ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
98 / 235
魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)

第88話 マルテスからの相談

しおりを挟む
 私室の机の上には、書きかけの書類が並べてあった。 
 下着の開発は驚くほどうまくいっている。 
 今日は美花と町子をパッシャー国に連れて行き、王太子妃リリアムと打ち合わせをする事ができた。
 試作品について出た意見を、早く書面にまとめて職人に渡さなければならない。

 書類を整理しながら、兵馬は肩を落とした。視線の先には銀の指輪がある。

「ーー僕ってだめだなーー」

 会話もまともにできないなんてーー、何も言わないほうがいいのだろうかーー。ほんと、ふさわしくないよねーー。
 


 そのとき、部屋のドアがノックされ、ラルジュナが顔を見せた。
「ヒョウマー」
「えっ?」

 なんだろう。
 兵馬は眉をあげる。

「お客さんだよー」
「えっ?」
 こんな時間にー?

 立ちあがってラルジュナの側に寄ると、彼が頬にキスをしてくれた。
「誰が来たの?」
 キスを返して尋ねる。

 まさかルートなわけないしーー。

「アスラーンのとこのマルテスだよー」
「えっ?なんで?」
 ラルジュナも不思議そうな顔をしていた。

 慌てて客間へ行くと、立ったままのマルテスが頭を下げた。


「ーーすみません。こんな時間に」
 いつもの勝気な顔ではなかった。俯き加減でマルテスが兵馬を見る。
「はあ」

「エッチの最中でしたら、ぜひ拝見したかったのですがーー。これからですか?」
「………………」

 主人も主人なら、部下も部下である。

「ーーどんなご用で?」
 相手にせずに兵馬は要件を尋ねた。

「相談にのっていただきたい」
「えっと。お見合いツアーの件ですか?」
 彼の領内にあるダイナ大橋の吊り橋お見合いツアーは、意外にも大好評だったのだが、何か問題があっただろうか。

「それは、またお願いしたいのですが、今回はアスラーン様のことです」

「はい?」

「トードォ殿との仲を、壊したいのです」
「はあ?」

 困惑する兵馬の前で、ラルジュナがお酒を用意する。兵馬は手を振って必要のないことを示した。

 だが、マルテスが目を輝かせるのを見て、目を眇める。グラスの数を見るに、ラルジュナも飲むつもりなのだろう。

「まず、そんな壊すような仲じゃないでしょう」
 兵馬は呆れた。

「いや、アスラーン様の態度がいつもと違います」
 マルテスがチューリップグラスを手にし、美味しそうにブランデーを飲む。
「幸せ~~~」
 至福を噛みしめる。

 酒飲みはみんなこんな顔するなー、と兵馬は頭をかいた。隣りに座る恋人も飲みはじめた。
「ブランデーの甘いのはいけるんだね」
「ブドウは好きだからねー」

 そうなんだ。
 ブドウ狩りデートとか、いいかもしれないー。農国ナルディアで企画してみようか。

「心配はいらないでしょー」

 アスラーンだし、とラルジュナが言った。

「ラルジュナ様は見てないでしょ?あの恋に落ちたアスラーン様をーー」

 ほう、とマルテスがうっとりとした。

「あれを見て、我々は確信したのですよ。このままではまずい、と」
「ふ~んー」

 相手にする気がないのかラルジュナが適当な返事をした。

「だとしてもヒョウマに頼む問題じゃないよー」
「わかっています。何か案がありませんか?」

「う~ん。アス王太子が告白でもすれば話は早いよ。絶対にふられるから」
「なるほど。では、告白するように、焚きつけましょう!」

「ーーいや、アジャハンなら無理だよー」
「え?」
「アスラーンが本気なら、愛の三女神様が必ず味方になるからねー」
「……………………」

 それについては兵馬は何も言えなかった。自分とルートも女神様の冗談に引っかかったからだ。

「そうなんですよ。女神様がアスラーン様についている限り、トードォ殿といえど、断るのは難しいと思うんですよ………」

 マルテスの顔が赤らんでくる。きつめの眉が下がり、目がぼんやりしていく。

「じゃあ、ロードリンゲンで告白させる?」
「ヒョウマー、それは無理だねー」
「最近はよく来てるし、いってみても……」
「ロードリンゲンって、いい告白スポットがないでしょー?盛りあがらないよー」
「あー、そうか。じゃあ、オランジーの海辺に……」
「あの国は信仰心が薄いからねー、アスラーンに三女神様がついてくる可能性があるー」

