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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)
第98話 国境石を越えて
しおりを挟む「ーーたしかに女性ですね。交代します」
「お願いしや~す」
若い兵士達が暗い森の中、砦に帰っていく。
「ーーよかった。ヒョウマ殿なら女性兵士よりひょろ……か弱そうなので大丈夫と思いましたがーー」
ニコルナが吹きだした。
兵馬は自覚があるので口を挟まなかった。自分が上官なら、誰に頼まれたって自分はとらないだろう。
「ーーありがとう、ジュドーさん。ニコルナ」
「償いになった?」
「うん!ありがとう!」
「ーー問題はここからです。私達ならたいした距離じゃありませんが……」
「ジュドーさん、よくわかってるね」
自分ならかなりかかる、ということだ。
「同行してもいいんですがーー」
「だいじょうぶだよ。あやしまれたらジュドーさんがあぶないでしょ。じゃあ、いくね」
「ーー会えてよかったです。これも凶霊のお導きでしょう」
「そうかも。ぼくもルートやとうどうみたいにみえたらなーー」
名残惜しそうなジュドーを、目を細めて見た。
「ーーごめんね、ジュドーさん。ぼくのせいで、ジュナが……」
「何言ってるんですか!あの方が選んだ道ですよ!間違いなんかあるはずがありません!」
強く言われ、兵馬は目を見開いた。
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「あ、あ、ありがと。また、あえるひまで、さよなら!」
「ええ!」
「元気でね!」
ほのかに光る国境石のせいで、ジュドーが泣いている事に気づいた。
ーーいつか必ず再会させるからね。たとえそれが、どんな結末になろうともーー。
兵馬は誓った。
「大丈夫か、ルート」
魔蝕を前にアレクセイが尋ねた。
こんな夜に魔蝕とは珍しいことだが、この国ではわりとあることだ。
来来国、欲灯街。
夜も眠らない、あやしい光が並ぶ町。
ようは風俗街だーー。
「ヤバイ空気の街だよな」
逃げていったほぼ全裸の女性を目で追う妻を、アレクセイが呆れた顔で眺めている。
「ーーまだ諦めていないのか」
「いやいや、おれはおまえは愛している。これは、ちょっとした憧れだよ。ーーおれ、母親知らないじゃん。抱っこもしてもらってねえかもしれないじゃん」
アレクセイが美しい目を見張った。
「母親側なのに、一生女性にさわることがないんだぜ。前にさわられたけど、神様だったしーー」
「そうだな、母か……」
「まあ、結界よろしく」
「ああ」
アレクセイの結界が、妓館の灯りにまとわりつく魔蝕を切り離して覆う。
「いいじゃん」
琉生斗は聖女の証を握りしめた。
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完全に消えるまで、そう時間はかからなかった。
「ーー妓館か……。アレクはどこの店に行ったんだ?」
アレクセイが顔をゆがませた。
嫌な予感がするーー。
「おれだけを愛してほしかったなーー」
「もちろんだ。私はルートしか愛せない」
「違うじゃん……」
「あれは、本当にーー」
「やりたかっただけだもんね。それも最低だな」
「いや、アスラーンに無理やりーー」
「逃げなかったんだろ?」
「ルート!本当に申し訳なかった!」
「いいよ。おれが心が狭いだけなんだ」
「……………………」
琉生斗はたまにめんどくさい。それでもアレクセイにとっては、最高の妻だ。
「ーー早く帰ろう。兵馬が心配だ」
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