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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)
第95話 あれ?ヒョウマは?
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夜がきても誰も休まなかった。
休憩すら取らずに、東堂はデスビーストを探す。広大な平原をひたすら歩いて探すのだ。ただし、ハードだけは、出現エリアが決まっている。
「ノーマルは強いな」
これ以上強いのがハードなら、本気でやばい。
「町子は遠慮がない」
仲間達は軽食をとっていた。
東堂も兵馬にもらったおにぎりを取り出す。保存魔法がかけられたおにぎりは、ほかほかのままだ。
「サンキュー、兵馬!」
頬張って絶叫する。
「すげー!海苔うめー!」
最高!米もふっくら!塩加減マジヤバイ!
東堂は鼻歌を歌いながら歩き、残りのおにぎりをたいらげた。
「ルート、休まなくて大丈夫か?」
アレクセイが琉生斗の髪の毛を撫でながら囁く。
「うん。もうちょっと見たい。今日は魔蝕もおとなしいからありがたいな」
「ーーああ」
残念そうなアレクセイだ。
「兵馬、戻って来なかったなー」
「ルートはヒョウマが大好きだな」
「おぅ。それについては、たとえおまえでもどうこう言わせねぇ」
「わかっている」
諦めて溜め息をつく。
「アスラーンさん、実際のところどっちが有利なの?」
「ロードリンゲンの魔法騎士だな」
「えー!自分のところって言わないんだ」
「魔力の強さと魔法を使用できる人間の数が、ロードリンゲンが世界ー、ついで、バルド、アジャハン、バッカイアになっている」
「あー、バルドより下なんだ」
「だから、あの国は調子にのるのだ。バッカイアなど、兵士でも魔法が使えないものは多いぞ。ラルジュナとて、魔力量はヒョウマの姉より下だろう」
「信じられないけどな」
「それをカバーできるのが、あの男の恐ろしいところだよ」
アスラーンがふふっ、と笑う。
「悪口言わないでよねー」
あらわれたラルジュナがアスラーンを叩いた。
「あれー?ヒョウマはー?」
「えっ?」
ラルジュナの言葉に琉生斗は眉をしかめた。
「帰ったよ。書類やるって……」
目を細めたラルジュナが、視線を横にした。
「ーー魔力を切ってる。アレクセイ」
「捜しているーー」
「兵馬、いないの?なんで?」
「転移に失敗したのか?」
アスラーンが近衛兵フストンを呼んだ。
「どうしました?」
「どこかで転移をしくじって、塔の上で泣いている眼鏡がいないか確認せよ」
「ヒョウマ殿がいないんですか。わかりました」
「転移魔法ってしくじるとヤバイんだろ?」
「いや、ヒョウマは慎重だ。長距離なら二回に分ける。それに、」
アレクセイが眉をしかめた。
「魔力を切っているのが気になる」
「それって……」
「感知ができないんだよ」
ラルジュナの目つきが変わっている。
「魔力を封じられたのか、自分で切ったのか」
指で顎をさわり、アスラーンが考えを口にした。
「もしや、あれではないのか?」
「いや、そうなら逆探知が発動する」
「なら、他に、ヒョウマに目をつけているものは……」
「ーーバッカイアかも……」
ラルジュナの表情に色がない。
「ジュリアム王妃がヒョウマを欲しがっているからな。ここはバッカイアに近い土地だ。ダッカマ領で演習をすると知って、帰着をかけていたのかもしれない」
アスラーンの言葉にラルジュナが舌打ちをした。
「アスラーン様!南国境のマルセイン砦からの報告で、自国から許可なく転移魔法でバッカイアに渡った者がいると」
フストンが慌てて走ってくる。
「いつだ?」
「ーー夕暮れ前です」
「報告が遅いな」
「バッカイアからの警告がなかったので、アジャハン国の者ではないと報告をしなかったそうです」
「ーーラルジュナ。動くな、亡命中だろ。国際法に引っかかる」
制止され、ラルジュナが動きをとめた。
「だけど!」
「マルセイン砦で待機する。ラルジュナは感知阻害を、転移は私がやる」
「ーーわかった」
「アンダーソニー殿、うちのヒャルパンは?」
「つぶれております」
「まったく」
アスラーンが憮然とした表情で宙を睨んだ。
「あー!」
琉生斗は叫んだ。
ざわざわと闇が脳内に浮かんでくる。
「どうしようーー。アレク、魔蝕だよ」
「どこだ?」
「たぶん、来来国かな……」
アスラーンの判断は早かった。
「アレクセイは魔蝕の浄化に行け。アンダーソニー殿、ここはまかせる」
「心得えました」
「アスラーンさん、ラルジュナさん、兵馬頼むよ!」
琉生斗は眉を寄せたまま叫んだ。
「よけいな事は考えずに、ルートは安心して魔蝕の浄化にのぞめ」
「ーーうん……」
アレクセイが琉生斗の肩に手をおいた。
「ルート、落ち着け」
「わかってるよ」
琉生斗はアレクセイに抱きついた。
兵馬ーー。
きっと、道に迷っただけだよなーー。
おまえ、迷ってるの見たことないけどーーーー。
休憩すら取らずに、東堂はデスビーストを探す。広大な平原をひたすら歩いて探すのだ。ただし、ハードだけは、出現エリアが決まっている。
「ノーマルは強いな」
これ以上強いのがハードなら、本気でやばい。
「町子は遠慮がない」
仲間達は軽食をとっていた。
東堂も兵馬にもらったおにぎりを取り出す。保存魔法がかけられたおにぎりは、ほかほかのままだ。
「サンキュー、兵馬!」
頬張って絶叫する。
「すげー!海苔うめー!」
最高!米もふっくら!塩加減マジヤバイ!
