだ。まじでやばいときは、ちゃんと頼ってくれよ」
 
 ふぅー、と兵馬が緊張を解いた顔になる。
「ルートの悪い癖だね」
「うるさい。絶対に頼れよ」

「わかってるよ」
「完全にロードリンゲンからは……」
「続けたいものもあるから。まあ、相談しながらかなーー」

 ラルさんとかーー。

 違う道に行くことを納得しても、やはり寂しさがつきまとう。

「ラルさんには、ほんと感謝してる。あのひとが、いなかったらどうなってたかーー」
「ふふっ、そうだね」

「けど、神と悪魔の磁場内で魔法が使える、って、ラルさん悪魔と戦うのか?」
 エクソシストみたいに。
 容姿的にはあまり似合わないがーー。

「ーーハオルの事も想定していると思う」





 琉生斗は動きをとめた。





「そうか、なるほど……」
 ラルジュナはハオルが悪魔になっていると思っているのか。これには、琉生斗とアレクセイも同意見だがーー。

「あいつ、何かする気なのかな?」
「ーーアス王太子も調べてはいるみたいだけど、今のところ何もでてこないって」
 首を振る兵馬を見て琉生斗は眉を寄せた。国をあげて警戒しているとは、あの変態キモ眼鏡も偉くなったものだ。

「そうかーー、おとなしくしていて欲しいな」


 願望だがーー。


「そうだ!ねえ、ルート、ブドウ狩り行こうよ。アジャハンと農国ナルディアの食べ比べツアー」

「ーー楽しそうだな。アレクに聞いとく」
 兵馬がうれしそうに笑う。

「うん。約束だよ……」
 時間を気にするような親友の様子に、琉生斗は尋ねた。
「これから、どうするんだ?」
「ーーちょっと用事があって」
 申し訳なさそうに目を伏せられる。

「ふうん。おれ、この後神殿に行くから、終わったらベルさんとお茶しようぜ」

「用事が終われば行くよ。ミハエルさんと約束もあるから」

「じいちゃん喜ぶな。おまえがいると機嫌がいいんだぜ。じゃあ、後でな!」
「うん。ルート、ありがと」
「何がだよ」
 問いに、兵馬が目を細めた。

「いろいろだよ。ルートの理想の未来にするためにも、僕ももっとがんばらなきゃね」

「理想の未来ーー」
 琉生斗は目をパチクリとさせる。

 何だったっけ?アレクと楽しく子育てかなーー。



「子供が幸せに暮らせる未来でしょ?」


「ーーーーー」


「そりゃ、どうしようもなくて捨ててしまうひともいるだろうけど、それを見過ごさないのが大切だと思うんだよね。すぐに助けてあげられる、そういう社会になったらいいな」

「ああ……」

「泣かないの。まだ何にもできてないんだから」
 兵馬が琉生斗の頭を撫でた。
 
「おれも、がんばるーー」
「君はもう世界を救ってるじゃない」
 強引に涙を拭うと、笑いながら兵馬が離宮を出ていった。

「またな!」


「うん、またね」
 兵馬が笑った。












「ヒョウマー!」
「ジュナ、今日はステラプルケリマ先生なんだ」
 ラルジュナが眼鏡をかけた神経質そうな青年に姿を変えている。
「ちょっとこの国じゃねー。きっとアレクセイなんか問題が起きたら、すぐにボクのことバッカイアに引き渡すよー」

「ーーさすがに、しないんじゃ」
 確証はないが、いくらなんでもである。
「するするー。あいつはかなり常識がないからねー」

「う~ん、たしかに常識はないね」
 激しく同意する兵馬だ。
「アスラーンは甘やかされた長男で、アレクセイは放ったらかしにされた長男だからねー」
「ジュナは?」
「ボクは上がいるものー、また違うよー」

 ホント、あのふたりは手がかかる、とラルジュナがぼやくので兵馬は笑ってしまう。

「そう言われてみると、ルートに似てるよね」
「ルートと?」
「ルート、上に兄弟いるしね。僕は、姉さんがいるけど双子だし」
「上がいると、下は絶対に苦労するよー。さて、フェレスは何の用事だってー?」
「用事があるとしか聞いてない」

 兵馬はハーベスター公爵家の家令フェレスから呼び出しを受けた。話したい事があるらしい。

 ひと目につかないダイヤモンド公園の裏の森で会う約束をしているのだがーー。

「ボクは早く教皇に会いたいんだけどー」
「ーージュナ、先に行っとく?」
 赤くなりながら兵馬はラルジュナを見上げた。
「フェレスのところにひとりで行かすわけないでしょー!」
「ジュナも行って大丈夫かな?」
「ひとりで来いとは言われてないんでしょー?向こうも想定内だよー」
 森の中を寄り添いながら歩く。

「涼しくなってきたね」
「そうー?兵馬の国は暑かったのー?」
「死ぬほど暑かったよ……、思い出したくもない」
 体育の授業は地獄だった。テストで点はとれても実技で低い評価にしかならない。


 体育祭は休めって言われてたし(ルートの見てないところで)、ーーほんと僕ってしょうもない人間だよね……。たしかに、自分のせいで負けは確実になってしまうけどーー。


 ほんの少しだけでも、このひとに釣り合う人間になれないものかなーー。







「ラルジュナ様……」

 名前を呼ばれても、ラルジュナは声の方を向かなかった。兵馬にも自然にするように、顔を動かさないよう、合図をだす。

「ーーラルジュナ様!変化をされているぐらい、わたしにはわかります!」
 
 きれいな女性だった。
 同じ歳ぐらいだろうか。長い金髪がなびく、澄んだ目をした人形みたいなひとだった。



「ーー何?」
 表情もなくラルジュナが尋ねた。親しい知人ではなさそうだが……。



「あのときは生命を助けていただき、本当にありがとうございます!」
 女性が深く頭を下げた。必死な姿に兵馬の心臓が早鐘を打つ。


 どういう関係なんだろうーー。



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