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ゴッドスレイヤー編
第113話 神堕ちの竜がいく
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息苦しい中を進み、枯れた木もない場所にでる。
「生き物が何にもいない」
羽虫はおろか、地面を這う虫さえも見あたらない。
「そうだな。私が前に落とされた場所には、多少の草木があった。それで、生き延びる事ができたのだが……」
感慨深げなアレクセイを案じながら、琉生斗は彼の腕をつかんだ。アレクセイの目元に優しさが滲む。
「悪神もどこにいるのー?って感じだねー」
ラルジュナが魔力を練ろうとした。
「う~んー。うまくできないー」
それでも魔法陣があらわれる。
「ーーすごいな」
アレクセイが友を褒めた。
「でしょー?結界は張れるかもー」
ラルジュナの様子を見て兵馬が疑問を口にした。
「でも、その悪神の付与が、神と悪魔の磁場内で魔法が使える、なんでしょ?その悪神がいたら魔法は使えないんじゃないの?」
「どうだろう。蟹の悪神は攻撃が斬るばかりだったが、付与は自然治癒だ」
「付与は、悪神の能力と関係ないの?」
「そのような気はするが……」
「殿下、前に時空竜の女神様から傷を受けたときは、自然治癒ができなかったの?」
兵馬の問いにアレクセイは首を振った。
「火山のときと同じで、治癒が間に合わないのだ」
「あー、傷が塞がらなかったんだー」
ラルジュナが眉をしかめた。
「そうだ。治癒と傷がちょうどせめぎ合ってる、という状態だった。だが、あれは治癒があったから回復が遅れた」
「ふ~ん。女神様には目的があったのに、アレクセイの自然治癒が邪魔したのー?」
「女神様の爪が心臓に向かうのを私の身体がとめた、という感じだ」
「そうか。治癒もコントロールできたほうがいいんだね」
「できてたら、アレクセイは火山で死んでただろうけどー」
ラルジュナが黒い大地に触れた。
「ーー先に何かいるよ。どうする?」
「戦いは避けたい」
「魔カバンに入る?」
兵馬は逃げる気満々だ。
「生命反応、消したら大丈夫かなー」
「どうだろうか」
「早く隠れようよ」
魔カバンの口を開けて兵馬はスタンバイしている。
「中から外は見えるー?」
「見えるよ!スケルトン機能も搭載!」
4人は魔カバンの中から外の様子を見ることにした。
「すげー、不思議な空間。時空じゃないし、なんなんだろ?」
「バンブーさんの作る異空間らしいよ」
「時空と何か違うのか?」
「時空は時間と空間を指すんでしょ?」
「はいはい」
「異空間は通常の物理法則が通用しない想像上の空間です」
「つまり……」
「わかりませ~ん」
「なるほど、魔法だな」
「そういうこと」
「ふたりとも静かに」
緊張した声でラルジュナが言った。琉生斗と兵馬は慌てて口を押さえる。
外に悪神がいる。
その存在の圧倒的な強さは、動く姿から見てとれた。
竜だ。
神々しさを失った竜がゆっくりと歩いてくる。
表情はない。
悲しさも嬉しさもない、何の感情もなく竜は歩いていく。
「ーーあれが神堕ちの竜か……」
長い沈黙の後、琉生斗は口を開いた。
「神崩れのドラゴンとはわけが違う……」
「怖いね」
素直な意見を兵馬がもらす。
「ああ。話しなんか通じる感じか?」
絶対聞く気もなさそうだが。
「聞いてくれる場合もある」
「少数派みたいだねー。ここなら魔法が使えるー、バンブーって凄い魔導師だねー」
ラルジュナが兵馬を手招きする。
「変わった人だけど、スズさんの前の聖女の子孫なんだよ」
「へぇー!そうか、聖女にも子孫はいるのかー」
兵馬を座らせて靴を脱がせながら、ラルジュナが目を見開いた。
