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きみを忘れることなかれ 編
第124話 自分が覚えているから
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いまより目元を鋭くして、と兵馬に化粧をされ、琉生斗は鏡に映る自分を見た。
「顔、きつすぎだろ」
「そんなんだったよ。君も優しい顔になったからね」
「ーーそうか……」
ーーなあ、アレク……。
二年半しか過ごしてないのに、そこまでおれを変えてくれたんだなーー。
目の前には、石でできたドーム状の建物。王様の冠を丸くしたような形。懐かしいーー、と琉生斗は目を細めた。
「じゃあ」
兵馬が立ちどまった。
「ああ」
あの日のように、学生服を着た琉生斗は歩きだした。
中は天井が高く、一面に天使のような子供がたくさん描かれた絵画がり、柱には女性の彫刻。アジャハンの愛の三女神様だ。
中央の寝台に横たわる人がいる。
目を閉じていてもわかるほど端正な顔立ちをしている、そのひとは。ーーいまは自分の夫になったアレクセイだ。
琉生斗は側に寄り膝を折る。
寝たふりなのかはわからないが、目を閉じたままの彼にする事は決まっている。
アレクセイの唇に琉生斗は自分の唇をつけた。
ーーアレクの唇って、すごい好きだな……。
離したくなくて、ずっとこうしていたくて琉生斗は動けない。
もう、これでだめなら、最初から思い出のやり直しだ。旅行もたくさんして、結婚式だって大々的にやってしまおう。
ーー自分が覚えていればいい。
はじめての日も、つらかった日も、会いたかった日も、ともに生きようと誓った日もーー、自分が覚えていよう。
彼はきっと、また同じように自分を愛してくれるだろうーー。
ーー大好きだ。アレク……。
アレクセイの唇が微かに動き、琉生斗は薄目を開けた。彼と目が合う。気恥ずかしさに琉生斗は身を起こす。
笑いながらアレクセイが口を開いた。
「聖女様ですね?」
深い海を思わせる藍色の目が、自分を愛していると言っていた。
「琉生斗……、と言います」
棒読みになる。
「助けていただきありがとうございます。私はアレクセイと申します」
胸に手を当ててお辞儀をされ、くすり、と笑ってしまう。
「弟さんに聞きました」
「無い命を救っていただいた聖女様に我が命を捧げ、誠心誠意お仕え致します」
「大げさだよ……」
涙がこぼれてきた。
「普通でいいから、……琉生斗って呼べよーー、おれもアレクって呼ぶからさ……」
琉生斗の涙を指で拭いながらアレクセイが続ける。
「そうですか......。では、ルート」
「うん……」
「私と結婚してください」
「ーーはい」
ふたりで吹きだして笑った。
「承諾してくれたのだな。ーー幸せにするよ」
「ーーはい」
そんな訳ないだろ、なあー、まったく。
「もうーー、おかしいな、いま思うと」
「そうだな」
アレクセイが目を細めた。琉生斗の身体を引き寄せ、強く抱きしめる。
「生涯、きみを守る」
「ーーうん。おれは生涯おまえを愛するよ」
「誓おう」
「うん……」
ゆっくりと唇を重ねた。
「ルート」
「なに?」
琉生斗を見るアレクセイの目が熱を帯びている。
「その姿も新鮮でいい」
「そうか?」
こちらへ来たときの学生服だ。
もう、コスプレだなーー、いやまだいけるか。結局、高校中退のままかーー。
「それにしても、ルート」
「うん?」
「完全に浮気だな」
真顔のアレクセイが琉生斗の頬をつかんだ。
「違うよ。おまえだって、私は私って言ったじゃん」
「私は私だが、私ではない。ルートも私ではないと言っていた」
「そんなわけないだろ、おまえなんだから」
「いや、確実に違う。第一、させすぎだ」
琉生斗は目が泳いだ。
「いやー、だって、そりゃー、ほら、あそこはだめだ、っていったよ~。だから、まあ、最後までは許してない、っていうか……」
「浮気だ」
アレクセイの声に怒りが混じっている。
「いや、どう考えてもセーフだよ」
「ルートの記憶のない私など無視していればよかったのだ」
「無茶言うなよ。おまえだったらしちゃうって。ーーすっごい、優しかったんだから♡」
琉生斗の言葉にアレクセイが切れた。
「腹が立つ。しばらくは寝かさない」
琉生斗は笑った。
「うん。好きにしろ」
「ーー戻ったみたいだねー」
ラルジュナがほっとした顔で兵馬の肩を抱く。
「ジュナ、もしかしたらキーワードの順番を間違えたんじゃない?」
「うんー?」
「呪いの後恋人をはじめて見たとき、でしょ?呪いの後はじめて恋人を見たとき、だったのかも。殿下の場合、悪神アルゴルの後になったみたいだし……」
「そんな、融通きかないのー?」
ラルジュナがくるりと目を動かした。
「ああいうのは一言一句も間違えられないの。ジュナ、無詠唱ってどうやってるの?」
「頭の中で魔力を練れば発動するよー」
「ーー魔法が使えたら無敵だね」
「そうでしょー☆次に会ったらハオルはボコボコにしてやるからねー♡」
