ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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きみを忘れることなかれ 編

第122話 アレクセイはでていく

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「ーー今日から別で住もう」
「えっ?」
「ここは、ルートがつかってくれ」
 淡々と言われ、琉生斗は慌てる。アレクセイの腕をつかんで顔を合わせた。
「ちょっと待てよ」
「どうした?」
「いや、どこ行くんだよ!」
「適当に過ごす」
 強く言われ琉生斗はたじろぐ。

「少し離れよう。そのほうが思い出すかもしれない」
「アレク……」
「8月は魔蝕がない。アルカトラズもいいかもしれないな」
 
 静かだが、内心は怒っている。
 アレクセイの言動からそれがわかった。


「アレク……、おれはおまえの事が好きだ。世界一好きだ。記憶がなくてもおまえへの気持ちは変わらないーー」
「…………」
「だけど、おまえを好きだって認めてしまうのが怖いんだよ。もう、おれとの思い出がないまま、ずっとこのままなんだってーー」


「ルート……」
 頭をポンポンと叩かれ、アレクセイは離宮を出て行く。

 琉生斗はその背中を見送った。言葉もかけずに見送るしかなかった。



 
「ーー、ふっ……」
 こらえていた涙があふれだす。


「だめだ、おれーー」

















「………ルート…」
 肩を叩かれる。

「ーー兵馬……」
 心配が顔にはりついたような兵馬が、琉生斗を見ていた。

「大丈夫?ミハエルさんが、今日は休んでもいいって言ってたよーー」

「兵馬ーー。もう、おれはだめだ……」
 泣きやむ事ができない。

「ーーうん。そうだよね。これから新しい思い出をつくれる、って言ったって違うよね」
「違うよ!全然違うんだから!」

「苦しいよね。殿下の事、大好きだもんね」

「うん、うん………」

「ふたりが幸せになるには、これからどうすればいいのかな?」
「ーーーおれが、我慢するしかない」
「無理なんでしょ?別れるの?」


「ひどいこと言うなぁ!」
 琉生斗はクッションを兵馬にぶつけた。
「うん。それは違うよね。ーーよし、ルート出かけよう」
「行かねえ」
「行こうよ」
「行かねえ!」

「来来国に、良い占い師がいるんだ。占ってもらおうよ」
「へ?」
 突然の話に、琉生斗は意表をつかれた。
「何かアドバイスをもらえるかも」
「ーーふ~ん」
 興味にかられ琉生斗は出かける用意をした。















「ーー兵馬、さすがに無理じゃないのか?」
「大丈夫だよ。すみません!貴妃様にとりついでいただけませんか!?」

 来来国、皇帝が住まう朱雀宮。広大な敷地に瓦葺きの赤い建物がシンメトリーに配置され、豪奢な高い建物が一番奥に見える。
 その、威厳に満ちた赤い大門の前に琉生斗と兵馬はいた。

「はい。ヒョウマ殿、お通りください。転移魔法の許可書です」
 門番が兵馬に書類を渡した。

「ええっ!」
 ほんとに大丈夫なのか!











「ようこそいらっしゃいました。聖女様。まさかお会いできるなんて、もったいない話ですわ」
 貴妃ミリアムがラルジュナに似た目元をほころばせて笑う。琉生斗が婚約お披露目会で着たような、優雅な漢服衣装をまとっている。こちらはこういう衣服なのだろう。

「えっ、ラルさんの?」
「3番目のお姉様」
「ほほっ、弟がお世話になっております。母は違うのですが、私と姉ふたりは母も同じですの」

「ラルさんは、実質はひとりっ子なんだろ?」
「ええ、ユリアム様は、ラルジュナを産んですぐに崩御なされましたからーー。可哀想な弟ですわ。わたくし、少し前に姫を産みましたが、あの子を置いていくなど考えたくもありませんもの……」

 ほぅ、とミリアムが息をはいた。すべてにおいて所作が美しい。

「それで、わたくしに何を占ってほしいのです?」
 ミリアムが箸のような棒がたくさん入った筒を用意した。

「え~と、旦那さんの記憶がなくなってる部分があって、そのせいで他人に思えてしまうので、今後をどう付き合えばいいのか悩んでいます、って感じです」

「ーーヒョウマ、あなた聖女様の母親みたいね」
 笑われて兵馬が顔を赤くする。

 琉生斗は項垂れて口を開いた。
「ーー受け入れられないんです。他人みたいで……」
「なるほど、今後の関係性かしらーー。この中からどれでもいい、一本お引きになってーー」

 琉生斗は迷いながら、何本かよりながら、一本を引く。



「ふむ。はじめからやり直せ、ですって」
「はあ!全部なかったことにすんの!?」
 逆上して琉生斗は大声をあげた。

「ルート!落ちついて!ここ、後宮だから!!!」
「落ちつけるかぁ!」


 思い出は、おれだけ覚えていればいいのか!

 違うだろ!

「何だよ!どうせ、おれだけ悩めばいいんだ!!!」
「ーールート、落ちついて。いや、何とかなるかも……」
 兵馬が考え込むように顎に手をあてる。

「まあ、占いなんてただの気休めですわ。それよりヒョウマ、わかっていますわね?」
「ーーはい」
 兵馬が頭を下げた。
「何だよ?」
 眉を寄せながら親友を見る。
「ルート……」
 言いにくそうに彼が口を開いた。

「占いのお礼をしてくるから」
「ああ、?貴妃様にするんじゃないのか?」

「うふっ、前から皇帝陛下がヒョウマを呼びたいと仰せられててーー」
「ん?」
 ミリアムの目が細められた。目の色に嫉妬が滲みだす。


「僕も、他人とサクッとやってくるよ!」
 兵馬が親指を立てた。

 ガダンッ!

 琉生斗は椅子から落ちた。



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