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王太子日和編

第59話 婚約お披露目会で主役より目立つ夫婦

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「ーーアレクセイは?」
 アダマスが側に控える近衛兵長パボンに尋ねた。

 クリステイルと花蓮は貴族達から挨拶を受けている。にこやかにしてはいるが、少し休ませたいところだ。
 だが、ご学友にも祝いの言葉をもらい、とても嬉しそうな息子の顔に、アダマスは目を細める。

「まだのようです。今年は魔蝕の発生が異常らしいですので、聖女様のお身体が心配ですね」

「そうだな……。誰もどうにもできん……。アレクセイが支えているだろうがーー」

「あら、入り口がざわついてましてよ」
 ラズベリーの言葉につられアダマスも入り口を見た。

 ざわめきと共に会場に入ってきたのは、自国の第一王子夫妻だ。二人が並ぶ姿に、あちらこちらから溜め息が聞こえた。

「まぁ、きれい!」
「素敵ー!」
 女性達の悲鳴のような歓声が会場内に響いた。アダマスは苦笑する。


 琉生斗は元の世界の漢服をアレンジした白銀の衣装を着ていた。襟には黒い花の刺繍を入れている。銀色の帯の下の蔽膝へいしつ(前掛け)には、時空竜の女神様の刺繍が入っており、裳(スカート)はダンスの事を考えてやや短めだ。

 髪の毛にさした花のかんざしは、アレキサンドライトに真珠を加えたアレクセイの手作りで、彼はこれをラルジュナに相談して作った。

 しかし、皆が驚いたのはアレクセイの衣装だ。妻の服装に合わせて紺色のコートの襟を重ねて帯で留め、裾もいつもの正装より長めにしている。


「元がいいから何でも似合うわね~」
 今日は魔法騎士ではなく、公爵家の婚約者としてドレスを着ている美花が、我ながらやったわ、とガッツポーズだ。

 ウエディングドレスと並行して作っていた漢服アレンジ衣装は、これならドレスよりはマシ、と本人も首を縦に振るしかなかった。

 兵馬に言われてアレクセイの服を琉生斗に合わせてアレンジしたが、見た目が麗しすぎる。
 アレクセイの衣装係には、ぶーぶー、言われたが、これからは何というか楽しみだ。


「ミハナがあの服を作ったんですか?」
 貴族の正装を着たファウラが目を丸くしている。

「ほとんどイメージだけです。パターンは兵馬が引いてくれたんで、後はみんなでひたすら刺繍ですよ」
 肩凝りました、と美花は笑った。
 
 二人はアダマスとクリステイルにお辞儀をしてから、用意された席の前に立った。

 合わせて会場内の人々に頭を下げる。

 われんばかりの拍手が巻き起こった。


「ん?今日は長椅子なんだ」
 琉生斗は椅子を見てつぶやいた。

「殿下の希望だよ」
 後ろから兵馬が答える。 

「おっ、花蓮大丈夫か?」

「なんとかね。ーー花蓮、アシリッシ辺境伯、最近娘のリョーナが結婚してるーー」

 兵馬が小型通信機で、貴族の名前を花蓮に教えていた。花蓮もそれを聞いて頷き、にこにこと挨拶をしている。

「うまいこと考えたなーー」
 感心しながら琉生斗は、アレクセイに寄りそうように座る。

「あっ、殿下にはお酒は出さないでください!」
 給仕に兵馬が指示を出した。

「うん。そこは大事だな」
「ーー少しなら」
「離婚するぞ」

 嫌だ、とアレクセイは残念そうに言った。


「しかし、クリスはああいうのは得意だよな」
「帝王学の分野だからな」

 あっ、そうか。訓練してるのね。

「ただの甘ったれ坊っちゃんじゃなかったんだ」

「王太子は苦労人だよ。父親と兄が自由人すぎるし」
 兵馬の言葉に、自由人な兄は首を傾げた。

「花蓮、その人は、ピッツバルグさん。大丈夫ー?……花蓮も疲れてきてるねー」

「もうすぐかーー」
 挨拶に並ぶ者も少なくなってきた。
 

 そのとき、琉生斗達の目の前に、筆頭公爵家のハーベスター公爵リーフが立った。

「失礼。仲睦まじい事、結構でございますな」
 アレクセイに向かって、傲岸不遜に言い放つ。自分の方が身分は上とでも、思っているのかもしれない。


「ええ」
 もっとも、それを気にするようなアレクセイではない。リーフは眉をあげた。

「相変わらず、奥方以外の事には興味がなさそうですね」
「ええ」
 正直に答えるアレクセイに、琉生斗と兵馬は苦笑いだ。

「ーーそれにしても、我が家の婚約者の兄君は、とんでもない男ですね」

 兵馬が眉をしかめた。

「資産を増やすために、あの方を押さえるとはーー」
 

 金目当てと思われてるーー、兵馬が驚きに目を丸くしている。

「いやはや、恐ろしい真似をなさいますな」
 リーフが独り言をいいながら去っていった。

「なるほど、そう思うヤツもいるんだ」
 琉生斗は深く頷いた。

「ーー僕、すごい悪い奴じゃん」
「表面しか知らないヤツからしたら、超悪女兵馬様だな」

「金目当てで元王太子に言い寄る人間かー。僕の評判も地に落ちたもんだね。僕で落ちる王太子がだめなんだろうけどーー、ルート」

「ん?」

 兵馬が貴族の列を見て、目を細める。

「後ろから三番目のひと見た事ある?」

 ちょうど警備をしている東堂の近くにいる青年を見るが、琉生斗には覚えがない。自分達より十歳は年上であろう。貴族の服は着ているが身体には合っていなかった。

 緊張した面持ちで、挨拶の順番を待っている。


「ない。兵士じゃないな」
「貴族でもない」
「え?」

「殿下、気を引いて。その間に東堂に連れ出してもらうから」
「ああ」
 
 兵馬が東堂に精神で話しかける。

 気を引くって、こっちに気を引くんだよなーー、どうすんだろ。

「ルート」

 アレクセイが琉生斗の顎に手をかけた。


 ーーこれか。誰が見んだよ。


 琉生斗の目をじっと見つめる。


 ーーんっ?視線がくる?


 琉生斗の唇が塞がれると、黄色い悲鳴があちこちからあがり、会場がざわめきでいっぱいになる。

 やがてざわめきは、水を打ったように静かになっていきーー。


 深く重ねたアレクセイの唇が、とても楽しそうに動く。

 ーーちょっと待て!舌はやめろぉぉぉ!!!

「ーー殿下、いいよ」
 兵馬が小声で言うまでの時間が、長いように思えた。
「ーーもういいのか」

 なんで残念そうなんだよ。

「ばかぁ」
 琉生斗はアレクセイの腕に抱きついた。

「ーーわかった。見張ってて、もうすぐ行くから。ルート、花蓮のフォローいける?」
「了解」

 琉生斗は兵馬から小型通信機を受け取る。アレクセイに付けてもらえば、傍目はためにはイチャイチャしてるようにしか見えないだろう。

 アダマスは呆れた顔でこちらを見ているが、ほとんどの者は微笑ましく笑ってくれているようだ。
 

「良い国だよな」
「そう思ってもらえるとはーー」
 アレクセイが微笑んだ。
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