ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
100 / 236
魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)

第90話 模擬戦

しおりを挟む
「よお!兵馬!」
「東堂、棄権するなら早くしなよ」
「負けてもいい、最後までやりきる事に意味があるんだ!」
 ガッツポーズの東堂だ。

「その通りだ、トードォ!勝利など二の次だ!」
 背後にいるアスラーンが東堂の肩を叩く。さりげにボディータッチを狙っているようだ。
「え?勝ちたいっすよ!」
 東堂の辞書に矛盾という文字はない。

「そうか。トードォは、魔力量がな……」
「そうなんですよ。増えないっすか?」
「増やす方法もあるにはあるんだがーー」
「えっー!あるんすか!」
「方法がな……」
「お願いします!なんでもしますから!」


「な、な、何でも!」
 顔を赤らめてアスラーンが言葉を繰り返した。



 ラルジュナが吹きだす。
「何、あのアスラーンー、どっかおかしいのー?」
「乙女モードなんだよ」
 冷静に琉生斗は返した。
「へぇ、マルテスが心配するわけだー」
 にやにや親友を見る。


「さあて、どっちの国が勝つかなー」

 関係ないとばかりに、ラルジュナが伸びをした。




「ーーそうだな。参考になるかはわからないが……。見るだけ見てみるか?」
「何をっす?」
「ヒャルパン!アンダーソニー殿!」


「はい、殿下。何かございましたか?」
 アジャハン国の魔法騎士団士長ヒャルパンが膝をついた。深緑色の騎士服を着用している。
 アンダーソニーもヒャルパンに合わせて膝をつく。今回は色がかぶるため、ロードリンゲン側はすべての騎士が焦げ茶色の騎士服を着用している。


「スタートを遅らせる」
「わかりました。何か不備が?」
「いや」
 アスラーンが指を鳴らした。

 あらわれたのは広々とした闘技場だ。
「はあ……」
 場がざわつく。
 困惑する魔法騎士を気にせずに、アスラーンが琉生斗達のいるテントに顔を向ける。

「ラルジュナ、アレクセイと模擬戦をやれ」

「!」

 魔法騎士達が驚きに顔を見合わせた。


「ーーやだよー」
「もったいぶらずに、へなちょこなりの戦いをトードォに見せてやれ」
「最悪ー。アレクセイ断ってよ……、アレクセイ?」
 ラルジュナが慌てた。

 アレクセイが立ちあがり上着を脱いだからだ。

「行くぞ」
 黒い上着と白いシャツを琉生斗に渡し、長剣を椅子に立てかける。
 黒のインナー姿に女性騎士達が口元を押さえた。
「嘘みたいに、細いーー」
 美花がつぶやく。


「うっそぉ~~~!」
 ラルジュナが顔を引きつらせた。
 琉生斗も突然の事に声をかけられない。

 だが、もっと驚いているのは魔法騎士達だ。とりわけ将軍クラスが驚愕に言葉を失っている。

「ルッタマイヤ、剣を貸せ」
「ーーは、はい!」
 アレクセイはルッタマイヤが使う少し細身の剣と自身の短剣を持った。

「あー、もうー。ヒョウマ、死んだら泣いてくれるー?」
 上着を渡しながらラルジュナが潤んだ目で兵馬を見つめる。こちらは薄い緑色のインナーだ。

「え?瞬殺?」
 泣く暇があるのかな?

「ひど~い~。勝ったらキスしてねー♡ーーアスラーン、剣貸してー」
「折るなよ」
「折れるにきまってるよー」
 アスラーンから長剣を渡されたラルジュナは、剣を下に持ち、くっと真横になるように持ちあげた。
「ポンメルの位置が悪いよー」
 すべるー、とラルジュナが、ぶーぶー、文句を言う。

「おまえは手が小さいからな」
「私のならどうだ」
 アレクセイが自分の剣を差しだした。
 同じように確認し、ラルジュナは頷く。

「これならいいよー」
「アレクセイも小さい、というより細いからな」

 よくまああんな力がでるものだ、とアスラーンがいう台詞に全員が同意した。





 アレクセイとラルジュナが闘技場に入った。端と端に立ち、お互いを見る。
 両者立っているだけで華がある。その美しい華のある姿には、数少ない女性魔法騎士達や、手伝いにきているメイド達から溜め息がもれた。

 ーー一もちろん、男性魔法騎士の中にも、うっとりとあやしげな呼吸を繰り返す奴もいるが……。

 


 アスラーンは琉生斗と兵馬を手招きし、東堂の隣りに立たせた。


「ーー闘技場外への結界は私が張る。準備はいいか?」

 両国の魔法騎士達が闘技場のまわりを囲んだ。皆、少しでも前で見ようと押し合う。


「どうぞー」
 軽いノリでラルジュナが答えた。

「ああ」
 アレクセイが軽く息をつく。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...