105 / 236
魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)
第95話 あれ?ヒョウマは?
しおりを挟む
夜がきても誰も休まなかった。
休憩すら取らずに、東堂はデスビーストを探す。広大な平原をひたすら歩いて探すのだ。ただし、ハードだけは、出現エリアが決まっている。
「ノーマルは強いな」
これ以上強いのがハードなら、本気でやばい。
「町子は遠慮がない」
仲間達は軽食をとっていた。
東堂も兵馬にもらったおにぎりを取り出す。保存魔法がかけられたおにぎりは、ほかほかのままだ。
「サンキュー、兵馬!」
頬張って絶叫する。
「すげー!海苔うめー!」
最高!米もふっくら!塩加減マジヤバイ!
東堂は鼻歌を歌いながら歩き、残りのおにぎりをたいらげた。
「ルート、休まなくて大丈夫か?」
アレクセイが琉生斗の髪の毛を撫でながら囁く。
「うん。もうちょっと見たい。今日は魔蝕もおとなしいからありがたいな」
「ーーああ」
残念そうなアレクセイだ。
「兵馬、戻って来なかったなー」
「ルートはヒョウマが大好きだな」
「おぅ。それについては、たとえおまえでもどうこう言わせねぇ」
「わかっている」
諦めて溜め息をつく。
「アスラーンさん、実際のところどっちが有利なの?」
「ロードリンゲンの魔法騎士だな」
「えー!自分のところって言わないんだ」
「魔力の強さと魔法を使用できる人間の数が、ロードリンゲンが世界ー、ついで、バルド、アジャハン、バッカイアになっている」
「あー、バルドより下なんだ」
「だから、あの国は調子にのるのだ。バッカイアなど、兵士でも魔法が使えないものは多いぞ。ラルジュナとて、魔力量はヒョウマの姉より下だろう」
「信じられないけどな」
「それをカバーできるのが、あの男の恐ろしいところだよ」
アスラーンがふふっ、と笑う。
「悪口言わないでよねー」
あらわれたラルジュナがアスラーンを叩いた。
「あれー?ヒョウマはー?」
「えっ?」
ラルジュナの言葉に琉生斗は眉をしかめた。
「帰ったよ。書類やるって……」
目を細めたラルジュナが、視線を横にした。
「ーー魔力を切ってる。アレクセイ」
「捜しているーー」
「兵馬、いないの?なんで?」
「転移に失敗したのか?」
アスラーンが近衛兵フストンを呼んだ。
「どうしました?」
「どこかで転移をしくじって、塔の上で泣いている眼鏡がいないか確認せよ」
「ヒョウマ殿がいないんですか。わかりました」
「転移魔法ってしくじるとヤバイんだろ?」
「いや、ヒョウマは慎重だ。長距離なら二回に分ける。それに、」
アレクセイが眉をしかめた。
「魔力を切っているのが気になる」
「それって……」
「感知ができないんだよ」
ラルジュナの目つきが変わっている。
「魔力を封じられたのか、自分で切ったのか」
指で顎をさわり、アスラーンが考えを口にした。
「もしや、あれではないのか?」
「いや、そうなら逆探知が発動する」
「なら、他に、ヒョウマに目をつけているものは……」
「ーーバッカイアかも……」
ラルジュナの表情に色がない。
「ジュリアム王妃がヒョウマを欲しがっているからな。ここはバッカイアに近い土地だ。ダッカマ領で演習をすると知って、帰着をかけていたのかもしれない」
アスラーンの言葉にラルジュナが舌打ちをした。
「アスラーン様!南国境のマルセイン砦からの報告で、自国から許可なく転移魔法でバッカイアに渡った者がいると」
フストンが慌てて走ってくる。
「いつだ?」
「ーー夕暮れ前です」
「報告が遅いな」
「バッカイアからの警告がなかったので、アジャハン国の者ではないと報告をしなかったそうです」
