ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
58 / 236
日常編

第55話 ムキになる琉生斗

しおりを挟む

「あっ、じいちゃん。魔蝕だ」

「おやおや。やはり多いですね」

 精神修行で水鏡みずかがみの間にいた琉生斗は、魔蝕の発生を感知した。

 よっこらしょっと、と立ち上がり、琉生斗は部屋から出る。

 アレク魔蝕ダヨーー。

 魔法が阻害される神殿エリアでは、時空竜の女神様が扱う言語が使える時空魔法を使用する。

 ワカッターー。

 すぐに返事が来る。

「アレクの事だ。時空転移で来るんだろうな」

 そう思っていると目の前で光がたゆたう。空間を切ったように、アレクセイはあらわれた。

 琉生斗は口元を歪ませる。

「聖女よりモノにするのが早いってどうなんだろ」
「魔法には違いないからな」

 余裕のアレクセイに、そうですかー、と琉生斗はへそを曲げた。



「ここ、わかるかな?」
 琉生斗の額に手をあて、アレクセイは記憶を読み取る。

「アジャハン国の南ダッカマ領だな。バルドに近い」

 不満気に琉生斗は頬を膨らませる。誰も見てないのだからキスぐらいいいではないか。

「ーーそういえば、バルドは魔蝕が起こらないけど、建物とか工夫してるからかな?」
 
 神聖ロードリンゲン国の上に位置する強国バルドは、対外諸国からの心証が悪いため、魔蝕が起こりにくいように建物は平屋のみなど大きな陰を作らない努力をしている。


「スズ様のときも、バルドではなかったように思う」
 アレクセイが小首をかしげる。

「ふーん。なんで世界聖女連盟に入ってるんだろ?」

「強大国が加盟しているから、かもしれないな」

「はーん。政治的な意味があるのね」

 琉生斗はアレクセイに掴まり、彼が作る光の中に消えた。














 アジャハン国ダッカマ領では赤茶色のレンガの家が横一列に並び、それがまるで段々畑のように広がっていた。

「すっごーい!かわいい!」
 琉生斗がはしゃいだ。

 ちょうど夕暮れどきだ。
 夕日があたって、レンガがきらめいて見える。

「ルートは景色が好きだな」
「ーーうん。こういうの好き!」

 愛くるしいーー、アレクセイは琉生斗を抱きしめようとして、我慢した。

 触れるだけ、触れるだけだーー。


「さあ、どこだ?」
 琉生斗が目を凝らすと、山がある西の方角に嫌な空気を感じた。

「行こう」
 アレクセイは頷いた。


 転移するとその山の裾から、闇が噴き出していた。

「きゃあ!」
「助けてぇ!」
 登山客がほうほうの体で逃げていく。

「アレク。強だ」

 久々に強い魔蝕がでたな。

 琉生斗はアレクセイが結界で闇を覆っていくのを見て、魔蝕の強さを感じた。結界に閉じ込められても、闇の抵抗が大きい。

 琉生斗はひざまずいた。

 聖女の証が光を放つ。


 浄化の力が魔蝕を抑える。一回で駄目なら、二回。重ねるように浄化の光を放出する。


 波のように揺れていた魔蝕が、潮が引くように抵抗感を無くし、やがて結界の中でおとなしくなる。
 
 ここだ!

 琉生斗は光を強め、魔蝕の闇を浄化した。










「お腹すいた~」
 琉生斗が肩を落とした。

「大丈夫か?何か食べて行くか?」

「うん!どこいく?アレク食べたい物ある?」
 琉生斗がはりきるのを見てアレクセイは目を細めた。


「ーー拷問だな」
「ん?」
「限界が近いーー」

「体調が悪いのか?どっかで休む?」
 アレクセイの様子がおかしいので、琉生斗は心配になり尋ねる。

 アレクセイが真顔になった。
「休もう」
「そうか。どっかないかなー」










「ーーアレクセイー、ルートー」
 陽気にのんきを足したような声が聞こえる。


「ラルジュナさん……」
 琉生斗は近くを見たが兵馬の姿はなかった。

「魔蝕が出たって聞いたんだけどー、もう浄化したんだー」

 早いねー、とラルジュナが言う。
 夕日を背にオレンジ色に近い金髪が、キラキラと光ってやかましい。



「ラルジュナさん、兵馬は?」

「うんー?常に一緒にはいないよー、こっちも頼まれてる事が多くてねー。この山には調査に来たんだー」

「へー、何?鉱石?」

「秘密ー♡」 

「あっそう」
 琉生斗は、わかってたよ、とつぶやいた。

「アレク、早く休めるとこ行こう」
 腕を引っ張りながら琉生斗が言うと、ラルジュナは目を見張った。

「アレクセイー、しんどいのー?」

「ーー平気だ」

 やや機嫌の悪い友の様子に、何で怒ってるのー?、とラルジュナは首を傾げた。
 



「じゃあねー。何か面白い事があれば誘うねー」
「ありがとう。なあ、兵馬はどこにいるんだ?」
「アスラーンのところだよー」

「ふーん。気が合うのかな……。あいつ、社交的だけど、警戒心は強いんだけどな」

 小動物は危険に聡い。

「ーーそういうところはあるよねー」

 うんうん、と頷くラルジュナを見て、琉生斗の親友魂に火がついた。



「えっ?そういうところ、ってラルジュナさんは兵馬の何を知ってるわけ?」

 琉生斗の言葉の攻撃を、やや引きつった笑顔でラルジュナがかわした。

「そうだねー、ルートよりは知らない事だらけだねー。でも、ボクはルートが知らない事も知ってたりするけどねー」

 にこにこと笑顔で攻撃される。

「おれに知らない事なんかない!」
 琉生斗はきっぱりと言い切った。

「生まれたときからご近所さんで、何でも一緒にやってきたんだ!おれの親友はあいつだけ、あいつの親友はおれだけだ!」
 
 おれの方が、仲良しなんだー!

 琉生斗は主張した。











「ーーーールート、じゃあ教えてくれるー?ヒョウマはボクと身体の関係をもつのが嫌なのー?できない理由は何か、ルートならわかるのー?」

 琉生斗は目を丸くした。


 なんつう質問ぶっこんでくるんだよーー。

 必死なのか、この人ーー。
 


 琉生斗は表情を無にしてラルジュナを見た。

 笑顔を顔にはりつけた元王太子は、仮面も維持できない状態なのか、心底つらそうな眼の色をしていた。


 ありゃーー。

 ふざけてる場合じゃなかったなーー。





 ーー親友ができない理由は、琉生斗には何となくわかっている。それは、恋愛初心者の自分達でしかわかり合えない事だ。


 それをさすがに言うのはなーー。



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...