ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
125 / 235
ゴッドスレイヤー編

第115話 琉生斗の不安

しおりを挟む

「ありがとうございます!蛇羊神様!」

『帰るときにまた寄っておくれ。約束じゃぞ』
 兵馬と蛇羊神が古くからの知人のように別れを惜しむ。

「なんでそんなに仲良くなってるの?」
「ルート達ががんばってる間に、色々話ができたよ。悪神ラヴァのいる場所も聞いたから」

「ーーごめん、がんばってて」

 素直に謝る。もちろん、露天風呂ではしていない。借りた部屋で、愛の行為に励んでしまった。
   

 ーーだってさ……。



「不安だろうから仕方ないよね」

「ーーまあな……」


 やらなきゃこの先が詰むとわかっていても、不安がつきまとう。



「ジュナが転移魔法が使えるみたいだから全滅にはならないと思うよ。無理そうなら、暗黒神殿に戻ってもいいって蛇羊神様が言ってたし」

「えっ?」
 驚いて親友を見るアレクセイの顔が、クリステイルによく似ている。
「古代魔法の転移メタスターシスなら可能みたい」
「ならば、」
重複オーバーラップも使えそうだから、ボクがひたすら古代魔法を撃つから、アレクセイは剣でなんとか弱らせてねー」
「ああ」
「トドメはひとりで刺さないでよー」

 アレクセイの表情が曇る。

「おまえはそれでいいのか?」

 じっとラルジュナを見つめた。


「ああ。おまえこそ無理なら言えよ」

 挑発するようなラルジュナに、兵馬が倒れた。


「ーーカッコいい」
「優等生が不良に弱いってほんとなんだな(町子情報)」
 琉生斗は舌打ちしながらラルジュナをみる。
 




 それにしてもーー。

 アレクセイに元気がないーー。

 少しずつ、自分の事を話してはくれているのだがーー。











「方角はあってると思うんだけど、景色に変わりはないね」
「ここで方向感覚が狂わないって、ヒョウマどうなってるのー?」

 ラルジュナも顔色が悪い。

「ルート、顔真っ青だよ。休憩しよう」
「ーーうん。ごめんな」 
 琉生斗はその場に座った。兵馬が魔カバンから水を取り出した。

「レモン水だよ。アス王太子の庭の木に生えてるレモンを搾ったから、女神様の加護があるみたい」
「ーー愛の加護があってもなあ」
 文句を言いながらも飲むと、身体がしゃきっとしたような気がする。
「美味しい~!すっきりする~!」
「ジュナと殿下も」
 兵馬が甲斐甲斐しく世話を焼く。
「ありがとー」
「ああ……」

「この先を歩くと、岩山が見えてくるみたいなんだけど、最近その辺りで暴れていたみたい」
「岩山……」
「ん?どうした?」
 アレクセイがどこか遠くをみるように、ぼんやりした目をした。


「岩山に、あの悪神はいた……」
「アレク?」
「名は、アルゴルーー」

 何かに取り憑かれたように話すアレクセイを、琉生斗は抱きしめた。
「大丈夫だから、な?大丈夫だからーー」

「…………」
 アレクセイの表情は堅いままだった。


 
「ーージュナは聞いたことあるの?」
 ラルジュナがまばたきをした。
「よく、知らないんだー」

 嘘だ、とは思ったが兵馬は追及しなかった。誰にでも言いたくないことはある。

 大地の空気が少し変わる。
 先に草がちらほらと見え、細い木が立っているのがわかった。


 琉生斗達とは少し離れながら兵馬とラルジュナは歩いていた。
「景色の感じが変わってきたね」 
 兵馬がラルジュナに話しかける。

「中央のほうが空気がひどいんじゃないんだー」
 ちょっとましー、とラルジュナが言う。
「緑って大事だね」
「それはそうだよー」
「バッカイアも緑地公園が多いよね」
「土地が余ってるなら公園作ろう、ってねー」
「ジュナが作ったんだ」
「まあねー」
「ジュナは何でもできるね」
「それは否定しないー」
 兵馬は笑った。

「でも、それもよくなかったのかもー」
「…………」
「可愛げがなかったんだろうなー」
「完璧を望まれる存在なのに、難しいね」
「う~ん。やっぱり上にたつ人間てさ、何でもできるひとより、そのひとの為に何でもやってあげたい、ってひとじゃないと無理なのかもねー」
「あ……」
「ヒョウマだって、いまアスラーンのこと考えたでしょー?あいつぐらいわがままじゃないと、王者ってだめなのかもよー」

