118 / 235
魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)
第108話 演習は終わりて
しおりを挟む!
「ーーよっとぉー」
突如、空中からあらわれたそのひとが、回転しながら亡霊王を真っ二つに斬る。
「へっ?」
「うん?」
トルイストと東堂が瞬きを繰り返した。自分達の前には、幾つもの結界が張られている。
いつの間にーー。
ーーいや、この方なら可能なのだ。
斬った本人は、こんなものか、という表情。
「え?なぜ?」
呆然とトルイストがそのひとを見ている。
『演習終了!』
アスラーンの声が響いた。
「もう!遅いですよ!ラルジュナ様!」
「そうー?君たち、あれぐらい斬れないのー?」
「無理で~す」
アジャハン国の魔法騎士服を着たラルジュナが剣をおさめた。
「そこの、グリーンダイヤモンド拾って来てねー」
「はぁい」
「ら、ラルジュナ様?」
信じられないものを見る目で、トルイストが口を開いた。
「ああー。ボクいま、アジャハン魔法騎士団の大隊長なんだー。士長でもいいんだけどねー。ふふっー」
おいおいーー。
トルイストがその場にくずれた。
「はじめから出さないだけ、アスラーンも優しいよねー」
「ーーそうですね」
もう、何も言うことはないーー。
「なんだよ!そりゃ!」
東堂は寝転んだ。
「ひでーな、アス太子!」
すげー、負けず嫌いじゃんかーー。
それは少し前のテントの中ーー。
亡霊王の登場という緊迫した状況に、琉生斗は叫んだ。
「もう、どうすんだよ!終了してくれよ、アスラーンさん!」
「それはならんな」
「もう、うちの逆転勝ちでいいじゃん!なあ、アレク!」
アレクセイが深く息をはいた。
「ーーアスラーン、どういう事だ?」
「何がだ?」
「なぜ、ラルジュナがアジャハンの魔法騎士服を着ている?」
席を外すと言って戻ってきたら、服が変わっている。
「えっ?」
琉生斗もラルジュナの姿が目に入る。
後ろで兵馬が苦笑していた。
「ええぇーー!兵馬ぁ!?」
「ーーごめん、ルート……」
「な、なんで!?」
「ボク、今回はアジャハン魔法騎士団の大隊長なんだー」
「はあー!地位が低いだろぉーーー!士長より上だろ!詐欺だぁ!」
「たまたま大隊長しか空いていなくてな」
「嘘だ!」
「じゃあねー♡」
転移魔法で消えたラルジュナが、千里眼鏡に映るやいなや亡霊王を瞬殺する。
「うわー、えげつないー」
引くわー。
「言っただろ?私は優しい悪役だと。アンダーソニー殿、名簿を交換したときに気づかなかったのか?」
「はて?ラルジュナ様の名前など、なかったと思いますよ。大隊長はロシナン殿、ユーハイン殿、カーライルン殿、ステラプルケルマ殿ーー」
「ソニーさん。ステラプルケルマで気づこうよーー、いやアレク、おまえまさか見てなかったな?」
黙ったままのアレクセイを見て、琉生斗は肩を落とした。
「見たつもりだったのだがーー」
「このうっかりさん!」
「ヒョウマにすぐに取られたーー」
「はあーー!兵馬ぁ、おまえぇ!」
「あっ。最終的に、同点だったみたい」
「まあ、演習はそれが一番だな」
あははははっ。
兵馬とアスラーンが笑い合う中、琉生斗は悔しさにアレクセイを叩いた。
「来年は、もっとすごい事をしてやる!」
「この!裏切り者!」
「まあまあ。これでアス王太子が東堂に告白しようとも、確実にふられるよ」
「え?何だよ、東堂なんか何やっても大丈夫だろ?」
琉生斗の言葉に兵馬が苦笑した。
「それが、わからないのが人だよ」
「ああ。おれやおまえか……」
「僕も絶対に大丈夫って思ってたもん……」
「だよなーー」
琉生斗も信じられない気持ちだ。
彼は自分や他の園児達が、マリコ先生と結婚する(巨乳)、っと言っていたときも、ああいうタイプは保護者とできてるよ(ひどい偏見)、といった冷めた園児だった。
小学生、中学生、高校生になっても、その態度は変わることがなく、エロ画像のひとつも保存していなかった。
本当にこういうヤツっているんだ、という気持ちだったのだが(自分もおっぱい画像ばかりで人に興味はなかったが)ーー。
「まあ、おまえには合ってるよ。天才なのに努力するところが、スタンスが似てるんだろうな」
目を見開いて兵馬が琉生斗を見た。
「ーーそうかな……。えっ?東堂と姉さん、名誉騎士賞だってーー」
「すごかったもんな」
「うんーー」
兵馬が嬉しそうに笑うのを見て、琉生斗も微笑んだ。
「なー、なー、旅行どこ行くー!」
「まずは花蓮の結婚式だよ」
「そうだよ!ああ!パイプオルガン!練習不足だぁ!」
「ルートが下手くそでも、僕と姉さんでフォローするよ」
「うるさい!」
「ーートードォ、見事だったな」
アスラーンが東堂に声をかけた。
神官の聖魔法により動けるようにしてもらった東堂は、アスラーンの顔を真正面から見た。
「ーー俺は卑怯なヤツは嫌いっす」
まわりの魔法騎士達が息をのんだ。
「そうか……」
「けどーー。それはたぶん、俺が未熟だから感じる事だと思うんです」
「ふむ」
「昔は俺、落ちてる剣を拾って、それで戦う事も嫌でした」
「そうだな。確実に誰かが死んでいるな」
だから、武器が落ちている。
「ーー今は先を見通して戦えるアス太子が、すげぇーって思いますよ」
「そうか。そう思ってくれるかーー」
「負けるわけにはいかないっすもんね」
「ーーそうだ。私は負けんよ。負ければ国民が泣くことになるからな」
彼の信念にはぶれがない。
東堂は尊敬の念をもってアスラーンの目を見た。
「ありがとうございました」
頭を下げた東堂に皆が安堵する。
「はあー、疲れた」
東堂が琉生斗の横に座る。
「ナイスファイトだよ!なあ、アレク!」
「ああ。強くなったな」
アレクセイに褒められ、東堂がニカッと笑った。
「皆さんー!王宮に移動して、お風呂と仮眠をどうぞ!昼からはお疲れ会で~す!」
兵馬の言葉に全員が喜んだ。
「ーー相変わらずだな」
「僕、準備しに行くから。ルートはどうする?」
「ーー怖いけど主賓室用意してもらってる」
「あー、殿下が嬉しそうだね」
愛の三女神様をなんとか呼ぼうとしている顔だ。
「風呂いいから早く寝てーぞぉ!」
「臭いぞ」
「うるせー!」
54
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。
白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ!
主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。
※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる