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日常編
第56話 兵馬の懸念
しおりを挟む「ーー兵馬って冷静だろ?」
いきなり変わった話題に、ラルジュナが虚をつかれたような顔をした。
「そうだねー」
「取り乱す事もあるけどさ、基本的に予測不明な事態って嫌いなんだよー。予習しときたい、って言うのかなーー」
ラルジュナは考えるような表情を見せた。
純粋にハンサムだよなー、と琉生斗は思う。自分の好みかといえばヒットしないが、それは自分がアレクセイ第一主義だからだろう。
「ぶっちゃけ、うちの色魔兄貴に言い寄られても断るぐらい、理性的なのよ」
「色魔、兄貴ー?」
ラルジュナの顔を見て、アレクセイは彼の肩に手を置いた。
「ふーんー。本当に危ない人っぽいねー」
アレクセイから記憶を読んだラルジュナは、聖女の兄なのにー、と不思議そうな面持ちだ。
「その兵馬君がだね、理性がきかないのよ。はい!パニックに陥ってるんですよ」
これ以上はなあー、と琉生斗は頭をかいた。
「おれも言ってて恥ずかしいな」
アレクセイには聞かれたくない話だがーー。
「おまえ、想像してないだろうな?」
「ーー何をだ?」
いや、だからだねー。ほら、やっぱりね比較するものがないでしょ?
琉生斗は歯にものが挟まったかのように、言いにくそうに口をモゴモゴとし視線を横にした。不審者のようにあやしい様子の琉生斗を見て、ラルジュナは何かに気付いた顔をした。
「ーーもしかしてー、イクのが嫌なのー?」
うわ、当てやがったぞ。
「ーーと、いうよりはラルジュナさんに、それを見られるのが嫌なんだとーー」
「ーールートォォォォォォォォォォォォ!!!」
ひゃっ、と琉生斗はアレクセイに抱きついた。恐る恐る振り返る。
そこには、今までで見たことのない、怖い形相をした兵馬が立っていた。足元には書類が散らばっている。
「よっ、よう!元気、か!」
「ーールート!もう、絶交だ!絶対に許さないから!」
「ひょ、兵馬ぁぁぁ!」
兵馬は落とした書類を集めて、来た道を戻ろうとした。
「ーーヒョウマー。ルートは悪くないよー。悪いのはボクだからー」
ラルジュナが追いかける。逃げようとする兵馬の手をつかみ、ラルジュナは琉生斗に手を振った。
「ごめんねー。またねー」
「ああーー」
アレクセイが頷く。
返事もできない琉生斗は、アレクセイに身体を預けたまま項垂れていた。
「ルート……」
「ーー絶交だって、中学生かよ……」
それでおまえがうまくいくなら、まあ、仕方ないなぁーー。
琉生斗は涙を拭いた。
「ヒョウマー、落ち着いたー?」
兵馬からの返事はなかった。部屋のソファに座り、顔を隠したまま下を向いている。
「今はボクの顔、見たくないよねー、ちょっと出てくるよー」
足を出したラルジュナは、眉をあげて兵馬を見た。兵馬がラルジュナの上着の裾をしっかりとつかんでいる。
「側にいてもいいのー?」
尋ねると小さく頷いてくれたので、ラルジュナは兵馬を抱きしめるように腰をおろした。
「よかったー。ルートにも絶交を取り消すように言うんだよー」
兵馬が、うん、と小声で言う。
ラルジュナは兵馬の髪の毛をすいた。
「ねえ、ヒョウマー。ホントはボクの事嫌いだからしたくないのー?」
兵馬が激しく頭を振った。
「ーー好き。ジュナの事、すごく好き……」
真っ赤な顔で、懸命に兵馬が言う。
ーーうんー。ダメだねー、これはーー。ボクって感心するぐらい気が長くないー?
ラルジュナは兵馬にキスをし、強く抱きしめた。
「ボクはヒョウマのかわいいところー、いっぱい見たいんだけどなー」
ダメー?
迫ると彼の顔が茹でダコのようになり、手で心臓をおさえつけた。ドッドッドッ、と音が聞こえてくるような気がする。
「だ、だだ、だってー」
「や、やだよ。ぼ、僕って、まぬけじゃないか……」
必死な兵馬にラルジュナは笑った。
「よかったー。するのが嫌じゃないんだねー」
「あっ、」
兵馬が視線を泳がせる。
「……ごめん。僕、自分の事しか考えてなくて……」
落ち込む兵馬の唇に触れ、ラルジュナが囁いた。
「そうだー。イクのが見られたくないのなら、後ろからならいいでしょー?」
「う、後ろからってーー」
「ヒョウマはうつ伏せで膝をついてー」
「ね、猫のポーズ?」
兵馬が不思議な事を言う。
「?ーーまあ、そんな感じー。それならボクはヒョウマがイッてるかわからないし(もちろん嘘だけど)ー、声が出るのが嫌ならタオルでもかんどきなよ(出させるけどね)ー」
「ーーあ、うん……」
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