ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)

第98話 国境石を越えて

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「ーーたしかに女性ですね。交代します」
「お願いしや~す」
 若い兵士達が暗い森の中、砦に帰っていく。







「ーーよかった。ヒョウマ殿なら女性兵士よりひょろ……か弱そうなので大丈夫と思いましたがーー」
 ニコルナが吹きだした。


 兵馬は自覚があるので口を挟まなかった。自分が上官なら、誰に頼まれたって自分はとらないだろう。
 


「ーーありがとう、ジュドーさん。ニコルナ」

「償いになった?」
「うん!ありがとう!」
「ーー問題はここからです。私達ならたいした距離じゃありませんが……」
「ジュドーさん、よくわかってるね」
 自分ならかなりかかる、ということだ。

「同行してもいいんですがーー」
「だいじょうぶだよ。あやしまれたらジュドーさんがあぶないでしょ。じゃあ、いくね」

「ーー会えてよかったです。これも凶霊キャロラインのお導きでしょう」
「そうかも。ぼくもルートやとうどうみたいにみえたらなーー」

 名残惜しそうなジュドーを、目を細めて見た。


「ーーごめんね、ジュドーさん。ぼくのせいで、ジュナが……」
「何言ってるんですか!あの方が選んだ道ですよ!間違いなんかあるはずがありません!」

 強く言われ、兵馬は目を見開いた。

「どうか、ラルジュナ様をお願いします。本当に、優しい方だから、心配してますよ!」
「ーーそうかな……」

 いなくなった事に気づいてないかも。

「え?もしかして無自覚なの?」
「なにが?」
「ラルジュナ様、授業中もあなたばっかり見てたわよ」

 ニコルナの言葉に顔が赤くなる。

「ヒョウマ殿、急がないと朝になりますよ」

 ジュドーの苦笑する声に、兵馬は急いで歩きだした。



「あ、あ、ありがと。また、あえるひまで、さよなら!」
「ええ!」
「元気でね!」



 ほのかに光る国境石のせいで、ジュドーが泣いている事に気づいた。




 ーーいつか必ず再会させるからね。たとえそれが、どんな結末になろうともーー。


 兵馬は誓った。

























「大丈夫か、ルート」
 魔蝕を前にアレクセイが尋ねた。
 こんな夜に魔蝕とは珍しいことだが、この国ではわりとあることだ。
 来来国、欲灯街。
 夜も眠らない、あやしい光が並ぶ町。

 ようは風俗街だーー。

「ヤバイ空気の街だよな」
 逃げていったほぼ全裸の女性を目で追う妻を、アレクセイが呆れた顔で眺めている。

「ーーまだ諦めていないのか」

「いやいや、おれはおまえは愛している。これは、ちょっとした憧れだよ。ーーおれ、母親知らないじゃん。抱っこもしてもらってねえかもしれないじゃん」

 アレクセイが美しい目を見張った。

「母親側なのに、一生女性にさわることがないんだぜ。前にさわられたけど、神様だったしーー」
「そうだな、母か……」

「まあ、結界よろしく」
「ああ」

 アレクセイの結界が、妓館の灯りにまとわりつく魔蝕を切り離して覆う。

「いいじゃん」
 琉生斗は聖女の証を握りしめた。

 光が、強い光が魔蝕を包んだ。溶けるように魔蝕が消えていく。

 完全に消えるまで、そう時間はかからなかった。



「ーー妓館か……。アレクはどこの店に行ったんだ?」
 アレクセイが顔をゆがませた。



 嫌な予感がするーー。



「おれだけを愛してほしかったなーー」
「もちろんだ。私はルートしか愛せない」

「違うじゃん……」
「あれは、本当にーー」
「やりたかっただけだもんね。それも最低だな」
「いや、アスラーンに無理やりーー」
「逃げなかったんだろ?」
「ルート!本当に申し訳なかった!」

「いいよ。おれが心が狭いだけなんだ」
「……………………」

 琉生斗はたまにめんどくさい。それでもアレクセイにとっては、最高の妻だ。


「ーー早く帰ろう。兵馬が心配だ」


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