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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)
第102話 立派な作戦
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「うわ。えげつない~」
昼近くになり、兵馬に呼ばれた琉生斗は千里眼鏡を見て素直な感想をもらした。
「ーーこれも作戦のうちだな」
「おたくの国、大丈夫?」
「戦力の差をうめるためにはこれぐらいするだろう」
悪びれることなく、当然という顔のアスラーンだ。
なんと、アジャハン国の魔法騎士達が、ロードリンゲン国の魔法騎士から宝石を奪い、陣営に持ち帰っているのだ。
「まあ、いいって言ってたけど、これって……」
「わが国の兵士では、無理でしょうね」
アンダーソニーとルッタマイヤが顔を曇らせている。
「国民性だな」
「けど、うちの兵士もやると思うよー。でないと勝てないもんー」
ラルジュナの言葉にアスラーンが頷いた。
「そうだ。さすがへなちょこ国の王子。己の器をよく理解している」
「うるさいー。ヒョウマー、ボク研究室見てくるからー」
培養してた菌、死んじゃってるかもー、とラルジュナが悲しげにつぶやく。
「あっ!急ぎの書類忘れてた!眼鏡も欲しいし。ごめん、ルート!すぐに戻るから!」
「大丈夫、行ってこいよ」
ラルジュナが兵馬の手をしっかりとつかんで転移魔法を使う。
「ーーラルさんには網はかけられてないのか?」
「あいつを引っかけるのは無理だろうな。あいつには凶霊の加護がある」
「へぇ、神様もついたりつかなかったりなの?」
「そうだな。うちの王族は、時空竜の女神様の恵みが強い、弱いがある」
「ほ~ん」
「他国では、王族でも加護をする者しない者があるらしく、アスラーンにはーー」
「そう、私が生まれた日に、愛の三女神様が加護を与えにこられたのだ」
「もう会いたくない神様ね」
「そういうな。三女神様はルートとヒョウマと遊びたいようだぞ」
「ーールート、女神様の言う事はきかないと」
「何言ってんだ、おまえ」
真顔のアレクセイを琉生斗は睨んだ。そのやりとりを微笑ましく眺めながら、アスラーンが独り言のようにつぶやく。
「ーーあいつの生まれた日に母親が死んだらしく、凶霊キャロラインが哀れに思って加護にこられたそうだ」
琉生斗は目を見張った。
「生まれた日に……」
「もともと身体が弱い方だったそうでな。自分か子供かどちらかだとは言われていたそうだ。アルジュナ国王には黙っていたらしい」
「ーーそうなんだ……」
「あいつも尖っていたときは、産んでくれない方がよかった、と言っていたが」
「ーー性格的に言いそうじゃないね」
「いやいや、尖っていたあいつは、隣りの席に神殺しが座っているとは知らずに、喧嘩をうって返り討ちにあったぞ」
「あーー、隣りの神殺し……」
アレクセイが遠い目をした。
「ーー尖っていたな……」
「おまえは、死にたそうな顔だったがなーー。その後、妙にウマがあったのか、ふたりで授業をサボるようになって、私がお目付け役になったのだ」
「そうなんだ……」
死にたそうな顔、って……。
琉生斗は心が、何かにつかまれたように苦しくなる。
「ーー母親がいない気持ちは、ラルジュナの方がわかってやれるかもな」
ポツリ、とアレクセイがこぼした。
「たしかに。どことなく、ルートとラルジュナは尖り方が似ているかもな」
楽しそうなアスラーンが、琉生斗を指差す。
「えーー!」
「ーーヒョウマを愛しているところも」
軽く目を細めてアレクセイが皮肉気に言う。
「違うもん!絶対おれの方が兵馬好きだもん!」
そこは譲れない!
