ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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琉生斗と兵馬編

第70話 じゃあ、東堂は?

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「ルート。おはよう」

「ーーうん?」

 何だよ、朝から爽やかだな。いや、朝ってそうか。

「誕生日おめでとう。そして、幸せな夜をありがとう」
「何言ってんだよ」
 笑顔のアレクセイに赤面しつつ、よろよろと身を起こす。

「あー、恥ずかしかった」
「とても可愛かった」

 はいはい、よかったですねーー。

 琉生斗は服を着せてもらい、股の違和感に顔をしかめながら立ちあがる。


「ーーヒョウマだ」
 アレクセイが離宮の入り口に視線を向けた。琉生斗は少し俯く。

「ーーおれ、寝てる」

「そうか……」











「おはよう、殿下」
 襟の留め具をきっちりととめ、書記官の服を着た兵馬が玄関前に立っていた。
 朝でも昼でも、彼がだらしない格好をしている事は見たことがない。

「ああ。おはよう」
「ルートは寝てるの?」

「ああ。何のようだ?」
 アレクセイの表情のかたさに、兵馬が眉を顰めた。


「ーーーーごめん。ーー用がないなら来るなって言いたいわけだね?」
 兵馬にじっと見られ、アレクセイは黙る。

「聖女様に伝言をお願い申し上げます。この書類に目を通しておいていただきたい」
 兵馬が屈んでアレクセイに書類を差しだした。受け取ると説明もなく、屈んだまま後ろに下がる。臣下のような振る舞いに、アレクセイの目は細められた。

「では、早朝より失礼致しました」
 恭しく腰を折り、小さな少年がきびすを返した。

「ヒョウマーー」
「…………」
「ルートも心配しているからこそ、あの話をしたのだーー」
 アレクセイの言葉に兵馬が眉をしかめた。


「…………それで?僕が、やったぁー!子供を作れる!とか喜んだら、ルートの気は済むの?」
「そうは言っていない」

「言っておられますよ。では、失礼いたします」
 あっさりと兵馬が出て行く。


 アレクセイは溜め息をついた。










「ーー何だよ!あいつ超むかつく!あんなヤツもう知るか!」
 聞き耳を立てていた琉生斗は、クッションを壁に投げつけた。

「後で泣いたって知らないからな!後悔するからなー、えーと、何歳までいけるんだろ」

 ヨシノさんは四十五歳で神竜を産んだって言ってたから、その歳までいけるのかなー。ちょっと高齢出産だよなーー。

「ーー意地はるなよな」
 















「ーーほん!いいじゃん!修学旅行かー。アス太子わかってんなぁ!」
 プリシラも卒業かー、寂しいなー、と東堂が涙ぐむ。
「二人の予定を見て日を組んだけど」
「おぅ、俺は大丈夫だ。ルートがいなくても、まぁいいだろう。ヤツは行きたいだろうが、許可は取れないのか?」
 代わりにモロフでも連れてくか?、と何かと話に出されるモロフだ。

「ーーそれとも、ルートと何かあったのか?」

 東堂の言葉に兵馬は動きをとめた。辺りを見回す、人はいない。


「ねえ、東堂」
「ん?」

「自分が子供が産める、って言われたら、東堂どうする?」










 沈黙の後、東堂が言った。
「何言ってんだよ、頭おかしいのか?ーーだな」

「うん。そうだよねーー。手放しで喜べって無理じゃない?」


 東堂が黙って何かを思案しているようだった。

「はあー、それはつまり、俺でも可能なんだ」
「話が早いね。そうらしいよ」

「で、ルートは殿下の子を産むと。めでたしめでたしだ」
「うん」
「そこで終わっとけよなー」
 東堂が頭をかいた。



「どうせ、おまえに産んで欲しいんだろ?あいつはどんだけおまえが好きなんだよ」




「同じ存在が欲しい、って言うのはわかるよ。理解したいよ。でもー」
「おまえの場合、別れない保証がねえよな」


 ずばり確信に迫られ、兵馬は目を細めた。

「ーー子供がいるから別れないのも嫌だけどね」

 うちの両親と一緒だーー。

「ーーせっかく異世界にきたのに、考えなきゃならない事は向こうと一緒なんだよね」
「まあな。やることが変わらない限り、大なり小なり違わないよな」
 魔法があるかないか、それぐらいだーー。

「おとなになるって面倒くさいね」
「だな。すぐ変えなくてもいいなら、しばらくは今のままでいいじゃねえか。おまえだって、初カレだろ?しっかり楽しめよ」
「ありがと」
 兵馬は薄く微笑んだ。


「東堂が身体を変えるような相手ができたらーー」
「お笑いだな」
 カラカラと東堂が笑った。
 
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