「ーーラルジュナ。動くな、亡命中だろ。国際法に引っかかる」
制止され、ラルジュナが動きをとめた。
「だけど!」
「マルセイン砦で待機する。ラルジュナは感知阻害を、転移は私がやる」
「ーーわかった」
「アンダーソニー殿、うちのヒャルパンは?」
「つぶれております」
「まったく」
アスラーンが憮然とした表情で宙を睨んだ。
「あー!」
琉生斗は叫んだ。
ざわざわと闇が脳内に浮かんでくる。
「どうしようーー。アレク、魔蝕だよ」
「どこだ?」
「たぶん、来来国かな……」
アスラーンの判断は早かった。
「アレクセイは魔蝕の浄化に行け。アンダーソニー殿、ここはまかせる」
「心得えました」
「アスラーンさん、ラルジュナさん、兵馬頼むよ!」
琉生斗は眉を寄せたまま叫んだ。
「よけいな事は考えずに、ルートは安心して魔蝕の浄化にのぞめ」
「ーーうん……」
アレクセイが琉生斗の肩に手をおいた。
「ルート、落ち着け」
「わかってるよ」
琉生斗はアレクセイに抱きついた。
兵馬ーー。
きっと、道に迷っただけだよなーー。
おまえ、迷ってるの見たことないけどーーーー。
休憩すら取らずに、東堂はデスビーストを探す。広大な平原をひたすら歩いて探すのだ。ただし、ハードだけは、出現エリアが決まっている。
「ノーマルは強いな」
これ以上強いのがハードなら、本気でやばい。
「町子は遠慮がない」
仲間達は軽食をとっていた。
東堂も兵馬にもらったおにぎりを取り出す。保存魔法がかけられたおにぎりは、ほかほかのままだ。
「サンキュー、兵馬!」
頬張って絶叫する。
「すげー!海苔うめー!」
最高!米もふっくら!塩加減マジヤバイ!
東堂は鼻歌を歌いながら歩き、残りのおにぎりをたいらげた。
「ルート、休まなくて大丈夫か?」
アレクセイが琉生斗の髪の毛を撫でながら囁く。
「うん。もうちょっと見たい。今日は魔蝕もおとなしいからありがたいな」
「ーーああ」
残念そうなアレクセイだ。
「兵馬、戻って来なかったなー」
「ルートはヒョウマが大好きだな」
「おぅ。それについては、たとえおまえでもどうこう言わせねぇ」
「わかっている」
諦めて溜め息をつく。
「アスラーンさん、実際のところどっちが有利なの?」
「ロードリンゲンの魔法騎士だな」
「えー!自分のところって言わないんだ」
「魔力の強さと魔法を使用できる人間の数が、ロードリンゲンが世界ー、ついで、バルド、アジャハン、バッカイアになっている」
「あー、バルドより下なんだ」
「だから、あの国は調子にのるのだ。バッカイアなど、兵士でも魔法が使えないものは多いぞ。ラルジュナとて、魔力量はヒョウマの姉より下だろう」
「信じられないけどな」
「それをカバーできるのが、あの男の恐ろしいところだよ」
アスラーンがふふっ、と笑う。
「悪口言わないでよねー」
あらわれたラルジュナがアスラーンを叩いた。
「あれー?ヒョウマはー?」
「えっ?」
ラルジュナの言葉に琉生斗は眉をしかめた。
「帰ったよ。書類やるって……」
目を細めたラルジュナが、視線を横にした。
「ーー魔力を切ってる。アレクセイ」
「捜しているーー」
「兵馬、いないの?なんで?」
「転移に失敗したのか?」
アスラーンが近衛兵フストンを呼んだ。
「どうしました?」
「どこかで転移をしくじって、塔の上で泣いている眼鏡がいないか確認せよ」
「ヒョウマ殿がいないんですか。わかりました」
「転移魔法ってしくじるとヤバイんだろ?」
「いや、ヒョウマは慎重だ。長距離なら二回に分ける。それに、」
アレクセイが眉をしかめた。
「魔力を切っているのが気になる」
「それって……」
