127 / 236
ゴッドスレイヤー編
第117話 悪神ラヴァ
しおりを挟むアレクセイは涙を拭いて剣をかまえた。
表情はなく、死人のような顔で一気に剣をふるった。
きらめくような一閃が、アルゴルの喉元を斬り裂きー。
『ーーありがとよ、ライト。いい斬れ味だ……』
アルゴルの身体が光りだす。
ガッ!
アルゴルはアレクセイの背中に鉤爪で傷を入れた。痛みは感じないように、だが、傷が治ることはないように、細心の注意をはらってーー。
『魔力無限の付与だ、ありがたく受け取れ。人肌にさわれなくなる呪いつきだが、おまえにはちょうどいい。おまえ、ちょっと顔が良すぎるからな』
面白そうにアルゴルが言う。
『変なのが寄れなくていいだろうよ。まあ、心配するな。大丈夫だ、十年後のおまえは笑ってる』
「ーー笑わない」
『いいや、笑ってる。これ以上の幸せなんかないぐらいに。だから、それまでは生き抜け。そのときがきて、まだ死にたかったら死ね』
「そんな日は来ない」
『頑固だな。じゃあな、ライト。おまえのおかげで楽しかった。久しぶりに神に戻れた気がした』
「ーーありがとうーー、アルゴル」
涙で言葉はぐしゃぐしゃにしか聞こえなかっただろう。
『ああ。生まれかわる事ができたら、また会おう』
「ーー、またーー」
アルゴルの転移魔法で、アレクセイはアンダーソニー達の元に転移した。
ふたりの喜ぶ顔にほっとする自分がいた。
アルゴル、約束は守る。
十年は生きてみるからーー。
…………。
「アレク……」
琉生斗は泣きながらアレクセイを抱きしめていた。
「優しい神だった……」
「うん……」
声が涙に滲んでいる。
「斬りたくなかった……」
「うん……、うん、そうだよな……。いい神様だったんだな。優しすぎるところは、アレクとそっくりだな……」
寄り添うふたりから離れた場所で、ラルジュナは周囲を警戒していた。
「ーーヒョウマ、もしものときはわかってるね?」
「うん。ルートを連れて逃げるよ」
「ーー近づいてきてる。凄い圧だ」
ラルジュナは額の汗を拭った。
「悪神ラヴァかなーー。この辺りで襲ってくるなら間違いない、って蛇羊神様は言ってたけど……」
「魔法がどれだけ使えるかーー。やるしかないけど、アレクセイ!わかってる!?」
「ーーああ」
琉生斗を離し、アレクセイが剣を抜いた。
「ルート!こっち!」
「あ、アレク!」
琉生斗はアレクセイにキスをした。彼が頷く。
ドンッ!!!
『ーーおっ!人間がいるぞ!何年ぶりにみたのか!美味そうだな』
身がすくむ。
逃げだしたいーー。
神々しくなくとも、威厳ある姿。
神堕ちの竜が黒い大地に降り立った。
色は赤に近い黒だ。鱗は輝きを失ってはいるが、しっかりとした形で、三本の尻尾があった。
「名を問うてもいいか?」
アレクセイの声が響いた。
『はあ?生意気な人間だな。オレサマをどなた様だと思ってんだ?』
「…………」
『けっ、つまんねぇガキだな。ラヴァだよ。覚えとけ、これからオレサマの腹で溶けるまで暮らすんだからな!』
ラヴァの口から火の渦が放射された。
アレクセイの前で火はとまる。
『はあ?』
ラヴァめがけて、雷の槍が無数に飛んでいく。
『人間が、ここで魔法を?』
信じられないものを見る目でラヴァが周囲をみた。だが、自身に突っ込んできたアレクセイに視線を戻す。剣を振るわれ、目を見開く。
人間風情が自分の姿に怯まないとはーー!!!