 それはあるかも、と兵馬は腑に落ちる思いだ。

「ボクね……」
「うん?」
「こう見えてパパに何かをお願いしたことないんだー」
 兵馬は目を丸くした。
「全部パパが勝手にくれるのー、服も宝石もいらないのにたくさんくれるんだよー。ボク、自分で好きなもの探したいのにー」

「お母さんがいないから、心配してたんだね」
 ラルジュナの手が兵馬の手をつかんだ。兵馬も自然に彼に身を寄せる。

「ーーパパに欲しいって言ったの、ヒョウマだけだ」



 兵馬は息をとめた。



「他には何もいらない」



 彼の真剣な眼差しに見つめられ、兵馬は真っ赤になった顔を背けようとした。

「ーーだけどいまは大事だって思わないほうがいいねー」
 ラルジュナがため息をついた。オレンジに近い金髪をかきながら、顔をしかめる。

「あ……」

「自分の大事なもの、って何を指すのか。自分の身体なのか、恋人なのか、財産なのかーー」

「…………」

「恋人だったら、斬れないな」


 兵馬はラルジュナにキスをした。彼の唇が少し震えている。


 これから、悪神を斬るのだ。

 ひとの身で、なしてはならない神殺しをしなければならないのだ。


 ーー怖いなんてものじゃないよね。


 兵馬は唇を離し、かける言葉を考えた。


「ーーまだ、離れないで」
 離した身を咎められる。彼の背中を撫でながら兵馬は言った。

「時空竜の女神様はルートに不利な事は言われないよ」

「ーーヒョウマはわからないってこと?」
「ルートが生きてたら、蘇生は可能だからね」
「身体が残ればでしょ?反転インヴァートも万能じゃないよ。腕がないならないままだろうし、臓器がないならすぐ死ぬよ」
 兵馬は目を見張る。

 そうか、身体がないと無理なのか。


 だけどーー。

「ーー大丈夫だよ。ジュナ。何があっても僕がなんとかするから」
「ヒョウマ……」

「身体が不自由になっても、絶対に治せる道を探すよ。後は、う~ん。ジュナがばかになっても、僕は大丈夫!ちゃんと、面倒みるから!」
  

「ぷっ」
 ラルジュナが吹きだした。
「バカ、って……」

「だって、ジュナ、頭も凄いから……」

「うん。そうだよねー。ーーそうか、ひとつーー」

 かけておこうかな……。

「何?」
「何でもないよー」

 にやりとラルジュナが笑った。

 
 










 岩山の麓につくと、アレクセイがすたすたと歩きだした。
「あ、アレク!」
 琉生斗の声にも反応せずに辺りを見まわす。

「殿下、どうしたの?」
「わからない。急にーー」

「ーーもしかしたら、見覚えがあるのかもー」
 ラルジュナのつぶやきに琉生斗はハッとなる。

「そうか……。3年ぐらい、住んでんだよな」

「うんー。でも、悪くはなかったみたいー」
 ラルジュナの言葉に、琉生斗は眉根を寄せた。
「えっ?」



「ちょっとしか話してくれなかったけど、助けてくれた悪神がいたみたいでねー」

「えっ!あ、アレク!どこ行くんだ!」
 岩山の陰に入ったアレクセイを追って、琉生斗は走った。



「アレク!」

「ーールート」
 懐かしいものを見るような目で、アレクセイが立っていた。その先に、朽ちた小屋のようなものがある。

「なんだ、その、家か?」
 尋ねるとアレクセイが頷いた。


「そうだ……。ここで私は悪神と暮らしていたーー」
「ええっ!」
 
「悪神と暮らしてたの?」
 兵馬の目が丸くなる。

「アルゴルーー、私の生命の恩人だ」



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

エルフの国の取り替えっ子は、運命に気づかない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
  エルフの国の王子として生まれたマグノリアンは人間の種族。そんな取り替えっ子の彼は、満月の夜に水の向こうに人間の青年と出会う。満月の夜に会う様になった彼と、何処か満たされないものを感じていたマグノリアンは距離が近づいていく。 エルフの夜歩き(恋の時間※)で一足飛びに大人になるマグノリアンは青年に心を引っ張られつつも、自分の中のエルフの部分に抗えない。そんな矢先に怪我で記憶を一部失ったマグノリアンは青年の事を忘れてしまい、一方で前世の記憶を得てしまった。  18歳になった人間のマグノリアンは、父王の計らいで人間の国へ。青年と再開するも記憶を失ったマグノリアンは彼に気づかない。 人間の国の皇太子だった青年とマグノリアン、そして第二王子や幼馴染のエルフなど、彼らの思惑が入り乱れてマグノリアンの初恋の行方は?  

処理中です...