ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)

第108話 演習は終わりて

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「ーーよっとぉー」

 突如、空中からあらわれたそのひとが、回転しながら亡霊王を真っ二つに斬る。




「へっ?」
「うん?」
 トルイストと東堂が瞬きを繰り返した。自分達の前には、幾つもの結界が張られている。
 いつの間にーー。

 ーーいや、この方なら可能なのだ。



 斬った本人は、こんなものか、という表情。

「え?なぜ?」
 呆然とトルイストがそのひとを見ている。


『演習終了!』

 アスラーンの声が響いた。



「もう!遅いですよ!ラルジュナ様!」
「そうー?君たち、あれぐらい斬れないのー?」
「無理で~す」

 アジャハン国の魔法騎士服を着たラルジュナが剣をおさめた。


「そこの、グリーンダイヤモンド拾って来てねー」
「はぁい」
 

「ら、ラルジュナ様?」
 信じられないものを見る目で、トルイストが口を開いた。

「ああー。ボクいま、アジャハン魔法騎士団の大隊長なんだー。士長でもいいんだけどねー。ふふっー」
 

 おいおいーー。

 トルイストがその場にくずれた。

「はじめから出さないだけ、アスラーンも優しいよねー」
「ーーそうですね」

 もう、何も言うことはないーー。


「なんだよ!そりゃ!」
 東堂は寝転んだ。

「ひでーな、アス太子!」



 すげー、負けず嫌いじゃんかーー。










 それは少し前のテントの中ーー。

 亡霊王の登場という緊迫した状況に、琉生斗は叫んだ。
「もう、どうすんだよ!終了してくれよ、アスラーンさん!」
「それはならんな」
「もう、うちの逆転勝ちでいいじゃん!なあ、アレク!」

 アレクセイが深く息をはいた。
「ーーアスラーン、どういう事だ?」
「何がだ?」
「なぜ、ラルジュナがアジャハンの魔法騎士服を着ている?」
 
 席を外すと言って戻ってきたら、服が変わっている。

「えっ?」
 琉生斗もラルジュナの姿が目に入る。

 後ろで兵馬が苦笑していた。

「ええぇーー!兵馬ぁ!?」
「ーーごめん、ルート……」
「な、なんで!?」

「ボク、今回はアジャハン魔法騎士団の大隊長なんだー」
「はあー!地位が低いだろぉーーー!士長より上だろ!詐欺だぁ!」
「たまたま大隊長しか空いていなくてな」
「嘘だ!」
「じゃあねー♡」
 
 転移魔法で消えたラルジュナが、千里眼鏡に映るやいなや亡霊王を瞬殺する。


「うわー、えげつないー」
 引くわー。

「言っただろ?私は優しい悪役だと。アンダーソニー殿、名簿を交換したときに気づかなかったのか?」

「はて?ラルジュナ様の名前など、なかったと思いますよ。大隊長はロシナン殿、ユーハイン殿、カーライルン殿、ステラプルケルマ殿ーー」

「ソニーさん。ステラプルケルマで気づこうよーー、いやアレク、おまえまさか見てなかったな?」
 黙ったままのアレクセイを見て、琉生斗は肩を落とした。
「見たつもりだったのだがーー」
「このうっかりさん!」
「ヒョウマにすぐに取られたーー」
「はあーー!兵馬ぁ、おまえぇ!」


「あっ。最終的に、同点だったみたい」
「まあ、演習はそれが一番だな」

 あははははっ。

 兵馬とアスラーンが笑い合う中、琉生斗は悔しさにアレクセイを叩いた。

「来年は、もっとすごい事をしてやる!」














「この!裏切り者!」
「まあまあ。これでアス王太子が東堂に告白しようとも、確実にふられるよ」
「え?何だよ、東堂なんか何やっても大丈夫だろ?」
 琉生斗の言葉に兵馬が苦笑した。

「それが、わからないのが人だよ」
「ああ。おれやおまえか……」
「僕も絶対に大丈夫って思ってたもん……」
「だよなーー」
 琉生斗も信じられない気持ちだ。


 彼は自分や他の園児達が、マリコ先生と結婚する(巨乳)、っと言っていたときも、ああいうタイプは保護者とできてるよ(ひどい偏見)、といった冷めた園児だった。

 小学生、中学生、高校生になっても、その態度は変わることがなく、エロ画像のひとつも保存していなかった。
 本当にこういうヤツっているんだ、という気持ちだったのだが(自分もおっぱい画像ばかりで人に興味はなかったが)ーー。

「まあ、おまえには合ってるよ。天才なのに努力するところが、スタンスが似てるんだろうな」

 目を見開いて兵馬が琉生斗を見た。
「ーーそうかな……。えっ?東堂と姉さん、名誉騎士賞だってーー」
「すごかったもんな」

「うんーー」
 兵馬が嬉しそうに笑うのを見て、琉生斗も微笑んだ。

「なー、なー、旅行どこ行くー!」

「まずは花蓮の結婚式だよ」
「そうだよ!ああ!パイプオルガン!練習不足だぁ!」
「ルートが下手くそでも、僕と姉さんでフォローするよ」
「うるさい!」



















「ーートードォ、見事だったな」
 アスラーンが東堂に声をかけた。
 神官の聖魔法により動けるようにしてもらった東堂は、アスラーンの顔を真正面から見た。


「ーー俺は卑怯なヤツは嫌いっす」
 まわりの魔法騎士達が息をのんだ。

「そうか……」


「けどーー。それはたぶん、俺が未熟だから感じる事だと思うんです」
「ふむ」

「昔は俺、落ちてる剣を拾って、それで戦う事も嫌でした」

「そうだな。確実に誰かが死んでいるな」

 だから、武器が落ちている。

「ーー今は先を見通して戦えるアス太子が、すげぇーって思いますよ」
「そうか。そう思ってくれるかーー」
「負けるわけにはいかないっすもんね」

「ーーそうだ。私は負けんよ。負ければ国民が泣くことになるからな」

 彼の信念にはぶれがない。

 東堂は尊敬の念をもってアスラーンの目を見た。

「ありがとうございました」
 頭を下げた東堂に皆が安堵する。















「はあー、疲れた」
 東堂が琉生斗の横に座る。
「ナイスファイトだよ!なあ、アレク!」
「ああ。強くなったな」

 アレクセイに褒められ、東堂がニカッと笑った。


「皆さんー!王宮に移動して、お風呂と仮眠をどうぞ!昼からはお疲れ会で~す!」

 兵馬の言葉に全員が喜んだ。

「ーー相変わらずだな」
「僕、準備しに行くから。ルートはどうする?」
「ーー怖いけど主賓室用意してもらってる」
「あー、殿下が嬉しそうだね」

 愛の三女神様をなんとか呼ぼうとしている顔だ。

「風呂いいから早く寝てーぞぉ!」
「臭いぞ」

「うるせー!」


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