ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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ゴッドスレイヤー編

第118話 それはもう彼じゃない

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『ーー嘘だろ?オレサマが……。ーーーーーー仕方がないのか……。付与は神と悪魔の磁場内で魔法が使える事だ……。呪いは……』

 悪神が消えていく。

 声だけが、響いた。

『一番大事なものの記憶を失くす……。ざまーみろぉ!』
 笑い声とともにラヴァは消滅した。

 悪神ラヴァはひとに斬られたのだ。



 アレクセイが倒れた。ラルジュナも手にあった槍が消え、そのまま身体が倒れていく。





「アレク!」
「ジュナ!」

 ふたりは駆け寄った。

 気を失ったアレクセイとラルジュナを見て、ふたりは複雑な顔をした。

「魔カバンに入って治癒をしよう」
「あ、うん」





「ーー凄かったね」
「ああ……」
 今さらながらよく全員生きていたな、という感じだ。
「バンブーさんにお礼を言わないと」
「そうだな」


「ルート」
「何だよ……」
 兵馬は真っ青な顔色をした琉生斗を案じ、静かに話しかけた。
「殿下なら大丈夫だよ。記憶を失くしても、すぐに君の事を好きになると思うし……」
 親友を気づかいながら兵馬は言う。

「いや、それもう別人じゃん。おれのアレクじゃないだろ………」
 琉生斗が悲しげに目を伏せる。

「そうだね。でも、生きててくれたじゃない……」

 兵馬は慰めながら、顔を曇らせた。






 ラルジュナが自分を覚えていたら?

 それもまた複雑な話だよねーー、絶対覚えてそう。

 一番大事なもの、だ。
 何もひとに限った事ではない。もしかしたら国に関する記憶かもしれない。




「うっ」

「ジュナ!」
 ラルジュナのうめき声に兵馬が顔色を変える。
「大丈夫?どこか、痛い?」

「全身がーー」
 ラルジュナが兵馬を見た。

 一瞬、彼が目を瞬き、何かを考える顔をする。


「ーーヒョウマ達は大丈夫?」

 琉生斗は目を見開いた。前にいる親友の後ろ姿を、どんな目でみればいいのかわからない。

「ーー平気だよ。暗黒神殿まで戻ろう」

「うん。もう、普通の転移魔法が使えるよー」

 横になったまま、ラルジュナが手を振る。




 景色が変わった。暗黒神殿の大聖堂だ。

「早いな……」
「ジュナは凄いでしょ?」
 兵馬の声が少し震えている。

「蛇羊神様!おじゃまします!」




 祭壇の奥から石畳を這う音がした。

『やったか……』

「はい!」

『そうか……。まあ神といえど討たれるときは討たれるわな』
「つらいですか?」

『少しわな。知ってる奴が死ぬと、知らない奴よりかは何かを思うじゃろ?』
 兵馬が頷いた。

『そんなぐらいじゃ……』


 蛇羊神が好きに使えと言ってくれたので、大聖堂に布団を運び込んでアレクセイとラルジュナを寝かせる。
 安心したのかラルジュナもすぐに寝てしまった。

「ーー東堂、がんばってるかな……」
「あいつなら大丈夫だろ。アスラーンさんとはどうなんだろ」
「…………」

「何だよ」

「知らない振りできる?」
「え?何を?」
「絶対に東堂に言わない?」

「あっ、ああーー」

「あのふたり、身体の関係があるよ」








「はあ?」
 琉生斗は目を丸くして首を捻った。

「な、なんでそんな事にーー」

「何があるかわからないよね」
 兵馬が静かな声で言う。視線の先にラルジュナの顔があった。

「兵馬……」


「あっ、蛇羊神様に聞きたい事があるから、琉生斗見張りをお願い」
「ーーわかった」

 
 兵馬がいなくなり、琉生斗はしばらくの間アレクセイの顔を見ていた。部分的に焦げた髪は治癒では戻らないので、切るしかないだろう。

「すごいなぁ、アレク……」

 声に反応したのか、アレクセイの瞼が動いた。

「あ、アレク!大丈夫か!」


 アレクセイの目が開かれる。彼は警戒するようにまわりを見ていたが、最後に琉生斗の顔を見た。


「あ、、、」

 言葉が続けられない。

 まったくの他人を見る目だ。


 はじめて見たひとのような顔で、アレクセイが瞬きを繰り返した。

「えっと……、その……」
 喜んでいいのか、悲しむべきかーー。




「聖女様ですね?」
 アレクセイの言葉に、琉生斗は殴られたような衝撃を受ける。
「ーーあ、うん」

「私はアレクセイと申します。聖女様の護衛をさせていただく者です。聖女様のお名前は?」

「ーー加賀、琉生斗です……」

「ルートーー。素敵なお名前ですね」
 
 ーー何の茶番なんだよこれはーー。

 琉生斗は下を向いた。歯を食いしばる。



 どうすればいいんだよぉ!!!


「ーールート、いきなりこんな事を言うのもどうかと思うのですがーー」

「…………」

「私と結婚してください」

「…………」
 琉生斗は深くため息をついた。

「悪いけど……無理だ」

「ーーそうですか……。必ず、あなたに釣り合うような男になりますがーー」

「おれ、結婚してるの。既婚者だから」
 アレクセイが目を見張った。

「そう、なんですか……」
 声が沈む。


 琉生斗とアレクセイは沈黙した。アレクセイの表情に色が失くなっていきーー。

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