「感知ができないんだよ」
ラルジュナの目つきが変わっている。
「魔力を封じられたのか、自分で切ったのか」
指で顎をさわり、アスラーンが考えを口にした。
「もしや、あれではないのか?」
「いや、そうなら逆探知が発動する」
「なら、他に、ヒョウマに目をつけているものは……」
「ーーバッカイアかも……」
ラルジュナの表情に色がない。
「ジュリアム王妃がヒョウマを欲しがっているからな。ここはバッカイアに近い土地だ。ダッカマ領で演習をすると知って、帰着をかけていたのかもしれない」
アスラーンの言葉にラルジュナが舌打ちをした。
「アスラーン様!南国境のマルセイン砦からの報告で、自国から許可なく転移魔法でバッカイアに渡った者がいると」
フストンが慌てて走ってくる。
「いつだ?」
「ーー夕暮れ前です」
「報告が遅いな」
「バッカイアからの警告がなかったので、アジャハン国の者ではないと報告をしなかったそうです」
「ーーラルジュナ。動くな、亡命中だろ。国際法に引っかかる」
制止され、ラルジュナが動きをとめた。
「だけど!」
「マルセイン砦で待機する。ラルジュナは感知阻害を、転移は私がやる」
「ーーわかった」
「アンダーソニー殿、うちのヒャルパンは?」
「つぶれております」
「まったく」
アスラーンが憮然とした表情で宙を睨んだ。
「あー!」
琉生斗は叫んだ。
ざわざわと闇が脳内に浮かんでくる。
「どうしようーー。アレク、魔蝕だよ」
「どこだ?」
「たぶん、来来国かな……」
アスラーンの判断は早かった。
「アレクセイは魔蝕の浄化に行け。アンダーソニー殿、ここはまかせる」
「心得えました」
「アスラーンさん、ラルジュナさん、兵馬頼むよ!」
琉生斗は眉を寄せたまま叫んだ。
「よけいな事は考えずに、ルートは安心して魔蝕の浄化にのぞめ」
「ーーうん……」
アレクセイが琉生斗の肩に手をおいた。
「ルート、落ち着け」
「わかってるよ」
琉生斗はアレクセイに抱きついた。
兵馬ーー。
きっと、道に迷っただけだよなーー。
おまえ、迷ってるの見たことないけどーーーー。
65
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
トップアイドルのあいつと凡人の俺
にゃーつ
BL
アイドル
それは歌・ダンス・演技・お笑いなど幅広いジャンルで芸能活動を展開しファンを笑顔にする存在。
そんなアイドルにとって1番のタブー
それは恋愛スクープ
たった一つのスクープでアイドル人生を失ってしまうほどの効力がある。
今この国でアイドルといえば100人中100人がこう答えるだろう。
『soleil』
ソレイユ、それはフランス語で太陽を意味する言葉。その意味のように太陽のようにこの国を明るくするほどの影響力があり、テレビで見ない日はない。
メンバー5人それぞれが映画にドラマと引っ張りだこで毎年のツアー動員数も国内トップを誇る。
そんなメンバーの中でも頭いくつも抜けるほど人気なメンバーがいる。
工藤蒼(くどう そう)
アイドルでありながらアカデミー賞受賞歴もあり、年に何本ものドラマと映画出演を抱えアイドルとしてだけでなく芸能人としてトップといえるほどの人気を誇る男。
そんな彼には秘密があった。
なんと彼には付き合って約4年が経つ恋人、木村伊織(きむら いおり)がいた!!!
伊織はある事情から外に出ることができず蒼のマンションに引きこもってる引き篭もり!?!?
国内NO.1アイドル×引き篭もり男子
そんな2人の物語

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる