ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
101 / 235
魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)

第91話 アレクセイVSラルジュナ

しおりを挟む


「ーーはじめ!」








 激突に火花が散った。
 竜巻のような風圧が、アスラーンの張った結界にあたる。

 瞬時に闘技場の中央に飛び剣を交えた二人だが、ラルジュナがすぐに後ろに下がった。


「!」

 東堂は目を見張った。
 
 無数の光の槍がアレクセイに突き刺さる。短剣ですべてを叩く間に、ラルジュナが突進していき激しく撃ち合う。間合いを詰めすぎるとアレクセイの蹴りが飛び、蹴りを避けたラルジュナが後ろに下がる。

 だが、間髪入れずに光の矢と雷の矢がアレクセイめがけて飛んでいく。

「な、何この魔法陣……」

 美花が呆然と空を見た。

 おびただしい数の魔法陣が、顕現けんげんしている。それらが間をあけずにアレクセイを攻撃していくのだ。


「ーーすごいだろ。あいつは無詠唱で魔法が使えるのだ」

「えっーーー!!!?」 

 美花や、他の魔法騎士達も愕然とした顔になった。

「アレク、なんで結界張らないんだ?」
 琉生斗は尋ねた。

 アレクセイが魔法の槍を短剣でさばき、ラルジュナと長剣で撃ち合う。こちらから見ていても、苦しげな表情がはっきりとわかる。


 殿下のあのようなお顔ははじめてみるーー、と後ろからつぶやきが聞こえた。


「ーールートは見えないのか?これだけ魔法封じの魔法陣をだされれば、アレクセイもお手上げだ」
「解除はしてるけど……」

 兵馬の言葉に、アスラーンが目を細めた。

「そうだ。アレクセイも解除はしているが、その間にも剣と魔法の攻撃がくるからな。間に合わないのだ」

「……すごい……」

 無意識に美花の口が動いた。近くにいるファウラも食い入るように二人の戦いを凝視する。
いや、誰もが一瞬たりとも見逃さないようにしている。


 剣がぶつかる音が、疾い。あまりの疾さに耳が痛い。


「ーー決着ってつくの?」
「大技がだせればアレクセイの勝ちだ。が、それを許すラルジュナではない」
「魔法陣がやばい数っすけど、魔力もつんすか?」

 汗を拭いながら東堂が聞く。

 凄すぎて目が追いつかない。



 光の矢がさらに増える。

 そして、ラルジュナも驚愕するスピードでアレクセイに突っ込んだ。

「!」

 斬り結び、互いが目を外さずに隙を探す。ラルジュナは常に半身を意識し、アレクセイと正対しないように注意しているのがわかる。
 アレクセイが頭上からも飛んでくる光矢の雨を払い、そのまま勢いを殺さず、下方から抉るように剣をだしたラルジュナを力で叩く。


「すっげ!ラルジュナさん、腕、柔らけーっすね!」

 どんな方向にも対処できる柔軟さが、ラルジュナの剣にはある。

「そうだな。あいつの腕は堅いんだが柔らかいんだ。ただ鍛えたのではああはならんな」
 アスラーンが頷いた。


 力負けに後ずさったラルジュナに、アレクセイが攻め込む。


 アレクセイがラルジュナを捕らえた。

 
 
 長剣を斜め上から下に振り斬る。

「あっ!」
 兵馬が震えた。





 ラルジュナが斬られたのだーー。






「斬るんだーー」

 琉生斗は口を引きつらせた、だがーー。



 アレクセイが頭上に剣を構えた。


 空から回転しながらが降りてくる。


 カンッーー!


 ひときわ高い金属音が鳴り響いた。
  
 斬られた方のラルジュナがゆらりと消える。

「分身……」
「そう、面白いだろう?器用な男だからな。光の矢に紛れて上に飛んでいたのだ。アレクセイもよく反応した」

「れ、レベルが違いすぎるーー」
 誰かが言った。

 ラルジュナが離れると氷の槍がアレクセイに襲いかかる。その圧倒的な数の多さに、アレクセイの動きにも余裕がなくなっていく。

 一本さばく事ができず、氷の槍がアレクセイの足に刺さった。汗を拭う間もなく、後ろに飛んで槍の攻撃をかわす。

 琉生斗は目を見張った。

「ーーはじめて見た」
「だろうな。アレクセイと対等に戦える奴など、あいつぐらいのものだろう」
 
 ラルジュナが剣を振りあげた。振り抜こうとしてアレクセイの長剣にとめられる。

 そして、

 ガキッンー!