「はははっ。ロードリンゲンもさっさと宝石を陣営に運んでいればよかったのにな。ゼロになってしまったようだ」
「うそっーー!トルさんも、ファウラも何やってんだよ!」
「邪魔だから、近くの岩場に置いていたようですーー」
「バカタレーーー!」
真面目すぎるのよ、うちの国ーー。
「信じられない」
ロードリンゲン国の魔法騎士達は、皆同じ気持ちだった。
夜が終わる。
もう、残り一日しかないないのに。
「はははっ。油断しましたね!トードォ殿!」
竜騎士のマルテスが声を張った。
「ーーなんで、マルテスさんが」
「我々、竜に乗ってないときは、魔法騎士なんです」
「成長すると魔法も使えるようになるので」
楽しそうに宝石を眺めながら、タルティンとイスラが話す。
「こ、こんな卑怯な手で、いいのかあんたらは!」
強い目を輝かせて、マルテスが言い放つ。
「はい。アスラーン様の指示ですから」
「私達の意思は関係ありません!」
東堂は目を見張った。
「ーー良いひとだって思ってたのに……」
「それは、残念でした」
「では、陣営に帰ります~」
浮遊魔法で竜騎士達は逃げだした。
「お、おいっ!モロフ!追うぞ!」
「と、トードォ、無理だよー」
足に治癒魔法をかけながらモロフが叫んだ。他の騎士達も怪我がひどい。デスビーストノーマルとの戦闘後、間髪いれずに竜騎士達からの猛攻撃を受けたからだ。怪我がひどすぎて棄権する者も多発した。
「ーー何だよ、この状況」
ひでーじゃねえか、アス太子ーー。
「ーーこのままじゃ終われない!デスビーストハードのエリアに行くぜ!」
「はあ?無理だってトードォも言ってたよね!」
美花が息を吐いて立ちあがる。騎士服の埃をはらった。
「ーーあたしも行くわ」
「ミハナ!なんで!?」
「よし、行くぞ!」
「ええ」
緊張感に青ざめた美花が、小さく頷いた。
「ちょっと待って!ファウラ大隊長は?トードォ!無理だってーー!」
朝日を背に、ふたりは歩きだした。
昼近くになり、兵馬に呼ばれた琉生斗は千里眼鏡を見て素直な感想をもらした。
「ーーこれも作戦のうちだな」
「おたくの国、大丈夫?」
「戦力の差をうめるためにはこれぐらいするだろう」
悪びれることなく、当然という顔のアスラーンだ。
なんと、アジャハン国の魔法騎士達が、ロードリンゲン国の魔法騎士から宝石を奪い、陣営に持ち帰っているのだ。
「まあ、いいって言ってたけど、これって……」
「わが国の兵士では、無理でしょうね」
アンダーソニーとルッタマイヤが顔を曇らせている。
「国民性だな」
「けど、うちの兵士もやると思うよー。でないと勝てないもんー」
ラルジュナの言葉にアスラーンが頷いた。
「そうだ。さすがへなちょこ国の王子。己の器をよく理解している」
「うるさいー。ヒョウマー、ボク研究室見てくるからー」
培養してた菌、死んじゃってるかもー、とラルジュナが悲しげにつぶやく。
「あっ!急ぎの書類忘れてた!眼鏡も欲しいし。ごめん、ルート!すぐに戻るから!」
「大丈夫、行ってこいよ」
ラルジュナが兵馬の手をしっかりとつかんで転移魔法を使う。
「ーーラルさんには網はかけられてないのか?」
「あいつを引っかけるのは無理だろうな。あいつには凶霊の加護がある」
「へぇ、神様もついたりつかなかったりなの?」
「そうだな。うちの王族は、時空竜の女神様の恵みが強い、弱いがある」
「ほ~ん」
「他国では、王族でも加護をする者しない者があるらしく、アスラーンにはーー」
「そう、私が生まれた日に、愛の三女神様が加護を与えにこられたのだ」
「もう会いたくない神様ね」
「そういうな。三女神様はルートとヒョウマと遊びたいようだぞ」
「ーールート、女神様の言う事はきかないと」