「ーー何をはじめるのよ」
ジト目になって琉生斗は睨む。
「足の治療で~す~」
「あっ」
兵馬の足首が腫れている。そんなふうには見えなかったのにーー。
「やだ、あなた愛されてるのね」
琉生斗がふざけるのを、兵馬は黙ってやり過ごした。
「ルートは大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
「…………」
頑丈な聖女様にアレクセイはがっかりした。
歩けど歩けど、生命の欠片もないーー。
だが、三日目になると景色が少しずつ変化してきた。
「おっ、木が生きてる」
「ほんとだ、すごいね」
些細な変化に喜びを感じる。
「あっ、すごいねー、ヒョウマー。真っ直ぐ行くと黒い神殿があるよー」
「さすがっ!」
琉生斗は兵馬の背中をバシバシ叩いた。お約束で兵馬が倒れる。
「もう、ルートー」
ラルジュナが助けながら琉生斗を睨んだ。
「すげー、反射神経だな」
「ふふっ、アレクセイより疾いよー」
「だ、そうだけど?」
「疾さ、はな」
子供のような言い方に、琉生斗は笑った。
黒い神殿。
柱も屋根もすべてが黒でできていた。
「すみません!蛇羊神様いますかぁ!」
入り口で琉生斗は叫んだ。
蛇羊神はこの世界の暗黒大陸を支える神だ。
「神様って、本体はみえるけど霊体はみえないじゃない?」
兵馬には時空竜の女神様も本体はみえるが、琉生斗のように霊体を感じる事はできない。
「ボクみえるほうかなー」
「あっそう。殿下もみえるの?」
「視えるようにはなってきた。ヒョウマは視えないのか?」
「みえませんよ」
このひと達の当たり前が嫌だ、と兵馬は思う。
ーーどうせ僕だけ一般人ですよ。
やや、やさぐれながら兵馬は前を見た。暗い神殿の中から、地を這う音が聞こえてくる。
「な、な、な、何の音?」
「あー、蛇羊神様は、頭が山羊で胴体が蛇なんだよ」
「あ、あっ、書いてたね。ほんとなんだ……」
兵馬が目を瞬きながら、そのときを待った。
「生き物が何にもいない」
羽虫はおろか、地面を這う虫さえも見あたらない。
「そうだな。私が前に落とされた場所には、多少の草木があった。それで、生き延びる事ができたのだが……」
感慨深げなアレクセイを案じながら、琉生斗は彼の腕をつかんだ。アレクセイの目元に優しさが滲む。
「悪神もどこにいるのー?って感じだねー」
ラルジュナが魔力を練ろうとした。
「う~んー。うまくできないー」
それでも魔法陣があらわれる。
「ーーすごいな」
アレクセイが友を褒めた。
「でしょー?結界は張れるかもー」
ラルジュナの様子を見て兵馬が疑問を口にした。
「でも、その悪神の付与が、神と悪魔の磁場内で魔法が使える、なんでしょ?その悪神がいたら魔法は使えないんじゃないの?」
「どうだろう。蟹の悪神は攻撃が斬るばかりだったが、付与は自然治癒だ」
「付与は、悪神の能力と関係ないの?」
「そのような気はするが……」
「殿下、前に時空竜の女神様から傷を受けたときは、自然治癒ができなかったの?」
兵馬の問いにアレクセイは首を振った。
「火山のときと同じで、治癒が間に合わないのだ」
「あー、傷が塞がらなかったんだー」
ラルジュナが眉をしかめた。
「そうだ。治癒と傷がちょうどせめぎ合ってる、という状態だった。だが、あれは治癒があったから回復が遅れた」
「ふ~ん。女神様には目的があったのに、アレクセイの自然治癒が邪魔したのー?」
「女神様の爪が心臓に向かうのを私の身体がとめた、という感じだ」
「そうか。治癒もコントロールできたほうがいいんだね」
「できてたら、アレクセイは火山で死んでただろうけどー」
ラルジュナが黒い大地に触れた。
「ーー先に何かいるよ。どうする?」
「戦いは避けたい」
