上 下
123 / 165
ゴッドスレイヤー編

第113話 神堕ちの竜がいく 

しおりを挟む
 息苦しい中を進み、枯れた木もない場所にでる。

「生き物が何にもいない」
 羽虫はおろか、地面を這う虫さえも見あたらない。
「そうだな。私が前に落とされた場所には、多少の草木があった。それで、生き延びる事ができたのだが……」
 感慨深げなアレクセイを案じながら、琉生斗は彼の腕をつかんだ。アレクセイの目元に優しさが滲む。

「悪神もどこにいるのー?って感じだねー」
 ラルジュナが魔力を練ろうとした。
「う~んー。うまくできないー」
 それでも魔法陣があらわれる。

「ーーすごいな」
 アレクセイが友を褒めた。
「でしょー?結界は張れるかもー」
 ラルジュナの様子を見て兵馬が疑問を口にした。

「でも、その悪神の付与が、神と悪魔の磁場内で魔法が使える、なんでしょ?その悪神がいたら魔法は使えないんじゃないの?」
「どうだろう。蟹の悪神は攻撃が斬るばかりだったが、付与は自然治癒だ」
「付与は、悪神の能力と関係ないの?」
「そのような気はするが……」

「殿下、前に時空竜の女神様から傷を受けたときは、自然治癒ができなかったの?」
 兵馬の問いにアレクセイは首を振った。

「火山のときと同じで、治癒が間に合わないのだ」
「あー、傷が塞がらなかったんだー」
 ラルジュナが眉をしかめた。
「そうだ。治癒と傷がちょうどせめぎ合ってる、という状態だった。だが、あれは治癒があったから回復が遅れた」
「ふ~ん。女神様には目的があったのに、アレクセイの自然治癒が邪魔したのー?」
「女神様の爪が心臓に向かうのを私の身体がとめた、という感じだ」
「そうか。治癒もコントロールできたほうがいいんだね」

「できてたら、アレクセイは火山で死んでただろうけどー」
 ラルジュナが黒い大地に触れた。

「ーー先に何かいるよ。どうする?」
「戦いは避けたい」
「魔カバンに入る?」
 兵馬は逃げる気満々だ。
「生命反応、消したら大丈夫かなー」
「どうだろうか」
「早く隠れようよ」
 魔カバンの口を開けて兵馬はスタンバイしている。
「中から外は見えるー?」
「見えるよ!スケルトン機能も搭載!」


 4人は魔カバンの中から外の様子を見ることにした。
「すげー、不思議な空間。時空じゃないし、なんなんだろ?」
「バンブーさんの作る異空間らしいよ」
「時空と何か違うのか?」
「時空は時間と空間を指すんでしょ?」
「はいはい」
「異空間は通常の物理法則が通用しない想像上の空間です」
「つまり……」
「わかりませ~ん」
「なるほど、魔法だな」
「そういうこと」

「ふたりとも静かに」
 緊張した声でラルジュナが言った。琉生斗と兵馬は慌てて口を押さえる。






 外に悪神がいる。

 その存在の圧倒的な強さは、動く姿から見てとれた。

 竜だ。

 神々しさを失った竜がゆっくりと歩いてくる。

 表情はない。

 悲しさも嬉しさもない、何の感情もなく竜は歩いていく。







「ーーあれが神堕ちの竜か……」
 長い沈黙の後、琉生斗は口を開いた。
「神崩れのドラゴンとはわけが違う……」



「怖いね」
 素直な意見を兵馬がもらす。
「ああ。話しなんか通じる感じか?」
 絶対聞く気もなさそうだが。

「聞いてくれる場合もある」
「少数派みたいだねー。ここなら魔法が使えるー、バンブーって凄い魔導師だねー」
 ラルジュナが兵馬を手招きする。

「変わった人だけど、スズさんの前の聖女の子孫なんだよ」
「へぇー!そうか、聖女にも子孫はいるのかー」
 兵馬を座らせて靴を脱がせながら、ラルジュナが目を見開いた。

「ーー何をはじめるのよ」
 ジト目になって琉生斗は睨む。
「足の治療で~す~」

「あっ」

 兵馬の足首が腫れている。そんなふうには見えなかったのにーー。

「やだ、あなた愛されてるのね」
 琉生斗がふざけるのを、兵馬は黙ってやり過ごした。
「ルートは大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
「…………」

 頑丈な聖女様にアレクセイはがっかりした。













 歩けど歩けど、生命の欠片もないーー。


 だが、三日目になると景色が少しずつ変化してきた。
「おっ、木が生きてる」
「ほんとだ、すごいね」
 些細な変化に喜びを感じる。
「あっ、すごいねー、ヒョウマー。真っ直ぐ行くと黒い神殿があるよー」
「さすがっ!」
 琉生斗は兵馬の背中をバシバシ叩いた。お約束で兵馬が倒れる。

「もう、ルートー」
 ラルジュナが助けながら琉生斗を睨んだ。
「すげー、反射神経だな」
「ふふっ、アレクセイより疾いよー」
「だ、そうだけど?」
「疾さ、はな」
 子供のような言い方に、琉生斗は笑った。














 黒い神殿。

 柱も屋根もすべてが黒でできていた。

「すみません!蛇羊神様いますかぁ!」
 入り口で琉生斗は叫んだ。

 蛇羊神はこの世界の暗黒大陸を支える神だ。

「神様って、本体はみえるけど霊体はみえないじゃない?」
 兵馬には時空竜の女神様も本体はみえるが、琉生斗のように霊体を感じる事はできない。

「ボクみえるほうかなー」

「あっそう。殿下もみえるの?」
「視えるようにはなってきた。ヒョウマは視えないのか?」
「みえませんよ」
 このひと達の当たり前が嫌だ、と兵馬は思う。


 ーーどうせ僕だけ一般人ですよ。


 やや、やさぐれながら兵馬は前を見た。暗い神殿の中から、地を這う音が聞こえてくる。
「な、な、な、何の音?」
「あー、蛇羊神様は、頭が山羊で胴体が蛇なんだよ」
「あ、あっ、書いてたね。ほんとなんだ……」

 兵馬が目をしばたきながら、そのときを待った。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

きみをください

すずかけあおい
BL
定食屋の店員の啓真はある日、常連のイケメン会社員に「きみをください」と注文されます。 『優しく執着』で書いてみようと思って書いた話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

超絶美少年に転生しました! でもちょっと問題があります。わたし心は乙女なんですけどっ!

十花アキ
BL
 ある日、事故にあった私は俺になってしまいました。ちょっと何言ってるか分かりませんね……。こっちのセリフ? 誰ですかあなた! 一番困惑してるのは私なんです! 勝手なこと言わないでください。あ、今は俺って言わないといけないんでした。頭大丈夫かって? 失礼ですね。不敬ですよ! わた、俺は帝国の皇太子アレクサンドル・クロード・エル・カイゼルクラウンです……であるぞ!  BLに女キャラは邪魔? うるさいです。私が1番そう思ってるんですからね! ***  展開遅い病かもです。コメディ強めです。  完結しました。  お気に入り登録してくださった方々、本当にありがとうございました。    

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...