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ゴッドスレイヤー編
第115話 琉生斗の不安
しおりを挟む「ありがとうございます!蛇羊神様!」
『帰るときにまた寄っておくれ。約束じゃぞ』
兵馬と蛇羊神が古くからの知人のように別れを惜しむ。
「なんでそんなに仲良くなってるの?」
「ルート達ががんばってる間に、色々話ができたよ。悪神ラヴァのいる場所も聞いたから」
「ーーごめん、がんばってて」
素直に謝る。もちろん、露天風呂ではしていない。借りた部屋で、愛の行為に励んでしまった。
ーーだってさ……。
「不安だろうから仕方ないよね」
「ーーまあな……」
やらなきゃこの先が詰むとわかっていても、不安がつきまとう。
「ジュナが転移魔法が使えるみたいだから全滅にはならないと思うよ。無理そうなら、暗黒神殿に戻ってもいいって蛇羊神様が言ってたし」
「えっ?」
驚いて親友を見るアレクセイの顔が、クリステイルによく似ている。
「古代魔法の転移なら可能みたい」
「ならば、」
「重複も使えそうだから、ボクがひたすら古代魔法を撃つから、アレクセイは剣でなんとか弱らせてねー」
「ああ」
「トドメはひとりで刺さないでよー」
アレクセイの表情が曇る。
「おまえはそれでいいのか?」
じっとラルジュナを見つめた。
「ああ。おまえこそ無理なら言えよ」
挑発するようなラルジュナに、兵馬が倒れた。
「ーーカッコいい」
「優等生が不良に弱いってほんとなんだな(町子情報)」
琉生斗は舌打ちしながらラルジュナをみる。
それにしてもーー。
アレクセイに元気がないーー。
少しずつ、自分の事を話してはくれているのだがーー。
「方角はあってると思うんだけど、景色に変わりはないね」
「ここで方向感覚が狂わないって、ヒョウマどうなってるのー?」
ラルジュナも顔色が悪い。
「ルート、顔真っ青だよ。休憩しよう」
「ーーうん。ごめんな」
琉生斗はその場に座った。兵馬が魔カバンから水を取り出した。
「レモン水だよ。アス王太子の庭の木に生えてるレモンを搾ったから、女神様の加護があるみたい」
「ーー愛の加護があってもなあ」
文句を言いながらも飲むと、身体がしゃきっとしたような気がする。
「美味しい~!すっきりする~!」
「ジュナと殿下も」
兵馬が甲斐甲斐しく世話を焼く。
「ありがとー」
「ああ……」
「この先を歩くと、岩山が見えてくるみたいなんだけど、最近その辺りで暴れていたみたい」
「岩山……」
「ん?どうした?」
アレクセイがどこか遠くをみるように、ぼんやりした目をした。
「岩山に、あの悪神はいた……」
「アレク?」
「名は、アルゴルーー」
何かに取り憑かれたように話すアレクセイを、琉生斗は抱きしめた。
「大丈夫だから、な?大丈夫だからーー」
「…………」
アレクセイの表情は堅いままだった。
「ーージュナは聞いたことあるの?」
ラルジュナがまばたきをした。
「よく、知らないんだー」
嘘だ、とは思ったが兵馬は追及しなかった。誰にでも言いたくないことはある。
大地の空気が少し変わる。
先に草がちらほらと見え、細い木が立っているのがわかった。
琉生斗達とは少し離れながら兵馬とラルジュナは歩いていた。
「景色の感じが変わってきたね」
兵馬がラルジュナに話しかける。
「中央のほうが空気がひどいんじゃないんだー」
ちょっとましー、とラルジュナが言う。
「緑って大事だね」
「それはそうだよー」
「バッカイアも緑地公園が多いよね」
「土地が余ってるなら公園作ろう、ってねー」
「ジュナが作ったんだ」
「まあねー」
「ジュナは何でもできるね」
「それは否定しないー」
兵馬は笑った。
「でも、それもよくなかったのかもー」
「…………」
