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ゴッドスレイヤー編
第118話 それはもう彼じゃない
しおりを挟む『ーー嘘だろ?オレサマが……。ーーーーーー仕方がないのか……。付与は神と悪魔の磁場内で魔法が使える事だ……。呪いは……』
悪神が消えていく。
声だけが、響いた。
『一番大事なものの記憶を失くす……。ざまーみろぉ!』
笑い声とともにラヴァは消滅した。
悪神ラヴァはひとに斬られたのだ。
アレクセイが倒れた。ラルジュナも手にあった槍が消え、そのまま身体が倒れていく。
「アレク!」
「ジュナ!」
ふたりは駆け寄った。
気を失ったアレクセイとラルジュナを見て、ふたりは複雑な顔をした。
「魔カバンに入って治癒をしよう」
「あ、うん」
「ーー凄かったね」
「ああ……」
今さらながらよく全員生きていたな、という感じだ。
「バンブーさんにお礼を言わないと」
「そうだな」
「ルート」
「何だよ……」
兵馬は真っ青な顔色をした琉生斗を案じ、静かに話しかけた。
「殿下なら大丈夫だよ。記憶を失くしても、すぐに君の事を好きになると思うし……」
親友を気づかいながら兵馬は言う。
「いや、それもう別人じゃん。おれのアレクじゃないだろ………」
琉生斗が悲しげに目を伏せる。
「そうだね。でも、生きててくれたじゃない……」
兵馬は慰めながら、顔を曇らせた。
ラルジュナが自分を覚えていたら?
それもまた複雑な話だよねーー、絶対覚えてそう。
一番大事なもの、だ。
何もひとに限った事ではない。もしかしたら国に関する記憶かもしれない。
「うっ」
「ジュナ!」
ラルジュナのうめき声に兵馬が顔色を変える。
「大丈夫?どこか、痛い?」
「全身がーー」
ラルジュナが兵馬を見た。
一瞬、彼が目を瞬き、何かを考える顔をする。
「ーーヒョウマ達は大丈夫?」
琉生斗は目を見開いた。前にいる親友の後ろ姿を、どんな目でみればいいのかわからない。
「ーー平気だよ。暗黒神殿まで戻ろう」
「うん。もう、普通の転移魔法が使えるよー」
横になったまま、ラルジュナが手を振る。
景色が変わった。暗黒神殿の大聖堂だ。
「早いな……」
「ジュナは凄いでしょ?」
兵馬の声が少し震えている。
「蛇羊神様!おじゃまします!」
祭壇の奥から石畳を這う音がした。
『やったか……』
「はい!」
『そうか……。まあ神といえど討たれるときは討たれるわな』
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兵馬が頷いた。
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「…………」
「何だよ」
「知らない振りできる?」
「え?何を?」
「絶対に東堂に言わない?」
「あっ、ああーー」
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「はあ?」
琉生斗は目を丸くして首を捻った。
「な、なんでそんな事にーー」
「何があるかわからないよね」
兵馬が静かな声で言う。視線の先にラルジュナの顔があった。
「兵馬……」
「あっ、蛇羊神様に聞きたい事があるから、琉生斗見張りをお願い」
「ーーわかった」
兵馬がいなくなり、琉生斗はしばらくの間アレクセイの顔を見ていた。部分的に焦げた髪は治癒では戻らないので、切るしかないだろう。
「すごいなぁ、アレク……」
声に反応したのか、アレクセイの瞼が動いた。
「あ、アレク!大丈夫か!」
アレクセイの目が開かれる。彼は警戒するようにまわりを見ていたが、最後に琉生斗の顔を見た。
「あ、、、」
言葉が続けられない。
まったくの他人を見る目だ。
はじめて見たひとのような顔で、アレクセイが瞬きを繰り返した。
「えっと……、その……」
喜んでいいのか、悲しむべきかーー。
「聖女様ですね?」
アレクセイの言葉に、琉生斗は殴られたような衝撃を受ける。
「ーーあ、うん」
「私はアレクセイと申します。聖女様の護衛をさせていただく者です。聖女様のお名前は?」
「ーー加賀、琉生斗です……」
「ルートーー。素敵なお名前ですね」
ーー何の茶番なんだよこれはーー。
琉生斗は下を向いた。歯を食いしばる。
どうすればいいんだよぉ!!!
「ーールート、いきなりこんな事を言うのもどうかと思うのですがーー」
「…………」
「私と結婚してください」
「…………」
琉生斗は深くため息をついた。
「悪いけど……無理だ」
「ーーそうですか……。必ず、あなたに釣り合うような男になりますがーー」
「おれ、結婚してるの。既婚者だから」
アレクセイが目を見張った。
「そう、なんですか……」
声が沈む。
琉生斗とアレクセイは沈黙した。アレクセイの表情に色が失くなっていきーー。
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