上 下
114 / 165
魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)

第104話 まともな話もできるひと

しおりを挟む
「ーートードォに嫌われた」
「そりゃ嫌われるよ」
「しょんぼり」

 しょんぼり、って口にだすんだ。
 琉生斗は変な生き物を見る目でアスラーンを見る。

「アレク、どうなんだ?」
「死ぬだろう」
「マジかよ。トルさんは?止めるように言ってよ」
「私は口を挟まないルールだ」
「ソニーさん」
「各自の判断にまかせています。判断する、それもまた、演習です」

「あー。おれ、聖女の治癒、初歩しか使えないぞ」
「スズ様の初歩なら、傷の入った臓器も治せたがーー」
「無理だよ~」
 どこと比べるのよ。

「トードォはともかく、葛城はどうしたんだ?」
「冷静さを欠いているな」
 何かを焦るような美花に、琉生斗は違和感しかない。

「ファウラはどこにいるんだよ」
「離れた場所です」
「ソニーさん、葛城だけでも!」
「私達は全滅しないとでません。ーーそれに……」

「え?」
 アンダーソニーの視線を追って、琉生斗は辺りを見回した。

 いつの間にかアジャハンの魔法騎士達が、テントのまわりを取り囲んでいる。
「ーーうそぉ」
「ここから出すつもりがなさそうですね。ヤヘルとルッタマイヤは一服盛られて動けませんし……」
 アレクセイが頭を押さえた。

「アスラーン……」
 さすがにやり過ぎだ。

「はははっ、私は最初に言ったではないか。本気にしなかったそちらの落ち度だ。格下だからと侮ったのか?おごったのはどちらだ?」

「そうだな」
 言っている事は間違いではないーー。アレクセイがため息をついた。

「おまえが助けに行きたければ行くがよい。その時点で失格にしてやろう」
「うわ~、悪役じゃねえか」
「ふふ、こんな優しい悪役がいるだろうか」

 アスラーンが楽しそうに笑った。



「ーー若い騎士など本当の戦場を知らん奴ばかりだ……」
 ポツリと言ったアスラーンに、琉生斗は眉をあげた。

「アスラーンさんは知ってるの?」

 アレクセイと同年なら充分若いがーー。

「さて、地獄ならそこの神殺しゴッドスレイヤーの方がよく知っているだろうがなーー」

「よけいな事を言うな」
 アスラーンの言葉をアレクセイが遮った。


「ーー獣人の国が無くなった話は聞いているか?国が違う、種が違う、それだけの事でひとはどこまでも非情になる」

 琉生斗は視線を横にした。
 向こうの世界でも人間同士の争いはなくならない。ときとして、目を背けたくなるような事件も起こる。

「あのときの幼子達の御遺体は忘れられん。ラルジュナなど、泣き喚いて役に立たなかった」

 重い内容の話を、軽い口調で語る。まるで、よくある日常のできごとのように。
 
「負ける、という事はそういう事だ。私は何があっても、負けはせんよ。たとえ、遊びであってもな」
 後ろに控えているフストンが大きく頷いた。

「アレクセイ、おまえもラルジュナの成績は覚えているな?私やおまえより遥かにできがよかった」

「ーーああ」

「それでも廃された。あれだけ国に尽くし貢献してきた王太子が、王妃やまわりの私利私欲に負けたのだ。あいつの功績を引き継ぐ奴など、いまあの国にいると思うか?本当に、残念でならんよ」
 
「アスラーン……」
 友が語る姿をアレクセイが静かに見守る。

「その点、聖女のいる国は平和そのもの。王太子と第三王子が王位を巡って争うこともない。あれだけのカードがあっても誰もかつがんとは、お国柄とはいえ立派な事だな」
 ため息にアンダーソニーが頭を下げる。


「ーーだからこそ、トードォはいい。あいつは飢えている。勝利に飢える事は悪い事じゃない。平和ぼけしたロードリンゲンの兵士達の、良い起爆剤だろうよ」

 ふふっ、とアスラーンが笑う。

「ーーそうだな」
 アレクセイも頷いた。

 デスビーストハードに遭遇し、怯えも見せない東堂が千里眼鏡に映っている。



「東堂ーー、葛城ーー」
 琉生斗は眉をしかめてふたりをじっと見ていた。




しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

パーティー全員転生者!? 元オタクは黒い剣士の薬草になる

むらくも
BL
楽しみにしてたゲームを入手した! のに、事故に遭った俺はそのゲームの世界へ転生したみたいだった。 仕方がないから異世界でサバイバル……って職業僧侶!? 攻撃手段は杖で殴るだけ!? 職業ガチャ大外れの俺が出会ったのは、無茶苦茶な戦い方の剣士だった。 回復してやったら「私の薬草になれ」って……人をアイテム扱いしてんじゃねぇーーッッ! 元オタクの組んだパーティは元悪役令息、元悪役令嬢、元腐女子……おい待て変なの入ってない!? 何故か転生者が集まった、奇妙なパーティの珍道中ファンタジーBL。 ※戦闘描写に少々流血表現が入ります。 ※BL要素はほんのりです。

処理中です...