132 / 235
きみを忘れることなかれ 編
第122話 アレクセイはでていく
しおりを挟む
「ーー今日から別で住もう」
「えっ?」
「ここは、ルートがつかってくれ」
淡々と言われ、琉生斗は慌てる。アレクセイの腕をつかんで顔を合わせた。
「ちょっと待てよ」
「どうした?」
「いや、どこ行くんだよ!」
「適当に過ごす」
強く言われ琉生斗はたじろぐ。
「少し離れよう。そのほうが思い出すかもしれない」
「アレク……」
「8月は魔蝕がない。アルカトラズもいいかもしれないな」
静かだが、内心は怒っている。
アレクセイの言動からそれがわかった。
「アレク……、おれはおまえの事が好きだ。世界一好きだ。記憶がなくてもおまえへの気持ちは変わらないーー」
「…………」
「だけど、おまえを好きだって認めてしまうのが怖いんだよ。もう、おれとの思い出がないまま、ずっとこのままなんだってーー」
「ルート……」
頭をポンポンと叩かれ、アレクセイは離宮を出て行く。
琉生斗はその背中を見送った。言葉もかけずに見送るしかなかった。
「ーー、ふっ……」
こらえていた涙があふれだす。
「だめだ、おれーー」
「………ルート…」
肩を叩かれる。
「ーー兵馬……」
心配が顔にはりついたような兵馬が、琉生斗を見ていた。
「大丈夫?ミハエルさんが、今日は休んでもいいって言ってたよーー」
「兵馬ーー。もう、おれはだめだ……」
泣きやむ事ができない。
「ーーうん。そうだよね。これから新しい思い出をつくれる、って言ったって違うよね」
「違うよ!全然違うんだから!」
「苦しいよね。殿下の事、大好きだもんね」
「うん、うん………」
「ふたりが幸せになるには、これからどうすればいいのかな?」
「ーーーおれが、我慢するしかない」
「無理なんでしょ?別れるの?」
「ひどいこと言うなぁ!」
琉生斗はクッションを兵馬にぶつけた。
「うん。それは違うよね。ーーよし、ルート出かけよう」
「行かねえ」
「行こうよ」
「行かねえ!」
「来来国に、良い占い師がいるんだ。占ってもらおうよ」
「へ?」
突然の話に、琉生斗は意表をつかれた。
「何かアドバイスをもらえるかも」
「ーーふ~ん」
興味にかられ琉生斗は出かける用意をした。
「ーー兵馬、さすがに無理じゃないのか?」
「大丈夫だよ。すみません!貴妃様にとりついでいただけませんか!?」
来来国、皇帝が住まう朱雀宮。広大な敷地に瓦葺きの赤い建物がシンメトリーに配置され、豪奢な高い建物が一番奥に見える。
その、威厳に満ちた赤い大門の前に琉生斗と兵馬はいた。
「はい。ヒョウマ殿、お通りください。転移魔法の許可書です」
門番が兵馬に書類を渡した。
「ええっ!」
ほんとに大丈夫なのか!
「ようこそいらっしゃいました。聖女様。まさかお会いできるなんて、もったいない話ですわ」
貴妃ミリアムがラルジュナに似た目元をほころばせて笑う。琉生斗が婚約お披露目会で着たような、優雅な漢服衣装をまとっている。こちらはこういう衣服なのだろう。
「えっ、ラルさんの?」
「3番目のお姉様」
「ほほっ、弟がお世話になっております。母は違うのですが、私と姉ふたりは母も同じですの」
「ラルさんは、実質はひとりっ子なんだろ?」
「ええ、ユリアム様は、ラルジュナを産んですぐに崩御なされましたからーー。可哀想な弟ですわ。わたくし、少し前に姫を産みましたが、あの子を置いていくなど考えたくもありませんもの……」
ほぅ、とミリアムが息をはいた。すべてにおいて所作が美しい。
「それで、わたくしに何を占ってほしいのです?」
ミリアムが箸のような棒がたくさん入った筒を用意した。
「え~と、旦那さんの記憶がなくなってる部分があって、そのせいで他人に思えてしまうので、今後をどう付き合えばいいのか悩んでいます、って感じです」
「ーーヒョウマ、あなた聖女様の母親みたいね」
笑われて兵馬が顔を赤くする。
琉生斗は項垂れて口を開いた。
「ーー受け入れられないんです。他人みたいで……」
「なるほど、今後の関係性かしらーー。この中からどれでもいい、一本お引きになってーー」
琉生斗は迷いながら、何本かよりながら、一本を引く。
「ふむ。はじめからやり直せ、ですって」
「はあ!全部なかったことにすんの!?」
逆上して琉生斗は大声をあげた。
「ルート!落ちついて!ここ、後宮だから!!!」
「落ちつけるかぁ!」
思い出は、おれだけ覚えていればいいのか!
違うだろ!
「何だよ!どうせ、おれだけ悩めばいいんだ!!!」
「ーールート、落ちついて。いや、何とかなるかも……」
兵馬が考え込むように顎に手をあてる。
「まあ、占いなんてただの気休めですわ。それよりヒョウマ、わかっていますわね?」
「ーーはい」
兵馬が頭を下げた。
「何だよ?」
眉を寄せながら親友を見る。
「ルート……」
言いにくそうに彼が口を開いた。
「占いのお礼をしてくるから」
「ああ、?貴妃様にするんじゃないのか?」
「うふっ、前から皇帝陛下がヒョウマを呼びたいと仰せられててーー」
「ん?」
ミリアムの目が細められた。目の色に嫉妬が滲みだす。
「僕も、他人とサクッとやってくるよ!」
兵馬が親指を立てた。
ガダンッ!