聖女連盟で拘束された分は返さないとねーー。
兵馬は俯いた。
「ーーそうだよね。いま、どこにいるんだろ。ルートに悪さをしなければいいけど……」
「顔、きつすぎだろ」
「そんなんだったよ。君も優しい顔になったからね」
「ーーそうか……」
ーーなあ、アレク……。
二年半しか過ごしてないのに、そこまでおれを変えてくれたんだなーー。
目の前には、石でできたドーム状の建物。王様の冠を丸くしたような形。懐かしいーー、と琉生斗は目を細めた。
「じゃあ」
兵馬が立ちどまった。
「ああ」
あの日のように、学生服を着た琉生斗は歩きだした。
中は天井が高く、一面に天使のような子供がたくさん描かれた絵画がり、柱には女性の彫刻。アジャハンの愛の三女神様だ。
中央の寝台に横たわる人がいる。
目を閉じていてもわかるほど端正な顔立ちをしている、そのひとは。ーーいまは自分の夫になったアレクセイだ。
琉生斗は側に寄り膝を折る。
寝たふりなのかはわからないが、目を閉じたままの彼にする事は決まっている。
アレクセイの唇に琉生斗は自分の唇をつけた。
ーーアレクの唇って、すごい好きだな……。
離したくなくて、ずっとこうしていたくて琉生斗は動けない。
もう、これでだめなら、最初から思い出のやり直しだ。旅行もたくさんして、結婚式だって大々的にやってしまおう。
ーー自分が覚えていればいい。
はじめての日も、つらかった日も、会いたかった日も、ともに生きようと誓った日もーー、自分が覚えていよう。
彼はきっと、また同じように自分を愛してくれるだろうーー。
ーー大好きだ。アレク……。
アレクセイの唇が微かに動き、琉生斗は薄目を開けた。彼と目が合う。気恥ずかしさに琉生斗は身を起こす。
笑いながらアレクセイが口を開いた。
「聖女様ですね?」
深い海を思わせる藍色の目が、自分を愛していると言っていた。
「琉生斗……、と言います」
棒読みになる。
「助けていただきありがとうございます。私はアレクセイと申します」
胸に手を当ててお辞儀をされ、くすり、と笑ってしまう。
「弟さんに聞きました」
「無い命を救っていただいた聖女様に我が命を捧げ、誠心誠意お仕え致します」
「大げさだよ……」
涙がこぼれてきた。
「普通でいいから、……琉生斗って呼べよーー、おれもアレクって呼ぶからさ……」
琉生斗の涙を指で拭いながらアレクセイが続ける。
「そうですか......。では、ルート」
「うん……」
「私と結婚してください」
「ーーはい」
ふたりで吹きだして笑った。
「承諾してくれたのだな。ーー幸せにするよ」
「ーーはい」
そんな訳ないだろ、なあー、まったく。
「もうーー、おかしいな、いま思うと」
「そうだな」
アレクセイが目を細めた。琉生斗の身体を引き寄せ、強く抱きしめる。
「生涯、きみを守る」
「ーーうん。おれは生涯おまえを愛するよ」
「誓おう」
「うん……」
ゆっくりと唇を重ねた。
「ルート」
「なに?」
琉生斗を見るアレクセイの目が熱を帯びている。
「その姿も新鮮でいい」
「そうか?」
こちらへ来たときの学生服だ。
もう、コスプレだなーー、いやまだいけるか。結局、高校中退のままかーー。
「それにしても、ルート」
「うん?」
「完全に浮気だな」
真顔のアレクセイが琉生斗の頬をつかんだ。
「違うよ。おまえだって、私は私って言ったじゃん」
「私は私だが、私ではない。ルートも私ではないと言っていた」
「そんなわけないだろ、おまえなんだから」
「いや、確実に違う。第一、させすぎだ」
琉生斗は目が泳いだ。
「いやー、だって、そりゃー、ほら、あそこはだめだ、っていったよ~。だから、まあ、最後までは許してない、っていうか……」
「浮気だ」
アレクセイの声に怒りが混じっている。
「いや、どう考えてもセーフだよ」
「ルートの記憶のない私など無視していればよかったのだ」
「無茶言うなよ。おまえだったらしちゃうって。ーーすっごい、優しかったんだから♡」
琉生斗の言葉にアレクセイが切れた。
「腹が立つ。しばらくは寝かさない」
琉生斗は笑った。
「うん。好きにしろ」
「ーー戻ったみたいだねー」
ラルジュナがほっとした顔で兵馬の肩を抱く。
「ジュナ、もしかしたらキーワードの順番を間違えたんじゃない?」
「うんー?」
「呪いの後恋人をはじめて見たとき、でしょ?呪いの後はじめて恋人を見たとき、だったのかも。殿下の場合、悪神アルゴルの後になったみたいだし……」
「そんな、融通きかないのー?」
ラルジュナがくるりと目を動かした。
「ああいうのは一言一句も間違えられないの。ジュナ、無詠唱ってどうやってるの?」
「頭の中で魔力を練れば発動するよー」
「ーー魔法が使えたら無敵だね」
「そうでしょー☆次に会ったらハオルはボコボコにしてやるからねー♡」
聖女連盟で拘束された分は返さないとねーー。
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