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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)
第108話 演習は終わりて
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「ーーよっとぉー」
突如、空中からあらわれたそのひとが、回転しながら亡霊王を真っ二つに斬る。
「へっ?」
「うん?」
トルイストと東堂が瞬きを繰り返した。自分達の前には、幾つもの結界が張られている。
いつの間にーー。
ーーいや、この方なら可能なのだ。
斬った本人は、こんなものか、という表情。
「え?なぜ?」
呆然とトルイストがそのひとを見ている。
『演習終了!』
アスラーンの声が響いた。
「もう!遅いですよ!ラルジュナ様!」
「そうー?君たち、あれぐらい斬れないのー?」
「無理で~す」
アジャハン国の魔法騎士服を着たラルジュナが剣をおさめた。
「そこの、グリーンダイヤモンド拾って来てねー」
「はぁい」
「ら、ラルジュナ様?」
信じられないものを見る目で、トルイストが口を開いた。
「ああー。ボクいま、アジャハン魔法騎士団の大隊長なんだー。士長でもいいんだけどねー。ふふっー」
おいおいーー。
トルイストがその場にくずれた。
「はじめから出さないだけ、アスラーンも優しいよねー」
「ーーそうですね」
もう、何も言うことはないーー。
「なんだよ!そりゃ!」
東堂は寝転んだ。
「ひでーな、アス太子!」
すげー、負けず嫌いじゃんかーー。
それは少し前のテントの中ーー。
亡霊王の登場という緊迫した状況に、琉生斗は叫んだ。
「もう、どうすんだよ!終了してくれよ、アスラーンさん!」
「それはならんな」
「もう、うちの逆転勝ちでいいじゃん!なあ、アレク!」
アレクセイが深く息をはいた。
「ーーアスラーン、どういう事だ?」
「何がだ?」
「なぜ、ラルジュナがアジャハンの魔法騎士服を着ている?」
席を外すと言って戻ってきたら、服が変わっている。
「えっ?」
琉生斗もラルジュナの姿が目に入る。
後ろで兵馬が苦笑していた。
「ええぇーー!兵馬ぁ!?」
「ーーごめん、ルート……」
「な、なんで!?」
「ボク、今回はアジャハン魔法騎士団の大隊長なんだー」
「はあー!地位が低いだろぉーーー!士長より上だろ!詐欺だぁ!」
「たまたま大隊長しか空いていなくてな」
「嘘だ!」
「じゃあねー♡」
転移魔法で消えたラルジュナが、千里眼鏡に映るやいなや亡霊王を瞬殺する。
「うわー、えげつないー」
引くわー。
「言っただろ?私は優しい悪役だと。アンダーソニー殿、名簿を交換したときに気づかなかったのか?」
「はて?ラルジュナ様の名前など、なかったと思いますよ。大隊長はロシナン殿、ユーハイン殿、カーライルン殿、ステラプルケルマ殿ーー」
「ソニーさん。ステラプルケルマで気づこうよーー、いやアレク、おまえまさか見てなかったな?」
黙ったままのアレクセイを見て、琉生斗は肩を落とした。
「見たつもりだったのだがーー」
「このうっかりさん!」
「ヒョウマにすぐに取られたーー」
「はあーー!兵馬ぁ、おまえぇ!」
「あっ。最終的に、同点だったみたい」
「まあ、演習はそれが一番だな」
あははははっ。
兵馬とアスラーンが笑い合う中、琉生斗は悔しさにアレクセイを叩いた。
「来年は、もっとすごい事をしてやる!」
「この!裏切り者!」
「まあまあ。これでアス王太子が東堂に告白しようとも、確実にふられるよ」
「え?何だよ、東堂なんか何やっても大丈夫だろ?」
琉生斗の言葉に兵馬が苦笑した。
「それが、わからないのが人だよ」
「ああ。おれやおまえか……」
「僕も絶対に大丈夫って思ってたもん……」
「だよなーー」
琉生斗も信じられない気持ちだ。
彼は自分や他の園児達が、マリコ先生と結婚する(巨乳)、っと言っていたときも、ああいうタイプは保護者とできてるよ(ひどい偏見)、といった冷めた園児だった。
小学生、中学生、高校生になっても、その態度は変わることがなく、エロ画像のひとつも保存していなかった。
本当にこういうヤツっているんだ、という気持ちだったのだが(自分もおっぱい画像ばかりで人に興味はなかったが)ーー。
「まあ、おまえには合ってるよ。天才なのに努力するところが、スタンスが似てるんだろうな」
目を見開いて兵馬が琉生斗を見た。
「ーーそうかな……。えっ?東堂と姉さん、名誉騎士賞だってーー」
「すごかったもんな」
「うんーー」
兵馬が嬉しそうに笑うのを見て、琉生斗も微笑んだ。
「なー、なー、旅行どこ行くー!」
「まずは花蓮の結婚式だよ」
「そうだよ!ああ!パイプオルガン!練習不足だぁ!」
「ルートが下手くそでも、僕と姉さんでフォローするよ」
「うるさい!」
「ーートードォ、見事だったな」
アスラーンが東堂に声をかけた。
神官の聖魔法により動けるようにしてもらった東堂は、アスラーンの顔を真正面から見た。
「ーー俺は卑怯なヤツは嫌いっす」
まわりの魔法騎士達が息をのんだ。
「そうか……」
「けどーー。それはたぶん、俺が未熟だから感じる事だと思うんです」
「ふむ」
「昔は俺、落ちてる剣を拾って、それで戦う事も嫌でした」
「そうだな。確実に誰かが死んでいるな」
だから、武器が落ちている。
「ーー今は先を見通して戦えるアス太子が、すげぇーって思いますよ」
「そうか。そう思ってくれるかーー」
「負けるわけにはいかないっすもんね」
「ーーそうだ。私は負けんよ。負ければ国民が泣くことになるからな」
彼の信念にはぶれがない。
東堂は尊敬の念をもってアスラーンの目を見た。
「ありがとうございました」
頭を下げた東堂に皆が安堵する。
「はあー、疲れた」
東堂が琉生斗の横に座る。
「ナイスファイトだよ!なあ、アレク!」
「ああ。強くなったな」
アレクセイに褒められ、東堂がニカッと笑った。
「皆さんー!王宮に移動して、お風呂と仮眠をどうぞ!昼からはお疲れ会で~す!」
兵馬の言葉に全員が喜んだ。
「ーー相変わらずだな」
「僕、準備しに行くから。ルートはどうする?」
「ーー怖いけど主賓室用意してもらってる」
「あー、殿下が嬉しそうだね」
愛の三女神様をなんとか呼ぼうとしている顔だ。
「風呂いいから早く寝てーぞぉ!」
「臭いぞ」
「うるせー!」
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