ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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王太子日和編

第62話 クリステイルは友を信じる

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 兵馬達がバッコロ旅館に着くと、すでに町子とタイリーが玄関前で待っていた。

「よお、クリステイル。婚約者とはどうだ?」
「やあ、タイリー。仲良くしてるよ」

「何カッコつけてるのかしら~?」
「超メロメロで、デレデレですー、って言えよ」

 町子と東堂が小声でやじる。

「タイリーさん、久しぶりです」

 兵馬は頭を下げた。

「ヒョウマさん!お久しぶりです!教えていただいた方法で、とても甘いイチゴができました!玉ねぎも大きくて腐りにくいのができたんですよ!」

「それはよかったです。今度はトウモロコシ、メロン、ブドウを試してみましょう」
「はい!」

「あいつは何をやってるんだ?」
「品種改良よ~。糖度をあげるんですって~」

 ほへー、と東堂は口を開けた。

「町子、マーロウさんは?」
「妹さんと話をしてるわ~」
「出てはこないだろうね」

 兵馬はもらった名簿をめくる。

「参加したのは十二人かー。王太子は三人参加してるね」
「けどよ、自分は王太子です、って嘘も言えるよな」
「そうだね。そうなると全員容疑者だよ」

「えー!」

「な、何の話なんだ?」

「実はーー」
 クリステイルは言いにくそうに事情を話した。

「信じられないなー。良識ある奴がする事とは思えない」
「そうだよね。誰がそんな事ーー」


「いい加減、いる方向で考えなよ」
 兵馬は呆れた。

「もしかして、全員が違うって言ったら解決だと思ってるでしょ?」
「あっ」


 図星をつかれてクリステイルが口ごもる。

「すみませんー」

 マーロウと共に妹のマチアが姿を見せた。
 看板娘と言われるだけあって、可愛いい女性だ。

 でてきてくれるとは思っていなかったので、兵馬も慌てたようにマーロウ達の前に駆け寄った。

「マチアさん。この度は不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」

 兵馬は深々と頭を下げる。

「いえーー、あなたは関係ないのにーー」

「本当に、こんなに親身になってくださるなんて、思ってもみませんでしたーー」

 マーロウが感激した顔で兵馬を見た。

「聖女様は、子供や女性が被害にあう事を嫌いますのでーー」

 クリステイルはその言葉にはっとなった。


 ーーああ、そうか聖女様の為なんだ。


「思い出したくないでしょうが、あなたの身体に触れたのは、あの二人ですか?」

 クリステイルとタイリーに緊張が走る。

「ーーそれが、暗かったのでよく見えなかったんですーー」

「暗かった?」

「はい。お酒を運んでいて、お二階に行く渡り廊下の灯りがなぜか消えてて、外の光だけで歩いてたんです。そしたら、急に後ろからお尻を触られて、ひどい事を言われましたーー」

 マチアは涙ぐんだ。

「後ろからー?それは、会がはじまってからですよね?」

「ええと、終わりの方です。ーーそちらの方に、最後の注文を聞いたところ、お酒を頼まれたので運ぼうとしてーー」

 タイリーはぎょっとして、首を振った。


「お、オレは確かに注文はした!だけどそれだけだ!」

「でも、来るのを知ってたから、待ち伏せできるわよね~」

「あのー、その方の声は覚えていたので、ちょっと違うような気がしますー。なんだか暗い声でーー」

 マチアの言葉にタイリーは胸を撫で下ろした。

「オレが注文するのを、あのとき聞いていたヤツがいるよ」

「誰ですか?」

「おまえとロイドとピックだよ」



「ーーヒョロ太子、そろそろ白状しろよ」

 東堂はクリステイルの肩をつかんだ。

「私じゃありません!」
「他のヤツもそういうだろ……」

 東堂が呆れたように頭をかく。


「王太子、二人を呼べる?」
「え?」
「マーロウさん。会場開いてる?」
「はい!」


「マチアさんは隠れて見ていて。みんなは二人には理由を言わないように」













「何なの?急に。オレ、忙しいんだけど」

 ラメルジャック国の王太子は、書類を書きながら文句を言った。肌が浅黒く、髪は香油でもつけているのかテカテカしている。

「予定が空いていたからよかったが、もう少し早く言ってくれ」

 ミッドガル国の王太子ロイドも、眉をしかめている。線が細い、優しそうな顔の男だ。

「昨日、会ったばかりなのに」
「どうして、ここなんだ?他になかったのか?」

 前と同じ席に座り、二人はタイリーを睨んだ。



「ーー町子、彼らの精神は読める?」


 タイリーに台本を預けて、兵馬は離れて見ている。
「王族は独自のプロテクトをかけてるから無理よ~」
「そうだよね」

 兵馬と町子はこそこそと話をした。魔法があれば、それですべてが解決するわけではない。









「今からオレが言う事に答えて欲しい」
 タイリーが二人の王太子の顔を見た。

「ん?」
「何だ?」

「同窓会の日の、給仕の娘さんを覚えているか?」

「たくさんいただろ?」
 ピークが考えながら答えた。

「いや、とびきり可愛い子がいた」
 ロイドが頷いた。


「オレはその可愛い子に最後に酒を注文した。おまえら、それを聞いてたよな?」

「知らねえよ」

 ピークが机に肘をついた。

「ちょっと待てーー。ああ、持てるだけ持ってこいと言っているな」

 ロイドが記録帳を開いて答えた。



「細かくつけているのか?」

 タイリーが尋ねる。


「ああ。母がうるさいからなーー」


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