「魔カバンに入る?」
兵馬は逃げる気満々だ。
「生命反応、消したら大丈夫かなー」
「どうだろうか」
「早く隠れようよ」
魔カバンの口を開けて兵馬はスタンバイしている。
「中から外は見えるー?」
「見えるよ!スケルトン機能も搭載!」
4人は魔カバンの中から外の様子を見ることにした。
「すげー、不思議な空間。時空じゃないし、なんなんだろ?」
「バンブーさんの作る異空間らしいよ」
「時空と何か違うのか?」
「時空は時間と空間を指すんでしょ?」
「はいはい」
「異空間は通常の物理法則が通用しない想像上の空間です」
「つまり……」
「わかりませ~ん」
「なるほど、魔法だな」
「そういうこと」
「ふたりとも静かに」
緊張した声でラルジュナが言った。琉生斗と兵馬は慌てて口を押さえる。
外に悪神がいる。
その存在の圧倒的な強さは、動く姿から見てとれた。
竜だ。
神々しさを失った竜がゆっくりと歩いてくる。
表情はない。
悲しさも嬉しさもない、何の感情もなく竜は歩いていく。
「ーーあれが神堕ちの竜か……」
長い沈黙の後、琉生斗は口を開いた。
「神崩れのドラゴンとはわけが違う……」
「怖いね」
素直な意見を兵馬がもらす。
「ああ。話しなんか通じる感じか?」
絶対聞く気もなさそうだが。
「聞いてくれる場合もある」
「少数派みたいだねー。ここなら魔法が使えるー、バンブーって凄い魔導師だねー」
ラルジュナが兵馬を手招きする。
「変わった人だけど、スズさんの前の聖女の子孫なんだよ」
「へぇー!そうか、聖女にも子孫はいるのかー」
兵馬を座らせて靴を脱がせながら、ラルジュナが目を見開いた。
「ーー何をはじめるのよ」
ジト目になって琉生斗は睨む。
「足の治療で~す~」
「あっ」
兵馬の足首が腫れている。そんなふうには見えなかったのにーー。
「やだ、あなた愛されてるのね」
琉生斗がふざけるのを、兵馬は黙ってやり過ごした。
「ルートは大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
「…………」
頑丈な聖女様にアレクセイはがっかりした。
歩けど歩けど、生命の欠片もないーー。
だが、三日目になると景色が少しずつ変化してきた。
「おっ、木が生きてる」
「ほんとだ、すごいね」
些細な変化に喜びを感じる。
「あっ、すごいねー、ヒョウマー。真っ直ぐ行くと黒い神殿があるよー」
「さすがっ!」
琉生斗は兵馬の背中をバシバシ叩いた。お約束で兵馬が倒れる。
「もう、ルートー」
ラルジュナが助けながら琉生斗を睨んだ。
「すげー、反射神経だな」
「ふふっ、アレクセイより疾いよー」
「だ、そうだけど?」
「疾さ、はな」
子供のような言い方に、琉生斗は笑った。
黒い神殿。
柱も屋根もすべてが黒でできていた。
「すみません!蛇羊神様いますかぁ!」
入り口で琉生斗は叫んだ。
蛇羊神はこの世界の暗黒大陸を支える神だ。
「神様って、本体はみえるけど霊体はみえないじゃない?」
兵馬には時空竜の女神様も本体はみえるが、琉生斗のように霊体を感じる事はできない。
「ボクみえるほうかなー」
「あっそう。殿下もみえるの?」
「視えるようにはなってきた。ヒョウマは視えないのか?」
「みえませんよ」
このひと達の当たり前が嫌だ、と兵馬は思う。
ーーどうせ僕だけ一般人ですよ。
やや、やさぐれながら兵馬は前を見た。暗い神殿の中から、地を這う音が聞こえてくる。
「な、な、な、何の音?」
「あー、蛇羊神様は、頭が山羊で胴体が蛇なんだよ」
「あ、あっ、書いてたね。ほんとなんだ……」
兵馬が目を瞬きながら、そのときを待った。
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