ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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アジャハン国の王太子とラッキースケベについて。編

番外編 ブラジャー革命 1

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 はて、ブラジャーとは何ぞやーー。

 葛城兵馬は目の前の書類を見ながら、意識は姉に頼まれたブラジャーに思案を巡らせていた。

 実物は姉や母の洗濯物でしか見たことはないが、ようは胸当てだ。姉はともかく母のものは、実用性があるようには見えなかったから、おおかた琉生斗の兄、琉生亜るきあのためにつけていたのだろう。

 干しているのを見た父が苦い顔をしていたが、それはどっちに嫉妬していたのか、考えるのも面倒な話だ(兵馬の両親はどちらも琉生斗の兄、琉生亜と浮気をしていた。なんつう話だ)。

 たしか、古代ギリシアでは歩行時に乳房が動かないように布製の小さな帯(アポデズム)をアンダーバストに巻きつけたと何かで読んだ。
 後に、アナマスカリステルやマストデトンと呼ばれる細いリボンを胸からウエストまでを巻きつけていたそうだが、ようは、さらしではないだろうかーー。

 いまのブラジャーの原型は外国だったと思うが、にほんでも乳房バンド、乳押さえ、などと呼ばれた下着があり、ブラジャーが一般的に普及したのは戦後だ。あの会社がブラパットを発売し、それが話題になった。
 つまり、ご婦人方はコルセットをしていないときは、乳房バンドや乳押さえを付けているのでは?

「うーんとね。なんか、これかたいのよ。形は似てるんだけど、きついっていうかー。寝るときもつけれるのがいいんだけど~」

 弟に頼むな。

「姉さん。作ったらいいじゃない?」
「パターンがないから無理よ」

 素人にぶん投げるな。


 これはあれだ、プロに聞いてみよう。
「え?ブラジャー?何で?つけるのか?」
 東堂の眉が同情するように下がる。

「ラルさんの趣味かー」
「違う!」
「隠すな、隠すな。男ってのはどんなイケメンでもひとに言えない性癖の一個や二個や三個や四個はある生き物なんだよ」

「せ、性癖ー」
「それに応えるなんざ、兵馬さんも健気だねー」
 涙がでるねー。

「話しを進めるね。姉さんに頼まれたんだよ。こっちのブラジャーが古臭いし固くて、しっかり支えてくれないから嫌なんだって」
「ふ~ん。お国柄か?」
 支えるほどないだろ。

「それが、この周辺の国にはないんだ。どこも昔ながら、って感じかな」
「作ってるところに相談すればいいじゃん。下着会社みたいなとこあんだろ?」
「そうなんだけどー」
 兵馬は言いにくそうに下を向いた。

「まあ、相談しにくいか。なら、実物を研究して作るしかないだろうな。俺が覚えてんのは、柔らかくてしっかりしてたぞ。下にワイヤーみたいなのが入ってたと思うな」

「そうかー。形を支えるものだから、強度もいるのか」
「下着って、上手いこと作ってるよな」
「身体に添うものって難しいよね。ある程度サイズを絞って作らないといけないし」
「そりゃ簡単だろ」
「なんで?」
「Aは何cm、Bは何cmって基準があんだよ」

「えっ!そうなの!」
「……美花、それぐらい教えてやれよな。町子の方がデータは覚えてそうだなー。っていうか美花達、こっちにくるとき付けてたのはどうした?」
「お風呂入ってる間に処分されてたみたい」
「はあ?」

「僕らの制服もどこにいったんだろうね。ルートのは殿下のクローゼットにしまわれてるけど」

 琉生斗のクローゼットではない。

「ーー用途を見てみたいな……」
「うっとりしないでよ。変態仲間」
「ひひっ。ダメ元で、ヒョロ太子に聞いてみれば?」
「そうだねー。あれば貴重なサンプルだよ」

「はあー。何の話かと思えば」
 東堂がソファで伸びをした。
「今日もモフモフ動物園?」

「ああ。モフモフしてきたぞ」
 幸せそうにクッションを抱く友人に、兵馬は尋ねる。
「ご飯食べてく?」
「これから、アス太子が、ステーキ食わしてくれるの」
「ーーよかったね」
「ああ!いいひとだ!」
 肉を食わしてくれるひとに悪人はいない。

「ーーそうだね」
 餌付けがうまくいけばいいけどーー。

 兵馬はこっそりと笑う。














 翌日、兵馬はクリステイルのもとに向かった。

「ルッコラさん。王太子に謁見をお願いしたいんだけど」
「はあい!」
 普通は無理だろうが、近衛兵のルッコラはすぐに飛んでいった。


「ヒョウマ殿、どうしたんです?」
 爽やかな王太子の後ろで、近衛兵隊長ヒョードルが苦い顔をしている。

「お時間を取っていただき感謝致します」
 深々と頭を下げる。

「あー。ヒョードルの事は気にしないでください」
 クリステイルがヒョードルの渋い顔を流した。

「ありがと。僕らがこっちに来たときの服って、まだありますか?」
「え?」
 クリステイルの顔色が変わった。なぜだろう、と兵馬は首を傾げる。

「兵馬殿ーー」
「なに?」
「ーー帰る気ですか?」
 真剣な目で問われ、兵馬は首を振った。

「帰らないよ。服の構造で知りたい箇所があるんだけど」
「そうですかー。里心がわきませんか?」
「心配なら、姉さん達の服だけでいいよ」
「え?ーーヒョウマ殿が、着るんですか?やはり、公式な場ではヒョウマ殿が妻側の服装を……」
「しないよ!」



 クリステイルに案内され、厳重な保管庫へと連れて行かれる。

「こちらです」

 王太子はにこやかだが、兵馬の後ろにいるヒョードルの仏頂面がうっおしくて仕方がない。

 鍵が開けられ、美花達の制服がでてくる。

「保存魔法かけてるんだ。ーーあ、あった……」

「ひょ、ひょ、ヒョウマ殿!正気ですかぁ!」
 兵馬が手にしたものに、クリステイルは腰をぬかした。気にせずに三人分確認する。

「ほんとだ。サイズが違う……。ねえ、王太子。複製コピーとかって、魔法でできるよね?」

複製コピーー。あれは複製するものの構造成分など、すべてを理解しないとできないんですよ」

「えっ?そうなの?」
「そうです。例えば、列車など、私が複製コピーしても、外側と内装しかできません。兄上なら作った本人ですから複製コピー可能です」

「そうかー。構造成分となると難しいんだ。だからみんな複製コピーは使わないんだね」
「ええ。できないんですよ」

「臓器とか身体も複製できるのかな、って思ってたけど、殿下でも無理なんだね?」

「さすがに、細胞のすべてを理解するのは兄上でも難しいかと。臓器がいるのですか?」

「たとえ、だよ」

 持って行くよ、と言うとクリステイルが顔を赤らめた。

「ーー宮殿、もうすぐ完成だね」
「はい!ヒョウマ殿の部屋も用意しますからね!」
「どうせ、ヒョードルさん達の詰所の横でしょ?絶対にいらないよ。花蓮に何かあったら神殿に連れてったほうが早いし」

「はあー。それこそ里心がつきますよ……」
「すぐに慣れるわけないよ。王太子に母親がいないだけマシだろうけど」
「そうですね。母が生きていれば、私なんか誰も来てくれませんよ」

 がっくりとクリステイルが項垂れた。

 ルチア王妃ーー。
 アレクセイの魔力を封じたロードリンゲンの大魔女。どんなひとだったのか、想像するだけで恐ろしい。

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