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王太子日和編

第64話 良い友達とはーー

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「兵馬、大丈夫か?」
「腫れは引いたわ~。治癒はかけたけど、痛みは残るかもね~」
「ありがと……」
「嫌な奴らだったな」
「不幸の手紙でも送る~?」
「それ、やろうぜ!」

 兵馬は苦笑した。
 頬をさする。

 痛いのはここじゃないけどねーー。


「マチアさんの心のケアも何とかできたらいいんだけど……」
「兵馬君が考える事かしら~?あんなの、何年たっても忘れられないわよ~」
「町子ー」

「あっちじゃ、痴漢なんかよくあったもの~。ホント、男のひとってダメよね~」

「女の痴漢もあるって。俺、部活の帰りに待ち伏せされて、ち○こ握られた事あるぜ」
「東堂ーー」
「ーーーーー」

 兵馬はげんなりし、町子が心底嫌そうな顔をした。





 








 時は少しだけ遡りーー。

 ピークとロイド、二人の王太子は旅館を出た。
「まじ最悪!おまえのせいで、いらん時間を使ったぜ」
「すまないな。まさか、あんなしょうもない事で呼び出されるとはな」
「いまから飲みに行くか」
「そうしようーー」




「ーーやっほー、お二人さん元気ー?」


「え?」
「あっ、ラルジュナ様!、え?アレクセイ殿下も!」

 二人の目の前に信じられない人物が立っていた。
 明るさと静かさ、対照的な美をもつ二人の王子だ。ひとりは王太子ではなくなったが、第一王子には違いない。

「どうされたのです!こんな場所で!」
「お声をかけてくださるなんて!」

 同年だが、圧倒的にカリスマ力が違う。憧れのひとを前に二人の心は浮足立った。

「ねえー。これからちょっといい所に行こうかー?」
 笑顔のラルジュナに、ピークは目を輝かせた。

「行きます!行きます!どこにでも!」
「光栄です!どこに行きますか?」

 嬉しそうな表情を浮かべ、二人は答えを待っている。



「うんー。マグナス大神殿ー」

「「え?」」

 アジャハンの大神殿に何をしに行くのだろう。

 二人は顔を見合わせた。

「何でもするー?」
「はい!もちろんですー!」
「どんな事だろー、楽しみです!」

 


「ーー塔の一番上から吊るすねー♡」

 高さ50メートルはあるよね(※ソラリス教の単位はこちらのキロ、メートルと同じ)ー。

「ああ、助けが入らないように結界を張ろう」
「ガチガチに魔力は封じようねー。ふふっ、どうしたのー?顔色が悪いよー」


「あ、あの、お、オレ達何か気に障る事をしましたかー?」

 二人の顔が恐怖に引きつる。


「ふふっー」
「さて、どうなのだろうな」
 ラルジュナの微笑みが、微笑みに見えず、アレクセイの無表情が、無表情を通り越して死刑執行人のようにも見えた。


「あ、あのー」
「オレ達ー」

 ラルジュナがピークの胸ぐらをつかんだ。



「ーーおまえ……、生きて帰れると思うなよ」



 ピークは身体の芯が凍るのを感じた。
 はじめて見るラルジュナの色のない顔に、気絶するほどの恐怖を覚える。

 ーーなんで?なんで怒ってるの?

 ピークは理解ができない。


「ーーやだー、漏らさないでよー、汚いなー。アリョーシャ、服代えてよー」
「ああ、代えた服は家に送っておこう」











 王太子二人は、マグナス大神殿の大塔の一番上から吊るされ、人々の注目を集めた。

 経緯はアスラーンから二国の王に知らされる。

「馬鹿息子が申し訳ありません。煮るなり焼くなりどうぞ」

「わがまま放題で困っていました。好きにしてください」

 二国の王は、そう回答したらしい。
 












「ふーん。アレクも学生のノリみたいな事すんだな」
 アスラーンの宮殿で成り行きを見守っていた琉生斗が、面白くなさそうにつぶやいた。

 琉生斗とアレクセイはアジャハンに魔蝕の浄化に来た後、王宮で休憩していた。そこに、突如あらわれたラルジュナがアレクセイを連れて行きーー。

 ーーいまに至る。


「ふむ、ルートは嫉妬しているのか?」
 琉生斗に牡蠣を焼きながら、アスラーンは尋ねる。

「美味いなぁ!焼き牡蠣最高だな!」
「カニもあるぞ」
「アジャハン最高!」
「そうだろう。アジャハンに住むか?」
「うん。老後にヒョウマと住むよ」

 琉生斗の答えにアスラーンは笑った。




「ーーそうだな。私達は親友だからな」
 アスラーンが目を細めて言う。

「呪いにより手をつなぐ事はできないが、腕や肩を組む事はできる、そんな仲だ」

 琉生斗は目を見張った。


 まあ、手袋をしていればつなげれるがなーー。そこまでして、手をつなごうとは思わないしーー、とアスラーンが話す。

 いい事言ってもすぐに台無しにするよなこの人ーー、と琉生斗は目を細めた。



「ところで、あの二人どうすんの?」

「ーーそうだな。その娘が生きている間あそこに吊るすかーー。いや、掃除のときに邪魔だな。また活用方法を考えよう」
 

「ーールート」
 アレクセイが琉生斗の頬にキスをした。
「ああ、アレク。カニ食べれる?」
「痒くなる」

「アレルギーか?おまえ、難儀な体質だな。あれ?エビは食べてたよな?」

 アスラーンが吹きだした。

「カニのような悪神を斬ったのでな、カニは食べられないのだ」
「え?」
 琉生斗は眉根を寄せた。

「の、呪い?」
「ああ」
「何か、呪いも振り幅があるんだなー」
「悪神の強さにもよる。カニの悪神は七歳の私が斬れるぐらいの強さだったから」

「へぇ」
 自分の話をしてるよ、すごいーー。

 こんなに自然に昔の事を話してくれるなんてーー、琉生斗は嬉しさに頬が緩む。

「ルートにキスできないな」
 アスラーンが苦笑した。

「いますぐ歯を磨いてきてくれ」
「嫌だよ。まだ食べたいもん」
「そうだ。牡蠣は栄養が豊富らしいな。ルートのために、栄養ドリンクを作るとヒョウマが言っていたな」

 アスラーンの言葉に、琉生斗は目をしばたいた。

 栄養ドリンク、牡蠣ーー。

「あー、タウリンかー。ファイト二発ってヤツね」
「なんだ、二発がんばるのか?」
 足らないだろ。

「アスラーンさんは下ネタばっかり言うな」
 何でアレクと仲がいいんだろ?


「ひひっ。兵馬めー、おれの事ほんと大好きなんだから」
「妬けるな」
「妬けてないだろ?アレクだって、ラルジュナさんと仲良しじゃないか」

 アレクセイは微笑んだ。

「そうだなーー、私は良い友に恵まれたな……」
 



 
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