108 / 235
魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)
第98話 国境石を越えて
しおりを挟む「ーーたしかに女性ですね。交代します」
「お願いしや~す」
若い兵士達が暗い森の中、砦に帰っていく。
「ーーよかった。ヒョウマ殿なら女性兵士よりひょろ……か弱そうなので大丈夫と思いましたがーー」
ニコルナが吹きだした。
兵馬は自覚があるので口を挟まなかった。自分が上官なら、誰に頼まれたって自分はとらないだろう。
「ーーありがとう、ジュドーさん。ニコルナ」
「償いになった?」
「うん!ありがとう!」
「ーー問題はここからです。私達ならたいした距離じゃありませんが……」
「ジュドーさん、よくわかってるね」
自分ならかなりかかる、ということだ。
「同行してもいいんですがーー」
「だいじょうぶだよ。あやしまれたらジュドーさんがあぶないでしょ。じゃあ、いくね」
「ーー会えてよかったです。これも凶霊のお導きでしょう」
「そうかも。ぼくもルートやとうどうみたいにみえたらなーー」
名残惜しそうなジュドーを、目を細めて見た。
「ーーごめんね、ジュドーさん。ぼくのせいで、ジュナが……」
「何言ってるんですか!あの方が選んだ道ですよ!間違いなんかあるはずがありません!」
強く言われ、兵馬は目を見開いた。
「どうか、ラルジュナ様をお願いします。本当に、優しい方だから、心配してますよ!」
「ーーそうかな……」
いなくなった事に気づいてないかも。
「え?もしかして無自覚なの?」
「なにが?」
「ラルジュナ様、授業中もあなたばっかり見てたわよ」
ニコルナの言葉に顔が赤くなる。
「ヒョウマ殿、急がないと朝になりますよ」
ジュドーの苦笑する声に、兵馬は急いで歩きだした。
「あ、あ、ありがと。また、あえるひまで、さよなら!」
「ええ!」
「元気でね!」
ほのかに光る国境石のせいで、ジュドーが泣いている事に気づいた。
ーーいつか必ず再会させるからね。たとえそれが、どんな結末になろうともーー。
兵馬は誓った。
「大丈夫か、ルート」
魔蝕を前にアレクセイが尋ねた。
こんな夜に魔蝕とは珍しいことだが、この国ではわりとあることだ。
来来国、欲灯街。
夜も眠らない、あやしい光が並ぶ町。
ようは風俗街だーー。
「ヤバイ空気の街だよな」
逃げていったほぼ全裸の女性を目で追う妻を、アレクセイが呆れた顔で眺めている。
「ーーまだ諦めていないのか」
「いやいや、おれはおまえは愛している。これは、ちょっとした憧れだよ。ーーおれ、母親知らないじゃん。抱っこもしてもらってねえかもしれないじゃん」
アレクセイが美しい目を見張った。
「母親側なのに、一生女性にさわることがないんだぜ。前にさわられたけど、神様だったしーー」
「そうだな、母か……」
「まあ、結界よろしく」
「ああ」
アレクセイの結界が、妓館の灯りにまとわりつく魔蝕を切り離して覆う。
「いいじゃん」
琉生斗は聖女の証を握りしめた。
光が、強い光が魔蝕を包んだ。溶けるように魔蝕が消えていく。
完全に消えるまで、そう時間はかからなかった。
「ーー妓館か……。アレクはどこの店に行ったんだ?」
アレクセイが顔をゆがませた。
嫌な予感がするーー。
「おれだけを愛してほしかったなーー」
「もちろんだ。私はルートしか愛せない」
「違うじゃん……」
「あれは、本当にーー」
「やりたかっただけだもんね。それも最低だな」
「いや、アスラーンに無理やりーー」
「逃げなかったんだろ?」
「ルート!本当に申し訳なかった!」
「いいよ。おれが心が狭いだけなんだ」
「……………………」
琉生斗はたまにめんどくさい。それでもアレクセイにとっては、最高の妻だ。
「ーー早く帰ろう。兵馬が心配だ」
54
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる