ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
133 / 235
きみを忘れることなかれ 編

第123話 はじめからやり直せ

しおりを挟む

「いやいやいや、何だよそれ!」
「ルートの気持ちがわかるかと」
「わからなくていいんだよ!何でそんな自分を安売りするんだよ!ラルさんが泣くぞ!」
「ルートも他人とやって罪悪感に悩まされてるんだ、僕も同じ立場になればいいかと」

「全然違うわ!バカタレ!アレクはアレクだからいいんだよ!」
「違うと思ってるんでしょ?」
「一緒だよ!記憶がなくてもアレクはアレクだよ!だから、だからーー」

 兵馬に追いすがりながら琉生斗は涙する。
「ーーそうだよね……、悲しいよね。自分の事だけ覚えてないなんて……」
 頭を撫でてくれる兵馬の手が、いつも優しいのに、より優しく感じられた。
「呪い、だってわかってるよ……。どっちみち、ラルさんがいなかったら、希望がゼロだった事も……」

 涙がとまらない。

「そうだよね……」
 
 ふたりは沈黙した。
 
 絶望で胸がいっぱいの琉生斗を、兵馬は静かに見る。

 ーー必ず、何とかする。


 言葉のないふたりの前に、そのひとはあらわれた。
 
「ーーじゃあ、はじめからやり直そーかー」
 場にふさわしくない陽気な声。

「えっ?」
 見上げた目の前には、龍のぬいとりをつけた朱色の袞服(皇帝の服)を着たラルジュナが立っていた。

「いつ来るのかとソワソワしてたのにー」
 兵馬に抱きついて頬にキスをする。
「ーーやばいぐらいカッコいい」
 ラルジュナを見る兵馬の目が潤んだ。おまえってそんな顔するんだな、と琉生斗は複雑な心境で親友を見る。
「やっぱりー!姉さん、これもらってもいいー?」

「いいわよ。もう、皇帝陛下には着せられないし。何に使うの?」
「コスプレエッチだよー。後宮ごっこしよ~っとー」
 兵馬が吹いた。

「ーー何?詳しく聞かせて?」
 ミリアムの目の色が変わる。
「あのねー、いろんな職業の服を着てねー」
「ふむふむ……」
 
「ーーおまえ、結構マニアックだな」
「まだ、医者の白衣とパイロットしかしてないよ」
 あっさり言われて琉生斗は顔を赤らめた。

「ーーネクタイが、ネクタイがーー」
 兵馬が顔を隠す。
「縛られてんの?」
「…………」

 ーーこいつ研究熱心だからな。なんでもやりそうだよな……。



「提案したらアス王太子が早速商品にしてたよ。いる?」
「ぱ、パイロット!アレクのパイロット服!ーー欲しすぎる!」
 琉生斗は想像でやられた。


「ーーそれ、いいわね!遊女の服を用意してちょうだい!」
「姉さん、胸が足りないー」
「うるさい!昔のように毛虫をもって追いかけるわよ!」
「ゴリラー!」


「ーー葛城みたいだな」
「ジュナのお姉さんはみんなすごい良い方だよ」
「楽しそうな一族だ」

 琉生斗の言葉に、ラルジュナとミリアムはお互いの目を見て、軽くため息をもらした。

「ん?」
「ふふっ、共通の敵がいると団結するのよ、きっと」
 ラルジュナが嫌そうな顔をする。

「さっ、いつまでもこんなところにいないで帰ろうー」
「うん」


「貴妃様!」
 そのとき、部屋に侍女が飛び込んできた。

「なあに、聖女様がおられるのに騒がしいですわよ」

「皇帝陛下がお越しに!」
 侍女の言葉にラルジュナと兵馬が顔色を変える。

「ヒョウマ逃げるよー!」
「はい!」

 琉生斗の手を引き兵馬が走りだす。

「えっ!やばいの!?」
「やばい、やばい!」
「めんどくさいー!」


「またいらしてね~」
 のんきな貴妃ミリアムの声に見送られ、琉生斗達は慌ただしく朱雀宮を後にした。














「もっと、中を見たかったな」
 残念、と琉生斗はこぼした。
「ルート、紫禁城やフエ王宮行ったんでしょ?」
「まあ、あれ流行る前な」
「あんな感じだよ」

「あれ、って?教えてくれた流行病ー?」
 ラルジュナが尋ねる。
「うん、そう。世界的に大流行したからね」

「勉強熱心だな」
 ふたりの話を聞きながら琉生斗は息をはいた。


「ーー帰って来ないのかな……」
 アレクセイのいない離宮が、住み慣れた部屋に見えない。

「うん?殿下出ていったの?」

「しょうがねえよな。おれこんなんだしーー。けど、それでも好きなんだったらおれが納得するしかない。たぶん、おれがアレクの記憶をなくしたんなら、あいつは我慢できると思うからーー」

 悲しいけど、はじめからやり直す、しかないかーー。



「そうだね。じゃあ、ルート、神殿に行こうよ」
「ん?」
 琉生斗は目をしばたいた。
 








 なぜか琉生斗は神殿に連れて行かれ、ミハエルに髪を切られた。
「ーーここまで淑女のようになられたのに……」
 ミハエルが涙をのんだ。
「また、のばしますから」
 明るく兵馬が言う。
「?」
 琉生斗は頭がハテナだ。



「はい!これ着て!」
 兵馬が学生服をだした。

「えっ?」
「殿下にはあのドームで寝てもらってるから」
 琉生斗の顔に驚きが広がる。
「兵馬、まさかーー」

「そう、はじめからやり直す、んだよ」
 確信を得たようないきいきとした表情を親友にされ、琉生斗は戸惑うばかりだ。
「なんで?」

「ジュナに言われて考えてみたんだけど、殿下が呪いを受けたのって、かなり前だよね?」
「いや、それは前の悪神だろ?」
「でも、あの短時間だから、ジュナもどの悪神の呪いとは設定できなかったんだよ。だから、悪神アルゴルの後と考えてみて、殿下がはじめてみた琉生斗は、いまとちょっと違うよね?」
「そりゃ、いまは完全に嫁ポジだからな」

「試してみよう」
 
 真剣に自分を思う親友の強い目に、琉生斗は頷いた。

「ーーああ。これでだめなら、すっぱり諦める」






ーーーーーーーーーーーーーーーー

 最後まで読んでいただきありがとうございます。感謝です!
 古い話ですが、「同棲はじめ アレクセイ視点」を外伝にアップしましたので、読んでいただけたらうれしいです😂

 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...