ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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日常編

第55話 ムキになる琉生斗

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「あっ、じいちゃん。魔蝕だ」

「おやおや。やはり多いですね」

 精神修行で水鏡みずかがみの間にいた琉生斗は、魔蝕の発生を感知した。

 よっこらしょっと、と立ち上がり、琉生斗は部屋から出る。

 アレク魔蝕ダヨーー。

 魔法が阻害される神殿エリアでは、時空竜の女神様が扱う言語が使える時空魔法を使用する。

 ワカッターー。

 すぐに返事が来る。

「アレクの事だ。時空転移で来るんだろうな」

 そう思っていると目の前で光がたゆたう。空間を切ったように、アレクセイはあらわれた。

 琉生斗は口元を歪ませる。

「聖女よりモノにするのが早いってどうなんだろ」
「魔法には違いないからな」

 余裕のアレクセイに、そうですかー、と琉生斗はへそを曲げた。



「ここ、わかるかな?」
 琉生斗の額に手をあて、アレクセイは記憶を読み取る。

「アジャハン国の南ダッカマ領だな。バルドに近い」

 不満気に琉生斗は頬を膨らませる。誰も見てないのだからキスぐらいいいではないか。

「ーーそういえば、バルドは魔蝕が起こらないけど、建物とか工夫してるからかな?」
 
 神聖ロードリンゲン国の上に位置する強国バルドは、対外諸国からの心証が悪いため、魔蝕が起こりにくいように建物は平屋のみなど大きな陰を作らない努力をしている。


「スズ様のときも、バルドではなかったように思う」
 アレクセイが小首をかしげる。

「ふーん。なんで世界聖女連盟に入ってるんだろ?」

「強大国が加盟しているから、かもしれないな」

「はーん。政治的な意味があるのね」

 琉生斗はアレクセイに掴まり、彼が作る光の中に消えた。














 アジャハン国ダッカマ領では赤茶色のレンガの家が横一列に並び、それがまるで段々畑のように広がっていた。

「すっごーい!かわいい!」
 琉生斗がはしゃいだ。

 ちょうど夕暮れどきだ。
 夕日があたって、レンガがきらめいて見える。

「ルートは景色が好きだな」
「ーーうん。こういうの好き!」

 愛くるしいーー、アレクセイは琉生斗を抱きしめようとして、我慢した。

 触れるだけ、触れるだけだーー。


「さあ、どこだ?」
 琉生斗が目を凝らすと、山がある西の方角に嫌な空気を感じた。

「行こう」
 アレクセイは頷いた。


 転移するとその山の裾から、闇が噴き出していた。

「きゃあ!」
「助けてぇ!」
 登山客がほうほうの体で逃げていく。

「アレク。強だ」

 久々に強い魔蝕がでたな。

 琉生斗はアレクセイが結界で闇を覆っていくのを見て、魔蝕の強さを感じた。結界に閉じ込められても、闇の抵抗が大きい。

 琉生斗はひざまずいた。

 聖女の証が光を放つ。


 浄化の力が魔蝕を抑える。一回で駄目なら、二回。重ねるように浄化の光を放出する。


 波のように揺れていた魔蝕が、潮が引くように抵抗感を無くし、やがて結界の中でおとなしくなる。
 
 ここだ!

 琉生斗は光を強め、魔蝕の闇を浄化した。










「お腹すいた~」
 琉生斗が肩を落とした。

「大丈夫か?何か食べて行くか?」

「うん!どこいく?アレク食べたい物ある?」
 琉生斗がはりきるのを見てアレクセイは目を細めた。


「ーー拷問だな」
「ん?」
「限界が近いーー」

「体調が悪いのか?どっかで休む?」
 アレクセイの様子がおかしいので、琉生斗は心配になり尋ねる。

 アレクセイが真顔になった。
「休もう」
「そうか。どっかないかなー」










「ーーアレクセイー、ルートー」
 陽気にのんきを足したような声が聞こえる。


「ラルジュナさん……」
 琉生斗は近くを見たが兵馬の姿はなかった。

「魔蝕が出たって聞いたんだけどー、もう浄化したんだー」

 早いねー、とラルジュナが言う。
 夕日を背にオレンジ色に近い金髪が、キラキラと光ってやかましい。



「ラルジュナさん、兵馬は?」

「うんー?常に一緒にはいないよー、こっちも頼まれてる事が多くてねー。この山には調査に来たんだー」

「へー、何?鉱石?」

「秘密ー♡」 

「あっそう」
 琉生斗は、わかってたよ、とつぶやいた。

「アレク、早く休めるとこ行こう」
 腕を引っ張りながら琉生斗が言うと、ラルジュナは目を見張った。

「アレクセイー、しんどいのー?」

「ーー平気だ」

 やや機嫌の悪い友の様子に、何で怒ってるのー?、とラルジュナは首を傾げた。
 



「じゃあねー。何か面白い事があれば誘うねー」
「ありがとう。なあ、兵馬はどこにいるんだ?」
「アスラーンのところだよー」

「ふーん。気が合うのかな……。あいつ、社交的だけど、警戒心は強いんだけどな」

 小動物は危険に聡い。

「ーーそういうところはあるよねー」

 うんうん、と頷くラルジュナを見て、琉生斗の親友魂に火がついた。



「えっ?そういうところ、ってラルジュナさんは兵馬の何を知ってるわけ?」

 琉生斗の言葉の攻撃を、やや引きつった笑顔でラルジュナがかわした。

「そうだねー、ルートよりは知らない事だらけだねー。でも、ボクはルートが知らない事も知ってたりするけどねー」

 にこにこと笑顔で攻撃される。

「おれに知らない事なんかない!」
 琉生斗はきっぱりと言い切った。

「生まれたときからご近所さんで、何でも一緒にやってきたんだ!おれの親友はあいつだけ、あいつの親友はおれだけだ!」
 
 おれの方が、仲良しなんだー!

 琉生斗は主張した。











「ーーーールート、じゃあ教えてくれるー?ヒョウマはボクと身体の関係をもつのが嫌なのー?できない理由は何か、ルートならわかるのー?」

 琉生斗は目を丸くした。


 なんつう質問ぶっこんでくるんだよーー。

 必死なのか、この人ーー。
 


 琉生斗は表情を無にしてラルジュナを見た。

 笑顔を顔にはりつけた元王太子は、仮面も維持できない状態なのか、心底つらそうな眼の色をしていた。


 ありゃーー。

 ふざけてる場合じゃなかったなーー。





 ーー親友ができない理由は、琉生斗には何となくわかっている。それは、恋愛初心者の自分達でしかわかり合えない事だ。


 それをさすがに言うのはなーー。



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