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ゴッドスレイヤー編
第117話 悪神ラヴァ
しおりを挟むアレクセイは涙を拭いて剣をかまえた。
表情はなく、死人のような顔で一気に剣をふるった。
きらめくような一閃が、アルゴルの喉元を斬り裂きー。
『ーーありがとよ、ライト。いい斬れ味だ……』
アルゴルの身体が光りだす。
ガッ!
アルゴルはアレクセイの背中に鉤爪で傷を入れた。痛みは感じないように、だが、傷が治ることはないように、細心の注意をはらってーー。
『魔力無限の付与だ、ありがたく受け取れ。人肌にさわれなくなる呪いつきだが、おまえにはちょうどいい。おまえ、ちょっと顔が良すぎるからな』
面白そうにアルゴルが言う。
『変なのが寄れなくていいだろうよ。まあ、心配するな。大丈夫だ、十年後のおまえは笑ってる』
「ーー笑わない」
『いいや、笑ってる。これ以上の幸せなんかないぐらいに。だから、それまでは生き抜け。そのときがきて、まだ死にたかったら死ね』
「そんな日は来ない」
『頑固だな。じゃあな、ライト。おまえのおかげで楽しかった。久しぶりに神に戻れた気がした』
「ーーありがとうーー、アルゴル」
涙で言葉はぐしゃぐしゃにしか聞こえなかっただろう。
『ああ。生まれかわる事ができたら、また会おう』
「ーー、またーー」
アルゴルの転移魔法で、アレクセイはアンダーソニー達の元に転移した。
ふたりの喜ぶ顔にほっとする自分がいた。
アルゴル、約束は守る。
十年は生きてみるからーー。
…………。
「アレク……」
琉生斗は泣きながらアレクセイを抱きしめていた。
「優しい神だった……」
「うん……」
声が涙に滲んでいる。
「斬りたくなかった……」
「うん……、うん、そうだよな……。いい神様だったんだな。優しすぎるところは、アレクとそっくりだな……」
寄り添うふたりから離れた場所で、ラルジュナは周囲を警戒していた。
「ーーヒョウマ、もしものときはわかってるね?」
「うん。ルートを連れて逃げるよ」
「ーー近づいてきてる。凄い圧だ」
ラルジュナは額の汗を拭った。
「悪神ラヴァかなーー。この辺りで襲ってくるなら間違いない、って蛇羊神様は言ってたけど……」
「魔法がどれだけ使えるかーー。やるしかないけど、アレクセイ!わかってる!?」
「ーーああ」
琉生斗を離し、アレクセイが剣を抜いた。
「ルート!こっち!」
「あ、アレク!」
琉生斗はアレクセイにキスをした。彼が頷く。
ドンッ!!!
『ーーおっ!人間がいるぞ!何年ぶりにみたのか!美味そうだな』
身がすくむ。
逃げだしたいーー。
神々しくなくとも、威厳ある姿。
神堕ちの竜が黒い大地に降り立った。
色は赤に近い黒だ。鱗は輝きを失ってはいるが、しっかりとした形で、三本の尻尾があった。
「名を問うてもいいか?」
アレクセイの声が響いた。
『はあ?生意気な人間だな。オレサマをどなた様だと思ってんだ?』
「…………」
『けっ、つまんねぇガキだな。ラヴァだよ。覚えとけ、これからオレサマの腹で溶けるまで暮らすんだからな!』
ラヴァの口から火の渦が放射された。
アレクセイの前で火はとまる。
『はあ?』
ラヴァめがけて、雷の槍が無数に飛んでいく。
『人間が、ここで魔法を?』
信じられないものを見る目でラヴァが周囲をみた。だが、自身に突っ込んできたアレクセイに視線を戻す。剣を振るわれ、目を見開く。
人間風情が自分の姿に怯まないとはーー!!!
