ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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きみを忘れることなかれ 編

第121話 琉生斗は苦しむ ☆

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「おーい、ルート!」
「東堂!元気にしてるかぁ!」
「ああっ!まだまだ全然だぜ!」
 琉生斗は久しぶりに見る東堂に、顔を明るくした。
「めちゃくちゃムキムキになるわけじゃないんだ」
「おう、力で斬ってもドラゴンは斬れないんだよ。気で斬るっうのかな」
「たしかに、おまえとアレクじゃおまえのほうが腕が太いよな」
「あれは特別だろ。それよりも、ラルさんの腕、あれいいよな。すっげー、しなる」
「ふ~ん。そうなんだ」
「腕立てふせを何万回やったところで、あれにはならないんだよ。鍛え方が違うんだろうな。アス太子もずっと修行に付き合ってくれてるんだ」
 琉生斗はその言葉に眉をしかめた。

「ーーなんだよ」
「な、何でもない……」

 東堂が目を細めた。
「兵馬に聞いたな?」
「えっ?何のこと?」
「まあ、別にいいけど。他のヤツには黙っとけよ」

「本気なのか?」
「いや」
「遊びなのかぁ!」

「う~ん。魔力器官を成長させる裏技なんだよ」
「えっ?」
「ちょっとキスされただけでも、なんか感じが違ったからさ、そういう関係になればゆっくりと器官を成長させられる、って言うからその期間だけな」

 器官なだけにーー、と東堂がニカッと笑う。

「ーーそうなんだ。たしかに、魔力が前より増えた感じがする」
「だろ?秘密だぜ。けど、兵馬もやってもらってる気はするぜ。あいつも魔力増えてきてるだろ?」
「あ、そうだなーー、なんか変だもんな兵馬」

 気づいてはいたが、尋ねることはしなかった。言われてみればそうだ。兵馬は魔力が増えてきている。

「まあ、あいつは魔力がなくてもラルさんがいれば充分だろ」
「ああ。あのひとはマジにすげぇーぞ」
「殿下相手にあれだもんな。師団長や大隊長達が、いま目標にしてるぜ」
「みんな、打倒アレクなんだ」
 東堂が笑った。底抜けに明るい顔を見て琉生斗は安心した。















「ただいまー、ああ、兵馬来てたのか!」
「うん。ーー今年の夏は海水浴は無理だね」

 机の上に並べた書類を整理しながら兵馬が言った。

「そうだな……、東堂も忙しいし、セージも向こうで遊びたいみたいだしな」
「そう。じゃあ、僕、ジュナと殿下と行ってこようかな」

 琉生斗は目をパチクリとさせる。想像だけでも面白い組み合わせだがーー。

「なんだ!その三角関係は!」
「うらやましいの?」
「アレクが可哀想だろ!」
「なら、一緒に行こうよ」

「…………」
 琉生斗は返事をしなかった。
 兵馬の誘いにすぐにのらないなど、はじめてのことではないだろうか。

「ーーあのね、ルート。いまのルートは、殿下が好きなルートなの?」
「え?」
「ため息ついたり、ずっと眉を寄せてたり、それって殿下が好きなルートなの?」

 そう言われると、焦るあまり自分らしくはなかったとは思うのだが。

「ーーいや」
「ルートも殿下にばっかり望まないで、自分も変わらなきゃだめじゃないかな」

「ーーだって……」
 それが正論だとはわかっている。だが、そんな割り切れる問題ではないのだ。


「ーー違うんだよ。おれのアレクじゃないんだよ!」
「ルートのアレクだよ」
「違うって言ってるだろ!何だよ!自分はすぐに思い出してもらったからって!おれの気持ちなんか、おまえにわかるかぁ!」

「ルート……、」

 悲しそうに兵馬が目を伏せた。

「ーーそうだね、ごめんね……」
 琉生斗は乱暴に歩きながら、寝室へと向かった。


 ーー何だよ!我慢しろってか!我慢して、ヘラヘラ笑ってれば記憶が戻るのかよ!


 ベッドの上に倒れ込んで琉生斗は泣いた。


 ーー生命があったんだ、それでよかったって思わなきゃ……。


 けど、けど、けどーー。

「おれのアレクはどこに行ったんだよ……」















「……ルート…」
 その日の夜も、アレクセイは琉生斗を抱いた。愛おしいとキスをして、傷つけないように、大切に大切に抱いてくれる。

「ちょっとはめちゃくちゃに抱いて欲しい」
 琉生斗の言葉にアレクセイは目を丸くした。

「ーーひどい事をされていたのか?」
「んなわけないだろ。こっちもノリノリだ」
「そうかーー」

「何?思ってたのと違うの?」
 嘲るように笑うと、彼の目が伏せられた。美しい深い海の藍色の瞳が悲しげに揺れる。



「ーーいまの私では、ルートは愛せないのだな」





「…………」

 琉生斗は黙ってしまった。
 アレクセイにとってはそれが肯定になる事を知ってーー。わかっていたのに何も言えなかった。

「ーールート。ここに挿れてもいいか?」
 彼の指が、あの器官に触れる。彼しか触れる事ができない、神竜をはぐくむ器官だ。


 琉生斗は目を見張った。彼から顔を背けて、震える声で答えた。





「ーー嫌だ」
 それは無理だ。
 自分は最愛の夫を裏切る事になる。

 同じ人間なのに、記憶がないだけなのにーー。

 やはり、違うのだ。そこまでは許せない。


「ーーーーーーそうか……」

 答えがわかっていたような、静かな声だった。何のゆらぎもないように、耐えたのだろう。その精神力の強さ、自分にたいする気づかいは彼のままなのに。


 剣を振ってくる、とアレクセイが寝室から出ていく。消え入りそうな声だったのに、琉生斗は何の言葉もかけなかった。




「ーーアレク……、なぁ、アレクーー。おれ、どうしたらいい?」

 おまえなのに、おまえじゃないなんてーー。

「ふっ……」

 たとえ泣き明かしたところで、答えは見つからない。

 このまま諦めるしかないのだろうかーー。




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