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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)
第89話 王太子アスラーン
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「ふふふ~ん」
「……………」
「アレクセイ、いい天気だな」
ごきげんなアスラーンが友に話しかける。
「ーー曇っているが」
「どんな天気でも、その良さがある。おまえは情緒がない奴だな」
憮然とした表情のアレクセイを見て、琉生斗は笑った。
「アスラーンさんのとこのプルウィア領は、ほとんど雨なんだろ?」
「ああ。よく知っているな」
「浄化に行く度に雨なんだもん」
「はははっ。それはすまない。あの辺りは湿気も多くじめじめしていて、魔蝕が発生しやすいな」
「ーー魔蝕をナメクジみたいに言われても」
大大国の王太子が、大笑いをした。
「さあ、聖女様はあちらのテントで座っていなさい」
豪華なテントへ追いやられ、琉生斗は眉をしかめた。今日は聖女の白い法衣を着ている。
王太子クリステイルが結婚式準備で忙しいため、代理を琉生斗がつとめることになった。
琉生斗としてはアレクセイと一緒にいられるので、うれしい代役だ。
「アスラーンさん。兵馬は?」
「最近は忙しいと、私の前にも姿を見せん。私の部下のくせに」
「いつ部下になったんだよ!」
「兵馬なら、例の件で忙しいらしいぜ」
演習前のためか、東堂の表情が固い。
「例の件って?」
「ブラジャーをつくるんだって」
「え?ま、まさか、ラルさんの趣味なのか……」
にやにやする東堂に、琉生斗は衝撃を受けた。
「そ、そんなの、おれも見てみたい!」
兵馬ったら、もうー!
「人妻が何言ってんだ」
「ーーわかってるよ、葛城にたのまれてんだろ」
そんな事言ってたが、本当に作るとはーー。
「わりと、姉ちゃん大好きだよな」
「東堂ぉ!」
美花が鬼の形相で向かってきた。
「あっ」
やべ~。
「何ひとの弟を変態扱いしてんのよ!あたしが頼んだの!」
「ーーわかっていますよ」
「なんだ、ブラジャーとは」
「まだ内緒です~」
うふふっ、と美花がほくそ笑む。
「ヒョウマの奴、新しい事を私に相談しないとはーー」
「ふ~ん。アス太子、兵馬と仲良しっすね」
アスラーンが真顔になった。
「いや、誤解だ!仕事仲間だ!」
その勢いに東堂が目をパチクリとさせる。
「いや、別にそんなーー」
首を傾げた東堂を見て、琉生斗は笑いをこらえるに必死だ。アレクセイの肩をバンバン叩いて笑いをごまかす。
「…………」
素の表情を保っているが、内心アレクセイも笑っていた。
あのアスラーンがーー。
この場にラルジュナがいたらさぞ笑い転げただろう。
「諸君、今日まで研鑽を積んできたと思うが、調子はどうだ?」
アスラーンが魔法騎士団の前に立つ。姿勢をくずし、わざと斜に構えたような立ち方が、王者の風格をあらわしていた。威厳と威圧をたたえる姿に、ロードリンゲン国側の騎士から称賛が起こる。
「ーーうん。うちの王太子は、どこなら勝てるんだ?」
琉生斗の問いに、アレクセイが無言で首を振った。
「ーーすでに細かい説明は聞いているな?骨だけを言うが、二国の魔法騎士団のデスビースト討伐で勝敗を決める。このデスビースト、倒せば宝石が出てくる。
もちろん、宝石もソフトは小さくそれなりだが、ハードになれば、パライバトルマリンのようなレアな宝石も出てくる。そのほうが得点は高い」
魔法騎士達が頷いた。
「三日間、それぞれの陣営にどれだけ宝石を持ち帰れるか。交替で休むもよいし、完徹で戦うのも好きにしろ。殺しは無しだが、相手の獲物や宝石を奪うのは手だ」
場がざわつく。
それは騎士の理念ではない。
「大事なのは、どちらが勝つか、ということだ。終わりの合図がでるまでは、せいぜい油断せぬようにな。何が起こるかわからないのが戦場だぞ」
アスラーンが不敵に笑い、話を終えた。
「煽るなー、おまえの親友」
「ひとを怒らせる天才だからな」
アジャハン国の魔法騎士団の名簿に目を通しながら、アレクセイが答える。
琉生斗は深く頷いた。
「よく、友達やってるよ」
旦那の顔をじっと見る。
「ーー殿下だって、変態仲間じゃない」
ひょい、とアレクセイから書類を取りあげて、すかさず違う書類を渡したのは兵馬だ。
「すぐに、認可お願いします~」
「ああ……」
「兵馬!」
背後からの声に琉生斗は顔を輝かせた。
「遅いじゃないか!」
「はいはい。ごめんごめん。パッシャー国から呼びだされてね」
「ーーラルさんの趣味のやつか?」
「ーー殿下の趣味かもよ」
兵馬に睨まれて琉生斗は舌をだした。
「ほんとに、ジュナの友達って、腐ってる王太子と遅れてきた発情期しかいないんだから」
「遅れてきた発情期って……」
途端に爆笑が起きる。琉生斗はそちらを見ると、ラルジュナが身をかがめて笑い転げている姿が見えた。
「ふふふっ、ふはははっーー、お腹痛いーー!ぷー!」
アレクセイの目は細められている。
「アレク、……否定しないのか?」
軽くショックを受けながら、琉生斗は尋ねた。
「図星でできないんでしょ?」
「ーー言い訳はしない」
「そんなところでカッコよさをアピールされても」
琉生斗は旦那様の頬を引っ張った。
「あっ、かわいい」
「君がそんなだから、発情期が調子にのるんだよ」
呆れた顔をした兵馬が、東堂の側へと歩いていった。
「……………」
「アレクセイ、いい天気だな」
ごきげんなアスラーンが友に話しかける。
「ーー曇っているが」
「どんな天気でも、その良さがある。おまえは情緒がない奴だな」
憮然とした表情のアレクセイを見て、琉生斗は笑った。
「アスラーンさんのとこのプルウィア領は、ほとんど雨なんだろ?」
「ああ。よく知っているな」
「浄化に行く度に雨なんだもん」
「はははっ。それはすまない。あの辺りは湿気も多くじめじめしていて、魔蝕が発生しやすいな」
「ーー魔蝕をナメクジみたいに言われても」
大大国の王太子が、大笑いをした。
「さあ、聖女様はあちらのテントで座っていなさい」
豪華なテントへ追いやられ、琉生斗は眉をしかめた。今日は聖女の白い法衣を着ている。
王太子クリステイルが結婚式準備で忙しいため、代理を琉生斗がつとめることになった。
琉生斗としてはアレクセイと一緒にいられるので、うれしい代役だ。
「アスラーンさん。兵馬は?」
「最近は忙しいと、私の前にも姿を見せん。私の部下のくせに」
「いつ部下になったんだよ!」
「兵馬なら、例の件で忙しいらしいぜ」
演習前のためか、東堂の表情が固い。
「例の件って?」
「ブラジャーをつくるんだって」
「え?ま、まさか、ラルさんの趣味なのか……」
にやにやする東堂に、琉生斗は衝撃を受けた。
「そ、そんなの、おれも見てみたい!」
兵馬ったら、もうー!
