ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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琉生斗と兵馬編

第66話 琉生斗は話す

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 殴られるなんて、向こうで不良にからまれたとき以来だなーー、と兵馬は頬を擦りながら考えた。
 
 こちらの方が暴力が身近な気がするが、意外にもこちらでは殴られたことが無い。親友の方が聖女なのに、よほどひどい目に合っている。

 自分を安全圏に置きすぎている、とニコルナから後頭部を殴打されたときに思ったものだが、これはもう、今まで目を背けていた格闘技を習うときが来たのだ。

 しかし、誰に習うか、そこが問題だ。

 まず、東堂は教える気がない。  
 次にルート。拳を前に出せ、としか言わない。
 そして、アレクセイ。何を言っているのかわからない。
 最後に、同居人。これが一番腹が立つが、笑いだしたらとまらない。

 以上の事から講師がいない。

 魔法に関してはアレクセイの言ってる事は理解できる。だが、武術に関しては、「殺気を感じろ」、と言われても、何やそれ、としか言えない者にはどうしようもないらしい。

「どうせ僕、体力五歳児ぐらいだしーー」

 それでも今回は真剣に考えよう。五歳児でもスーパーキッズはいる。







「あれ?ジュナいないのかな」
 アスラーンから借りている屋敷前に着くと、兵馬は灯りがない事に目をパチクリとさせた。

 今日は牡蠣の成分を研究する、って言ってたけどーー。

 琉生斗の為に身体に良い滋養剤を作りたい、と兵馬はラルジュナに依頼した。
 向こうの世界では、牡蠣の成分を使用していた、と言うと、白衣を着て遊びながら実験していたのだがーー。


 屋敷の中はひとの気配がなかった。
 ひんやりする。
 軽く身震いしながら、兵馬は暖房魔導具を付けようとしてーー。

「兵馬ぁ!」
 琉生斗が屋敷に飛び込んできた。
「えっ?ルート」
 後ろにアレクセイの姿が見える。

「ごめんなぁ。クリスの事、任せっきりでよ!」
 
「全然だよ。魔蝕?」
「そう。その後、焼き牡蠣とカニ食べてた」

 嬉しそうな親友に、兵馬も笑う。

「ちょっと話がしたいんだけど、いいか?」
「いいよ。何?」
「アレク、お願い」
 琉生斗が言うとアレクセイが頷いた。








「おっ!すごい人だな」
 海国オランジーのマリーン浜には、大勢の人がいた。海のライトアップを三月の終わりまでするからだ。カップルが光を見ながら、ロマンチックな空気に酔いしれている。

「ルート」
「ありがとう。また呼ぶから」
 琉生斗とキスをかわし、アレクセイは姿を消した。

「殿下と見なくていいの?」

「いけるときは来てるんだ」

 琉生斗の答えに兵馬は吹きだしたが、すぐにまわりの空気を見て口を押さえる。

「静かにしないと……」
「おまえが聞いたんだろー、でっ、話なんだけどさ」 
「うん」


「おれ、子供が産めるようになるんだ」

「え?」

 兵馬は目を見張った。






「ーーそうなんだ。聖女だから?」

「産まなきゃならないのもある。ひとか神竜か、産まれるまでわからないらしい」
 琉生斗は兵馬の目をじっと見て話した。

「神竜ーー」
 
「その神竜がいないと、次の聖女が喚べないらしい」

「あー、そうなんだ……」

「神竜も、時空を渡れるのは一回きりで、あっちから道をつないで、聖女がこっちに来るんだって」
「ふーん。じゃあ、あのときスズさんの神竜が来てたのか」
「ああ、コーン君だって」

 兵馬は、そう、とつぶやいた。






「よかったね」  
 兵馬は笑った。

「ん?」
「ルートの家族が増えるよ」

「ーーありがとう」

「ベビーシッターならまかせてね」

 琉生斗は笑った。

「おまえならそう言うと思った。んでな、ここからがおれがおまえに言いたい話」
「え?」

「おまえも産めるように身体を変えられる」








「ーーーーそう。前に言ってた話だね」

 琉生斗の話を聞いて察したのか、兵馬は驚かなかった。

「ああ。まだ決まってないから、変えようがあるんだ。ただ、相手がいないと変わらない、相手に合わせて身体の器官を作るそうだ」

「そうーー」

「二人が心から納得しないと、変化しない」

「ふーん……」

 兵馬は遠くを見た。波の音が静かで心地よい。

「だから、おまえも話し合ってーー」

「何を?」

「だから、ラルジュナさんと子供が作れるんだから、話をーー」




「作らないよ」

「え?」

 きっぱりと言い切ると、琉生斗が目を見開いた。そんな言葉を返されるなど、思っても見なかったのだろう。





「ルート、自分を基準に考えすぎだよ」
「…………」
「僕達がずっと一緒だと思うの?僕ら聖女でも護衛でもない。ただの恋人同士だよ」
「いや、あのーー」

「通過点にすぎない関係で子供なんか作ったら、別れるときどうするの?」

 真顔で問うと親友が俯いた。







「…………そうか」

 言葉が絞り出される。

「心配してくれてありがとう。でも、ルート、これだけは言っとくね」

「……何だよ」


「例え、クリス王太子に側室ができても、ファウラさんが浮気しても、ティンさん達が別れても、ルートは口出ししちゃだめだよ」

「え?」

「絶対にだよ。理由はわかるよね?」

 強い気持ちを込めて、兵馬は琉生斗を見た。



「ーーーーああ」


「話は終わり?」

「ああ」


「帰ろう……」




 
 波の音が、耳の中に残る。


 いつもは心地よい音なのにーー、今日は悲しい音に聞こえるなーー。


 琉生斗は目を閉じた。



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