琉生斗は椅子から落ちた。
「えっ?」
「ここは、ルートがつかってくれ」
淡々と言われ、琉生斗は慌てる。アレクセイの腕をつかんで顔を合わせた。
「ちょっと待てよ」
「どうした?」
「いや、どこ行くんだよ!」
「適当に過ごす」
強く言われ琉生斗はたじろぐ。
「少し離れよう。そのほうが思い出すかもしれない」
「アレク……」
「8月は魔蝕がない。アルカトラズもいいかもしれないな」
静かだが、内心は怒っている。
アレクセイの言動からそれがわかった。
「アレク……、おれはおまえの事が好きだ。世界一好きだ。記憶がなくてもおまえへの気持ちは変わらないーー」
「…………」
「だけど、おまえを好きだって認めてしまうのが怖いんだよ。もう、おれとの思い出がないまま、ずっとこのままなんだってーー」
「ルート……」
頭をポンポンと叩かれ、アレクセイは離宮を出て行く。
琉生斗はその背中を見送った。言葉もかけずに見送るしかなかった。
「ーー、ふっ……」
こらえていた涙があふれだす。
「だめだ、おれーー」
「………ルート…」
肩を叩かれる。
「ーー兵馬……」
心配が顔にはりついたような兵馬が、琉生斗を見ていた。
「大丈夫?ミハエルさんが、今日は休んでもいいって言ってたよーー」
「兵馬ーー。もう、おれはだめだ……」
泣きやむ事ができない。
「ーーうん。そうだよね。これから新しい思い出をつくれる、って言ったって違うよね」
「違うよ!全然違うんだから!」
「苦しいよね。殿下の事、大好きだもんね」
「うん、うん………」
「ふたりが幸せになるには、これからどうすればいいのかな?」
「ーーーおれが、我慢するしかない」
「無理なんでしょ?別れるの?」
「ひどいこと言うなぁ!」
琉生斗はクッションを兵馬にぶつけた。
「うん。それは違うよね。ーーよし、ルート出かけよう」
「行かねえ」
「行こうよ」
「行かねえ!」
「来来国に、良い占い師がいるんだ。占ってもらおうよ」
「へ?」
突然の話に、琉生斗は意表をつかれた。
「何かアドバイスをもらえるかも」
「ーーふ~ん」
興味にかられ琉生斗は出かける用意をした。
「ーー兵馬、さすがに無理じゃないのか?」
「大丈夫だよ。すみません!貴妃様にとりついでいただけませんか!?」
来来国、皇帝が住まう朱雀宮。広大な敷地に瓦葺きの赤い建物がシンメトリーに配置され、豪奢な高い建物が一番奥に見える。
その、威厳に満ちた赤い大門の前に琉生斗と兵馬はいた。
「はい。ヒョウマ殿、お通りください。転移魔法の許可書です」
門番が兵馬に書類を渡した。
「ええっ!」
ほんとに大丈夫なのか!
「ようこそいらっしゃいました。聖女様。まさかお会いできるなんて、もったいない話ですわ」
貴妃ミリアムがラルジュナに似た目元をほころばせて笑う。琉生斗が婚約お披露目会で着たような、優雅な漢服衣装をまとっている。こちらはこういう衣服なのだろう。
「えっ、ラルさんの?」
「3番目のお姉様」
「ほほっ、弟がお世話になっております。母は違うのですが、私と姉ふたりは母も同じですの」
「ラルさんは、実質はひとりっ子なんだろ?」
「ええ、ユリアム様は、ラルジュナを産んですぐに崩御なされましたからーー。可哀想な弟ですわ。わたくし、少し前に姫を産みましたが、あの子を置いていくなど考えたくもありませんもの……」
ほぅ、とミリアムが息をはいた。すべてにおいて所作が美しい。
「それで、わたくしに何を占ってほしいのです?」
ミリアムが箸のような棒がたくさん入った筒を用意した。
「え~と、旦那さんの記憶がなくなってる部分があって、そのせいで他人に思えてしまうので、今後をどう付き合えばいいのか悩んでいます、って感じです」
「ーーヒョウマ、あなた聖女様の母親みたいね」
笑われて兵馬が顔を赤くする。
琉生斗は項垂れて口を開いた。
「ーー受け入れられないんです。他人みたいで……」
「なるほど、今後の関係性かしらーー。この中からどれでもいい、一本お引きになってーー」
琉生斗は迷いながら、何本かよりながら、一本を引く。
「ふむ。はじめからやり直せ、ですって」
「はあ!全部なかったことにすんの!?」
逆上して琉生斗は大声をあげた。
「ルート!落ちついて!ここ、後宮だから!!!」
「落ちつけるかぁ!」
思い出は、おれだけ覚えていればいいのか!
違うだろ!
「何だよ!どうせ、おれだけ悩めばいいんだ!!!」
「ーールート、落ちついて。いや、何とかなるかも……」
兵馬が考え込むように顎に手をあてる。
「まあ、占いなんてただの気休めですわ。それよりヒョウマ、わかっていますわね?」
「ーーはい」
兵馬が頭を下げた。
「何だよ?」
眉を寄せながら親友を見る。
「ルート……」
言いにくそうに彼が口を開いた。
「占いのお礼をしてくるから」
「ああ、?貴妃様にするんじゃないのか?」
「うふっ、前から皇帝陛下がヒョウマを呼びたいと仰せられててーー」
「ん?」
ミリアムの目が細められた。目の色に嫉妬が滲みだす。
「僕も、他人とサクッとやってくるよ!」
兵馬が親指を立てた。
ガダンッ!
琉生斗は椅子から落ちた。
35
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる