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きみを忘れることなかれ 編
第120話 戻らない記憶 ☆
しおりを挟むもしも、時間を戻すことができるのなら、あの日に戻りたいーー。
「なんで戻らないかなー」
ラルジュナがアレクセイの頭を触りながら首を捻る。神殺しになったラルジュナは、アレクセイに直にふれながら脳内を確認している。お互いに呪われた身なので触っても大丈夫らしい。
「無理そう?」
琉生斗の顔色が悪い。
かなり思い悩んでいるのだろう。
なんせあれから一カ月経つのに、アレクセイは琉生斗の記憶を失ったままだ。
「う~ん。ここに媒体はあるんだよ、ちゃんと機能してる。ほら、キーワードであるルートを見て。見ながらそれを開けて記憶を上書きするのー」
アレクセイが黙って琉生斗を見つめている。
「ーーーーわからない」
「そう……」
ラルジュナが髪の毛をかいた。
「時間がなかったら、キーワードは同じにしたんだー、呪いの後恋人をはじめて見たとき解除する、ってー」
間違ってないよねー、と目を閉じる。
「ルート、もうちょっと我慢してねー。ボクが開けられるように術を変更するからー」
「ーーて、いうか。ラルさん凄いな。なんであの状況でそこまでできたんだよ」
単純に不思議で仕方がない。
「う~ん。ボク、大事なもの、って言われてもイマイチピンとこなかったんだよー」
「ふん?」
「だって、ルートは失くならないでしょ?で、神竜がまだいないから、アレクセイの生命でもないー。なぜなら、ルートはアレクセイ以外の子が産めないからー」
「はいはい」
兵馬ったら詳しく話してるなぁ、と琉生斗は赤面する思いだ。
「失くしたら困難ではあるけど、なんとかなるものに絞って考えたらー、頭の中の何かかなー、と賭けたわけー」
「ほへ~」
「でっ、戦闘がはじまる前に記憶を複製する記憶媒体を用意してたのー。ラヴァが呪いについて語りだしたから速攻で記憶を記憶媒体につっこんで、呪いをかけ終わると発動するようにしといたんだよー」
琉生斗は手を叩いた。凄いと思ったが凄いひとだった。
「念のため、ルートとヒョウマの記憶も複製しときましたー」
これはボクがもってますー、とラルジュナ。
「よく、記憶媒体とか思いついたよね」
「あれは、ヒョウマからパソコンとメディアの事を聞いていたからねー。向こうには良いものが多いなー」
あーでもない、こーでもない、とぶつぶつ言いながら、ラルジュナが帰っていった。
琉生斗はため息をついた。
何回ついているのかわからない。
生活に変わりはない。
むしろ、アレクセイが穏やかな顔をするようになった。悪神アルゴルの事で思うところがあったのだろう。
「ルート……」
普通にキスもする。もちろん夜の行為もしている。
キスでもすれば脳内が活性化されるんじゃない?という兵馬の言葉を信じたが、無理だったので身体を張ってみた。
思い出すことはなかった。
やり損だ。
キスからの展開の早さには、アレクセイは大喜びだったがーー。
最初など、いいのか、と何度も聞かれすぎて疲れた。
おまえによって汚れていますけど、と言うと複雑な顔をしていたがーー。その後、調子にのって毎日励むところはアレクセイだな、と思うーー。
「ルート、愛している……」
声も身体も同じなのに、記憶がないだけで別人に見える。
「おまえ、記憶が戻ったときに、浮気したって言うなよ」
「どうして?私は私だろうーー」
深くつながりながら、琉生斗は罪悪感が胸を締めていた。
「それでも嫉妬すんのがおまえなの」
「確かに、そうだな……。はじめても私なのか?」
「ぜ~んぶ、おまえだよ」
琉生斗はアレクセイにキスをした。
「そうか……。嬉しいが、悔しいな」
「何が?」
アレクセイが腰を動かす。
「あっ、あんっ………」
「知らない男に、ルートのはじめてを奪われた気持ちだ」
「ーー何だよ、それ……」
「すべてを私が欲しい、そう思う……」
「アレク……」
琉生斗はアレクセイの首に腕をまわした。
「おまえも不安なのか?」
「もやもやはしている。ただ、私が愛するひとは君だけだと私の本能が告げる」
「ーーアレクーー、大好きだよ」
「私もだ……」
愛し合いながらも、これでいいのか、という気持ちに引きずられる。
「あっ、あん!あん!あっ~!!!」
汗も身体の匂いも、すべてが同じだ。何も変わっていない。あの頃と同じ、変わらずに自分に一目惚れをしてくれた。
だが、このまま記憶が戻らないのだろうか。
あのきらきらした思い出は、彼のどこにも残っていないのかーー。
気持ちいい、とごまかしながら琉生斗は涙した。
「ーー困った問題だね。どうにかならない?ミハエルさん」
兵馬の問いに、教皇ミハエルが首を傾げた。
「全員無事だったのですよ。万々歳でしょう」
「結果だけみればね」
眉を寄せて兵馬は項垂れた。
記憶がなくともアレクセイの琉生斗へと愛は変わらない。むしろ、愛しさが増している。誰が見ても彼が琉生斗との思い出を失っているようには見えないだろう。
しかし、琉生斗は悩んでいる。このままアレクセイと一緒にいていいのかと悩んでいる。
「う~ん」
「それはそうとヒョウマ、あなたこそしばらく見ない内に、何がどうなってるんですか?」
「えっ?」
悪魔の印がバレたのだろうか。それともーー。
「ええと、ミハエルさんはフェレスさんの事を知ってるの?」
ミハエルが片眉をあげた。
「ーー気づきましたか……」
「あっ、公認の存在ですか……」
「悪魔は意外にいるんですよ。人の社会に融け込みたい悪魔も多い」
「フェレスさんも?」
「彼は悪魔の中でも高位な存在でね。いわば人質みたいなものです。彼を抑えておけば他の悪魔が国に悪さをしませんから」
「なるほど」
うまいことなっている。
「ハーベスター公爵が亡くなったら、貴方引き取りなさい」
「もう、印が付いてます」
ミハエルが目を見開いた。
「あれ?この事を言ったんじゃないの?」
「ーーヒョウマ……。貴方、女神様に身体の事を頼みましたね?」
「えっ?僕が?」
「自覚がなかったんですか……」
「あー。女神様、聞いてくださったんだーーーー」
顔を赤らめた兵馬を呆れた目で見ながら、教皇はお説教をはじめた。
「女神様が気を利かせてくださるなんて、なんと恐れ多いーー」
「いやー。ジュナが、窪みがあるけど病気?っていうからびっくりしたんだけど、そっか……」
「病気とか言いながらやる事はやってる訳ですかーー、なんと嘆かわしいーー」
「いやだなー。もうジュナったら、研究熱心なんだからーー、」
「ヒョウマ、ひとの話を聞いていますか?これからの事ですがーー」
ーージュナが、そうなりたいって思ってくれたんだ……。
喜びに浮足立ってしまった兵馬の耳には、教皇の話は入らなかったそうだ。
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