「可愛げがなかったんだろうなー」
「完璧を望まれる存在なのに、難しいね」
「う~ん。やっぱり上にたつ人間てさ、何でもできるひとより、そのひとの為に何でもやってあげたい、ってひとじゃないと無理なのかもねー」
「あ……」
「ヒョウマだって、いまアスラーンのこと考えたでしょー?あいつぐらいわがままじゃないと、王者ってだめなのかもよー」
それはあるかも、と兵馬は腑に落ちる思いだ。
「ボクね……」
「うん?」
「こう見えてパパに何かをお願いしたことないんだー」
兵馬は目を丸くした。
「全部パパが勝手にくれるのー、服も宝石もいらないのにたくさんくれるんだよー。ボク、自分で好きなもの探したいのにー」
「お母さんがいないから、心配してたんだね」
ラルジュナの手が兵馬の手をつかんだ。兵馬も自然に彼に身を寄せる。
「ーーパパに欲しいって言ったの、ヒョウマだけだ」
兵馬は息をとめた。
「他には何もいらない」
彼の真剣な眼差しに見つめられ、兵馬は真っ赤になった顔を背けようとした。
「ーーだけどいまは大事だって思わないほうがいいねー」
ラルジュナがため息をついた。オレンジに近い金髪をかきながら、顔をしかめる。
「あ……」
「自分の大事なもの、って何を指すのか。自分の身体なのか、恋人なのか、財産なのかーー」
「…………」
「恋人だったら、斬れないな」
兵馬はラルジュナにキスをした。彼の唇が少し震えている。
これから、悪神を斬るのだ。
ひとの身で、なしてはならない神殺しをしなければならないのだ。
ーー怖いなんてものじゃないよね。
兵馬は唇を離し、かける言葉を考えた。
「ーーまだ、離れないで」
離した身を咎められる。彼の背中を撫でながら兵馬は言った。
「時空竜の女神様はルートに不利な事は言われないよ」
「ーーヒョウマはわからないってこと?」
「ルートが生きてたら、蘇生は可能だからね」
「身体が残ればでしょ?反転も万能じゃないよ。腕がないならないままだろうし、臓器がないならすぐ死ぬよ」
兵馬は目を見張る。
そうか、身体がないと無理なのか。
だけどーー。
「ーー大丈夫だよ。ジュナ。何があっても僕がなんとかするから」
「ヒョウマ……」
「身体が不自由になっても、絶対に治せる道を探すよ。後は、う~ん。ジュナがばかになっても、僕は大丈夫!ちゃんと、面倒みるから!」
「ぷっ」
ラルジュナが吹きだした。
「バカ、って……」
「だって、ジュナ、頭も凄いから……」
「うん。そうだよねー。ーーそうか、ひとつーー」
かけておこうかな……。
「何?」
「何でもないよー」
にやりとラルジュナが笑った。
岩山の麓につくと、アレクセイがすたすたと歩きだした。
「あ、アレク!」
琉生斗の声にも反応せずに辺りを見まわす。
「殿下、どうしたの?」
「わからない。急にーー」
「ーーもしかしたら、見覚えがあるのかもー」
ラルジュナのつぶやきに琉生斗はハッとなる。
「そうか……。3年ぐらい、住んでんだよな」
「うんー。でも、悪くはなかったみたいー」
ラルジュナの言葉に、琉生斗は眉根を寄せた。
「えっ?」
「ちょっとしか話してくれなかったけど、助けてくれた悪神がいたみたいでねー」
「えっ!あ、アレク!どこ行くんだ!」
岩山の陰に入ったアレクセイを追って、琉生斗は走った。
「アレク!」
「ーールート」
懐かしいものを見るような目で、アレクセイが立っていた。その先に、朽ちた小屋のようなものがある。
「なんだ、その、家か?」
尋ねるとアレクセイが頷いた。
「そうだ……。ここで私は悪神と暮らしていたーー」
「ええっ!」
「悪神と暮らしてたの?」
兵馬の目が丸くなる。
「アルゴルーー、私の生命の恩人だ」
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