「何言ってんだ、おまえ」
真顔のアレクセイを琉生斗は睨んだ。そのやりとりを微笑ましく眺めながら、アスラーンが独り言のようにつぶやく。
「ーーあいつの生まれた日に母親が死んだらしく、凶霊キャロラインが哀れに思って加護にこられたそうだ」
琉生斗は目を見張った。
「生まれた日に……」
「もともと身体が弱い方だったそうでな。自分か子供かどちらかだとは言われていたそうだ。アルジュナ国王には黙っていたらしい」
「ーーそうなんだ……」
「あいつも尖っていたときは、産んでくれない方がよかった、と言っていたが」
「ーー性格的に言いそうじゃないね」
「いやいや、尖っていたあいつは、隣りの席に神殺しが座っているとは知らずに、喧嘩をうって返り討ちにあったぞ」
「あーー、隣りの神殺し……」
アレクセイが遠い目をした。
「ーー尖っていたな……」
「おまえは、死にたそうな顔だったがなーー。その後、妙にウマがあったのか、ふたりで授業をサボるようになって、私がお目付け役になったのだ」
「そうなんだ……」
死にたそうな顔、って……。
琉生斗は心が、何かにつかまれたように苦しくなる。
「ーー母親がいない気持ちは、ラルジュナの方がわかってやれるかもな」
ポツリ、とアレクセイがこぼした。
「たしかに。どことなく、ルートとラルジュナは尖り方が似ているかもな」
楽しそうなアスラーンが、琉生斗を指差す。
「えーー!」
「ーーヒョウマを愛しているところも」
軽く目を細めてアレクセイが皮肉気に言う。
「違うもん!絶対おれの方が兵馬好きだもん!」
そこは譲れない!
「はははっ。ロードリンゲンもさっさと宝石を陣営に運んでいればよかったのにな。ゼロになってしまったようだ」
「うそっーー!トルさんも、ファウラも何やってんだよ!」
「邪魔だから、近くの岩場に置いていたようですーー」
「バカタレーーー!」
真面目すぎるのよ、うちの国ーー。
「信じられない」
ロードリンゲン国の魔法騎士達は、皆同じ気持ちだった。
夜が終わる。
もう、残り一日しかないないのに。
「はははっ。油断しましたね!トードォ殿!」
竜騎士のマルテスが声を張った。
「ーーなんで、マルテスさんが」
「我々、竜に乗ってないときは、魔法騎士なんです」
「成長すると魔法も使えるようになるので」
楽しそうに宝石を眺めながら、タルティンとイスラが話す。
「こ、こんな卑怯な手で、いいのかあんたらは!」
強い目を輝かせて、マルテスが言い放つ。
「はい。アスラーン様の指示ですから」
「私達の意思は関係ありません!」
東堂は目を見張った。
「ーー良いひとだって思ってたのに……」
「それは、残念でした」
「では、陣営に帰ります~」
浮遊魔法で竜騎士達は逃げだした。
「お、おいっ!モロフ!追うぞ!」
「と、トードォ、無理だよー」
足に治癒魔法をかけながらモロフが叫んだ。他の騎士達も怪我がひどい。デスビーストノーマルとの戦闘後、間髪いれずに竜騎士達からの猛攻撃を受けたからだ。怪我がひどすぎて棄権する者も多発した。
「ーー何だよ、この状況」
ひでーじゃねえか、アス太子ーー。
「ーーこのままじゃ終われない!デスビーストハードのエリアに行くぜ!」
「はあ?無理だってトードォも言ってたよね!」
美花が息を吐いて立ちあがる。騎士服の埃をはらった。
「ーーあたしも行くわ」
「ミハナ!なんで!?」
「よし、行くぞ!」
「ええ」
緊張感に青ざめた美花が、小さく頷いた。
「ちょっと待って!ファウラ大隊長は?トードォ!無理だってーー!」
朝日を背に、ふたりは歩きだした。
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