東堂は鼻歌を歌いながら歩き、残りのおにぎりをたいらげた。
「ルート、休まなくて大丈夫か?」
アレクセイが琉生斗の髪の毛を撫でながら囁く。
「うん。もうちょっと見たい。今日は魔蝕もおとなしいからありがたいな」
「ーーああ」
残念そうなアレクセイだ。
「兵馬、戻って来なかったなー」
「ルートはヒョウマが大好きだな」
「おぅ。それについては、たとえおまえでもどうこう言わせねぇ」
「わかっている」
諦めて溜め息をつく。
「アスラーンさん、実際のところどっちが有利なの?」
「ロードリンゲンの魔法騎士だな」
「えー!自分のところって言わないんだ」
「魔力の強さと魔法を使用できる人間の数が、ロードリンゲンが世界ー、ついで、バルド、アジャハン、バッカイアになっている」
「あー、バルドより下なんだ」
「だから、あの国は調子にのるのだ。バッカイアなど、兵士でも魔法が使えないものは多いぞ。ラルジュナとて、魔力量はヒョウマの姉より下だろう」
「信じられないけどな」
「それをカバーできるのが、あの男の恐ろしいところだよ」
アスラーンがふふっ、と笑う。
「悪口言わないでよねー」
あらわれたラルジュナがアスラーンを叩いた。
「あれー?ヒョウマはー?」
「えっ?」
ラルジュナの言葉に琉生斗は眉をしかめた。
「帰ったよ。書類やるって……」
目を細めたラルジュナが、視線を横にした。
「ーー魔力を切ってる。アレクセイ」
「捜しているーー」
「兵馬、いないの?なんで?」
「転移に失敗したのか?」
アスラーンが近衛兵フストンを呼んだ。
「どうしました?」
「どこかで転移をしくじって、塔の上で泣いている眼鏡がいないか確認せよ」
「ヒョウマ殿がいないんですか。わかりました」
「転移魔法ってしくじるとヤバイんだろ?」
「いや、ヒョウマは慎重だ。長距離なら二回に分ける。それに、」
アレクセイが眉をしかめた。
「魔力を切っているのが気になる」
「それって……」
「感知ができないんだよ」
ラルジュナの目つきが変わっている。
「魔力を封じられたのか、自分で切ったのか」
指で顎をさわり、アスラーンが考えを口にした。
「もしや、あれではないのか?」
「いや、そうなら逆探知が発動する」
「なら、他に、ヒョウマに目をつけているものは……」
「ーーバッカイアかも……」
ラルジュナの表情に色がない。
「ジュリアム王妃がヒョウマを欲しがっているからな。ここはバッカイアに近い土地だ。ダッカマ領で演習をすると知って、帰着をかけていたのかもしれない」
アスラーンの言葉にラルジュナが舌打ちをした。
「アスラーン様!南国境のマルセイン砦からの報告で、自国から許可なく転移魔法でバッカイアに渡った者がいると」
フストンが慌てて走ってくる。
「いつだ?」
「ーー夕暮れ前です」
「報告が遅いな」
「バッカイアからの警告がなかったので、アジャハン国の者ではないと報告をしなかったそうです」
「ーーラルジュナ。動くな、亡命中だろ。国際法に引っかかる」
制止され、ラルジュナが動きをとめた。
「だけど!」
「マルセイン砦で待機する。ラルジュナは感知阻害を、転移は私がやる」
「ーーわかった」
「アンダーソニー殿、うちのヒャルパンは?」
「つぶれております」
「まったく」
アスラーンが憮然とした表情で宙を睨んだ。
「あー!」
琉生斗は叫んだ。
ざわざわと闇が脳内に浮かんでくる。
「どうしようーー。アレク、魔蝕だよ」
「どこだ?」
「たぶん、来来国かな……」
アスラーンの判断は早かった。
「アレクセイは魔蝕の浄化に行け。アンダーソニー殿、ここはまかせる」
「心得えました」
「アスラーンさん、ラルジュナさん、兵馬頼むよ!」
琉生斗は眉を寄せたまま叫んだ。
「よけいな事は考えずに、ルートは安心して魔蝕の浄化にのぞめ」
「ーーうん……」
アレクセイが琉生斗の肩に手をおいた。
「ルート、落ち着け」
「わかってるよ」
琉生斗はアレクセイに抱きついた。
兵馬ーー。
きっと、道に迷っただけだよなーー。
おまえ、迷ってるの見たことないけどーーーー。
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