 耳鳴りのような剣が折れる音がした。
 
 ラルジュナのもつ長剣が折れ、アレクセイの剣が彼を突いた。

 腹に刺さった剣に、誰かが悲鳴をあげる。





 闘技場に血が飛んだーー。




 アレクセイは剣を引かなかった。
 いや、引けなかった。




「ーー遅いよ……」
 ラルジュナが笑う。


 
 頭上から凄まじい光が降ってきた。

 ラルジュナ・・・・・が銀色に輝く巨大な二叉の槍を構え高速で突っ込んでくる。

 アレクセイは短剣でとめた。長剣がラルジュナの身体から抜けないからだ。

 身体が沈んでいく。アレクセイの顔がゆがんだ。

 その魔法の威力に闘技場の床が消し飛ぶ。


 二人はしばらくの間せめぎ合っていたが、アレクセイが押し返して短剣を動かした。
 長剣を刺していた分身が消え、アレクセイは槍を長剣で受け、短剣を投げつける。

 短剣に首を狙われ、ラルジュナが飛び下がった。
 
 体勢を整え、お互いが相手の顔を見て笑いーー。





「ーーそこまで」
 アスラーンが終わりを告げる。





「え~~~!もうちょっとでボクの勝ちじゃないー!」

 ラルジュナが、ぶー、と抗議した。

凶霊キャロラインの槍までだしてとどめをさせなかったんだ、無理だろう」
「まだ、大十字グランドクロスがあるもんー」

「模擬戦と言っただろう。真剣にやり過ぎだ」
「まだまだ、試したい手があったのにー」
「久々に疲れた」

 アレクセイが汗を拭った。足を治癒する。

「ホント!平気でボクのこと刺すよねー!」
「どうせ分身だろうと思ったからな」
「ふふふっ、二段がまえとは気づかなかったでしょー?」

凶霊キャロラインの槍を警戒はしていた」
「四方から挟んだほうがよかったかー!」

 ラルジュナが腕をだす。アレクセイは自身の腕で友の腕を軽く叩いた。


「ーーラルジュナ様!少しお話をいいですか!」
 トルイストやファウラがラルジュナに詰め寄っていく。

「えー、疲れてるんだけどなー」
「話してやれ」
「アレクセイは説明が下手だからねー」

 すぐにひとにまかせるんだからー、とラルジュナが肩をすくめた。



「ーーかっけ~!凄すぎて、腹いっぱいっすね!けど、何が参考になるんすか?」

 アスラーンの横で東堂は叫んだ。目がきらきらに輝いている。

「ん~、わからんかったか。ヒョウマの姉はわかったか?」

 美花の目がパチクリと動いた。

「ーーあの、たぶんなんですけど、ラルジュナさんの魔力があまり減ってないですーー」

 信じられないものを見る目でラルジュナを見ている。

「はん?めっちゃ使ってたじゃねえか」
「うん。だけど、だんだん魔力が減らなくなっていったわ」
「?」

「その通り。そこがラルジュナの魔法の特徴だ。まあ、できるのはあいつぐらいだろうな。無詠唱に加え、古代魔法、重複オーバーラップを使っている」

「古代魔法ーー」

 場がざわざわと騒がしい。

「神話の魔法だ。魔法を重ねる事によって、重なった魔法陣は、魔力を必要とせずに、魔法が撃てる」
「はあ?」

 意味がわからない。

「それならみんな魔法陣を重ねるんじゃ」
「言葉にして唱えている間は無理だ。魔法陣に勘違いを起こさせる魔法だからな」
「?」

「魔法陣を重ねることによって、ひとつの魔法陣だと勘違いさせる。言葉にだすと魔法陣は勘違いしない」

「はあ?よくわからないっすね」
「そうだな」
「無詠唱なんて、どうすりゃいいのか」

「まあ、生涯の目標にすればいい。それより、戦い方は参考になっただろう」
「はい!すっげー面白かったです!普通の魔法を攻撃じゃなくて囮にするのが、めっちゃ考えてますね!」
「そうだな」

 アスラーンがにこやかに笑った。

「強大な敵は、いかに魔法を使わせないか。そこが鍵だ。小さな魔法でも連続してだせば、充分通用する武器になる。ヒョウマの姉は聞きたい事はあるか?」

「ーーう~ん。殿下も息をするんだなぁ、と」
 眉を寄せながら美花が言う。

「はあ?当たり前の事をいうなよ」
「いや、いい目の付け所だ。あいつが力を入れて剣をおろすときは、吐く息が少し強い」
「え?」

 目がまん丸になった東堂を、まるで小動物を見るような眼差しでアスラーンが愛でる。

「ラルジュナや私はそれを感じ次の行動に移るのだ」
「はあー、そんな暇ないっすよ」
「そうねー」

「鍛錬を怠らなければ、いずれはできるだろう。たゆまず進め」

 アスラーンの言葉に東堂は頭を下げた。

「はい!ありがとうございます!」






 少々遅くはなったが、魔法騎士大演習ははじまった。
 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ! 主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...