「え?そうなの?」
「そう。信仰心の強い国ならそっちの神様がいる国には介入されないー。でも、薄いと介入ができてしまうんだー」

「あー、うー、じゃあ、バッカイアは?」
「えー?」
「アジャハンとバッカイアが地続きな場所があるでしょ?バルド国の鉄の森の東側」
「うちの北側かー。ジュドーがまだいるかなー」

 ラルジュナが渋い顔をしている。

「たしかにバッカイアに連れていけば、凶霊キャロラインの加護があるから、三女神様は介入できないだろうねー。ただ、ーー」
 
「どうやって連れて行きましょう?警戒されますよ」
「そうだよね。向こうにも国境警備隊がいるよね」

 あー、案がでない。

「ーーロードリンゲンに、告白スポットを作るほうが早いかな?」
「いや、時空竜の女神様は、そんなしょうもない理由では動かないかもー」
「ルートが関わればすぐに動いてくれるけど」
「アスラーンがルート狙いなら、まずはアレクセイに殺されるから、結局意味がない話だねー」
「え?」

「おおかた、自分達に後継者問題がふりかからないようにしたいんでしょー?」

 ずばり言い当てられ、マルテスがへらへらと笑う。

「ーーおっしゃるとおりです……」
「後継者問題?」
「アスラーンのとこは他に男児がいないからねー。王族の男児に何かあった場合、六つの大公領主の子息を王家にだすんだよー」
「へぇー」
「みんな嫌なんでしょー?」

「……………………はい」

「でも、アス王太子は、ちゃんと王になると思うよ」

 アジャハン大好きだし。

「ーーすみませんねー。ちゃんと王にならなくてー」
「そんな意味で言ってないよ」
 兵馬は慌てた。ラルジュナにその言葉は禁句だった。

「それは我々も思いましゅ。ただ、後継者を作らない、と言われた場合、我々はアスラーン様の妹君と結婚し、男児を王家に渡さなければなりましぇん」

「あ……」

 なかなか深刻な問題だ。

「王家のためとはいへ、そうなってしまうのは、皆避けたい思いれす~」

  泣き真似をするマルテスを、冷めた目でラルジュナが見る。
「すぐに渡すわけじゃないでしょー?だいたい、アスラーンだっていつ王位に立つかー」
「だよね。リルハン王も若いもんね」

 そう思うと、クリステイルも王になるのは四十歳ぐらいじゃないだろうか。

「ジュナの国も、しばらく代わらないんじゃない?」
「パパも若いからねー」

「ふふ~~~」

 本格的にマルテスが酔っ払ってきた。兵馬は話を切りあげる事にした。


「マルテスさん。頼ってきてくれたのに申し訳ないけど、僕ではどうにもできそうにない。アス王太子が早くふられる事を祈ってるよ」
「そんなぁ~~~。よよよ~~~」

「もう、ジュナってば飲ませ過ぎだよ」
「このぐらいでー?」
 ボトルが2本空になっている。

「僕、送ってくるね」
「しゅいましぇん~~」

「ーーボクが行くから仕事しなよー」
「え?」
 そう言うとラルジュナがマルテスの肩を押さえ、一瞬で消えた。

「はあー、早いなぁ」

 魔力の発動も感じられない。アレクセイより魔法の使い方がうまいかもしれない。

「ーーすごいひとなんだよね……」

 兵馬は右手の指輪を見た。なぜだか今日はそれが重たく感じるーー。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。無知な私は、最近メガホンのマークに気づきました。

 エール、という応援機能なんですね!それが、いくつかついてました!

 びっくりしました!!!

 本当に応援ありがとうございます!

        濃子
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

処理中です...