『おい!おまえ、神殺しかぁ!』
ラヴァの火が激しくなる。
だが、火はアレクセイに届く前にラルジュナの結界で掻き消されていった。アレクセイは雷の槍に紛れてラヴァの喉元に斬り込んだが、鉤爪で受けとめられる。
「アレクセイ!無理に突っ込まない!」
鉤爪を突き返し、アレクセイは素早く剣を振った。硬い、わかっていた事だが硬すぎる。
手応えのなさに下がり、尻尾と鉤爪の攻撃を避けた。ラルジュナの魔法が目眩ましになって、向こうからは自分の姿が見にくいだろう。
「凄いな……」
この大陸で魔力を練るとはーー、古代魔法なら撃てるというが、アレクセイには魔力を練る事ができない。やり方を聞いても無理だろう。
しかし、いつまでも保たないはずーー。
「全方位!」
ラルジュナが叫んだ。
鉤爪を振り払いアレクセイは上に飛んだ。
四方から銀色に輝く巨大な槍がラヴァに突き刺さる。
『グワッ!!!』
アレクセイは上からラヴァの喉元をめがけ斬り込んでいく。深く斬ろうと突くが、剣が弾かれる。ラヴァの身体を蹴って後ろに下がり、ラルジュナと視線を合わせた。
「比較的、銀の槍が効いてる気がする」
「ああ」
「ヒョウマが悪魔は銀が嫌いだと言ってたけど、悪神にも有効かもね」
「よく知っているな」
「そうでしょ!」
ラルジュナが空中に魔法陣を顕現させた。無数に広がる魔法陣から、銀の矢が走る。
「ばてるなよ」
「そっちこそ!さっさと斬れよ!」
稲妻のような疾さでアレクセイが突っ込んだ。
『クソがぁ!』
ラヴァが黒い炎を噴いた。
「くっ!」
アレクセイの顔がゆがむ。頬が焼ける。
「毒か!」
毒消しの魔法を放つが、ラヴァの威力のほうが上だ。皮膚の焼ける臭いに、琉生斗は目を見開いた。
「ルート!治癒は!」
「あっ、はい!」
兵馬に背中を叩かれ我に返った琉生斗は、呼吸をととのえる。
できないかもしれない。
でも、やるしかない。
「聖女の治癒」
女神様!お願い!アレクを助けてくれーー!
少しずつアレクセイの身体が、元に戻っていく。
「できたじゃない!」
「自然治癒じゃないかな?」
「そんな事ないよ!ルートの力だよ!」
『聖女!ここで治癒が使えるとは、おまえ聖女だな!』
「えっ!」
ラヴァが琉生斗に目線を向けた。
『オレサマの国は聖女が浄化に来なかった!だから滅んだ!おまえ、死んで償え!』
「い、いつの話だ!」
『百年前だ!忘れたか!』
おれではない。
だが、そう言える雰囲気ではないーー。
「それはルートじゃありません!」
「言うんだ……」
すごいなこのひと、という目で琉生斗は兵馬を見る。
『聖女なら同じだぁ!』
業炎を撒き散らし、ラヴァが吠えた。
「あっ!」
アレクセイは目を見張った。
このままではルートが!
「よっと!」
兵馬がバンブーの盾を使った。魔科学道具の盾で、一回につき30秒しかもたないが効果は抜群の盾だ。
業炎が盾にあたるのを感じる。琉生斗を抱きしめながら、兵馬は盾をしっかりと持つ。
聖女を睨みながら舌打ちをしたラヴァだが、それは命取りの行為だった。
強烈な光りが、身体に突き刺さったのだ。
『なっ!』
剣士からは目をそらしていない。魔法も決定打にはならなかったはずーー。
なら、これは!
凶霊の槍がラヴァの胴体を貫いた。ラルジュナが荒く呼吸を繰り返し、ラヴァに槍を突き刺したままアレクセイを呼ぶ。
「斬れぇ!」
「ーーああ」
『待て!いいのかぁ!!!記憶を失くすーーー』
最後の言葉は掻き消される。
アレクセイの一閃がラヴァの喉元を斬り飛ばした。
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