「人妻が何言ってんだ」
「ーーわかってるよ、葛城にたのまれてんだろ」
そんな事言ってたが、本当に作るとはーー。
「わりと、姉ちゃん大好きだよな」
「東堂ぉ!」
美花が鬼の形相で向かってきた。
「あっ」
やべ~。
「何ひとの弟を変態扱いしてんのよ!あたしが頼んだの!」
「ーーわかっていますよ」
「なんだ、ブラジャーとは」
「まだ内緒です~」
うふふっ、と美花がほくそ笑む。
「ヒョウマの奴、新しい事を私に相談しないとはーー」
「ふ~ん。アス太子、兵馬と仲良しっすね」
アスラーンが真顔になった。
「いや、誤解だ!仕事仲間だ!」
その勢いに東堂が目をパチクリとさせる。
「いや、別にそんなーー」
首を傾げた東堂を見て、琉生斗は笑いをこらえるに必死だ。アレクセイの肩をバンバン叩いて笑いをごまかす。
「…………」
素の表情を保っているが、内心アレクセイも笑っていた。
あのアスラーンがーー。
この場にラルジュナがいたらさぞ笑い転げただろう。
「諸君、今日まで研鑽を積んできたと思うが、調子はどうだ?」
アスラーンが魔法騎士団の前に立つ。姿勢をくずし、わざと斜に構えたような立ち方が、王者の風格をあらわしていた。威厳と威圧をたたえる姿に、ロードリンゲン国側の騎士から称賛が起こる。
「ーーうん。うちの王太子は、どこなら勝てるんだ?」
琉生斗の問いに、アレクセイが無言で首を振った。
「ーーすでに細かい説明は聞いているな?骨だけを言うが、二国の魔法騎士団のデスビースト討伐で勝敗を決める。このデスビースト、倒せば宝石が出てくる。
もちろん、宝石もソフトは小さくそれなりだが、ハードになれば、パライバトルマリンのようなレアな宝石も出てくる。そのほうが得点は高い」
魔法騎士達が頷いた。
「三日間、それぞれの陣営にどれだけ宝石を持ち帰れるか。交替で休むもよいし、完徹で戦うのも好きにしろ。殺しは無しだが、相手の獲物や宝石を奪うのは手だ」
場がざわつく。
それは騎士の理念ではない。
「大事なのは、どちらが勝つか、ということだ。終わりの合図がでるまでは、せいぜい油断せぬようにな。何が起こるかわからないのが戦場だぞ」
アスラーンが不敵に笑い、話を終えた。
「煽るなー、おまえの親友」
「ひとを怒らせる天才だからな」
アジャハン国の魔法騎士団の名簿に目を通しながら、アレクセイが答える。
琉生斗は深く頷いた。
「よく、友達やってるよ」
旦那の顔をじっと見る。
「ーー殿下だって、変態仲間じゃない」
ひょい、とアレクセイから書類を取りあげて、すかさず違う書類を渡したのは兵馬だ。
「すぐに、認可お願いします~」
「ああ……」
「兵馬!」
背後からの声に琉生斗は顔を輝かせた。
「遅いじゃないか!」
「はいはい。ごめんごめん。パッシャー国から呼びだされてね」
「ーーラルさんの趣味のやつか?」
「ーー殿下の趣味かもよ」
兵馬に睨まれて琉生斗は舌をだした。
「ほんとに、ジュナの友達って、腐ってる王太子と遅れてきた発情期しかいないんだから」
「遅れてきた発情期って……」
途端に爆笑が起きる。琉生斗はそちらを見ると、ラルジュナが身をかがめて笑い転げている姿が見えた。
「ふふふっ、ふはははっーー、お腹痛いーー!ぷー!」
アレクセイの目は細められている。
「アレク、……否定しないのか?」
軽くショックを受けながら、琉生斗は尋ねた。
「図星でできないんでしょ?」
「ーー言い訳はしない」
「そんなところでカッコよさをアピールされても」
琉生斗は旦那様の頬を引っ張った。
「あっ、かわいい」
「君がそんなだから、発情期が調子にのるんだよ」
呆れた顔をした兵馬が、東堂の側へと歩いていった。
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