『おい!おまえ、神殺しかぁ!』
ラヴァの火が激しくなる。
だが、火はアレクセイに届く前にラルジュナの結界で掻き消されていった。アレクセイは雷の槍に紛れてラヴァの喉元に斬り込んだが、鉤爪で受けとめられる。
「アレクセイ!無理に突っ込まない!」
鉤爪を突き返し、アレクセイは素早く剣を振った。硬い、わかっていた事だが硬すぎる。
手応えのなさに下がり、尻尾と鉤爪の攻撃を避けた。ラルジュナの魔法が目眩ましになって、向こうからは自分の姿が見にくいだろう。
「凄いな……」
この大陸で魔力を練るとはーー、古代魔法なら撃てるというが、アレクセイには魔力を練る事ができない。やり方を聞いても無理だろう。
しかし、いつまでも保たないはずーー。
「全方位!」
ラルジュナが叫んだ。
鉤爪を振り払いアレクセイは上に飛んだ。
四方から銀色に輝く巨大な槍がラヴァに突き刺さる。
『グワッ!!!』
アレクセイは上からラヴァの喉元をめがけ斬り込んでいく。深く斬ろうと突くが、剣が弾かれる。ラヴァの身体を蹴って後ろに下がり、ラルジュナと視線を合わせた。
「比較的、銀の槍が効いてる気がする」
「ああ」
「ヒョウマが悪魔は銀が嫌いだと言ってたけど、悪神にも有効かもね」
「よく知っているな」
「そうでしょ!」
ラルジュナが空中に魔法陣を顕現させた。無数に広がる魔法陣から、銀の矢が走る。
「ばてるなよ」
「そっちこそ!さっさと斬れよ!」
稲妻のような疾さでアレクセイが突っ込んだ。
『クソがぁ!』
ラヴァが黒い炎を噴いた。
「くっ!」
アレクセイの顔がゆがむ。頬が焼ける。
「毒か!」
毒消しの魔法を放つが、ラヴァの威力のほうが上だ。皮膚の焼ける臭いに、琉生斗は目を見開いた。
「ルート!治癒は!」
「あっ、はい!」
兵馬に背中を叩かれ我に返った琉生斗は、呼吸をととのえる。
できないかもしれない。
でも、やるしかない。
「聖女の治癒」
女神様!お願い!アレクを助けてくれーー!
少しずつアレクセイの身体が、元に戻っていく。
「できたじゃない!」
「自然治癒じゃないかな?」
「そんな事ないよ!ルートの力だよ!」
『聖女!ここで治癒が使えるとは、おまえ聖女だな!』
「えっ!」
ラヴァが琉生斗に目線を向けた。
『オレサマの国は聖女が浄化に来なかった!だから滅んだ!おまえ、死んで償え!』
「い、いつの話だ!」
『百年前だ!忘れたか!』
おれではない。
だが、そう言える雰囲気ではないーー。
「それはルートじゃありません!」
「言うんだ……」
すごいなこのひと、という目で琉生斗は兵馬を見る。
『聖女なら同じだぁ!』
業炎を撒き散らし、ラヴァが吠えた。
「あっ!」
アレクセイは目を見張った。
このままではルートが!
「よっと!」
兵馬がバンブーの盾を使った。魔科学道具の盾で、一回につき30秒しかもたないが効果は抜群の盾だ。
業炎が盾にあたるのを感じる。琉生斗を抱きしめながら、兵馬は盾をしっかりと持つ。
聖女を睨みながら舌打ちをしたラヴァだが、それは命取りの行為だった。
強烈な光りが、身体に突き刺さったのだ。
『なっ!』
剣士からは目をそらしていない。魔法も決定打にはならなかったはずーー。
なら、これは!
凶霊の槍がラヴァの胴体を貫いた。ラルジュナが荒く呼吸を繰り返し、ラヴァに槍を突き刺したままアレクセイを呼ぶ。
「斬れぇ!」
「ーーああ」
『待て!いいのかぁ!!!記憶を失くすーーー』
最後の言葉は掻き消される。
アレクセイの一閃がラヴァの喉元を斬り飛ばした。
54
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【陽気な庶民✕引っ込み思案の御曹司】
これまで何人の女性を相手にしてきたか数えてもいない生田雅紀(いくたまさき)は、整った容姿と人好きのする性格から、男女問わず常に誰かしらに囲まれて、暇をつぶす相手に困らない生活を送っていた。
それゆえ過去に囚われることもなく、未来のことも考えず、だからこそ生きている実感もないままに、ただただ楽しむだけの享楽的な日々を過ごしていた。
そんな日々が彼に出会って一変する。
自分をも凌ぐ美貌を持つだけでなく、スラリとした長身とスタイルの良さも傘にせず、御曹司であることも口重く言うほどの淑やかさを持ちながら、伏し目がちにおどおどとして、自信もなく気弱な男、久世透。
自分のような人間を相手にするレベルの人ではない。
そのはずが、なにやら友情以上の何かを感じてならない。
というか、自分の中にこれまで他人に抱いたことのない感情が見え隠れし始めている。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻に関する部分です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!
こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?
神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。
白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ!
主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。
※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる